🎓 多読の超絶講義

第4講 多聴多読の黄金ルーティン:聞き読み→黙読→聞くだけ

音声つきの読み物は、ただ聞き読みするだけではもったいない。第4講では、1つの話を「聞き読み→黙読→聞くだけ」と3日かけて回し、読む力と聞く力を同時に育てる、プロの毎日のルーティンを設計します。

「聞き読み」をルーティンにする理由

聞き読み(音声を聞きながら文字を目で追う読み方)の基本と効果は、聞き読みの効果とやり方で紹介しました。この講義では、それを毎日自動で回る仕組みに組み立てます。

まず、研究が示していることを2つ押さえておきましょう。

  • 13週間で初級のグレーデッド・リーダー10冊を使った研究では、「読むだけ」「聞くだけ」「聞きながら読む」の3つのうち、聞きながら読むグループが最も安定して聞く力を伸ばしました(Chang & Millett, 2014)
  • 別の研究では、レベル1から3までのグレーデッド・リーダーを使い、「聞くだけ」「読むだけ」「聞き読み+聞くだけ」の3つの方法で学んだグループを比べました。すると、読むだけのグループは聞くテストの成績がふるわず、聞き読みと聞くだけを組み合わせたグループは、練習していない文章でも、練習した文章と同じくらいよく理解できました(Chang, Millett & Renandya, 2019)

聞く力は「読むだけ」では育ちにくく、文字の助けと、音だけで聞く練習の両方があると伸びやすい。この2つを毎日、無理なく組み合わせるのが、今日の黄金ルーティンです。

頭の中で起きていること:耳は「待ってくれない」

読むときと聞くときでは、頭の中の条件が大きくちがいます。

読むときは、自分のペースで進めます。わからなければ目を少し戻すこともできます(→第2講)。

聞くときは、そうはいきません。音は一瞬で消えていきます。話し手の速さに合わせて、音を単語に変え、単語を意味に変えなければなりません。英語を母語とする大人が声に出して読む速さは平均で1分183語ほどと報告されています(Brysbaert, 2019)。一方、多読を始める前の日本の高校生の読む速さは、平均で1分約84語でした(Iwahori, 2008)。つまり、英語の音声は、多くの学習者にとって自分の読む速さの2倍以上の速さで流れてくるのです。

これを乗り越えるには、2つの条件が必要です。

  • 音と文字を結びつけること:「この音は、あの単語だったのか」とわかるには、文字の助けがいる。これが聞き読みの役割です
  • 内容を知っていること:第1講の「注意のお財布」を思い出してください。話の筋を知っていれば、お財布のお金を「音を聞き取ること」に集中して使えます

ここで大事な研究があります。物語を「読む」「聞き読みする」「聞くだけ」の3つで比べたところ、3か月後に意味を思い出せた新しい語は、読む・聞き読みでは28語中平均1語ほど、聞くだけでは0語でした(Brown, Waring & Donkaewbua, 2008)。音だけで新しい単語を覚えるのは、とてもむずかしいのです。

だから、「聞くだけ」の役割は新しい単語を覚えることではありません。すでに文字で知っている単語を、音で一瞬で聞き取れるようにすること。つまり、耳の「自動化」です。そのため、聞くだけは、必ず文字で読んだことのある話で行います。

黄金ルーティン:1つの話を3日で3回まわす

1日目:聞き読み(音と文字を結ぶ)

初めての話を、音声を聞きながら目で追います。わからない語があっても止めません。第3講の「エコー黙読」のように、ナレーターの声を頭に入れるつもりで聞きましょう。

2日目:黙読(自分の頭の声で読む)

同じ話を、音声なしで黙読します。昨日のナレーターの声を頭の中で鳴らしながら、なるべく速く読みます。1日目より速く、楽に読めるはずです。

3日目:聞くだけ(音だけで理解する)

同じ話を、文字を見ずに音だけで聞きます。通学・通勤中、家事の合間、寝る前などのスキマ時間に向いています。聞き取れなかった所があっても、止めずに最後まで聞き、あとで文字で確かめます。

