研究

多読で単語は覚えられる?偶発的語彙学習の研究

「多読をすれば単語帳はいらないの?」「辞書を引かずに読んで、本当に単語が身につくの?」。多読についてよく聞かれる質問です。この記事では、読書を通じた単語学習の研究を、わかっていることとわかっていないことに分けて紹介します。

偶発的語彙学習とは

単語帳で覚えるように、覚えることを目的にして学ぶのを「意図的学習」といいます。これに対して、物語を楽しんで読んでいるうちに、結果として単語を覚えてしまうことを「偶発的語彙学習(incidental vocabulary learning)」といいます。多読で期待されるのは、この偶発的な学習です。

研究1:1冊読んだだけでは、ほとんど覚えられない

Waring と Takaki(2003)は、400語レベルの graded reader『A Little Princess(小公女)』を使った研究です。日本人の学習者15人に、出てくる回数の違う25語(つづりを変えて、確実に初めて見る語にしたもの)を、読んだ直後・1週間後・3か月後にテストしました。

  • 単語は偶然に学べるが、ほとんどの語は学ばれなかった。
  • よく出てくる語ほど学ばれやすく、忘れにくかった。
  • 3か月後に意味を覚えていたのは、25語のうち平均でわずか1語ほど。
  • 8回未満しか出てこなかった語は、3か月後には1語も意味を覚えていなかった。

著者らは、1冊の graded reader から身につく新しい語彙はとても少なく、語彙を増やすには大量の多読が必要だと結論づけています。同時に、graded readers の価値は新しい語を覚えることだけでなく、すでに知っている語の知識を深め、豊かにすることにもある、と述べています。

Brown ら(2008)も、読む・聞き読み・聞くだけの3つの方法を比べ、どの方法でも新しい語は学べるものの、ほとんどの語は学ばれず、自力で意味を思い出すテストでは、3か月後まで残ったのは、読む方法で28語中平均1語ほど(聞くだけでは0語)だったと報告しています。

研究2:「少しは知っている」まで含めると、もっと学んでいる

一方で、測り方を変えると、違う姿が見えてきます。Pigada と Schmitt(2006)は、フランス語の学習者1人を対象に、1か月の多読で133語の知識がどう変わったかを、一対一の面接でていねいに調べました。

  • 対象の語の65%で、何らかの知識が伸びていた(およそ1.5語に1語)。
  • 特につづりの知識は、少ない出会いでも大きく伸びた。
  • 意味や文法の知識も伸びたが、つづりほどではなかった。

意味を完全に覚えたかどうかだけでなく、「見たことがある」「なんとなくわかる」という部分的な知識の伸びまで数えると、多読の効果はこれまで考えられていたより大きいということです。Horst(2005)も、21人の ESL 学習者が自由に本を選んで読んだ多読プログラムで、それ以前の研究より高い語彙の伸びを報告しています。

研究3:たくさん読めば、たくさん残る

1冊ではなく、何冊もまとめて読んだ場合はどうでしょうか。

Webb と Chang(2015, Language Teaching Research)は、台湾の学習者61人を対象に、10冊の graded readers を音声を聞きながら読む多読プログラムと、教科書中心の従来型の授業を比べました。多読で10冊を読み終えた直後の語彙の相対的な伸びは44.06%、3か月後でも36.66%で、著者らは「伸びは大きかった」と述べています。

同じ著者らの別の研究(Webb & Chang, 2015, Studies in Second Language Acquisition)では、60人の学習者が37週間かけて20冊の graded readers を読み、もともとの語彙力によってグループを分けて比べました。読んだ直後の相対的な伸びは、上位グループ63.18%、中位44.64%、下位28.12%で、もともと語彙力が高い人ほど多く学んでいました。3か月後の忘れ方は小さかったと報告されています。

21の研究(1,268人)をまとめた Liu と Zhang(2018)のメタ分析でも、多読は英語の語彙学習に有意な効果があると結論づけられています。

研究4:何回出会えばよいのか

同じ語に何度も出会うことが大切なのは、多くの研究で共通しています。Uchihara ら(2019)は、26の研究(1,918人)の45の効果量をまとめたメタ分析で、語に出会う回数と偶発的語彙学習との間に中程度の関係(r = .34)があることを示しました。ただし、その関係の強さは、学習者の年齢や語彙力、出会いの間隔、絵などの視覚的な助けなどによって変わることもわかっています。

つまり、「〇回出会えば必ず覚える」という魔法の回数はありません。何度も、間をあけて、いろいろな文脈で出会うことが、覚える可能性を高めるのです。

研究からわかる「単語が身につく多読」のコツ

1. やさしい本をたくさん読む。Webb と Chang の研究が示すように、すでに知っている語が多い人ほど新しい語を学びやすいのです。知らない語が多すぎる本では、推測もできず、学びも少なくなります。自分のレベルはレベル診断で確かめましょう。

