先生向け

学校の授業で多読を始める方法(先生向け実践ガイド)

「多読がよいのはわかるけれど、授業時間も本も足りない」。多くの先生が最初にぶつかる悩みです。この記事では、高校で英語を教えている立場から、授業に多読を組み込むための現実的な手順を、時間・図書・評価・SSR・よくある壁の順にまとめます。

まず決めること:「置き換え」か「上乗せ」か

授業に多読を入れるとき、最初に考えたいのはいまの授業のどこを多読に使うかです。Robb と Kano(2013)は、日本の大学で授業外の多読を必修にした大規模な実践を報告し、授業の一部を多読に「置き換える(replacement)」やり方と、授業外に「上乗せする(additive)」やり方を区別しました。

  • 置き換え型:毎回の授業の10〜15分を多読にあてる。確実に読む時間が取れるが、ほかの活動を削る必要がある。
  • 上乗せ型:授業外(家庭・朝読書・休み時間)に読む。授業時間は減らないが、読まない生徒が出やすい。

おすすめは、授業内で短く確実に読ませ、その勢いで授業外にもつなげる「ハイブリッド型」です。韓国の大学で行われた Suk(2017)の準実験研究では、週100分の授業のうち30分を多読にあて、残り70分を従来の精読にした実験群が、100分すべて精読の対照群よりも、読解・読む速さ・語彙の3つで上回りました。精読をゼロにしなくても、一部を多読に回すだけで効果が期待できるということです。

時間の取り方:SSR(黙って読む時間)を習慣にする

SSR(Sustained Silent Reading)とは、教室の全員が決まった時間、黙って自分の本を読む活動です。始め方の例を紹介します。

  1. 毎回、授業の最初に10分。チャイムと同時に本を開くルールにすると、授業の導入としても落ち着きます。
  2. 先生も一緒に読む。先生が英語の本を楽しそうに読む姿は、どんな説明よりも強い「お手本」になります。Day と Bamford(2002)の「多読の10原則」にも、教師が読み手のお手本になることが挙げられています。
  3. 読み終わったら記録だけ書く。タイトル・語数・ひとこと感想(日本語でよい)。1分で終わる形にします。
  4. 慣れてきたら15分に延ばす。学期の途中で時間を延ばすと「読める量が増えた」実感につながります。

1年間の多読で読む速さを調べた Beglar ら(2012)は、日本の大学1年生97人を比べ、多読グループがいずれも精読グループより読む速さを大きく伸ばしたこと、そして2週間に1冊以上読むことが多くの学習者にとって最も効果的だったことを報告しています。理解度は高いまま、速さだけが伸びた点も重要です。「たくさん読む=雑に読む」ではありません。

図書の集め方:予算がなくても始められる

多読用の本は、生徒が辞書なしで楽に読めるやさしさであることが最優先です(詳しくは自分に合うレベルの選び方)。図書の集め方は大きく3つあります。

  • 学校図書館で graded readers(学習者向けにレベル分けされた本)をそろえる:Oxford Bookworms、Penguin Readers、Cambridge English Readers などのシリーズは、レベルごとに使う語の数(見出し語数)が決められています。シリーズとレベルの関係は多読におすすめのシリーズとレベル対応表にまとめました。
  • 公共図書館の団体貸出を使う:自治体によっては学校向けにまとまった冊数を貸し出す制度があります。探し方は図書館で多読を参考にしてください。
  • 無料のWeb教材を使う:1人1台端末があるなら、多読ベストのような無料サイトがそのまま教室の本棚になります。レベル診断でスタートのレベルを決め、ライブラリーから自由に選ばせましょう。ほかの無料サイトは無料多読サイト大特集で紹介しています。

紙の本をそろえるなら、1人あたり数冊以上、いちばんやさしいレベルを厚めに買うのがコツです。最初の数か月は、多くの生徒が「思ったより下のレベル」から始めることになるからです。

進め方:最初の3回の授業でやること

1回目:多読とは何かを体験させる。 説明は5分以内にして、すぐにいちばんやさしい本を読ませます。「わからない単語は飛ばす」「つまらなければ途中でやめてよい」という多読の基本ルールだけ伝えます。

2回目:レベル合わせ。 「1ページにわからない語が2〜3個以上あれば、ひとつ下のレベルへ」と具体的な基準を示します。プライドから難しい本を選ぶ生徒が多いので、「やさしい本をたくさん」が最短ルートだと繰り返し伝えます。

3回目:記録の習慣づけ。 読書記録の書き方を教えます。紙の記録カードでも、多読ベストの読書記録・100万語メーターでも構いません。記録の意味は読書記録のつけ方で詳しく説明しています。

評価:テストより「読んだ量」と「続けた事実」

多読の評価でいちばん避けたいのは、読んだ本の内容を細かくテストすることです。テストのために読むと、辞書を引きながらの精読に戻ってしまいます。おすすめの評価方法は次のとおりです。

  • 読んだ語数・冊数の目標達成度(例:学期で3万語。生徒のレベルに応じて調整)
  • 読書記録の継続度(毎週記録しているか)
  • 簡単な確認クイズ:Robb と Kano(2013)の実践では、Moodle 上の確認クイズで「本当に読んだか」を確かめる仕組みを使い、多読を必修化した学年で大きな伸びが見られました。目的は点数化ではなく「読んだことの確認」です。
  • ブックトークやPOP作り:おすすめの1冊を30秒で紹介する。話す・書く活動にもつながります。