3日ずらしの「ベルトコンベア方式」

毎日新しい話を1つ入れ、3日かけて1つの話が流れていくように回すと、1日に「3つの話」を「3つのやり方」でこなせます。

日聞き読み(新しい話)黙読(昨日の話)聞くだけ(おとといの話)
1日目話A――
2日目話B話A―
3日目話C話B話A
4日目話D話C話B

3日目からは、毎日この3つがそろいます。1日に新しい話は1つだけなのに、どの話も3回ずつ、ちがう角度からふれることになります。

ベルトコンベアに乗せる話の条件は、次の3つです。

  • 黙読のレベルより1段やさしい:聞き読みは音声の速さについていく必要があるため
  • 1話が短い:L1からL3の、数百語の話が目安
  • 3日つきあっても飽きない:好きなジャンル、続きが気になる話

この3つを満たす最高の教材が、続きもののオリジナル連載ストーリーです。

実演:「交換留学生」をベルトコンベアに乗せる

多読ベストの連載「交換留学生」は全8話。第1話は約320語の L1 で、第5話から L2 になります。これをベルトコンベアに乗せると、こうなります。

  • 1日目:第1話を聞き読み。終わったら、頭の中で2つの質問に答える。「エマはどこから来た?」「その夜、ミオは何を見た?」
  • 2日目:第2話を聞き読み + 第1話を黙読。第1話は WPM を測り、記録しておく
  • 3日目:第3話を聞き読み + 第2話を黙読 + 第1話を聞くだけ。第1話の最後の一文 The happy girl from Canada was crying. が、文字なしでもすっと聞き取れたら合格
  • 4〜10日目:同じように1話ずつ送っていく。8話全部が3つのやり方を通り抜けるのは、10日目

続きが気になるので、「今日は何を読もう」と迷う時間がゼロになります。終わったら、もう一つの連載「古書店の秘密」(L2→L3)へ。これでさらに10日分のベルトコンベアが動きます。

段階ごとの速度設定

多読ベストの読み物の音声は、0.6倍から1.5倍まで速さを変えられます。段階ごとに、次のように使い分けましょう。

段階基本の速さ調整のしかた
1日目:聞き読み1倍文字を追いきれないときだけ0.8〜0.9倍。0.8倍でもきついなら、話のレベルを1段下げる
2日目:黙読音声なし1日目より速く読むのが目標。ときどき WPM を測る
3日目:聞くだけ1倍内容がよくわかるようなら、週末だけ1.1〜1.25倍に上げてみる

ゆっくりの音声は「入り口」です。ずっと0.8倍で聞いていると、ふつうの速さの英語に慣れる機会を逃してしまいます。速さを下げる前に、まずレベルを下げることを考えましょう。

仕上げ:聞いたあとの「ひと手間」で伸びが変わる

グレーデッド・リーダー15冊を15週間で読んで聞くプログラムで、読んで聞いたあとに「聞くことに集中する活動」を何回こなしたかで学生を分けた研究があります(Chang & Millett, 2016)。活動を5回、10回、15回こなしたグループで比べると、多くこなしたグループほど聞く力の伸びが大きく、TOEIC 形式のリスニング模試(100点満点)の伸びは、それぞれ約2点、約9点、約16点でした。

聞きっぱなしにせず、ときどき「ひと手間」を加えると、伸び方が変わるということです。多読ベストでは、次のような仕上げができます。

  • 1文シャドーイング:お気に入りの1〜2文を、シャドーイング・リピーティングで聞いてまねする
  • 聞き取れなかった1文のディクテーション:3日目の「聞くだけ」で聞き取れなかった1文を、ディクテーションで書き取る。答えを見て、どの音が聞き取れなかったのかを確かめる
  • 英語で一言要約:聞き終わったら、話の内容を英語で1文だけ言ってみる(例:Emma came from Canada, and she was crying at night.)

仕上げは1回3〜5分。毎日でなくても、週に2〜3回で十分です。

自己チェック:「聞き取り度」でベルトの速さを調整する

3日目の「聞くだけ」が終わったら、次の5段階で「聞き取り度」をつけます。

  • 5:文字を見ていたときとほぼ同じくらい、場面が目に浮かんだ
  • 4:ところどころ聞き逃したが、話の流れは全部わかった
  • 3:大きな流れはわかったが、聞き取れない文がいくつもあった
  • 2:知っている話なのに、どこを聞いているのか迷子になった
  • 1:ほとんど聞き取れなかった

この記録を、ベルトコンベアの調整に使います。

  • 聞き取り度2以下が3話続いた:ベルトに乗せる話のレベルを1段下げる。速さを0.9倍にするのは、その次の手段
  • 聞き取り度4〜5が1週間続いた:週末のまとめ聞きを1.1倍にするか、ベルトに乗せる話のレベルを1段上げる
  • 聞き取り度3が続く:今のままで大丈夫。週に2〜3回の仕上げ(次の節)を加える

