The Handcart(トロッコ)の挿絵
Level 3 Pre-Intermediate日本の昔話と名作

The Handcart

トロッコ

  • 📖 724 words
  • ⏱ 約7分
  • 🔊 3:56
  • YL 1.5–2.4
  • 英検準2級目安
  • 📝 全訳つき

あらすじ鉄道工事のトロッコに乗ってみたくてたまらない八歳の良平。ある日、若い土工たちが「押してもいい」と言ってくれました。うれしくてどこまでもついて行った良平でしたが……。

芥川龍之介『トロッコ』(1922年)をもとに再話

キーワード(9語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • handcart手押し車(トロッコ)
  • railsレール・線路
  • slope坂
  • orchards果樹園(ここではみかん畑)
  • cliffsがけ
  • teahouse茶店
  • zori草履
  • haori羽織
  • burst into tearsわっと泣き出した
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When Ryohei was eight years old, workers began building a small railway between Odawara and Atami. Every day, Ryohei went to the edge of his village to watch them. The workers carried earth in a torokko, a small open handcart that ran on narrow rails.

良平が八歳のとき、小田原と熱海のあいだに、小さな鉄道をつくる工事が始まった。良平は毎日、村はずれまで工事を見に行った。土工たちは、トロッコで土を運んでいた。トロッコというのは、細いレールの上を走る、屋根のない小さな手押しの車のことだ。

Two workers stood on the back of the cart as it rolled down the hill. The cart flew along, and the workers' coats flapped in the wind. Ryohei wanted to be a worker so that he could ride on it, too. Even pushing it would be wonderful, he thought.

トロッコが坂を下るときには、ふたりの土工がうしろに乗っていた。トロッコは飛ぶように走り、土工たちの上着が風にはためく。良平は、自分も土工になってあれに乗りたいと思った。押すだけでもすばらしいだろう、とも思った。

One evening in early February, Ryohei went to the work site with his little brother and a friend. The workers had gone home, and the carts were standing at the end of the line. The three boys pushed one of them together. Slowly, the wheels began to turn. Then the cart started to roll down the slope by itself, and the boys jumped on. The wind hit their faces, and the fields rushed past. Ryohei felt as if he were flying.

二月の初めのある夕方、良平は弟と友だちと一緒に工事場へ行った。土工たちはもう帰っていて、トロッコは線路のはしに止まっていた。三人の子どもは、その一台を一緒に押した。ゆっくりと、車輪が回りはじめる。やがてトロッコはひとりでに坂を下りはじめ、子どもたちは飛び乗った。風が顔に当たり、畑がうしろへ飛んでいく。良平は、空を飛んでいるような気がした。

They pushed the cart up the hill again. Just then, a tall worker appeared and shouted, "Hey! Who said you could touch that?" The boys ran away as fast as they could. After that, Ryohei did not go near the carts for a while.

三人はトロッコを、また坂の上へ押しもどした。ちょうどそのとき、背の高い土工があらわれて、「こら! だれがさわっていいと言った?」とどなった。子どもたちは、いちもくさんに逃げ出した。それからしばらく、良平はトロッコに近づかなかった。

About ten days later, Ryohei was standing by the line again. This time, a cart loaded with wood was coming up the slope. Two young workers were pushing it. They looked kind. "Shall I help you push?" Ryohei asked.

十日ほどたって、良平はまた線路のそばに立っていた。今度は、材木を積んだトロッコが坂を上ってくるところだった。押しているのは、ふたりの若い土工だ。やさしそうな人たちだった。「押してあげようか?」と、良平は聞いた。

"Sure, go ahead," said one of them. Ryohei pushed with all his strength. "You're strong," said the other worker. Ryohei was very happy.

「おう、押してくれ」と、ひとりが言った。良平は力いっぱい押した。「おまえ、力があるな」と、もうひとりが言った。良平はとてもうれしくなった。

They pushed the cart up and up. At the top, the workers said, "Jump on!" The three of them rode down the other side. The smell of the tangerine trees filled the air, and the cart rushed through the green orchards. "Pushing is fun, but riding is even better," Ryohei thought.

三人は、トロッコをどんどん押し上げた。坂の上に着くと、土工たちは「乗れ!」と言った。三人はトロッコに乗って、向こう側の坂を下った。みかんの木のにおいがあたりにただよい、トロッコは緑のみかん畑の中を走りぬけていく。「押すのも楽しいけれど、乗るのはもっといい」と、良平は思った。

They went on and on. They pushed the cart through a bamboo forest and rode it down past high cliffs. Far below, the cold winter sea spread out wide. Suddenly, Ryohei noticed how far he had come from home.

