🎓 多読の超絶講義

第6講 再読の技:同じ本を3回読むと何が起きるか

「多読はたくさんの本を読むもの。同じ本を読み返すのはもったいない」と思っていませんか。第6講では、プロがあえて同じ本を読み返す理由と、効果を最大にする再読のやり方を伝授します。

多読と再読はケンカしない

多読の基本は「やさしい本を、たくさん」です。それなら、同じ本を読み返すのは遠回りに見えるかもしれません。

でも、多読を長く続けている人の多くは、お気に入りの本を何度も読み返しています。再読には、新しい本では得られない効果があるからです。新しい本で「量」をかせぎ、再読で「なめらかさ」を磨く。この2つは、ケンカするどころか、お互いを強くします。

頭の中で起きていること:お財布の使い道が変わる

第1講で、読むときの注意を「お財布のお金」にたとえました。同じ話を3回読むと、このお財布の使い道が回ごとに変わっていきます。

1回目:話を追うのでせいいっぱい

初めての話では、お金のほとんどが「だれが、何をして、どうなるか」を追うことに使われます。登場人物の名前、場面の変化、知らない語の推測。英語の表現や言い回しには、なかなか目が向きません。

2回目:言葉に気づく余裕が生まれる

話の筋がわかっているので、お財布に余裕ができます。その余裕で、「この場面ではこういう言い方をするのか」「この語は前にも出てきた」と、英語そのものに気づくようになります。1回目に飛ばした語の意味が、文脈から自然にわかることもよくあります。

3回目:見た瞬間にわかる状態に近づく

内容も言葉もなじんでいるので、文字を見た瞬間に意味が浮かぶ状態に近づきます。ラバージとサミュエルズの理論でいう「正確さのレベル」から「自動化のレベル」への移動です(LaBerge & Samuels, 1974)。1回目よりずっと速く、楽に読めるはずです。この「楽に速く読めた」体験が、英語のまま読む回路を強くします。

研究が示す再読の力

再読は、多読と同じくらい読む速さを伸ばす

日本の大学生を対象にした研究では、音声のお手本を聞きながら同じ文章をくり返し読む方法(アシスト付きの再読)が、多読と同じくらい黙読の速さを伸ばしました。くり返しと聞くことが理解を助ける役割を果たしていたこと、学習者の読む活動への受け止め方にもよい影響があったことも報告されています(Taguchi, Takayasu-Maass & Gorsuch, 2004)。

再読は、単語との出会いの回数を増やす

グレーデッド・リーダーを1冊読んだときの語の学習を調べた研究では、出会った回数が多い語ほど覚えやすく忘れにくく、8回未満しか出会わなかった語は、3か月後に意味を思い出せたものがありませんでした(Waring & Takaki, 2003)。同じ本を3回読めば、その本に出てくる語との出会いは、そのまま3倍になります。

いつ読み返すかで、効果が変わる

台湾の16歳の英語学習者71人を対象にした研究では、音声を聞きながら同じ文章を読む練習を、毎日1回・5日連続で行うグループと、週1回・5週連続で行うグループで比べました。その結果、毎日連続のグループはすぐ後のテストで語彙の伸びが大きく、週1回のグループは長い期間をおいたあとの記憶が良かったのです(Serrano & Huang, 2018)。この結果は、あとで紹介する「間隔の取り方」の土台になります。

再読の正しいやり方:3回読みプロトコル

ただ漫然と読み返すのではなく、1回ごとに目的を変えるのがプロのやり方です。

1回目:楽しむ黙読

  • ふつうの多読と同じように、止まらずに最後まで読む
  • わからない語は飛ばし、話を楽しむことだけを考える
  • 読み終えたら、WPM(読む速さ)計測などで速さを記録する

2回目:気づき読み(音声つきの話なら聞き読みで)

  • 「いいな」「使えそう」と思った表現に、心の中で印をつける(3つまで)
  • 1回目にわからなかった語のうち、何度も出てきた語だけ、語注(glossary)で確かめる
  • 意味がとれなかった段落があれば、読み終わってから「和訳」ボタンで答え合わせをする
  • 音声つきの話なら、2回目を聞き読みにすると、音と文字が結びつく