読むときの「スラスラ度」(→第1講)と、聞くときの「聞き取り度」。2つの物差しを持つと、読む力と聞く力のどちらを伸ばすべきかが見えてきます。

生活の中にベルトを組みこむ

ルーティンは、生活の決まった時間に結びつけると続きます。

中高生の例

  • 朝、家を出る前:聞き読み(5分)
  • 通学中:聞くだけ(5分)
  • 夜、寝る前:黙読(3分)+ 好きな話の多読

社会人の例

  • 通勤の行き:聞くだけ(5分)
  • 昼休み:黙読(3分)+ 新しい話の多読
  • 夜:聞き読み(5分)。翌日の通勤で聞くための準備にもなる

ポイントは、聞くだけを「移動時間」に、聞き読みを「画面を見られる時間」に置くことです。聞き読みは目と耳の両方が必要ですが、聞くだけは耳だけで済むので、歩いている時間や電車の中でも使えます。

音声のない英文でもベルトを回すには

多読ベストの読み物には音声がついていますが、手元の紙の本や、学校の教科書の英文には音声がないこともあります。そんなときは、英文読み上げに英文を貼れば、機械の声で読み上げることができます。

ただし、機械の声は、人が読むときのような感情や間が少なくなりがちです。聞き読みのお手本としては使えますが、第3講のキャラクター・ボイスの練習には、人の声やていねいに作られた音声のほうが向いています。目的に合わせて使い分けましょう。

上級者向け:ダブルベルト方式

ルーティンに慣れてきたら、ベルトコンベアを2本走らせる方法もあります。

  • 聞くベルト:黙読のレベルより1〜2段やさしい話で、この講義の3日ルーティンを回す(聞く力の自動化)
  • 読むベルト:黙読のレベルの話を、シリーズや同じ作家で毎日1話ずつ読み進める(読む量と速さ)

2本のベルトでレベルを分けるのがポイントです。聞く力は、多くの人で読む力より遅れて伸びます。読む力に合わせた話を聞こうとすると、音についていけず、聞き取り度が上がりません。聞くベルトはやさしく、読むベルトはちょうどよく。この差をつけることで、どちらのベルトも止まらずに回り続けます。

誤解をくつがえす3つの事実

  • 誤解1「英語を聞き流していれば、そのうちわかるようになる」:音だけでは新しい語はほとんど残りません(Brown, Waring & Donkaewbua, 2008)。聞き流しは、文字で知っている話でこそ生きます
  • 誤解2「ゆっくりの音声で聞けば、やさしい練習になる」:ゆっくりの音声は入り口として役立ちますが、ずっと使うと、ふつうの速さに慣れる機会を逃します。速さより、レベルで調整しましょう
  • 誤解3「たくさん読めば、聞く力も自然につく」:読むだけのグループは、聞くテストでふるいませんでした(Chang, Millett & Renandya, 2019)。聞く力には、音の練習が必要です

プロの1週間メニュー

15分版(平日)

  • 聞き読み:新しい話を1つ(5分)
  • 黙読:昨日の話(3分)
  • 聞くだけ:おとといの話(5分、通学中など)
  • 仕上げ:週に2回、1文シャドーイング(2分)

30分版(平日)

  • 聞き読み:新しい話を1つ(5分)
  • 黙読:昨日の話(3分)+ 音声なしの新しい話を多読(12分)
  • 聞くだけ:おとといの話(5分)
  • 仕上げ:シャドーイングかディクテーション(5分)

週末

  • 土曜:その週の話を、聞くだけで続けて聞く「まとめ聞き」(1倍か1.1倍)。20〜30分
  • 日曜:お休み、またはいちばん気に入った話を聞き読みでもう一度

30分版では、音声なしの多読も入れているのがポイントです。ルーティンは聞く力を育てますが、読む量そのものは、ふつうの黙読の多読でかせぎます。時間の管理には読書タイマーが便利です。

研究を自分に当てはめるときの注意

この講義で紹介した聞く力の研究は、主に大学生を対象に、グレーデッド・リーダーと専用の音声を使って、十数週間にわたって行われたものです。中学生や社会人、ほかの教材でも、まったく同じ結果になるとは限りません。

