🎓 多読の超絶講義

第5講 選書のプロ技:シリーズ読み・作家読み・ジャンル沼

多読の量を決めるのは、根性ではなく「次に読む話がすぐ決まるかどうか」です。第5講では、シリーズ読み・作家読み・ジャンル沼という3つの選書の技と、多読ベストの作品でたどれる具体的な「沼ルート」を伝授します。

量を決めるのは「次の1冊」が決まる速さ

多読が続かない人に話を聞くと、「何を読むか迷っているうちに時間がなくなる」という答えがよく返ってきます。1冊読み終えるたびに、次の本を探して、試し読みして、合わなくて戻って……。これでは、読む時間より選ぶ時間のほうが長くなってしまいます。

そして、多読に必要な量は、思っているより大きいのです。語彙研究の第一人者ネーションは、多読で語彙を伸ばすための最低ラインを「2週間にグレーデッド・リーダー1冊」としています。さらに、1つの語を覚えるまでに約12回出会うと仮定した試算では、2,000語レベルまでの語に12回ずつ出会うには年30万語、5,000語レベルなら年100万語が必要になります。年100万語は、1分150語の速さなら、週5日、1日約50分です(Nation, 2015)。

この量を、毎回「何を読もう」と迷いながら読むのは不可能です。多読を何十万語も続けている人は、選ぶのが上手なのではありません。選ばなくてすむ仕組みを持っているのです。それが、この講義で紹介する「シリーズ読み」「作家読み」「ジャンル沼」です。

頭の中で起きていること:新しい本の「入場料」

新しい本を読み始めるとき、頭の中ではたくさんの準備が必要になります。

  • 登場人物の名前と関係を覚える
  • 舞台(時代、場所、雰囲気)をつかむ
  • 作家の文体や、話の運び方のくせに慣れる
  • その本によく出てくる語に慣れる

これらはすべて、第1講の「注意のお財布」からお金を使います。いわば、本ごとにかかる「入場料」です。最初の数ページが読みにくく、半分を過ぎるとスラスラ読めるようになるのは、入場料を払い終えたからです。

シリーズや同じ作家の本を続けて読むと、この入場料がほとんどかからなくなります。研究もこれを裏づけています。

子ども向けの英語の本をいくつかのまとまりに分けてコンピューターで分析した研究では、物語では、作家が同じであることが語のくり返しを生む大きな要因になっていて、くり返されていたのは主に登場人物や場所の名前でした。一方、説明的な文章(ノンフィクション)では、テーマが同じであることが、そのテーマの専門的な語のくり返しを生んでいました(Gardner, 2008)。

多読ベストの英文でも、確かめてみましょう。数えてみると、こうなりました。

シリーズ話の数・おおよその語数くり返し出てくる語
交換留学生8話・約3,300語Mio 100回以上、Emma 90回以上
古書店の秘密8話・約5,200語Ren 90回、Tachibana 31回、key 12回
ホームズの再話6話6話・約9,400語Holmes 100回以上

同じ名前、同じ舞台、同じ語に何十回も出会う。これが、シリーズ2冊目からの読みやすさの正体です。

研究からわかる「同じ所を掘る」効果と限界

同じ作家の作品や、同じテーマの文章を続けて読むことを、研究では「ナロー・リーディング(narrow reading=狭く深く読むこと)」と呼びます。

  • テーマのつながった文章を1か月読んだグループと、ばらばらの文章を読んだグループ(合わせて61人)を比べた研究では、つながった文章を読んだグループのほうが、対象の語の意味の理解や使い方が伸びました(Kang, 2015)
  • 61人の学習者が音声つきでグレーデッド・リーダーを10冊続けて読んだ研究では、対象の語の相対的な伸びが、10冊読み終えた直後で44.06%、3か月後でも36.66%でした(Webb & Chang, 2015)。1冊では残らない語も、何冊も続けて読むうちに積み上がっていくのです

ただし、ナロー・リーディングは魔法ではありません。中等教育の生徒を対象にした研究では、特定の単語を覚えることについては、テーマのつながった文章を読むだけより、読んだあとに語彙の練習を加えたほうが効果的でした(Min, 2008)。「どうしても覚えたい単語」があるなら、マイ単語帳・フラッシュカードを組み合わせましょう。ナロー・リーディングのいちばんの強みは、単語を覚えることより、読む量と読みやすさを増やすことにあります。

