多読の10原則(Day & Bamford)を一つずつ解説
英語多読には、世界中の教師と研究者が参考にしている「10原則」があります。リチャード・デイとジュリアン・バンフォードがまとめたものです。この記事では10の原則を一つずつ取り上げ、何を意味するのか、毎日の多読にどう生かすのかを具体的に説明します。
10原則はどこから来たのか
リチャード・デイ(ハワイ大学)とジュリアン・バンフォードは、1998年の著書『Extensive Reading in the Second Language Classroom』(邦訳『多読で学ぶ英語』)で、外国語の授業で多読を行う方法を体系的にまとめました。そして2002年、学術誌『Reading in a Foreign Language』に論文「Top Ten Principles for Teaching Extensive Reading」を発表し、多読の考え方を10の原則として示しました。論文の要旨では、これらの原則は多読の性質と、多読が成功するための条件・方法を扱うもので、教師が自分の読書観や教え方を見直す道具として使ってほしい、と述べられています。
2004年に出た2人の編著『Extensive Reading Activities for Teaching Language』の序章でも、同じ10原則がくわしく説明されています。この記事では、その序章の並び順にそって紹介します(文献によって並び順が少しちがうことがあります)。序章では「最初の2つは何を読むかについての原則で、残りはこの2つを土台にしている」と説明されています。
原則1:読む素材はやさしい(The reading material is easy)
10原則の中でいちばん大切とされているのがこれです。むずかしい本と格闘していては、たくさん読むことはできません。序章では目安として、初級者なら1ページに知らない語が1〜2個まで、中級者でも4〜5個までと書かれています。
- 実践のコツ:「勉強になりそうな本」ではなく「すらすら読める本」を選ぶ
- 多読ベストでは:レベル診断で決めたレベルより1つ下から始めるのがおすすめ
- くわしくは:レベルの選び方:YL・語数・98%の目安
原則2:いろいろな話題の素材がたくさんある(A variety of reading material on a wide range of topics is available)
物語が好きな人もいれば、科学や歴史が好きな人もいます。種類が多ければ、だれでも「読みたいもの」が見つかります。また、娯楽のために読む、情報を得るために読む、ざっと目を通す、じっくり読むなど、読み方の幅も広がります。
原則3:学習者が読むものを自分で選ぶ(Learners choose what they want to read)
自分で選ぶことは多読の土台です。先生や教科書が決めた文章を読む授業とは、学習者の立場が大きく変わります。序章では、自分で選べることが多読を楽しめる理由の一つだと述べ、おもしろくない本やむずかしすぎる本は途中でやめてよい、むしろやめることがすすめられるとしています。日本の多読三原則の「つまらなければやめる」と同じ考え方です(→多読三原則)。
原則4:できるだけたくさん読む(Learners read as much as possible)
多読の効果は読む量から生まれます。序章では「週に1冊」が適切な目標とされています。初級者向けの本はとても短いので、どのレベルの人にも現実的な目標だという説明です。
日本の大学生を1年間調べた研究(Beglar, Hunt & Kite, 2012)でも、2週間に1冊以上読むことが、多くの学習者の読む速さを伸ばすのに効果的でした。量の目安は100万語多読への道でくわしく説明しています。
原則5:読む速さは、遅いよりも速い(Reading speed is usually faster rather than slower)
やさしい素材を読むので、自然とすらすら読めます。序章では、辞書を引くと読書が中断され流れるような読みができなくなるので、辞書の使用はふつう控え、わからない語は無視するか推測するよう説明されています。
- 実践のコツ:日本語に訳さず、英語の語順のまま意味をとる
- くわしくは:読む速さ(WPM)の測り方と伸ばし方、わからない単語はどうする?
