🎓 多読の超絶講義

第2講 返り読みゼロ:英語を前から理解する技

第2講は「返り読みゼロ」。英文を後ろから日本語の順に並べかえて読むくせを卒業し、英語の語順のまま意味をとる技を身につけます。多読ベストの名作の一文を使って、プロの頭の中を実況中継します。

「返り読み」には2種類ある

「返り読みをするな」とよく言われますが、まず誤解をといておきます。返り読みには2種類あります。

  • 訳し上げのための返り読み:英文を日本語の語順に並べかえるために、文の後ろから前へ戻って読むこと。これが多読の最大の敵です
  • 目の自然な戻り:読んでいて「ん?」と思ったとき、目が少しだけ前に戻ること。これはだれにでもある、ふつうの読み方の一部です

おもしろい実験があります。読んだ単語を、目が通りすぎた瞬間に次々と隠してしまい、読み直しができないようにしたところ、文の理解度が下がったのです。しかもその影響は、意味があいまいな文だけに限りませんでした(Schotter, Tran & Rayner, 2014)。上手な読み手でも、目は自然に少し戻りながら読んでいるわけです。

ですから、この講義の「返り読みゼロ」は「目を一度も戻さない」という意味ではありません。目指すのは、訳し上げのための返り読みをゼロにすることです。

頭の中で起きていること:「抱えて歩く」か「届けながら歩く」か

読んでいる途中の語や意味は、頭の中の「作業台」のような場所に一時的に置かれます。これをワーキングメモリ(作業記憶)と呼びます。作業台は小さく、一度にたくさんの物は置けません。

訳し上げで読むとき、頭の中ではこんなことが起きています。

  • 文の最初から最後まで、語を作業台に積み上げていく
  • 文が終わったら、日本語の語順に並べかえる
  • その間、ずっと全部の語を作業台に置いたままにしておく

これは、荷物を全部抱えたまま、最後の家まで歩いて、そこで仕分けをするようなものです。文が長くなると、作業台からあふれて、前の方が落ちてしまいます。だから、もう一度文の頭に戻って読み直すことになるのです。第1講の「注意のお財布」で言えば、並べかえのためにお金をどんどん使っている状態です。

前から理解するときは、ちがいます。

  • 意味のかたまり(チャンク)が来るたびに、すぐに意味に変える
  • 意味に変えたら、元の英語は作業台から下ろしてよい
  • 作業台に残しておくのは、「ここまでの話の意味」だけ

荷物を1軒ずつ届けながら歩くので、手はいつも軽いままです。

もう一つの鍵は、チャンクそのものが「1つの部品」になることです。take the bull by the horns のように、よく決まって使われる語の連なりは、同じ語数のふつうの語句より速く読まれることが、英語を母語とする人だけでなく英語の学習者でも確かめられています(Conklin & Schmitt, 2008)。よく出会う語の連なりは、5語あっても「1つ」として作業台に置ける。多読でたくさんの英文に出会うほど、この部品が増えて、作業台に余裕が生まれるのです。

実演1:「蜜柑」の一文(L3)

ここからは、多読ベストの英文で、プロの頭の中を実況中継します。まずは芥川龍之介の「蜜柑」から。

I was sitting in a second-class car of a train that was about to leave Yokosuka for Tokyo.

学校で習う訳し方だと「私は、横須賀から東京へ向けて今にも出発しようとしている汽車の二等車に座っていた」。日本語にするために、目は文の終わりから that、train、car へと戻っていきます。

前から読むと、こうなります。

  • I was sitting = 私は座っていた
  • in a second-class car = 二等車に
  • of a train = ある汽車の
  • that was about to leave =(その汽車は)今にも出ようとしていた
  • Yokosuka = 横須賀を
  • for Tokyo = 東京へ向けて

ポイントは be about to です。「今にも〜しようとしている」という意味の、決まった部品です。これを1つの部品として持っている人は、that was about to leave を一瞬で処理できます。

実演2:「赤毛のアン」の一文(L4)

次は『赤毛のアン』から。

But when Matthew drove to the train station, he found only a thin girl of eleven with two red braids, freckles, and big gray eyes.