3回目:タイムアタック黙読

  • 1回目より速く読むことを目指して黙読する
  • 読み終えたら速さを測り、1回目と比べる
  • 目標は、1回目の1.2倍以上(研究で決まった数字ではなく、この講義の目安です。届かないなら、その本はまだ少しむずかしいのかもしれません)

2回目に見つけた表現のうち、どうしても覚えたいものは、マイ単語帳・フラッシュカードに送っておきましょう。忘れたころに復習が出てきます。

2回目に「気づく」べき3つのもの

2回目の「気づき読み」で何に目を向けるかを決めておくと、再読の効果がぐっと上がります。

1. よく一緒に出てくる語の連なり

all the way home、at last、for a long time のような、決まった語の連なりです。こうした連なりは、英語を母語としない読み手でも、ふつうの語句より速く読めるようになることが確かめられています(Conklin & Schmitt, 2008)。再読で「これは1つの部品だ」と気づくたびに、次に読む本が少しずつ速くなります(→第2講)。

2. 話の組み立て

1回目には気づかなかった「伏線」が、2回目には見えてきます。たとえば「賢者の贈り物」の L2 は、One dollar and eighty-seven cents. That was all. という、お金の額から始まります。2回目に読むと、この最初の一文が、話全体の大事な土台になっていることがわかります。

3. 音とリズム

2回目を聞き読みにすると、ナレーターがどこで間をとり、どこを強く読んでいるかに気づけます。That was all. のような短い文が、どんな速さと調子で読まれているかにも注目してみましょう。これは第3講の「頭の声」を育てる材料になります。

実演:「賢者の贈り物」でレベル違い再読

再読には、同じ話をちがうレベルで読み返す「レベル違い再読」という上級技もあります。多読ベストの O・ヘンリー「賢者の贈り物」(L2)と、その原文で比べてみましょう。

場面1:お金を数える

  • L2:Della counted it three times.
  • 原文:Three times Della counted it.

意味は同じですが、原文は Three times を文の先頭に出しています。「3回も」数えた、というデラの切実さが強調されています。

場面2:夫婦の2つの宝物

  • L2:Jim and Della had two treasures.
  • 原文:Now, there were two possessions of the James Dillingham Youngs in which they both took a mighty pride.

原文はぐっと長くなりますが、L2 を読んでいれば、怖くありません。the James Dillingham Youngs は「ジェームズ・ディリンガム・ヤング家の人たち」(名字に s をつけて「〜家の人々」)。possessions は L2 の treasures の言いかえで「持ち物」。took a mighty pride は「とても誇りにしていた」。L2 の文が、原文を読むための「答え」になっているのです。

場面3:髪を売る

  • L2:"Give it to me quickly," said Della.
  • 原文:"Give it to me quick," said Della.

原文の quick は、話し言葉らしいくだけた言い方です。急いでいるデラの息づかいまで聞こえてきます。

レベル違い再読のよいところは、筋を知っているので、お財布のお金を「原文の言葉のちがい」に集中して使えることです。原文に進む力がつくだけでなく、「同じことを、こんなふうにも言えるのか」という英語の幅が見えてきます。同じように再話と原文で読める話は、ほかにも最後の一葉、幸福な王子、わがままな大男などがあります(→第5講「縦の沼」)。

間隔の取り方:集中型と分散型

先ほどの研究(Serrano & Huang, 2018)を多読に生かすと、次のような使い分けができます。

  • 集中型(3日連続で読む):すぐに速く読めるようになりたい、なめらかさを上げたいとき。第4講のベルトコンベア方式は、この集中型です
  • 分散型(読んだ日、1週間後、1か月後):その話の言葉を長く覚えておきたいとき。お気に入りの話を、カレンダーに「再読日」として書きこんでおきます