原則6:読む目的は、楽しみ・情報・大まかな理解(The purpose of reading is usually related to pleasure, information, and general understanding)
テストのために一字一句を正確に理解するのではなく、話を楽しむ・知りたいことを知る・だいたいの意味をつかむために読みます。細かいところが100%わからなくても、話の流れがわかれば十分です。
原則7:読書は一人で、黙って読む(Reading is individual and silent)
学習者は自分のペースで読みます。授業中に静かに読む時間をとる学校もありますが、序章では、多読の多くは授業外の自分の時間に、好きな場所で行われると説明されています。通学の電車や寝る前の15分は、まさに多読の時間です。
原則8:読書そのものがごほうび(Reading is its own reward)
多読のゴールは学習者自身の読書体験なので、ふつうは読んだあとに読解問題を課しません。ただし、何を読んだかの記録や、感想を書く活動などを行うことはあります。大事なのは、そうした活動が読書の体験をこわさず、次の読書を後押しするものであることです。
- 多読ベストでは:各話の最後にある3問のクイズは「確認」ではなく「楽しみ」用です。できなくても気にせず次へ進みましょう
- 記録のつけ方は:読書記録のつけ方
原則9:教師は学習者を方向づけ、導く(The teacher orients and guides the students)
多読はふつうの授業とはちがうので、教師は「多読とは何か、なぜやるのか、どうやるのか」を説明する必要があります。また、生徒が何をどれだけ読んでいるか、どう感じているかを把握して助言します。家庭で一人で多読をする人なら、自分で自分のコーチになるつもりで、語数と感想を記録し、ときどき見返すとよいでしょう。
原則10:教師は読み手のお手本になる(The teacher is a role model of a reader)
序章では「お手本こそ最強の先生」と述べられています。教師が生徒と同じ本を読み、その話をすると、生徒は「読み手とはどういうものか」を知ることができます。教師と生徒が一緒に読書を楽しむ、小さな読書コミュニティができるのが理想です。家庭なら、親が英語の絵本を一緒に読むことがこれにあたります(→子どもの英語多読)。
10原則を自分の多読にあてはめるチェックリスト
- やさしい本を読んでいるか(1ページに知らない語が数個以内か)
- 読みたいジャンルが手元にそろっているか
- 自分で選んでいるか、合わない本をやめられているか
- 週に1冊(またはそれに相当する量)読めているか
- 訳さず、止まらず読めているか
- 楽しんでいるか、だいたいの意味がつかめているか
- 自分のペースで、自分の時間に読めているか
- 読後のテストや作業が重荷になっていないか
- 記録をつけ、ふり返っているか
- 一緒に読む仲間やお手本がいるか
10原則は「絶対の決まり」ではない
10原則は、多読をうまく進めるための指針です。すべてを完璧に守る必要はありません。たとえば授業では、全員が同じ本を読む時間をつくることもあります。2025年には、これまでの多読研究72本が10原則に照らしてどのように多読を実施したかを調べた論文も出ており、多くの研究が多読のやり方を論文にはっきり書いていないことが指摘されています(Arai & Takizawa, 2025)。つまり、「多読」と呼ばれていても中身はいろいろだということです。自分の多読がうまくいかないときは、10原則のどれから外れているかを点検してみると、原因が見つかることがよくあります。
授業での取り入れ方は授業で多読を取り入れる方法で、多読全体の案内は英語多読とは?完全ガイドで紹介しています。
よくある質問
10原則の中でいちばん大事なのはどれですか?
デイとバンフォード自身が「最も重要」としているのは原則1「読む素材はやさしい」です。やさしくなければたくさん読めず、楽しくもならないので、ほかの原則も成り立たなくなります。
「週に1冊」はどのくらいの量ですか?
本の長さによって変わります。初級者向けの本は数千語程度と短いので、1日10〜15分でも届く量です。多読ベストの読み物なら、1日1〜3話を目安にするとよいでしょう。
多読三原則とはどう違いますか?
多読三原則(辞書は引かない・わからないところは飛ばす・つまらなければやめる)は、日本で広まった学習者向けの短いルールです。10原則は教師向けに、教材・読み方・教師の役割まで含めて整理したものです。考え方の中心は共通しています。
原則を守らないと効果はありませんか?
すべてを完璧に守る必要はありません。ただ、うまくいかないときは「本がむずかしすぎないか」「楽しめているか」「量が足りているか」を点検すると、原因が見つかることが多いです。
参考文献
- Day, R. R., & Bamford, J. (1998). Extensive Reading in the Second Language Classroom. Cambridge University Press.(邦訳: デイ & バンフォード『多読で学ぶ英語:楽しいリーディングへの招待』松柏社, 2006) ci.nii.ac.jp/ncid/BA35924418
- Day, R., & Bamford, J. (2002). Top ten principles for teaching extensive reading. Reading in a Foreign Language, 14(2), 136–141. doi.org/10.64152/10125/66761
- Bamford, J., & Day, R. R. (Eds.). (2004). Extensive Reading Activities for Teaching Language. Cambridge University Press. ci.nii.ac.jp/ncid/BA68484365
- Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665–703. doi.org/10.1111/j.1467-9922.2011.00651.x
- Arai, Y., & Takizawa, K. (2025). Day and Bamford’s (2002) ten principles for teaching extensive reading revisited: A methodological synthesis of research practice. Reading in a Foreign Language, 37(1), 1–23. doi.org/10.64152/10125/67493
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