それでも、研究がそろって示している方向ははっきりしています。

  • 聞く力を伸ばすには、音を聞く練習そのものが必要
  • 新しい語を覚えるには、文字の助けが必要
  • 聞いたあとに聞くことに集中する活動を加えると、伸びが大きくなる

細かい数字ではなく、この3つの方向を自分のルーティンに取り入れる。それが、研究の上手な使い方です。そして最後は、自分の「聞き取り度」の記録が、いちばん信頼できるデータになります。

記録は「2つのメーター」で

  • 読んだ語数:聞き読みと黙読で、目で文字を追った語数。読書記録に入れる
  • 聞いた語数・時間:聞くだけの分。別にメモしておく

同じ話の2回目・3回目は「再読・再聴」です。数えてかまいませんが、印をつけておくと、新しい話をどれくらい読んだかも見えます(再読については第6講でくわしく扱います)。記録のつけ方は多読の読書記録のつけ方も参考にしてください。

よくある落とし穴

  • 知らない話をいきなり聞くだけにする:新しい語はほとんど残りません。聞くだけは、文字で知っている話で
  • ずっとゆっくりの音声で聞く:速さは入り口。慣れたら1倍へ
  • 聞き流しになる:ぼんやり聞いていると感じたら、1回を短くするか、仕上げを1つ入れる
  • ルーティンだけで終わる:読む量は、音声なしの多読でもかせぎましょう
  • 1日休んだら、取り返そうとする:休んだ日の分は捨てて、翌日は新しい話から再開すれば十分です

第4講のチェックリスト

  • □ 「聞くだけ」の役割は、知っている語を音で聞き取れるようにすることだとわかった
  • □ 1つの話を「聞き読み→黙読→聞くだけ」の順で3日かけて回している
  • □ 3日ずらしのベルトコンベアが動いている
  • □ 音声の速さは基本1倍、きついときはまずレベルを下げている
  • □ 週に2〜3回、聞いたあとの仕上げをしている
  • □ 読んだ語数と聞いた量を分けて記録している

次の第5講「選書のプロ技」では、ベルトコンベアに乗せる「次の1冊」を迷わず選び、読む量を爆発させる方法を伝授します。

よくある質問

1日目に黙読、2日目に聞き読みの順ではだめですか?

だめではありません。むずかしめの話は、先に黙読で筋をつかんでから聞き読みするほうが楽です。この講義の順番は、やさしい話で「英語の声」を先に頭に入れることを重視したものです。話のむずかしさで使い分けてください。

聞くだけの時間に、ほかの英語の音声(ニュースなど)を聞いてもいいですか?

もちろん構いません。ただ、内容がよくわからない音声を聞き続けても、学べることは限られます。まずは文字で読んだことのある話を聞き、その話が楽にわかるようになったら、少しずつ新しい音声を増やすのがおすすめです。

毎日3つの話を回す時間がありません。

「聞き読み」と「聞くだけ」の2段階に減らすだけでも効果はあります。大切なのは、内容を知っている話を音だけで聞く時間をつくることです。1日おきに回す方法でも構いません。

参考文献

  1. Chang, A. C.-S., & Millett, S. (2014). The effect of extensive listening on developing L2 listening fluency: Some hard evidence. ELT Journal, 68(1), 31–40. doi.org/10.1093/elt/cct052
  2. Chang, A., Millett, S., & Renandya, W. A. (2019). Developing listening fluency through supported extensive listening practice. RELC Journal, 50(3), 422–438.(オンライン先行公開 2018年) doi.org/10.1177/0033688217751468
  3. Brysbaert, M. (2019). How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate. Journal of Memory and Language, 109, 104047. doi.org/10.1016/j.jml.2019.104047
  4. Iwahori, Y. (2008). Developing reading fluency: A study of extensive reading in EFL. Reading in a Foreign Language, 20(1), 70–91. doi.org/10.64152/10125/66626
  5. Brown, R., Waring, R., & Donkaewbua, S. (2008). Incidental vocabulary acquisition from reading, reading-while-listening, and listening to stories. Reading in a Foreign Language, 20(2), 136–163. doi.org/10.64152/10125/66816
  6. Chang, A. C.-S., & Millett, S. (2016). Developing L2 listening fluency through extended listening-focused activities in an extensive listening programme. RELC Journal, 47(3), 349–362. doi.org/10.1177/0033688216631175

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