研究

精読と多読の違いと組み合わせ方

学校の英語の授業で中心になる「精読」と、やさしい本をたくさん読む「多読」。どちらがよいのか、と聞かれることがありますが、答えは「両方」です。この記事では、2つのちがいを整理し、研究にもとづいた上手な組み合わせ方を紹介します。

精読と多読:ひとことで言うと

  • 精読(intensive reading):少しむずかしい英文を、文法や語彙を確かめながら、正確に、くわしく読む
  • 多読(extensive reading):やさしい英文を、辞書を使わずに、たくさん、速く、楽しく読む

精読は「英語のしくみを学ぶ」ための読み方、多読は「学んだ英語を使いこなせるようにする」ための読み方、と考えるとわかりやすいでしょう。

精読と多読の比較

  • 目的:精読=文の構造・語彙・文法を理解する/多読=大量の英語にふれ、英語のまま速く理解する力をつける
  • 素材のむずかしさ:精読=今の力より少し上/多読=今の力より下(知らない語が50語に1語以下)
  • 量:精読=1回に数百語程度/多読=1回に数千語以上も
  • 速さ:精読=ゆっくり/多読=速く
  • 辞書:精読=積極的に使う/多読=使わない
  • 素材を選ぶ人:精読=先生や教科書/多読=読む人自身
  • 読んだ後:精読=和訳・設問・文法の確認/多読=感想や記録程度
  • 伸びやすい力:精読=文法の正確な理解、むずかしい文の分析力/多読=読む速さ、英語への慣れ、読書への前向きな気持ち

研究からわかること:多読を「足す」と伸びる

精読だけのクラスとの比較

  • 読む速さ:日本の大学1年生を1年間調べた研究(Beglar, Hunt & Kite, 2012)では、多読をしたグループはすべて、精読中心のグループより読む速さが伸びました。日本の看護系大学の1学期間の比較(Huffman, 2014)でも、多読クラスが平均20.73 WPM 伸びたのに対し、精読クラスは −0.62 WPM でした。
  • 読解・速さ・語彙:韓国の大学生を対象にした Suk(2017)では、週100分の精読の授業を受けたクラスと、精読70分+多読30分のクラスを15週間比べました。多読を取り入れたクラスのほうが、読解力・読む速さ・語彙のすべてで上回りました。

この Suk(2017)の研究は、とても大切なことを示しています。多読クラスも精読をやめたわけではなく、精読の時間を少し減らして多読に回したのです。それでも、すべての面で上回りました。

多くの研究をまとめると

34本の研究をまとめた Nakanishi(2015)のメタ分析では、多読をしたグループとしなかったグループの比較で中程度の効果(d = 0.46)が報告され、多読は語学の授業の一部にすべきだと結論づけています。Jeon & Day(2016)のメタ分析でも、多読をカリキュラムの一部として行う形が、最も高い平均効果を示しました。

「置きかえ型」と「追加型」

Robb & Kano(2013)は、日本の大学で、授業時間外に多読を課す大規模な取り組みを報告しました。多読を課した学年は、課さなかった前の学年に比べて大きく伸びました。この論文では、授業の一部を多読に置きかえる多読(replacement ER)と、授業はそのままに授業外で多読を追加する多読(additive ER)という区別が提案されています。家庭学習で多読をするのは「追加型」にあたります。

なぜ組み合わせると効くのか

精読と多読は、おたがいの弱点をおぎない合います。

  • 精読で学んだ文法や単語に、多読で何度も出会う:授業で習った現在完了や関係代名詞が、物語の中で自然に使われているのを何度も見ると、「わかる」が「使える」に変わっていきます
  • 多読で「なんとなくわかる」表現を、精読で確かめる:多読でよく見る表現の正確な意味や文法を授業で学ぶと、理解がすっきりします
  • 多読で読む体力がつくと、精読も楽になる:長い英文に慣れていると、むずかしい文章でも最後まで集中力が続きます

アメリカの言語学者スティーブン・クラッシェンは著書『The Power of Reading』(2004年、第2版)で、自分で選んで楽しむ自由な読書(free voluntary reading)が、読み書きや言語の力を育てる強力な方法であると主張しています。精読でしくみを学び、多読で大量の理解できる英語にふれる――この両輪が、英語力を伸ばす近道です。

目的別の組み合わせ方

中学生・高校生

  • 授業:教科書の精読(学校の授業そのもの)
  • 家庭学習:1日15〜20分の多読を追加(多読ベストの L1〜L3 が目安)
  • コツ:授業で習った文法が出てきたら「あ、これだ」と気づくだけでOK。わざわざ立ち止まって分析する必要はありません

受験生

  • 平日:問題集で精読・長文読解(30〜60分)+多読(10〜15分)
  • 週末:多読を長めに(30分)。やさしいレベルを速く読み、読む速さを保つ
  • コツ:受験直前でも多読をゼロにしない。やさしい英文を速く読む感覚は、本番の長文読解の助けになります(→多読は英検・TOEIC・大学入試に効く?)