おすすめは両方の組み合わせです。新しい話は3日連続で回し、特に気に入った話だけ、1週間後と1か月後にもう一度読みます。

再読向きの本の選び方

どんな本でも再読すればよい、というわけではありません。再読に向くのは、次のような本です。

  • 好きな本:つまらない本の再読は、ただの我慢です
  • スラスラ度4〜5の本:むずかしすぎる本は、再読しても苦しいまま。再読は「やさしい本」でこそ効果的です
  • 短い本:L0からL2の短い話なら、3回読んでも10〜15分ほど
  • 声に出したくなる文章:英語の名詩とマザーグースや英語の名スピーチは、くり返し読むほど味が出ます
  • 考えが深まる文章:自己啓発の名著は、読むたびに新しい発見があります

さらに上級の再読:3つのバリエーション

時間差再読

3か月前、半年前に読んだ本を読み返す方法です。当時はスラスラ度3だった本が、今は5になっている。これほど成長を実感できる方法はありません。気分が落ちこんだとき、伸びている実感がほしいときに、ぜひ試してください。

視点チェンジ再読

2回目を、別の登場人物の気持ちになって読む方法です。「交換留学生」を、ミオではなくエマの気持ちで読み返すと、同じ文がちがって見えてきます。読む目的が変わると、気づくことも変わります。

語り直し再読

3回目を読み終えたら、本を閉じて、話の内容を英語で3文にまとめて言ってみます。本で出会った表現を、自分の口から出す練習になります。うまく言えなかった所は、もう一度その場面を読んで確かめます。

誤解をくつがえす3つの事実

  • 誤解1「再読は時間のムダ」:アシスト付きの再読は、多読と同じくらい黙読の速さを伸ばしました(Taguchi, Takayasu-Maass & Gorsuch, 2004)
  • 誤解2「毎日続けて読めば、ずっと覚えていられる」:毎日連続はすぐ後の伸びが大きいものの、長く覚えておくには間をあけたほうが良い結果でした(Serrano & Huang, 2018)
  • 誤解3「再読は、むずかしい本を理解するためのもの」:再読がいちばん力を発揮するのは、1回目でも大体わかるやさしい本です。むずかしすぎる本は、再読よりレベルを下げましょう

新しい本と再読のバランス

再読は強力ですが、やりすぎると新しい語や表現に出会う機会が減ります。目安は、読む語数のうち、新しい本が7割以上、再読が3割までです。

再読した語数も、読書記録に入れてかまいません。ただし「再」などの印をつけておくと、新しい本をどれくらい読んだかがわかり、バランスを確かめやすくなります。記録のつけ方は多読の読書記録のつけ方も参考にしてください。

再読の記録のつけ方(例)

再読の効果は、数字で残すとはっきり見えます。読書記録に、次のような1行を加えてみましょう(数字は記入例です)。

  • 10/1 交換留学生 第1話(L1・約320語) 1回目 WPM 92 スラスラ度4 気づいた表現:all the way home
  • 10/2 同じ話 2回目(聞き読み) 気づいた表現:That was all.
  • 10/3 同じ話 3回目 WPM 118 スラスラ度5
  • 10/8 同じ話 1週間後の再読 WPM 121
  • 11/1 同じ話 1か月後の再読 WPM 125

1回目と3回目の差は「その話の中での伸び」、1回目と1か月後の差は「定着した伸び」です。とくに見てほしいのは、再読していない新しい話の速さも少しずつ上がっていくかどうかです。そこが上がっていれば、再読で磨いたなめらかさが、ほかの本にも広がっている証拠です。

先生・保護者の方へ:授業や家庭での再読

再読は、授業や家庭でも取り入れやすい方法です。

  • 授業の帯活動に:同じ短い話を、月曜は聞き読み、水曜は黙読、金曜は時間を測って黙読、という形で1週間に3回。生徒は自分の速さの変化を記録します
  • 家庭では「お気に入りの1冊」を:子どもが同じ本を何度も読みたがるのは、再読の効果を体で知っているからかもしれません。「また同じ本?」ではなく、「今日は何分で読めた?」と声をかけてみてください
  • 評価は「伸び」で:再読の速さは、他人ではなく、1回目の自分と比べるのが基本です

授業での多読全体の進め方は学校の授業で英語多読を始める方法で紹介しています。

プロの1週間メニュー(1日20分)