2. 同じシリーズ・同じジャンルを続けて読む。同じ作者や同じジャンルの本には、同じ語が繰り返し出てきます。たとえばイソップ物語を続けて読めば、同じ動物や同じ場面の語に何度も出会えます。

3. 「量」を積み上げる。1冊で覚えられる語は少なくても、何十冊、何百冊と読めば話は変わります。100万語を目標に、読書記録・100万語メーターで量を見える化しましょう。

4. 意図的な学習と組み合わせる。研究は、多読だけで必要な語彙をすべて身につけるのは時間がかかることも示しています。試験までの時間が限られている人は、頻出語は単語帳で覚え、多読でその語に何度も出会って定着させる、という組み合わせが現実的です(精読と多読のちがい、多読と英検・TOEIC・大学入試)。

5. 辞書は「何度も出てくる語」だけ。1回しか出てこない語は、調べてもすぐに忘れがちです。何度も出てきて気になる語だけ調べるのが効率的です(辞書を引かない多読)。

まとめ:多読は「単語を深める」場所

研究をまとめると、次のように言えます。

  • 1冊で覚えられる新しい語は少ないが、部分的な知識はもっと伸びている。
  • たくさん読めば、身につく語は確実に増える。
  • 知っている語が多いほど、新しい語も学びやすい。
  • 多読は、新しい語を覚える場であると同時に、知っている語の使い方を深める場でもある。

単語帳と多読は、どちらか一方ではなく、組み合わせるのがいちばんです。研究の詳細は多読研究ライブラリーでも紹介しています。

よくある質問

多読だけで単語帳は不要になりますか?

時間をかければ多読だけでも語彙は増えますが、1冊で覚えられる新しい語は少ないことが研究でわかっています。試験などで期限がある人は、頻出語を単語帳で覚え、多読で何度も出会って定着させる組み合わせがおすすめです。

同じ単語に何回出会えば覚えられますか?

決まった回数はありません。Waring と Takaki(2003)では、8回未満しか出てこなかった語は3か月後に意味を覚えていませんでした。Uchihara ら(2019)のメタ分析では、出会う回数と語彙学習の間に中程度の関係があり、その強さは学習者や条件によって変わることが示されています。

多読で単語を覚えやすくするにはどうすればよいですか?

自分のレベルに合ったやさしい本を、同じシリーズやジャンルでまとめて大量に読むことです。知っている語が多いほど新しい語を推測しやすく、同じ語に繰り返し出会えます。

聞き読みをすると単語は覚えやすくなりますか?

Brown ら(2008)では、読む・聞き読み・聞くだけのどの方法でも新しい語は学べましたが、ほとんどの語は学ばれず、3か月後まで残った語はわずかでした。聞き読みは理解や読む速さを助ける方法として使い、語彙は量を読む中で増やすと考えましょう。

参考文献

  1. Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163. doi.org/10.64152/10125/66776
  2. Brown, R., Waring, R., & Donkaewbua, S. (2008). Incidental vocabulary acquisition from reading, reading-while-listening, and listening to stories. Reading in a Foreign Language, 20(2), 136–163. doi.org/10.64152/10125/66816
  3. Pigada, M., & Schmitt, N. (2006). Vocabulary acquisition from extensive reading: A case study. Reading in a Foreign Language, 18(1), 1–28. doi.org/10.64152/10125/66611
  4. Horst, M. (2005). Learning L2 vocabulary through extensive reading: A measurement study. The Canadian Modern Language Review, 61(3), 355–382. doi.org/10.3138/cmlr.61.3.355
  5. Webb, S., & Chang, A. C.-S. (2015). Second language vocabulary learning through extensive reading with audio support: How do frequency and distribution of occurrence affect learning? Language Teaching Research, 19(6), 667–686. doi.org/10.1177/1362168814559800
  6. Webb, S., & Chang, A. C.-S. (2015). How does prior word knowledge affect vocabulary learning progress in an extensive reading program? Studies in Second Language Acquisition, 37(4), 651–675. doi.org/10.1017/S0272263114000606
  7. Liu, J., & Zhang, J. (2018). The effects of extensive reading on English vocabulary learning: A meta-analysis. English Language Teaching, 11(6), 1. doi.org/10.5539/elt.v11n6p1
  8. Uchihara, T., Webb, S., & Yanagisawa, A. (2019). The effects of repetition on incidental vocabulary learning: A meta-analysis of correlational studies. Language Learning, 69(3), 559–599. doi.org/10.1111/lang.12343

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