プロはこう読んでいます。

  • But when =「しかし〜したとき」。But があるので、予想とちがうことが起きると身構える
  • Matthew drove to the train station = マシューが駅に馬車で行った
  • he found only = 彼が見つけたのは〜だけ。only で「期待していたものではない」と確信する
  • a thin girl of eleven = やせた11歳の女の子(やっぱり、予想外のものだ)
  • with two red braids, freckles, and big gray eyes = with のあとは見た目の説明が続く、と待ち受けて、赤い2本の三つ編み、そばかす、大きな灰色の目、と順番に絵を描いていく

この文で大事なのは、but と only という2つの小さな語が、次に来る内容を先に教えてくれていることです。前から読む人は、こうした合図を使って、文の先を待ち受けています(技4でくわしく扱います)。

実演3:「銀の燭台」の一文(L4)

「銀の燭台(レ・ミゼラブルより)」から。

It was the house of the Bishop of Digne, a gentle old man who lived simply with his elderly sister and an old servant, Madame Magloire.

  • It was the house of the Bishop of Digne = それはディーニュの司教の家だった
  • a gentle old man =(司教はどんな人かというと)やさしい老人で
  • who lived simply =(その老人は)質素に暮らしていた
  • with his elderly sister and an old servant = 年老いた妹と、年老いた使用人といっしょに
  • Madame Magloire =(その使用人の名前は)マグロワールさん

人の名前のあとにコンマが来て、また名詞が続いたら、「それはどんな人かというと」という説明(同格)の合図です。who も「その人は」と前から足していけば、戻る必要はまったくありません。

実演4(上級):「羅生門」の一文(L4)

最後は少しむずかしい文です。「羅生門」から。

It was a courage that went in exactly the opposite direction from the feeling that had made him catch the old woman.

  • It was a courage = それは勇気だった
  • that went in exactly the opposite direction =(その勇気は)ちょうど反対の方向へ向かうものだった
  • from the feeling =(何と反対かというと)あの気持ちと
  • that had made him catch the old woman =(その気持ちとは)彼に老婆をつかまえさせた気持ち

that が2回出てくる文は、作業台にかかる負担が大きくなります。この文で一度だけ目が少し戻るのは、自然なことです。でも、こうした文で何度も戻ってしまうなら、それは技術の問題ではなくレベルの問題です。第1講に戻って、1段下げましょう。

技1:チャンクの目印を知る

前から理解するための第一歩は、英文を意味のかたまり(チャンク)で区切ることです。切れ目の目印には、次のようなものがあります。

  • 長い主語のあと:The boy who found the key / ran home
  • 前置詞の前:walked home / in the rain
  • 関係詞・接続詞の前:a train / that was about to leave、 I was tired / because I ran
  • to 不定詞の前:She went to the library / to find a book
  • コンマのところ:When the bell rang, / everyone stood up

ポイントは、細かく切りすぎないことです。1語ずつ切ると、かえって遅くなります。最初は4〜6語くらいのかたまりを目安にしましょう。読む力がついてくると、かたまりは自然に長くなっていきます。

そして、the train station、all the way home、at last、for a long time、as if のような「いつも一緒に出てくる語の連なり」は、切らずに1つの部品として扱いましょう。こうした部品は、多読でくり返し出会うことで増えていきます。

技2:3段階スラッシュで、頭の中の区切りを作る

チャンクの感覚は、次の3段階で身につけます。各段階は1日5分、3日ずつが目安です。

段階1(1〜3日目):紙の上にスラッシュを引く

L1かL2の短い話の最初の2段落を書き写すか印刷して、鉛筆でかたまりごとに「/」を引きます。引いたら、かたまりごとに前から意味をとって読みます。

段階2(4〜6日目):声で区切って、お手本と比べる

スラッシュのところで少し間をあけながら音読します。そのあと、その話の音声を聞いて、ナレーターがどこで息をついているかを確かめます。ナレーターの区切りは、ほとんどがそのまま意味のかたまりです。自分のスラッシュとずれていた所が、あなたの伸びしろです。

段階3(7日目〜):目だけで区切る

スラッシュを引かずに、頭の中で区切りながら黙読します。ここまで来たら、紙のスラッシュは卒業です。

段階1〜2は、多読そのものではなく「多読をなめらかにするための練習」です。1日5分で十分。残りの時間は、ふつうにたくさん読みましょう。

技3:前から日本語メモ(2週間だけの補助輪)

