多読三原則「辞書は引かない・わからないところは飛ばす・つまらなければやめる」の意味と注意点
「辞書は引かない」「わからないところは飛ばす」「つまらなければやめる」。日本の英語多読でよく知られるこの3つのルールは、初めて聞くと少し乱暴に聞こえるかもしれません。でも、それぞれにはっきりした理由があります。この記事では、三原則の意味と、誤解しやすいポイントを説明します。
多読三原則とは
多読三原則は、日本で「100万語多読」を広めた酒井邦秀さんと、SSS英語多読研究会(資料によっては SSS英語学習法研究会。SSS は Start with Simple Stories、「やさしい物語から始めよう」の頭文字)などが学習者に示してきたルールです。酒井さんの『快読100万語!ペーパーバックへの道』(2002年)などをきっかけに広まり、今では多くの大学図書館や公共図書館の多読案内でも紹介されています。
- ① 辞書は引かない
- ② わからないところは飛ばす(飛ばして前へ進む)
- ③ つまらなければやめる(つまらない本、合わない本は途中でやめて別の本へ)
表現は資料によって少しずつちがい、酒井さんは「辞書は捨てる」「自分にあわないと思ったら投げる」のような、より強い言い方もしています。言い方はちがっても、中身は同じです。
なぜ三原則が必要なのか
日本の学校で英語を学んだ人の多くは、「英文は1語残らず理解し、日本語に訳すもの」という読み方を身につけています。この読み方のまま多読をすると、1ページ読むのに何十分もかかり、すぐに疲れてしまいます。三原則は、それまでの「精読のくせ」をいったん外すためのルールだと考えるとわかりやすいでしょう。
多読研究の第一人者デイとバンフォードの10原則でも、辞書を引くと読書が中断されるので控えること、わからない語は無視するか推測すること、おもしろくない本・むずかしすぎる本はやめてよいことが述べられています(→多読の10原則)。三原則は、日本の学習者向けにそれを短く言い切ったものといえます。
原則1:辞書は引かない
ねらい
辞書を引くたびに、読書は止まります。話の流れが切れ、英語を英語のまま理解する練習になりません。辞書を引かないと決めると、前後の文脈から意味を考えるようになり、読むスピードも保てます。
前提:辞書がいらない本を選ぶ
このルールには大切な前提があります。それは「辞書を引かなくても話がわかるやさしい本を選ぶ」ことです。知らない単語が多すぎる本で辞書を禁止すると、ただ「わからないまま」になってしまいます。研究では、物語を辞書なしで十分に理解するには、本文の語の約98%(50語に1語しか知らない語がない状態)を知っている必要があると計算されています(Hu & Nation, 2000。Nation, 2006 による紹介)。
注意点
- 辞書を「一生使うな」という意味ではありません。読み終わったあと、気になった語を調べるのは自由です。
- 授業の精読や単語学習では、辞書はもちろん役に立ちます。三原則は「多読の時間」のルールです。
- くわしくはわからない単語はどうする?推測・飛ばし読み・辞書の使いどころをどうぞ。
原則2:わからないところは飛ばす
ねらい
わからない1文で立ち止まっても、多くの場合、先を読めば意味がわかってきます。物語は同じ語や場面が何度も出てくるので、最初はわからなかった語が、くり返し出てくるうちにわかることがよくあります。
どこまで飛ばしてよいか
- 話の筋がわかっていれば、細かい語や文はどんどん飛ばしてかまいません
- 固有名詞(人や地名)は「何かの名前」とわかれば十分です
- ただし、話の筋が追えなくなったら、その本はむずかしすぎるサインです。飛ばす量が多すぎるときは、レベルを下げましょう
「あいまいさに耐える力」
外国語を読むときは、ある程度のわからなさを抱えたまま読み進める力が必要です。母語で本を読むときも、私たちは知らない言葉を全部調べたりはしません。この感覚を英語でも身につけるのが、原則2の大きなねらいです。
原則3:つまらなければやめる
ねらい
多読の効果は読む量から生まれます。つまらない本を無理に最後まで読もうとすると、読むのが苦痛になり、量が減ってしまいます。別の本に移れば、また楽しく読めます。
「つまらない」には2種類ある
- 内容が好みでない:ジャンルや話題を変えてみましょう。多読ベストならイソップ物語からノンフィクションまで、いろいろ試せます
- むずかしくて楽しめない:これは「つまらない」のではなく「レベルが合っていない」のかもしれません。1つ下のレベルを読んでみましょう
やめた本はまた読めばいい
途中でやめた本も、何か月かたって読み返すと、驚くほどすらすら読めることがあります。「投げた本」は失敗ではなく、成長を確かめる目印になります。
三原則のよくある誤解
- 誤解1「三原則を守れば、どんな本でも読める」:三原則は、やさしい本を選んだうえでのルールです。むずかしい本で三原則を使うと、ただの「わからない読み」になります。
