Tangerines(蜜柑)の挿絵
Level 3 Pre-Intermediate日本の昔話と名作

Tangerines

蜜柑

  • 📖 626 words
  • ⏱ 約6分
  • 🔊 3:12
  • YL 1.5–2.4
  • 英検準2級目安
  • 📝 全訳つき

あらすじ冬の夕方、つかれきった「私」が乗った汽車に、大きな包みをかかえたいなか娘が乗りこんできます。わけもなく窓を開けようとする娘に、「私」はいらだちますが……。

芥川龍之介『蜜柑』(1919年)をもとに再話

キーワード(9語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • second-class car二等車
  • gloomyゆううつな
  • dull退屈な
  • crackedひびわれた
  • bundle包み(ふろしき包み)
  • tunnelトンネル
  • railroad crossingふみ切り
  • servant奉公人・使用人
  • see her off彼女を見送る
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Google Cloud TTS(Chirp 3 HD・アメリカ英語・Orus)

It was a cloudy winter evening. I was sitting in a second-class car of a train that was about to leave Yokosuka for Tokyo. In those days, Japanese trains had different classes, and second class was more expensive and comfortable than third class. There was no one else in the car. Outside on the dark platform, there was not even a dog. I felt tired and gloomy, and my life seemed dull and empty.

どんよりとくもった、冬の夕方のことだった。私は汽車の二等車に座っていた。横須賀から東京へ向かう汽車で、もうすぐ発車するところだ。そのころ日本の汽車には等級があって、二等車は三等車より料金が高く、乗りごこちもよかったのだ。車内には、ほかにだれもいなかった。外の暗いホームには、犬一匹いない。私はつかれていて気分が重く、自分の人生が退屈でむなしいものに思えていた。

Just as the train began to move, the door opened, and a girl rushed in. She was about thirteen or fourteen years old. Her hair was dry and tied back simply. Her cheeks were red and cracked from the cold, the way country children's cheeks often are. On her lap she held a large cloth bundle, and in her cold hand she held a red third-class ticket.

ちょうど汽車が動き出したとき、戸が開いて、ひとりの娘があわただしく入ってきた。年は十三か十四くらいだろう。かさかさした髪を、無造作にうしろで結んでいた。いなかの子どもによくあるように、ほおは寒さで赤くひびわれている。ひざには大きなふろしき包みをかかえ、冷たそうな手には、赤い三等の切符をにぎっていた。

I did not like her at all. I disliked her plain, dirty clothes. I disliked her country face. I was even annoyed that she did not know the difference between second class and third class. I took out my newspaper and tried to forget about her.

私は、この娘がまったく好きになれなかった。地味で汚れた着物がいやだった。いなかくさい顔がいやだった。二等と三等の区別もつかないことにさえ、いらいらした。私は新聞を取り出して、娘のことを忘れようとした。

But the newspaper was full of boring news, and soon I closed my eyes. When I opened them again, the girl had moved to the seat across from me. She was trying hard to open the window. It was heavy, and she could not do it easily.

けれども、新聞は退屈な記事ばかりで、私はやがて目を閉じた。もう一度目を開けると、娘は私の向かいの席に移っていた。そして、一生懸命窓を開けようとしていた。窓は重くて、なかなか開かない。

I could not understand why she wanted to open it. The train was just about to go into a tunnel. Of course, I said nothing. I only watched her coldly. "She will never open it," I thought, and I almost hoped that she would fail.

なぜ娘が窓を開けたがるのか、私にはわからなかった。汽車は、ちょうどトンネルに入ろうとしていたのだ。もちろん、私は何も言わなかった。ただ冷ややかに、娘を見ていた。「どうせ開けられはしないだろう」と私は思い、いっそ失敗すればいいとさえ思っていた。

Then, with a loud noise, the window fell open just as the train rushed into the tunnel. Black smoke from the engine poured into the car. I had a weak throat, and I began to cough hard. The girl did not seem to care about me at all. She put her head out of the window and looked toward the front of the train. Her hair blew in the dark wind. I wanted to shout at her and tell her to close the window.

すると、大きな音とともに、窓がばたりと開いた。ちょうど汽車がトンネルにすべりこんだときだった。機関車の黒い煙が、車内に流れこんできた。のどの弱い私は、はげしくせきこんだ。娘は、私のことなど気にもとめない様子だ。窓から頭を出して、汽車の進む方をじっと見ていた。娘の髪が、暗い風になびいていた。私は娘をどなりつけて、窓を閉めろと言いたくなった。

But at that moment, the train came out of the tunnel. We were passing through a poor little town between the hills. The train came near a railroad crossing, and there, behind the gate, stood three small boys. They were standing close together, and they all had red cheeks, just like the girl. They looked up at the passing train, raised their hands, and shouted something with all their might.

けれどもそのとき、汽車はトンネルをぬけた。山あいの、貧しい小さな町を通っているところだった。汽車がふみ切りに近づくと、その柵の向こうに、小さな男の子が三人立っていた。三人はぴったりくっついて立っていて、みな娘と同じように赤いほおをしている。男の子たちは通りすぎる汽車を見上げ、手をあげて、声をかぎりに何かさけんだ。

Then the girl leaned out of the window and stretched out her arm. She began to wave it, and suddenly five or six tangerines flew through the air toward the boys. They were bright and warm in color, like little pieces of sunshine. My heart jumped.

そのとき、娘が窓から身を乗り出して、腕をのばした。娘がその手をふると、とつぜん、五つ六つのみかんが、男の子たちのほうへ宙を飛んでいった。明るくあたたかい色をしたみかんは、小さな日の光のかけらのようだった。私の胸は、どきりとした。

In that moment, I understood everything. The girl was leaving home to work as a servant in some faraway house. Her little brothers had come to the crossing to say goodbye. And she had thrown them the tangerines she was carrying in her pocket, to thank them for coming to see her off.