なお、こうした研究は、対象者の年齢や英語力、読んだ教材、期間がそれぞれちがいます。数字をそのまま自分に当てはめるのではなく、「同じ所を続けて読むと、語がくり返され、読みやすくなる」「ただし、特定の語を覚えるには別の練習も必要」という方向をつかんでおきましょう。

技1:シリーズ読み

いちばん手軽なのが、続きものを順番に読むことです。多読ベストには、2つのオリジナル連載があります。

  • 「交換留学生」(全8話・L1→L2):海辺の町に住む内気な高校生ミオと、カナダから来た留学生エマの物語。第1話は L1、第5話から L2 になるので、読み進めるうちに自然とレベルが上がります
  • 「古書店の秘密」(全8話・L2→L3):京都の古書店でアルバイトをする大学生レンが、古い洋書にはさまったなぞのカードを追う物語。第1話は L2、第5話から L3 です

シリーズの強みは、「続きが気になる」という気持ちが、次の話を選ぶ手間をゼロにしてくれることです。第4講のベルトコンベアに1日1話ずつ乗せれば、10日間、選ぶ時間はゼロです。

実演:連載から名作へ、語が「つながる」瞬間

「古書店の秘密」には、手がかりとして『秘密の花園』『若草物語』『不思議の国のアリス』『クリスマス・キャロル』が登場します。第2話では、主人公のレンが『秘密の花園』を読み、こんな場面を見つけます。

A little bird, a robin, was digging in the ground. Mary looked down and saw an old key in the earth.

robin(コマドリ)と key(かぎ)。連載を読み終えたあとで『秘密の花園』(L4)を読むと、同じ robin と key が、今度は名作そのものの中で、話の大事な場面に出てきます。主人公 Mary の名前も、20回近く出てきます。

連載で出会った語や人物に、別の本でもう一度出会う。「あ、これ知ってる」という小さな喜びが、読む速さと楽しさを同時に押し上げます。これが、ナロー・リーディングが生むつながりです。

技2:作家読み

気に入った話を見つけたら、その作家の別の話を探しましょう。文体や話の運び方に慣れるので、2作目、3作目はぐっと読みやすくなります。

芥川龍之介ルート(L3→L5)

トロッコ・蜜柑・魔術(L3)→ 蜘蛛の糸・杜子春・鼻・羅生門(L4)→ 藪の中・河童(L5)

日本語で知っている話も多いので、筋を追う負担が少なく、英語そのものに集中できます。

オスカー・ワイルドルート(L1→原文)

わがままな大男(L1)→ 幸福な王子(L2)→ ドリアン・グレイの肖像(L4)→ 原文のわがままな大男・幸福な王子・ナイチンゲールとばら

O・ヘンリールート(L2→原文)

賢者の贈り物・最後の一葉(L2)→ 原文の賢者の贈り物・二十年後・赤い酋長の身代金

O・ヘンリーは最後の「どんでん返し」が持ち味。数作読むと、「今回はどこでひっくり返るか」を予想しながら読めるようになります。第2講の「話のレベルの予測」を、作家読みで実践できるわけです。

技3:ジャンル沼

「沼」とは、抜け出せなくなるほどハマること。同じジャンルを、レベルを少しずつ上げながら掘り進めます。

名探偵沼(L2→原文)

アルセーヌ・ルパンの逮捕(L2)→ オレンジの種五つ・盗まれた手紙・青い十字架(L3)→ 青いガーネット・ボヘミアの醜聞・バスカヴィル家の犬(L4)→ 赤毛組合・まだらの紐(L5)→ 原文の赤毛組合

ホームズとワトソン、ベーカー街の部屋。同じ人物と舞台がくり返し出てくる、「作家が同じだと名前や場所がくり返される」の典型です。

ギリシャ神話沼(L1→L5)

ミダス王と金の手(L1)→ パンドラの箱・イカロス(L2)→ プロメテウス・トロイの木馬(L3)→ テセウスとミノタウロス・オデュッセウスと一つ目の巨人(L4)→ ペルセウスとメドゥーサ(L5)

神々の名前に慣れるほど読みやすくなり、英語の本や映画に出てくる教養も一緒に身につきます。

宇宙テーマ沼(ノンフィクション・L0→原文)

月の足あと(L0)→ 火星の一日・ケネディ「我々は月へ行くことを選ぶ」の物語(L2)→ 月世界旅行(L3)→ アポロ11号 月に降り立った日(L4)→ ケネディのライス大学演説(原文)

ノンフィクションは「テーマで追う」のが鉄則でした。moon、rocket、astronaut のようなテーマの語が、話を変えても何度も出てきます。物語(月世界旅行)やスピーチを混ぜても、テーマが同じなら語はつながります。