訳し上げのくせが強い人には、「前から日本語メモ」が効きます。チャンクごとに、出てきた順に日本語を書いていくだけです。実演1〜3でやったのが、まさにこれです。

  • (その汽車は)、(その老人は)のように、つなぎの言葉をカッコで補うのがコツ
  • 1日1段落、2週間まで
  • 2週間たったら、日本語メモなしで読む練習に移る

これは補助輪です。前から訳すことが習慣になっても、日本語を通すかぎり速さには限界があります(→多読でよくある失敗10)。補助輪を外す日を、最初から決めておきましょう。

技4:予測しながら読む

前から読める人は、ただ待っているのではなく、次に来るものを予測しながら読んでいます。言葉の理解についての研究をまとめた論文は、私たちは次に来るものを、確率的に(「たぶんこれ、もしかしたらあれ」という重みづけで)、しかも複数のレベルで予測しているとしています。予測の強さは、読む目的や、自分の知識をどれくらい信頼できるかによっても変わると考えられています(Kuperberg & Jaeger, 2016)。

多読では、次の3つのレベルで予測を使いましょう。

  • 話のレベル:「3回目の挑戦」「約束を破った人」が出てきたら、何かが起きる合図
  • 文のレベル:主語が来たら動詞を待つ。gave や told が来たら「だれに?何を?」を待つ。The man who… と始まったら、説明のあとに本当の動詞が来る
  • 語のレベル:because のあとは理由、but のあとは予想外のこと、so のあとは結果

実演として、「ダーウィンとビーグル号の航海」(L4)の一文を見てみましょう。

No one on the ship could have guessed that this trip would change the way people understand life on Earth.

No one on the ship could have guessed(船のだれも想像できなかった)まで読んだところで、プロは「この旅が、何かとても大きなことを起こしたのだ」と予測します。そして that this trip would change… が来たとき、予測が当たって、すっと頭に入ります。

予測が外れても問題ありません。外れたときの「えっ」という驚きが、記憶に残る読み方をつくります。

技5:機械に「前へ」押してもらう

自分の意志だけで返り読みをやめるのは、なかなか大変です。そこで、道具に背中を押してもらいましょう。

  • 音声つきで読む:音声は前にしか進みません。聞き読みは、自然に前から理解する練習になります(→聞き読みの効果とやり方)
  • 速読トレーナー:速読トレーナーは、英文を1〜3語ずつ表示して自動で進めます
  • 1文ずつリーダー:1文ずつリーダーで、前の文が見えない状態で読むのも、戻らない練習になります

速読トレーナーの使い方には、プロのやり方があります。

  • ① 読み終わったやさしい話を貼る(初めての話やむずかしい話は使わない)
  • ② 「2語ずつ・150 WPM・だんだん速く」で流す
  • ③ 内容がわからなくなった速さを、自分の「限界速度」としてメモする
  • ④ 限界速度より少し下げて、最後にもう1回流して終わる(全体で3分)
  • ⑤ 慣れたら「3語ずつ」にして、チャンクで読む感覚をつかむ

ただし、これは練習用です。速読について研究をまとめた論文では、読む速さと理解の正確さはトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係にあり、理解を保ったまま速く読むには、読む練習を重ねて語彙などの言葉の力を伸ばすことがいちばんの道だとされています(Rayner et al., 2016)。最初に紹介した「読み直しをできなくすると理解が落ちた」という実験も、もともとは単語を1つずつ表示する速読アプリへの疑問から行われたものでした(Schotter, Tran & Rayner, 2014)。トレーナーで「前へ進む感覚」をつかんだら、ふつうの本でたくさん読む。この順番を守りましょう。

誤解をくつがえす3つの事実

  • 誤解1「目を戻すのは悪いこと」:目の自然な戻りは、理解を支える読み方の一部です(Schotter, Tran & Rayner, 2014)。やめるべきなのは、訳し上げのための戻りだけです
  • 誤解2「速読アプリで3倍速く読めるようになる」:理解を保ったまま読む速さを2倍、3倍(たとえば1分250語から500〜750語)にできる見込みは低い、とされています(Rayner et al., 2016)。速さの中心にあるのは、言葉の力です
  • 誤解3「チャンクは文法の知識で切るもの」:文法の目印は入り口にすぎません。本当に速く読める部品は、よく出会う語の連なりです(Conklin & Schmitt, 2008)。部品は文法書ではなく、大量の英文の中で育ちます