- 誤解2「わからなくても気にしなくていい」:細かいところは気にしなくてよいのですが、話の大筋はわかっていることが必要です。大筋がわからないなら、レベルを下げましょう。
- 誤解3「文法や単語の勉強はいらない」:多読は大きな力になりますが、文法の確認や単語学習と組み合わせると、さらに効率よく伸びます(→精読と多読の違いと組み合わせ方)。
- 誤解4「やめてばかりでは力がつかない」:やめたあとに別の本を読むなら、読む量は減りません。問題は「やめたまま読まなくなる」ことです。
三原則を守るための3つの工夫
- ① やさしすぎるくらいから始める:レベル診断の結果より1つ下のレベル(たとえば L0 や L1)から始めると、辞書なしで読む感覚がつかみやすくなります。
- ② 手元に辞書を置かない:スマホの辞書アプリも、多読の時間は閉じておきましょう。
- ③ 読み終えたら記録する:最後まで読んだ本も、途中でやめた本も記録すると、自分に合うレベルやジャンルが見えてきます(→読書記録・100万語メーター)。
まとめ
多読三原則は、精読のくせを外し、英語をたくさん、楽しく読むためのルールです。ただし、その前提は「やさしい本を選ぶこと」。三原則とレベル選びはセットで考えましょう。多読全体の進め方は英語多読とは?完全ガイドで、始め方は最初の1か月のステップで説明しています。
よくある質問
辞書を引かないと、単語を間違って覚えませんか?
やさしい本なら知らない語は少なく、前後から意味を推測しやすいので、大きな誤解は起きにくいです。何度も出てくる気になる語は、読み終わってから辞書で確かめるとよいでしょう。
三原則はだれが作ったのですか?
日本で100万語多読を広めた酒井邦秀さんや SSS英語多読研究会などが、学習者向けのルールとして示してきました。表現は資料によって少しずつ異なります。
つまらない本ばかりで、何を読んでも続きません。
むずかしすぎて楽しめていない可能性があります。思い切って1〜2レベル下げ、短い話をたくさん読んでみてください。短く、オチがはっきりしたイソップ物語などがおすすめです。
学校の英語の授業でも辞書を使わない方がいいですか?
いいえ。三原則は「多読の時間」のためのルールです。授業の精読や単語学習では辞書が役に立ちます。目的によって読み方を使い分けましょう。
参考文献
- 酒井邦秀 (2002).『快読100万語!ペーパーバックへの道』筑摩書房. ci.nii.ac.jp/ncid/BA57253600
- 古川昭夫・河手真理子 (2003).『今日から読みます英語100万語!』(酒井邦秀 監修)日本実業出版社. ci.nii.ac.jp/ncid/BA62003103
- 酒井邦秀・神田みなみ 編著 (2005).『教室で読む英語100万語:多読授業のすすめ』大修館書店. ci.nii.ac.jp/ncid/BA71628678
- Bamford, J., & Day, R. R. (Eds.). (2004). Extensive Reading Activities for Teaching Language. Cambridge University Press. ci.nii.ac.jp/ncid/BA68484365
- Day, R., & Bamford, J. (2002). Top ten principles for teaching extensive reading. Reading in a Foreign Language, 14(2), 136–141. doi.org/10.64152/10125/66761
- Hu, M. H.-c., & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430. doi.org/10.64152/10125/66973
- Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? The Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82. doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59
- Nishizawa, H., Yoshioka, T., Ito, K., Nagaoka, M., Hiroyama, S., & Asai, H. (2011). Critical factors in a successful extensive reading program of English. Journal of JSEE, 59(4), 66–71. doi.org/10.4307/jsee.59.4_66
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