大人の学び直し

  • はじめの数か月:多読を中心に(1日20〜30分)。英語への苦手意識をとりのぞく
  • 慣れてきたら:週1〜2回、文法書や精読用の教材で知識を整理する
  • コツ:多読でよく見かけるのに意味があいまいな表現を、メモしておいて精読の時間に調べる(→大人の英語多読)

先生が授業に取り入れるなら

  • 毎回の授業のはじめの10分を多読の時間にする
  • 長期休みの課題を「多読○万語」にする
  • くわしくは授業で多読を取り入れる方法をごらんください

1週間の時間配分の例(1日30分の人)

  • 月・水・金:精読20分+多読10分
  • 火・木:多読30分(聞き読みを含む)
  • 土:多読20分+音読・シャドーイング10分
  • 日:お休み、または好きな話を読み返す

気をつけたいこと

  • 多読の時間に精読をしない:多読の本で一文ずつ和訳を始めると、多読ではなくなります。読み方を切りかえましょう(→多読三原則)
  • 精読の素材で多読をしない:むずかしい教科書の英文を辞書なしで「多読」しても、理解できずに終わります
  • どちらか一方だけにしない:精読だけでは読む量と速さが足りず、多読だけでは文法の正確さに不安が残ることがあります

まとめ

  • 精読=正確にくわしく、多読=やさしくたくさん。目的がちがう別の読み方
  • 研究では、精読の一部を多読に置きかえたり、多読を追加したりすると、読む速さ・読解力・語彙が伸びることが示されている
  • 精読で学んだことに多読で何度も出会う、というサイクルを作ろう

多読の基本は英語多読とは?完全ガイドで、レベル選びはレベルの選び方で説明しています。

よくある質問

精読と多読、どちらを先にやるべきですか?

どちらが先でもかまいません。中学英語の基本がある程度わかっていれば、多読は今日から始められます。基本に不安がある人は、いちばんやさしいレベルの多読と、中学文法の復習を並行するとよいでしょう。

多読だけで文法は身につきますか?

多読でよく使われる文の形は自然に身についていきますが、細かい規則を正確に理解するには、文法の学習(精読)と組み合わせる方が効率的です。

学校の授業が精読ばかりで、多読の時間がありません。

家庭学習で1日10〜15分の多読を「追加」するだけでも意味があります。通学時間や寝る前など、すき間時間に短い話を読むのがおすすめです。

教科書を多読のように速く読むのはだめですか?

一度精読して内容と文法を理解した教科書の英文を、あとで速く読み返すのはよい練習になります。ただ、初めて読むむずかしい英文を辞書なしで流し読みするのは、多読とは言えません。

参考文献

  1. Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665–703. doi.org/10.1111/j.1467-9922.2011.00651.x
  2. Huffman, J. (2014). Reading rate gains during a one-semester extensive reading course. Reading in a Foreign Language, 26(2), 17–33. doi.org/10.64152/10125/66879
  3. Suk, N. (2017). The effects of extensive reading on reading comprehension, reading rate, and vocabulary acquisition. Reading Research Quarterly, 52(1), 73–89. doi.org/10.1002/rrq.152
  4. Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37. doi.org/10.1002/tesq.157
  5. Jeon, E.-Y., & Day, R. R. (2016). The effectiveness of ER on reading proficiency: A meta-analysis. Reading in a Foreign Language, 28(2), 246–265. doi.org/10.64152/10125/66901
  6. Robb, T., & Kano, M. (2013). Effective extensive reading outside the classroom: A large-scale experiment. Reading in a Foreign Language, 25(2), 234–247. doi.org/10.64152/10125/66870
  7. Krashen, S. D. (2004). The Power of Reading: Insights from the Research (2nd ed.). Libraries Unlimited. ci.nii.ac.jp/ncid/BA68598320

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