プロの1週間メニュー(1日20分)

曜日練習(5分)本番の多読(15分)
月スラッシュ段階1:L1 の話の2段落スラスラ度5の話を3話
火スラッシュ段階1+前から日本語メモ1段落スラスラ度5の話を3話
水スラッシュ段階2:音読して、音声の区切りと比べる聞き読みで2話
木紙かくし予測読み(紙で英文を隠し、1行ずつずらしながら次を予測)スラスラ度4〜5の話を3話
金速読トレーナー(読み終えた話・2語ずつ・150 WPM から)1文ずつリーダーで1話+ふつうに2話
土スラッシュ段階3:頭の中だけで区切る実演1〜4のような長い文が出てくる L3 の話を1〜2話
日お休み、または好きな話をのんびりWPM 計測で1話(月曜からの変化を見る)

よくある落とし穴

  • むずかしい本で練習する:知らない語が多いと、前から読もうとしても止まってしまいます。練習はスラスラ度5の英文で
  • スラッシュを細かく切りすぎる:1〜2語ずつ切ると、かえって遅くなります
  • 前から日本語メモを卒業しない:補助輪は2週間で外しましょう
  • 目の戻りをゼロにしようとする:「ん?」と思ったときに少し戻るのは自然なことです。気にしすぎず、訳し上げだけをやめましょう

第2講のチェックリスト

  • □ 「訳し上げの返り読み」と「目の自然な戻り」の違いを説明できる
  • □ ワーキングメモリの「抱えて歩く」と「届けながら歩く」の違いがわかった
  • □ 英文を4〜6語のかたまりで区切れる
  • □ but、only、because などの合図で、次の内容を予測している
  • □ 速読トレーナーは読み終わったやさしい話で、3分だけ使っている
  • □ むずかしい文で何度も戻るときは、技術ではなくレベルを見直している

次の第3講「頭の中の声をあやつる」では、黙読しているときに頭の中で聞こえる「声」と、読む速さの関係を解き明かします。

よくある質問

前から理解すると、日本語訳がぎこちなくなりますが大丈夫ですか?

大丈夫です。多読の目的は、きれいな日本語訳を作ることではなく、英語の意味をつかむことです。前から理解した結果が「私は座っていた、二等車に、ある汽車の」のようにぎこちなくても、意味がわかっていれば十分です。慣れてくると、日本語を通さずにわかるようになります。

テストの和訳問題では、どうすればいいですか?

和訳問題では、まず前から意味をつかみ、最後に日本語として自然な順番に並べかえて書けばよいのです。前から理解できる人のほうが意味を早く正確につかめるので、和訳もしやすくなります。

速読トレーナーは毎日使ったほうがいいですか?

1回3分程度の練習として、週に数回で十分です。英語の力そのものを伸ばすのは、ふつうの多読です。トレーナーで前に進む感覚をつかみ、その感覚をふだんの多読で使ってください。

参考文献

  1. Schotter, E. R., Tran, R., & Rayner, K. (2014). Don’t believe what you read (only once): Comprehension is supported by regressions during reading. Psychological Science, 25(6), 1218–1226. doi.org/10.1177/0956797614531148
  2. Conklin, K., & Schmitt, N. (2008). Formulaic sequences: Are they processed more quickly than nonformulaic language by native and nonnative speakers? Applied Linguistics, 29(1), 72–89. doi.org/10.1093/applin/amm022
  3. Kuperberg, G. R., & Jaeger, T. F. (2016). What do we mean by prediction in language comprehension? Language, Cognition and Neuroscience, 31(1), 32–59. doi.org/10.1080/23273798.2015.1102299
  4. Rayner, K., Schotter, E. R., Masson, M. E. J., Potter, M. C., & Treiman, R. (2016). So much to read, so little time: How do we read, and can speed reading help? Psychological Science in the Public Interest, 17(1), 4–34. doi.org/10.1177/1529100615623267

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