三人は、どこまでも進んでいった。竹やぶの中ではトロッコを押し、高いがけの横では乗って下りた。はるか下には、冬の冷たい海が広々と広がっている。良平はふと、家からずいぶん遠くまで来てしまったことに気がついた。

The workers stopped at a small teahouse at the side of the mountain. They went inside and drank tea with the woman there. Ryohei waited alone by the cart. When the workers came out, one of them gave him a sweet wrapped in newspaper. It smelled of oil. "Thank you," Ryohei said, but he did not feel like eating it.

土工たちは、山の中腹にある小さな茶店の前で止まった。ふたりは中に入り、店のおかみさんとお茶を飲んだ。良平はひとりで、トロッコのそばで待っていた。出てきた土工のひとりが、新聞紙に包んだお菓子を良平にくれた。石油のにおいがした。「ありがとう」と良平は言ったが、食べる気にはなれなかった。

They went on again. Ryohei could not enjoy the ride anymore. "I want to go home," he thought. But he could not say it. The sun was starting to go down.

三人は、また進みはじめた。良平はもう、乗るのを楽しめなかった。「家に帰りたい」と思った。けれども、それを口に出すことはできない。日がかたむきはじめていた。

At last, the cart stopped at another teahouse. The workers sat down and started to smoke. Then one of them turned to Ryohei and said, "You can go home now. We are staying over there tonight." "If you're late, your family will worry," said the other.

とうとう、トロッコは別の茶店の前で止まった。土工たちは腰を下ろして、たばこを吸いはじめた。それから、ひとりが良平のほうを向いて言った。「もう帰っていいぞ。おれたちは今夜、向こうに泊まるから」「あんまり遅くなると、家の人が心配するぞ」と、もうひとりも言った。

Ryohei could not believe it. The way home was very long, and it would soon be dark. He almost started crying, but crying would not help. He bowed quickly and began to run back along the rails.

良平は耳を疑った。帰り道はとても長く、もうすぐ暗くなってしまう。良平は泣き出しそうになったが、泣いてもどうにもならない。あわてておじぎをすると、線路にそって走りはじめた。

He ran and ran. He threw the sweet away. He took off his zori, his straw sandals, and ran in his socks. His haori, a short jacket over his kimono, was heavy, so he threw that away, too. Small stones hurt his feet. The sea on his right turned dark, and the sky turned red and then gray. He did not cry. He only ran, breathing hard.

良平は走りに走った。お菓子は投げ捨てた。わら草履をぬぎ捨て、足袋のまま走った。羽織も重かったので、捨ててしまった。羽織というのは、着物の上に着る短い上着だ。小石が足に痛く当たる。右手の海は暗くなり、空は赤くなってから、灰色になった。良平は泣かなかった。ただ息を切らして、走りつづけた。

Finally he saw the lights of his village. When he reached his house, he burst into tears. His mother held him. His father and the neighbors came running. "What happened? What's wrong?" they asked. But Ryohei only cried and cried. He could not explain how afraid he had been on that long, dark road.

やっと、村の明かりが見えた。家にたどり着くと、良平はわっと泣き出した。母親が良平を抱きしめた。父親や近所の人たちも、かけつけてきた。「どうしたんだ? 何があったんだ?」と、みんなが聞いた。けれども良平は、ただ泣きじゃくるばかりだった。あの長く暗い道で、どんなにこわかったかを、説明することはできなかったのだ。

Now Ryohei is twenty-six years old. He has a wife and children, and he works in Tokyo, checking the pages of books before they are printed. Sometimes, when he is tired from work, he suddenly remembers that evening. And he thinks that his life, too, is like that thin, dark path, going on and on with no end.

良平は今、二十六歳になる。妻と子どもがいて、東京で校正の仕事をしている。本が印刷される前に、ページにまちがいがないか確かめる仕事だ。仕事につかれたとき、良平はふと、あの夕方のことを思い出すことがある。そして、自分の人生もまた、あの細くて暗い道のように、どこまでも果てしなく続いているのだと思うのだ。

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良平が八歳のとき、小田原と熱海のあいだに、小さな鉄道をつくる工事が始まった。良平は毎日、村はずれまで工事を見に行った。土工たちは、トロッコで土を運んでいた。トロッコというのは、細いレールの上を走る、屋根のない小さな手押しの車のことだ。

トロッコが坂を下るときには、ふたりの土工がうしろに乗っていた。トロッコは飛ぶように走り、土工たちの上着が風にはためく。良平は、自分も土工になってあれに乗りたいと思った。押すだけでもすばらしいだろう、とも思った。

