やり方・コツ

名作を原文で読むためのステップ:再話→原文、聞き読みで挑戦

『クリスマス・キャロル』や『不思議の国のアリス』を、いつか英語の原文で読んでみたい。多読を続けている人の多くが持つ目標です。この記事では、原書を読むために必要な力を研究データで確かめたうえで、再話から原文へ無理なく進むステップを紹介します。

原書はなぜ難しいのか:語彙量の壁

原書が難しい最大の理由は、知らない単語の多さです。文章の中で知っている語の割合を「カバー率(coverage)」といいます。

  • Nation(2006)は、文章の98%の語を知っていることが助けなしの理解に必要だとすると、書かれた文章では8,000〜9,000語族(word family:play, plays, played, player などをまとめて1語と数える単位)の語彙が必要になると試算しました。
  • Laufer と Ravenhorst-Kalovski(2010)は、98%のカバー率(約8,000語族)を「最適」な目安、95%のカバー率(4,000〜5,000語族)を「最低限」の目安として提案しています。
  • Webb と Macalister(2013)は、688の文章を分析し、ネイティブの子ども向けの文章でも大人向けの文章でも、98%をカバーするには1万語+固有名詞などの知識が必要だった一方、学習者向けの文章は3,000語族+固有名詞などで足りたと報告しています。

95%のカバー率とは、20語に1語は知らない語がある状態です。1ページに10個以上知らない語があるのが当たり前、ということになります。だからこそ、原書にはいきなり飛び込むより、段階を踏んで近づくほうが楽しく読めます。

急がなくてよい理由

日本の大学生を対象にした Beglar ら(2012)の研究では、1年間の多読で、リライトされた本(やさしく書き直した本)を読んだ学習者のほうが、原書を読んだ学習者よりも読む速さが大きく伸びました。原書は目標として大切ですが、力をつける主役はあくまで「やさしい本をたくさん」です。原書に早く進みすぎて読む量が減るのは、もったいないことです。

ステップ1:再話で「話を知っている」状態をつくる

原書への最初の一歩は、同じ作品の再話(リライト)を先に読むことです。筋や登場人物を知っていれば、知らない語があっても話を見失いません。

  • 多読ベストの名作文学のリライトを、自分のレベルで読みます。
  • できれば2つのレベルで読むのがおすすめです。たとえば L3 と L5 で同じ作品を読むと、表現が豊かになっていく様子を体感できます。

ステップ2:短い原文で「原書の英語」に慣れる

次は、短い原文です。長編にいきなり挑むより、短い作品を最後まで読み切るほうが自信になります。

  • イソップ物語の原文:原文312話は1話100語前後の話が多く、原書の英語の入門に最適です(イソップ物語で多読がはかどる理由)。
  • 短編小説:たとえばO・ヘンリーの『賢者の贈り物(The Gift of the Magi)』は、Project Gutenberg 版で2,000語あまりの短い作品です。
  • 多読ベストの原文で読む名作:パブリックドメインの名作の原文を、L6として掲載しています。

ステップ3:中編に挑戦する

短い原文に慣れたら、数万語の作品に進みます。Project Gutenberg 版の本文をもとにした概算(序文などを含む)では、たとえば次のような長さです。

  • 『クリスマス・キャロル』(ディケンズ):約2万9,000語
  • 『不思議の国のアリス』(キャロル):約2万7,000語
  • 『オズの魔法使い』(ボーム):約4万語

再話で読んだことのある作品、映画などで筋を知っている作品を選ぶと、ぐっと読みやすくなります。ただし映画は原作と筋が違うこともあるので、多読ベストの再話のように原作にもとづいたものを先に読むのが安心です。

ステップ4:聞き読みで原書の壁を下げる

原書を読むときに強い味方になるのが、音声を聞きながら文字を目で追う「聞き読み」です。音声が一定の速さで進むので、細かいところで立ち止まらずに読み進められます。

  • LibriVox:パブリックドメインの本をボランティアが朗読した無料のオーディオブックです。Project Gutenberg や Standard Ebooks の本文と組み合わせれば、無料で「本+音声」がそろいます。
  • 読み手によって聞きやすさが違うので、何人かの朗読を試して選びましょう。

