Ten Nights of Dreams: The Sixth Night(夢十夜(第六夜))の挿絵
Level 3 Pre-Intermediate日本の昔話と名作

📕 夢十夜 6夜のうち 4番目 目次 ↓

Ten Nights of Dreams: The Sixth Night

夢十夜(第六夜)

  • 📖 556 words
  • ⏱ 約5分
  • 🔊 2:58
  • YL 1.5–2.4
  • 英検準2級目安
  • 📝 全訳つき

あらすじ鎌倉時代の名仏師・運慶が、明治の世に、お寺の山門で仁王を彫っているという。見物人にまじって見ていた「私」は、ある若者のことばを聞いて、自分も彫ってみたくなりますが……。

夏目漱石『夢十夜』第六夜(1908年)をもとに再話

キーワード(9語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • carving彫っている
  • sculptor彫刻家(ここでは仏師)
  • guardian守り神・守護者
  • crowd人だかり・群衆
  • rickshaw men車夫(人力車を引く人)
  • chiselのみ
  • eyebrowsまゆ
  • buriedうまっている
  • oak樫の木
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This is the dream I had.

こんな夢を見た。

I heard that Unkei was carving the Nio at the great gate of Gokokuji Temple, so I went to see him. Unkei was a famous sculptor who lived about seven hundred years ago, in the Kamakura period. The Nio are the two strong guardian kings who stand at the gates of Buddhist temples with angry faces, to keep evil away.

護国寺の大きな山門で運慶が仁王を彫っていると聞いて、私は見に出かけた。運慶は、およそ七百年前の鎌倉時代に生きた有名な仏師だ。仁王というのは、仏教のお寺の門に立って、こわい顔で悪いものを追い払う、二体の力強い守り神のことだ。

When I arrived, there was already a crowd of people in front of the gate. They were all talking and giving their opinions. Above them, a great old pine tree spread its branches across the blue sky. Its green leaves and the red gate looked beautiful together, as if they belonged to an old painting.

着いてみると、門の前にはもう人だかりができていた。みんながやがやと、思い思いのことを言っている。人々の上には、大きな古い松の木が、青い空に枝を広げていた。松の緑と朱塗りの門がひとつになって、まるで古い絵の中の景色のように美しく見えた。

But the people who were watching were all people of the Meiji era, just like me. Most of them were rickshaw men, who pulled passengers in light two-wheeled carts. They seemed to be waiting for customers and had nothing better to do.

ところが、見物しているのは、みな私と同じ明治の人間だった。ほとんどは車夫で、人を乗せる二輪の軽い車を引く人たちだ。客を待つあいだ、ほかにすることもなく見ているようだった。

"It's so big," one of them said. "It must be harder than carving a person." "Nio are strong," another said. "I've heard that in the old days, the Nio were stronger than any hero."

「ずいぶん大きいもんだな」と、ひとりが言った。「人間を彫るよりむずかしいだろう」「仁王は強いからな」と、別の男が言った。「昔は、仁王はどんな英雄より強かったって話だぜ」

Unkei did not care at all about the people below. He was standing high up on a wooden frame, carving the Nio's face. He wore a small black cap on his head and a kind of old robe with big sleeves tied up on his back. He looked very old-fashioned. I wondered, "Why is Unkei still alive in the Meiji era?" But it seemed strange to nobody, so I just kept watching.

運慶は、下にいる人々のことなど、まったく気にしていなかった。高い木の足場の上に立って、仁王の顔を彫っていた。頭には小さな黒い烏帽子をのせ、大きなそでのついた昔風の着物を着て、そでを背中でたばねていた。いかにも古めかしいかっこうだ。「なぜ運慶が明治の世に生きているのだろう」と、私はふしぎに思った。けれども、だれもふしぎがっている様子はないので、私はそのまま見つづけていた。

Unkei was hitting a chisel with a wooden hammer. He carved the thick eyebrows, then the angry nose. He worked very quickly, and he never seemed to stop and think. Yet every cut was perfect. With each stroke, the shape of a face appeared from the wood.

運慶は、木づちでのみを打っていた。太いまゆを彫り、次にいかつい鼻を彫った。とても速く手を動かし、立ち止まって考えるそぶりは少しも見せなかった。それでいて、ひと彫りひと彫りが完ぺきだった。のみを打つたびに、木の中から顔の形があらわれてくるのだ。

"How can he carve so freely without thinking?" I said to myself. "How can he be sure that he will make the face he wants?"

「どうしてあんなに、考えもせずに自由に彫れるのだろう」と、私はひとりごとを言った。「思いどおりの顔ができると、どうしてわかるのだろう」

A young man next to me heard me. "He isn't really making the eyebrows and the nose," he said. "The Nio is already buried inside the wood. He is only digging it out with his hammer and chisel. It is just like digging a stone out of the earth. So he can't make a mistake."

となりにいた若い男が、それを聞きつけた。「あれは、まゆや鼻を作っているんじゃありませんよ」と、男は言った。「仁王はもともと木の中にうまっているんです。それを木づちとのみで掘り出しているだけなんですよ。土の中から石を掘り出すのと同じことです。だから、まちがいようがないんです」

I was very surprised. "If that's true, then anyone can do it," I thought. I suddenly wanted to try it myself, so I went straight home.

私はとてもおどろいた。「それが本当なら、だれにでもできるはずだ」と思った。急に自分でも彫ってみたくなって、私はまっすぐ家に帰った。

Behind my house, there was a pile of oak wood. A storm had blown down some trees not long before, and the wood had been cut into pieces for the fire. I took my tools and chose the biggest piece. I began to carve it with all my strength. But I could not find a Nio inside.