曜日新しい本(7割)再読(3割)
月スラスラ度5の話を2話好きな L1 の話で3回読みの1回目(WPM 記録)
火スラスラ度4〜5の話を2話同じ話の2回目:気づき読み(聞き読みで)
水新しい話を2話同じ話の3回目:タイムアタック(1回目の1.2倍が目標)
木「賢者の贈り物」L2 を読む―
金新しい話を2話「賢者の贈り物」の原文の最初の数段落を、聞き読みでレベル違い再読
土新しい話を2〜3話時間差再読:いちばん最初のころに読んだ話を1つ
日お休み、または好きな話月曜の話の「語り直し」(英語で3文)

月曜の話は、カレンダーの1週間後と1か月後に「再読」と書きこんでおきましょう(分散型)。

よくある落とし穴

  • 再読ばかりで、新しい本が減る:再読は語数の3割まで
  • 2回目を辞書引きの精読にしてしまう:2回目は「気づく」回です。調べるのは何度も出てくる語だけにして、多読のリズムを壊さないようにしましょう
  • 暗記しようとする:再読の目的は、なめらかに読めるようになることです。結果として覚えた表現は、ボーナスだと考えましょう
  • むずかしい本を再読で何とかしようとする:むずかしすぎる本は、再読してもスラスラにはなりにくいものです。レベルを下げた本で再読しましょう

第6講のチェックリスト

  • □ 1回目・2回目・3回目で、頭の中のお財布の使い道が変わることがわかった
  • □ 3回読みプロトコルを1話で試し、1回目と3回目の速さを比べた
  • □ 集中型(3日連続)と分散型(1週間後・1か月後)を使い分けている
  • □ レベル違い再読を1回やってみた
  • □ 再読するのは、好きでやさしい本にしている
  • □ 再読は語数の3割まで、新しい本を7割以上にしている

第1講から第6講で、本の選び方、読み方、頭の声、聞き方、本の探し方、読み返し方という多読の「エンジン」がそろいました。後半の講義では、このエンジンをさらに強くする技を伝授していきます。講義の一覧から、続きをお楽しみに。

よくある質問

再読した本の語数を数えてもいいのですか?

数えて構いません。目で文字を追って読んだ英語は、すべて英語にふれた量です。ただし、新しい本をどれくらい読んだかもわかるように、記録に「再」などの印をつけておくのがおすすめです。

何回まで読み返していいですか?

回数に決まりはありません。楽しく読めるうちは何回でもどうぞ。ただ、読む語数全体の3割くらいまでにして、新しい本との出会いも続けましょう。

1回目でほとんどわからなかった本を、再読でわかるようにしてもいいですか?

あまりおすすめしません。再読がいちばん効果を発揮するのは、1回目でも大体わかるやさしい本です。1回目でほとんどわからなかった本はレベルが合っていない可能性が高いので、もっとやさしい本を選んで再読しましょう。

参考文献

  1. LaBerge, D., & Samuels, S. J. (1974). Toward a theory of automatic information processing in reading. Cognitive Psychology, 6(2), 293–323. doi.org/10.1016/0010-0285(74)90015-2
  2. Taguchi, E., Takayasu-Maass, M., & Gorsuch, G. J. (2004). Developing reading fluency in EFL: How assisted repeated reading and extensive reading affect fluency development. Reading in a Foreign Language, 16(2), 70–96. doi.org/10.64152/10125/66783
  3. Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163. doi.org/10.64152/10125/66776
  4. Serrano, R., & Huang, H.-Y. (2018). Learning vocabulary through assisted repeated reading: How much time should there be between repetitions of the same text? TESOL Quarterly, 52(4), 971–994. doi.org/10.1002/tesq.445
  5. Conklin, K., & Schmitt, N. (2008). Formulaic sequences: Are they processed more quickly than nonformulaic language by native and nonnative speakers? Applied Linguistics, 29(1), 72–89. doi.org/10.1093/applin/amm022

読んだら、さっそく1冊。無料・登録なし・音声つき。

1分レベル診断Level 0 から読む

あわせて読みたい