その瞬間、私はすべてを理解した。娘は家をはなれ、どこか遠い家へ奉公に出るところなのだ。弟たちは、別れを言いにふみ切りまで来ていたのだ。そして娘は、見送りに来てくれたお礼に、ふところに入れていたみかんを、弟たちに投げてやったのだ。

The crossing, the three small boys shouting like birds, and the bright color of the tangerines falling on them all passed by in a second. But the picture stayed in my heart, clear and strong. I felt something warm rise inside me.

ふみ切り。鳥のようにさけぶ、三人の小さな男の子。その上に降りそそぐ、みかんのあざやかな色。すべては一瞬のうちに過ぎ去った。けれども、その光景ははっきりと強く、私の心に残った。私は、何かあたたかいものが胸にこみあげてくるのを感じた。

When I looked at the girl again, she was sitting across from me as before. Her cheeks were still red and cracked, and she was holding her large bundle and her third-class ticket. For a little while, I was able to forget my tiredness and the dull, empty feeling of my life.

もう一度娘を見ると、娘は前と同じように、私の向かいに座っていた。ほおは相変わらず赤くひびわれていて、大きなふろしき包みと三等の切符をかかえている。しばらくのあいだ、私は自分のつかれも、自分の人生を退屈でむなしく思う気持ちも、忘れることができたのだった。

📖 全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

どんよりとくもった、冬の夕方のことだった。私は汽車の二等車に座っていた。横須賀から東京へ向かう汽車で、もうすぐ発車するところだ。そのころ日本の汽車には等級があって、二等車は三等車より料金が高く、乗りごこちもよかったのだ。車内には、ほかにだれもいなかった。外の暗いホームには、犬一匹いない。私はつかれていて気分が重く、自分の人生が退屈でむなしいものに思えていた。

ちょうど汽車が動き出したとき、戸が開いて、ひとりの娘があわただしく入ってきた。年は十三か十四くらいだろう。かさかさした髪を、無造作にうしろで結んでいた。いなかの子どもによくあるように、ほおは寒さで赤くひびわれている。ひざには大きなふろしき包みをかかえ、冷たそうな手には、赤い三等の切符をにぎっていた。

私は、この娘がまったく好きになれなかった。地味で汚れた着物がいやだった。いなかくさい顔がいやだった。二等と三等の区別もつかないことにさえ、いらいらした。私は新聞を取り出して、娘のことを忘れようとした。

けれども、新聞は退屈な記事ばかりで、私はやがて目を閉じた。もう一度目を開けると、娘は私の向かいの席に移っていた。そして、一生懸命窓を開けようとしていた。窓は重くて、なかなか開かない。

なぜ娘が窓を開けたがるのか、私にはわからなかった。汽車は、ちょうどトンネルに入ろうとしていたのだ。もちろん、私は何も言わなかった。ただ冷ややかに、娘を見ていた。「どうせ開けられはしないだろう」と私は思い、いっそ失敗すればいいとさえ思っていた。

すると、大きな音とともに、窓がばたりと開いた。ちょうど汽車がトンネルにすべりこんだときだった。機関車の黒い煙が、車内に流れこんできた。のどの弱い私は、はげしくせきこんだ。娘は、私のことなど気にもとめない様子だ。窓から頭を出して、汽車の進む方をじっと見ていた。娘の髪が、暗い風になびいていた。私は娘をどなりつけて、窓を閉めろと言いたくなった。

けれどもそのとき、汽車はトンネルをぬけた。山あいの、貧しい小さな町を通っているところだった。汽車がふみ切りに近づくと、その柵の向こうに、小さな男の子が三人立っていた。三人はぴったりくっついて立っていて、みな娘と同じように赤いほおをしている。男の子たちは通りすぎる汽車を見上げ、手をあげて、声をかぎりに何かさけんだ。

そのとき、娘が窓から身を乗り出して、腕をのばした。娘がその手をふると、とつぜん、五つ六つのみかんが、男の子たちのほうへ宙を飛んでいった。明るくあたたかい色をしたみかんは、小さな日の光のかけらのようだった。私の胸は、どきりとした。

その瞬間、私はすべてを理解した。娘は家をはなれ、どこか遠い家へ奉公に出るところなのだ。弟たちは、別れを言いにふみ切りまで来ていたのだ。そして娘は、見送りに来てくれたお礼に、ふところに入れていたみかんを、弟たちに投げてやったのだ。

ふみ切り。鳥のようにさけぶ、三人の小さな男の子。その上に降りそそぐ、みかんのあざやかな色。すべては一瞬のうちに過ぎ去った。けれども、その光景ははっきりと強く、私の心に残った。私は、何かあたたかいものが胸にこみあげてくるのを感じた。

もう一度娘を見ると、娘は前と同じように、私の向かいに座っていた。ほおは相変わらず赤くひびわれていて、大きなふろしき包みと三等の切符をかかえている。しばらくのあいだ、私は自分のつかれも、自分の人生を退屈でむなしく思う気持ちも、忘れることができたのだった。

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. How did the writer feel about the girl at first?

Q2. Who were the three boys at the crossing?

Q3. Why did the girl open the window?

この読み物の使い方 3ステップ

  1. 聞きながら読む 音声に合わせて光る文を目で追う(聞き読み)。わからない語は飛ばしてOK。
  2. 音声なしで読む ⏱計測ボタンで読む速さ(WPM)を測ってみる。
  3. 耳だけで聞く 🎧聞くだけモードで、文字を見ずに内容がわかるか試す。🔁1文リピートで音読・シャドーイングも。

聞き読みの効果とやり方/多読三原則

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