家の裏には、樫の木が積んであった。少し前の嵐で木が何本か倒れ、たきぎにするために切って積んでおいたのだ。私は道具を持ってきて、いちばん大きな木を選んだ。そして、力いっぱい彫りはじめた。けれども、中に仁王は見つからなかった。

"Maybe there is no Nio in this one," I thought. I tried the next piece. There was no Nio there, either. I tried a third piece and a fourth. I tried every piece of wood in the pile, one after another. But not a single piece had a Nio hidden inside it.

「この木には、仁王がいないのかもしれない」と、私は思った。次の木を彫ってみた。そこにも仁王はいない。三本目も、四本目も彫ってみた。積んである木を、次から次へと一本残らず彫ってみた。けれども、仁王のかくれている木は、ただの一本もなかった。

At last, I understood. There are no Nio buried in the wood of the Meiji era. And that is why Unkei is still alive today.

とうとう、私は悟った。明治の木には、仁王は埋まっていないのだ。だからこそ、運慶は今も生きているのだった。

📖 全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

こんな夢を見た。

護国寺の大きな山門で運慶が仁王を彫っていると聞いて、私は見に出かけた。運慶は、およそ七百年前の鎌倉時代に生きた有名な仏師だ。仁王というのは、仏教のお寺の門に立って、こわい顔で悪いものを追い払う、二体の力強い守り神のことだ。

着いてみると、門の前にはもう人だかりができていた。みんながやがやと、思い思いのことを言っている。人々の上には、大きな古い松の木が、青い空に枝を広げていた。松の緑と朱塗りの門がひとつになって、まるで古い絵の中の景色のように美しく見えた。

ところが、見物しているのは、みな私と同じ明治の人間だった。ほとんどは車夫で、人を乗せる二輪の軽い車を引く人たちだ。客を待つあいだ、ほかにすることもなく見ているようだった。

「ずいぶん大きいもんだな」と、ひとりが言った。「人間を彫るよりむずかしいだろう」「仁王は強いからな」と、別の男が言った。「昔は、仁王はどんな英雄より強かったって話だぜ」

運慶は、下にいる人々のことなど、まったく気にしていなかった。高い木の足場の上に立って、仁王の顔を彫っていた。頭には小さな黒い烏帽子をのせ、大きなそでのついた昔風の着物を着て、そでを背中でたばねていた。いかにも古めかしいかっこうだ。「なぜ運慶が明治の世に生きているのだろう」と、私はふしぎに思った。けれども、だれもふしぎがっている様子はないので、私はそのまま見つづけていた。

運慶は、木づちでのみを打っていた。太いまゆを彫り、次にいかつい鼻を彫った。とても速く手を動かし、立ち止まって考えるそぶりは少しも見せなかった。それでいて、ひと彫りひと彫りが完ぺきだった。のみを打つたびに、木の中から顔の形があらわれてくるのだ。

「どうしてあんなに、考えもせずに自由に彫れるのだろう」と、私はひとりごとを言った。「思いどおりの顔ができると、どうしてわかるのだろう」

となりにいた若い男が、それを聞きつけた。「あれは、まゆや鼻を作っているんじゃありませんよ」と、男は言った。「仁王はもともと木の中にうまっているんです。それを木づちとのみで掘り出しているだけなんですよ。土の中から石を掘り出すのと同じことです。だから、まちがいようがないんです」

私はとてもおどろいた。「それが本当なら、だれにでもできるはずだ」と思った。急に自分でも彫ってみたくなって、私はまっすぐ家に帰った。

家の裏には、樫の木が積んであった。少し前の嵐で木が何本か倒れ、たきぎにするために切って積んでおいたのだ。私は道具を持ってきて、いちばん大きな木を選んだ。そして、力いっぱい彫りはじめた。けれども、中に仁王は見つからなかった。

「この木には、仁王がいないのかもしれない」と、私は思った。次の木を彫ってみた。そこにも仁王はいない。三本目も、四本目も彫ってみた。積んである木を、次から次へと一本残らず彫ってみた。けれども、仁王のかくれている木は、ただの一本もなかった。

とうとう、私は悟った。明治の木には、仁王は埋まっていないのだ。だからこそ、運慶は今も生きているのだった。

日本語訳:多読ベスト

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. Who were most of the people watching Unkei?

Q2. What did the young man say about Unkei's work?

Q3. What happened when the dreamer tried to carve at home?

この読み物の使い方 3ステップ

  1. 聞きながら読む 音声に合わせて光る文を目で追う(聞き読み)。わからない語は飛ばしてOK。
  2. 音声なしで読む ⏱計測ボタンで読む速さ(WPM)を測ってみる。
  3. 耳だけで聞く 🎧聞くだけモードで、文字を見ずに内容がわかるか試す。🔁1文リピートで音読・シャドーイングも。

聞き読みの効果とやり方/多読三原則

📕 夢十夜 Ten Nights of Dreams

6夜を収録・4,576語。1夜ずつ、音声と全訳つきで読めます。

目次(6夜)
  1. 夢十夜(第一夜) 617語
  2. 夢十夜(第三夜) 838語
  3. 夢十夜(第五夜) 778語
  4. 夢十夜(第六夜) 556語
  5. 夢十夜(第九夜) 875語
  6. 夢十夜(第十夜) 912語

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