ただし、聞き読みをすれば単語がどんどん覚えられる、というわけではありません。Brown ら(2008)は、読む・聞き読み・聞くだけの3つの方法を比べ、どの方法でも新しい語は偶然に学べるものの、ほとんどの語は学ばれなかったと報告しています。聞き読みは「理解して読み進める」ための道具として使い、語彙はたくさん読む中で少しずつ増やすものと考えましょう。聞き読みのやり方は聞き読みのやり方で詳しく説明しています。

原書を楽しむための5つのコツ

  1. 8割わかれば上出来。全部を理解しようとせず、話の流れがわかれば次に進みます。
  2. 最初の20ページを乗り越える。原書は、登場人物や舞台に慣れるまでが一番つらいところです。そこを越えると急に読みやすくなります。
  3. 辞書は「話の鍵になる語」だけ。何度も出てきて、意味がわからないと話が追えない語だけを調べます(辞書を引かない多読)。
  4. 合わない本はやめる。原書でも多読のルールは同じです。つまらなければ、ほかの作品に移ってかまいません。
  5. やさしい本と並行して読む。原書だけにすると読む量が落ちます。やさしい本もあわせて読み続けましょう。

「原書に進む目安」チェックリスト

  • 多読ベストの L5 をすらすら楽しめる
  • graded readers の上位レベル(たとえば Oxford Bookworms の Stage 5〜6)を辞書なしで読める
  • 100万語前後を読んだ
  • 1分間に150語程度で読める(読む速さ(WPM)の測り方)

すべてそろっていなくても大丈夫です。ひとつの目安として、やさしい本を楽に読めるようになってから、短い原文に挑戦してみましょう。シリーズごとのレベルは多読におすすめのシリーズとレベル対応表で確認できます。

まとめ

原書は、再話で話を知る→短い原文→中編→聞き読みの助けを借りて長編という順に進むと、挫折しにくくなります。大切なのは、原書を急ぐことではなく、やさしい本でたくさん読む力をつけながら、少しずつ原文に近づくことです。

よくある質問

原書を読むには、どれくらいの語彙が必要ですか?

研究によって目安は違いますが、Nation(2006)は98%の語を知るためには8,000〜9,000語族が必要と試算し、Laufer と Ravenhorst-Kalovski(2010)は最低限の目安として4,000〜5,000語族(95%のカバー率)を挙げています。足りない分は、再話や聞き読みで補いながら読むのが現実的です。

最初に読む原書は何がよいですか?

短くて、話をすでに知っている作品がおすすめです。イソップ物語の原文や、O・ヘンリーの短編などから始め、慣れたら『クリスマス・キャロル』のような中編に進むとよいでしょう。

原書を辞書なしで読んでも意味がありますか?

あります。話の流れがつかめていれば、知らない語は飛ばして読み進めてかまいません。ただし、何度も出てきて話の理解に欠かせない語だけは、調べたほうが楽しめます。

原書を読み始めたら、やさしい本はもう読まなくてよいですか?

やさしい本も読み続けることをおすすめします。Beglar ら(2012)の研究では、リライトされた本を読んだ学習者のほうが、原書を読んだ学習者よりも読む速さが大きく伸びました。

参考文献

  1. Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? The Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82. doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59
  2. Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners’ vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15–30. doi.org/10.64152/10125/66648
  3. Webb, S., & Macalister, J. (2013). Is text written for children useful for L2 extensive reading? TESOL Quarterly, 47(2), 300–322. doi.org/10.1002/tesq.70
  4. Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners’ reading rates. Language Learning, 62(3), 665–703. doi.org/10.1111/j.1467-9922.2011.00651.x
  5. Brown, R., Waring, R., & Donkaewbua, S. (2008). Incidental vocabulary acquisition from reading, reading-while-listening, and listening to stories. Reading in a Foreign Language, 20(2), 136–163. doi.org/10.64152/10125/66816
  6. Project Gutenberg. The Gift of the Magi (eBook #7256), A Christmas Carol (#46), Alice’s Adventures in Wonderland (#11), The Wonderful Wizard of Oz (#55). www.gutenberg.org/
  7. LibriVox. About LibriVox. 2026年10月確認. librivox.org/pages/about-librivox/

読んだら、さっそく1冊。無料・登録なし・音声つき。

1分レベル診断Level 0 から読む

あわせて読みたい