動物テーマ沼(ノンフィクション・L0→L4)

タコには心臓が3つ・ペンギンのお父さん(L0)→ ゾウは忘れない・カラスはかしこい(L1)→ ミツバチの巣の中で(L3)→ ダーウィンとビーグル号の航海(L4)

自分の沼の見つけ方:3つの質問

沼は、英語の本の中から探すより、日本語でもともと好きなものから探すほうが早く見つかります。次の3つの質問に答えてみてください。

  • 質問1:日本語で、時間を忘れて読んだ本・マンガは? 推理もの、冒険、恋愛、歴史、ファンタジー……。そのジャンルが、英語でも一番の候補です
  • 質問2:テレビや動画で、つい見てしまうテーマは? 動物、宇宙、旅行、スポーツ、人の生き方。ノンフィクションの沼の入り口になります
  • 質問3:人にくわしく話せることは? 知っている話題は、英語でも推測がききます。第1講の「筋を知っていると読みやすい」の応用です

答えを、多読ベストのジャンルに当てはめるとこうなります。

好きなもの入り口になる沼
推理・なぞ解き名探偵沼(名作文学)、連載「古書店の秘密」
ファンタジー・冒険世界の名作童話、神話と伝説、世界の民話
歴史・人の生き方偉人伝、自己啓発の名著
理科・動物・宇宙ノンフィクションのテーマ沼
日本の文学・昔話日本の昔話と名作の作家読み
学校生活・青春オリジナル連載ストーリー

沼が2つ以上見つかったら理想的です。1つの沼で飽きてきたとき、すぐに次の沼へ移れるからです。

技4:縦の沼と横の沼

沼の掘り方には2つの方向があります。

  • 横の沼:同じレベルで、同じジャンルをたくさん読む。量と速さをかせぐ(第1講の「7割のやさしい本」はここから)
  • 縦の沼:同じ話や同じ作家を、やさしい再話から原文まで、レベルを上げながら読む。原文へのはしごになる

縦の沼の代表は、再話から原文へのルートです。「人は考えたとおりの人になる」(L3)を読んだら、原文の『原因と結果の法則』第1章へ。オズの魔法使い(L3)を読んだら、全24章の原文(第1章から)へ。桃太郎(L1)や浦島太郎(L2)を読んだら、明治時代に英語で書かれた桃太郎・浦島太郎の原文へ。内容を知っているので、原文でも迷子になりません(→英語の名作を原文で読むためのステップ)。

基本は「横8:縦2」くらい。横で量をかせぎ、ときどき縦で上をのぞく。このバランスが、量とレベルアップを両立させます。

技5:沼から出るタイミング

沼は楽しいものですが、出るべきときもあります。

  • 3話続けて「まあまあ」だったら出る:楽しさが落ちてきたサインです
  • スラスラ度5が続いたら、レベルを1段上げるか隣の沼へ
  • 迷ったら運にまかせる:今日の1冊ガチャで、ふだん読まないジャンルに出会うのも手です

おすすめは「隣の沼」への移動です。名探偵沼から、なぞとどんでん返しのある世界の民話へ。ギリシャ神話沼から、北欧神話やアーサー王の神話と伝説へ。宇宙沼から偉人伝の科学者たちへ。好みの方向が近いので、失敗しにくいのです。

1か月の沼プラン(ふだん L2〜L3 の人の例)

  • 第1週:シリーズで助走 「古書店の秘密」第1〜4話(L2)を1日1話。空いた日は同じレベルの好きな話
  • 第2週:シリーズを読み切って名作へ 第5〜8話(L3)を読み、最終話のあとに不思議の国のアリス(L3)へ
  • 第3週:横の沼を広げる 名探偵沼の L3(オレンジの種五つ、盗まれた手紙、青い十字架)を読み、スラスラ度を記録
  • 第4週:縦の沼を1本 L3 で一番気に入った話の作家の、L4 の話へ。余裕があれば、原文の最初の数段落を聞き読みで

1か月で、2つの沼と1本のはしごができます。翌月は、スラスラ度の記録を見ながら、一番楽しかった沼をさらに深く掘るか、隣の沼へ移るかを決めましょう。

誤解をくつがえす3つの事実

  • 誤解1「いろいろなジャンルを広く読むべき」:最終的には広さも大切ですが、量をかせぐ段階では、同じ作家・テーマを続けて読むほうが語がくり返され、読みやすくなります(Gardner, 2008;Kang, 2015)
  • 誤解2「同じテーマを読めば、単語は自然に覚えられる」:特定の語を覚えるには、語彙の練習を加えたほうが効果的でした(Min, 2008)。読むことと覚えることは、分けて考えましょう
  • 誤解3「名作は読んでおくべき」:多読への取り組みを後押しするのは、「ためになる」という考えより「読むのが心地よい」という気持ちです(Yamashita, 2004)。気が乗らない名作は、後回しで構いません