成績の中で多読の比重を大きくしすぎると、語数をごまかす生徒も出てきます。「量」「継続」「アウトプット」をバランスよく少しずつが現実的です。

研究は何を言っているか

多読の効果については、複数のメタ分析(多くの研究結果をまとめて分析する方法)があります。Nakanishi(2015)は34の研究(参加者3,942人)を分析し、多読を行ったグループは行わなかったグループに比べて中程度の効果(d = 0.46)があったと報告しています。Jeon と Day(2016)は49の研究、5,919人のデータを分析し、小〜中程度の効果を確認したうえで、多読をカリキュラムの一部として組み込んだ形が最も高い効果を示したと述べています。

一方で、Robb と Ewert(2024)のレビューは現実的な指摘をしています。多読を導入すれば生徒が自然に自分から読むようになる、とはかぎらず、教師のていねいな支えと、段階的な仕かけがなければ、自主的な読み手にはなりにくいというのです。つまり、多読は「本を置いておけば育つ」ものではなく、授業として設計するものだということです。

よくある壁と対策

壁1:生徒が難しい本ばかり選ぶ。 → 最初の1か月は「いちばん下のレベルを3冊読んでから上へ」というルールにします。やさしい本で速く読める快感を先に体験させるのが大切です。

壁2:「こんなに簡単な本で力がつくのか」と保護者や同僚に言われる。 → 上で紹介した研究を示しつつ、「入試の長文を時間内に読むには、速く大量に読む練習が必要」と説明します。入試との関係は多読と英検・TOEIC・大学入試にまとめています。

壁3:本が足りない・管理が大変。 → 紙の本は図書委員や生徒に貸出管理を任せ、足りない分は無料のWeb教材で補います。

壁4:読まない生徒がいる。 → 高校生を対象にした Takase(2007)は、多読への動機づけに最も影響していたのが、日本語での読書と英語での読書それぞれへの内発的な動機(楽しいから読む気持ち)だったと報告しています。「楽しめる1冊」に出会わせることが、どんな指導よりも効きます。マンガ風の本、ノンフィクション、ホラーなど、ジャンルの幅を広げましょう。

壁5:途中で失速する。 → 学期の半ばに「クラス累計語数」を掲示したり、100万語メーターで個人の伸びを見える化したりします。失速への対策は多読が続かないときの処方箋も参考にしてください。

まとめ:小さく始めて、毎回続ける

授業での多読は、毎回10分・やさしい本・記録だけから始めれば十分です。完璧な図書室がなくても、無料の教材と1人1台端末で今日から始められます。大切なのは、多読を「たまのイベント」にせず、授業の一部として毎回続けることです。

よくある質問

週1〜2回しか授業がなくても多読の効果はありますか?

あります。Suk(2017)の研究では、週100分の授業のうち30分を多読にあてるだけで、読解・読む速さ・語彙の伸びが対照群を上回りました。授業内の時間が少ない場合は、授業で読み始めて家で続きを読む形にすると、読む量を確保しやすくなります。

多読の評価を成績にどう入れればよいですか?

読んだ内容の細かいテストは避け、読んだ語数・冊数の目標達成度、読書記録の継続度、簡単な確認クイズ、ブックトークなどを少しずつ組み合わせるのがおすすめです。多読の比重を大きくしすぎると語数をごまかす生徒が出やすくなります。

図書を買う予算がありません。

公共図書館の団体貸出や、多読ベストなどの無料サイトを使えば、予算がなくても始められます。1人1台端末があれば、レベル診断で出発点を決め、ライブラリーから自由に選ばせるだけで教室の本棚になります。

英語が苦手な生徒にも多読は向いていますか?

向いています。ただし、思っているよりもずっとやさしいレベルから始めることが条件です。1ページにわからない語が2〜3個以上あるなら下のレベルに戻す、という具体的な基準を示しましょう。

参考文献

  1. Robb, T., & Kano, M. (2013). Effective extensive reading outside the classroom: A large-scale experiment. Reading in a Foreign Language, 25(2), 234–247. doi.org/10.64152/10125/66870
  2. Suk, N. (2017). The effects of extensive reading on reading comprehension, reading rate, and vocabulary acquisition. Reading Research Quarterly, 52(1), 73–89. doi.org/10.1002/rrq.152
  3. Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665–703. doi.org/10.1111/j.1467-9922.2011.00651.x
  4. Day, R., & Bamford, J. (2002). Top ten principles for teaching extensive reading. Reading in a Foreign Language, 14(2), 136–141. doi.org/10.64152/10125/66761
  5. Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37. doi.org/10.1002/tesq.157
  6. Jeon, E.-Y., & Day, R. R. (2016). The effectiveness of ER on reading proficiency: A meta-analysis. Reading in a Foreign Language, 28(2), 246–265. doi.org/10.64152/10125/66901
  7. Robb, T. N., & Ewert, D. (2024). Classroom-based extensive reading: A review of recent research. Language Teaching, 57(3), 295–324. doi.org/10.1017/s0261444823000319
  8. Takase, A. (2007). Japanese high school students’ motivation for extensive L2 reading. Reading in a Foreign Language, 19(1), 1–18. doi.org/10.64152/10125/66622
  9. Nation, I. S. P., & Waring, R. (2019). Teaching Extensive Reading in Another Language. Routledge. doi.org/10.4324/9780367809256

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