二月の初めのある夕方、良平は弟と友だちと一緒に工事場へ行った。土工たちはもう帰っていて、トロッコは線路のはしに止まっていた。三人の子どもは、その一台を一緒に押した。ゆっくりと、車輪が回りはじめる。やがてトロッコはひとりでに坂を下りはじめ、子どもたちは飛び乗った。風が顔に当たり、畑がうしろへ飛んでいく。良平は、空を飛んでいるような気がした。

三人はトロッコを、また坂の上へ押しもどした。ちょうどそのとき、背の高い土工があらわれて、「こら! だれがさわっていいと言った?」とどなった。子どもたちは、いちもくさんに逃げ出した。それからしばらく、良平はトロッコに近づかなかった。

十日ほどたって、良平はまた線路のそばに立っていた。今度は、材木を積んだトロッコが坂を上ってくるところだった。押しているのは、ふたりの若い土工だ。やさしそうな人たちだった。「押してあげようか?」と、良平は聞いた。

「おう、押してくれ」と、ひとりが言った。良平は力いっぱい押した。「おまえ、力があるな」と、もうひとりが言った。良平はとてもうれしくなった。

三人は、トロッコをどんどん押し上げた。坂の上に着くと、土工たちは「乗れ!」と言った。三人はトロッコに乗って、向こう側の坂を下った。みかんの木のにおいがあたりにただよい、トロッコは緑のみかん畑の中を走りぬけていく。「押すのも楽しいけれど、乗るのはもっといい」と、良平は思った。

三人は、どこまでも進んでいった。竹やぶの中ではトロッコを押し、高いがけの横では乗って下りた。はるか下には、冬の冷たい海が広々と広がっている。良平はふと、家からずいぶん遠くまで来てしまったことに気がついた。

土工たちは、山の中腹にある小さな茶店の前で止まった。ふたりは中に入り、店のおかみさんとお茶を飲んだ。良平はひとりで、トロッコのそばで待っていた。出てきた土工のひとりが、新聞紙に包んだお菓子を良平にくれた。石油のにおいがした。「ありがとう」と良平は言ったが、食べる気にはなれなかった。

三人は、また進みはじめた。良平はもう、乗るのを楽しめなかった。「家に帰りたい」と思った。けれども、それを口に出すことはできない。日がかたむきはじめていた。

とうとう、トロッコは別の茶店の前で止まった。土工たちは腰を下ろして、たばこを吸いはじめた。それから、ひとりが良平のほうを向いて言った。「もう帰っていいぞ。おれたちは今夜、向こうに泊まるから」「あんまり遅くなると、家の人が心配するぞ」と、もうひとりも言った。

良平は耳を疑った。帰り道はとても長く、もうすぐ暗くなってしまう。良平は泣き出しそうになったが、泣いてもどうにもならない。あわてておじぎをすると、線路にそって走りはじめた。

良平は走りに走った。お菓子は投げ捨てた。わら草履をぬぎ捨て、足袋のまま走った。羽織も重かったので、捨ててしまった。羽織というのは、着物の上に着る短い上着だ。小石が足に痛く当たる。右手の海は暗くなり、空は赤くなってから、灰色になった。良平は泣かなかった。ただ息を切らして、走りつづけた。

やっと、村の明かりが見えた。家にたどり着くと、良平はわっと泣き出した。母親が良平を抱きしめた。父親や近所の人たちも、かけつけてきた。「どうしたんだ? 何があったんだ?」と、みんなが聞いた。けれども良平は、ただ泣きじゃくるばかりだった。あの長く暗い道で、どんなにこわかったかを、説明することはできなかったのだ。

良平は今、二十六歳になる。妻と子どもがいて、東京で校正の仕事をしている。本が印刷される前に、ページにまちがいがないか確かめる仕事だ。仕事につかれたとき、良平はふと、あの夕方のことを思い出すことがある。そして、自分の人生もまた、あの細くて暗い道のように、どこまでも果てしなく続いているのだと思うのだ。

日本語訳:多読ベスト

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. What did Ryohei want to do more than anything?

Q2. Why did Ryohei have to go home alone?

Q3. What does Ryohei sometimes remember now, at twenty-six?

この読み物の使い方 3ステップ

  1. 聞きながら読む 音声に合わせて光る文を目で追う(聞き読み)。わからない語は飛ばしてOK。
  2. 音声なしで読む ⏱計測ボタンで読む速さ(WPM)を測ってみる。
  3. 耳だけで聞く 🎧聞くだけモードで、文字を見ずに内容がわかるか試す。🔁1文リピートで音読・シャドーイングも。

聞き読みの効果とやり方/多読三原則

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