プロの1週間メニュー(1日20分)

曜日選書の作業(5分)読む(15分)
月沼マップ作り:好きな映画・マンガ・本を3つ書き出し、近いジャンルをすべての読み物から探す1つ目の沼の話を2話
火「読む予定リスト」に各沼3話ずつ、計9話を書くリストの上から順に
水なし(リストどおり)シリーズを1日1話+同じレベルの横の沼
木作家読み:気に入った作家の別の話を探す同じ作家を2話
金なし横の沼を3話(スラスラ度5)
土縦の沼:再話で読んだ話の原文を1つ選ぶ原文の最初の数段落を聞き読み
日ふり返り:3話続けて「まあまあ」の沼はないか確認し、隣の沼を決める好きな話をのんびり

よくある落とし穴

  • ひとつの沼に閉じこもりすぎる:何か月も同じジャンルだけだと、出会う語や表現が偏ります。ときどき隣の沼へ
  • 縦の沼を急ぎすぎる:原文は「上をのぞく」程度に。主食は横の沼です
  • シリーズの途中でレベルが合わなくなっても、がまんする:合わなくなったら、そこで一度ほかの話に移り、力がついてから戻りましょう
  • リスト作りに時間をかけすぎる:選書の作業は1回5分まで。読む時間がいちばん大事です

第5講のチェックリスト

  • □ 新しい本の「入場料」の考え方がわかった
  • □ 次に読む話が、少なくとも3つ決まっている
  • □ 物語は作家・シリーズで、ノンフィクションはテーマで追っている
  • □ 自分の「沼」を1つ以上持っている
  • □ 横の沼(量)と縦の沼(原文へのはしご)を、8:2くらいで読んでいる
  • □ 楽しさが落ちたら、隣の沼へ移っている

次の第6講「再読の技」では、同じ話を何度も読むことで何が起きるのか、そして正しい再読のやり方を伝授します。

よくある質問

同じジャンルばかり読んでいても大丈夫ですか?

しばらくは大丈夫です。同じジャンルを続けて読むと、登場人物や言葉に慣れて読む量が増えます。ただ、何か月も同じジャンルだけだと出会う語が偏るので、楽しさが落ちてきたら近いジャンルへ移りましょう。

シリーズ読みで単語は本当に覚えられますか?

同じ作家やテーマの文章では、同じ語に何度も出会いやすくなるため、語の理解が深まりやすいと考えられます。ただし、特定の単語を確実に覚えたいときは、読むだけより単語の練習を加えたほうが効果的だという研究もあります。気になる語は単語帳に送りましょう。

好きなジャンルが見つかりません。

今日の1冊ガチャや、短い話の多いジャンル(なぞなぞ・ジョーク、イソップ物語、ノンフィクション)を次々に試してみてください。「もう1話読みたい」と思えた話のジャンルが、あなたの沼の入り口です。

参考文献

  1. Nation, P. (2015). Principles guiding vocabulary learning through extensive reading. Reading in a Foreign Language, 27(1), 136–145. doi.org/10.64152/10125/66705
  2. Gardner, D. (2008). Vocabulary recycling in children’s authentic reading materials: A corpus-based investigation of narrow reading. Reading in a Foreign Language, 20(1), 92–122. doi.org/10.64152/10125/66625
  3. Kang, E. Y. (2015). Promoting L2 vocabulary learning through narrow reading. RELC Journal, 46(2), 165–179. doi.org/10.1177/0033688215586236
  4. Webb, S., & Chang, A. C.-S. (2015). Second language vocabulary learning through extensive reading with audio support: How do frequency and distribution of occurrence affect learning? Language Teaching Research, 19(6), 667–686. doi.org/10.1177/1362168814559800
  5. Min, H.-T. (2008). EFL vocabulary acquisition and retention: Reading plus vocabulary enhancement activities and narrow reading. Language Learning, 58(1), 73–115. doi.org/10.1111/j.1467-9922.2007.00435.x
  6. Yamashita, J. (2004). Reading attitudes in L1 and L2, and their influence on L2 extensive reading. Reading in a Foreign Language, 16(1), 1–19. doi.org/10.64152/10125/66597

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