英語の試験なのに「英語ってそもそも誰のもの?」と問いかけてくる長文。出会ったことはありませんか。言語と文化のテーマは、受験生が毎日向き合っている 英語そのもの が題材なので、じつは一番身近な時事トピックです。
このページでは、世界にいくつ言語があるのか、英語を話す人はどれくらいいるのか、といった数字から、長文でよく出る「ネイティブ信仰」「消えていく言語」「機械翻訳」の論点まで、先輩のノート形式でまとめました。
3行でわかるこのテーマ
1. 英語は世界共通語(lingua franca)になり、話し手の多数派は非ネイティブ。 2. その一方で、世界の言語の4割ほどが消滅の危機にある。 3. 大事なのは「完璧な発音」より「違う相手と通じ合う力」、という考え方が広がっている。
なぜ入試に言語・異文化理解が出るのか
1つめの理由は、英語を学ぶ意味を受験生自身に考えさせられる からです。「なぜ外国語を学ぶのか」「ネイティブのように話す必要はあるか」は、読解にも自由英作文にもそのまま使える問いです。
2つめは、身近な具体例が作りやすい こと。コンビニで働く外国出身の店員さん、観光地の多言語の案内板、翻訳アプリなど、高校生の生活とつながる話題が多く、筆者の主張を具体例で支える文章の形にぴったりです。
3つめは、グローバル化・移民・AI など他のテーマと結びつきやすいこと。言語の話から社会の話へ広がる文章は、難関国公立・私大の長文で定番の型の1つです。
3分でわかる背景知識:7000の言語と15億人の英語
世界の言語は7000以上、その4割が危機
世界の言語を調べている Ethnologue の2025年のデータでは、いま話されている言語は約7,100〜7,200あり、そのうち4割あまりが 消滅の危機にある言語(endangered language) に分類されています。
日本も無関係ではありません。ユネスコは2009年の「消滅の危機にある言語の地図」で、日本の8つの言語・方言を危機にあると示し、アイヌ語 はいちばん深刻な「極めて深刻」に分類されました。沖縄・奄美・八丈などのことばも含まれています。
国際的な取り組みもあります。ユネスコは1999年に2月21日を 国際母語デー と定め、国連総会は2022〜2032年を 先住民族の言語の国際の10年 としました。
英語を話す人の多数派は「非ネイティブ」
英語を母語または第二言語などとして使う人は、推計によって差はありますが約15億人とされ、そのうち母語話者は4分の1ほど。つまり、英語の会話の多くはネイティブ抜きで行われている のです。
言語学者カチュルは1985年に、英語の広がりを3つの円で説明しました。英語が母語の国(Inner Circle)、公用語などとして使う国(Outer Circle)、外国語として学ぶ国(Expanding Circle)の3つで、日本は3つめの円に入ります。インドやシンガポールの英語のように、地域ごとに育った英語を World Englishes(世界の英語たち) と呼ぶ考え方もあります。
| 項目 | 内容 | 年 |
|---|---|---|
| 世界で話されている言語の数 | 約7,100〜7,200 | Ethnologue、2025年 |
| そのうち危機にある言語の割合 | 4割あまり | Ethnologue、2025年 |
| アイヌ語の評価 | 極めて深刻(ユネスコ) | 2009年 |
| 国際母語デーの制定 | 2月21日(ユネスコ) | 1999年 |
| 日本の在留外国人数 | 412万5,395人(初の400万人超え) | 2025年末 |
| 小学校5・6年で英語が正式な教科に | 外国語科として導入 | 2020年度 |
日本の在留外国人は2025年末に初めて400万人を超えました。「英語=海外で使うもの」ではなく、地域で一緒に暮らす人と通じ合う道具 という見方も、長文でよく出る視点です。
このテーマの必修時事英語
言語・異文化理解の必修語30語
- ネット上級 lingua franca 共通語、リンガ・フランカ
- 教育初級 native speaker 母語話者、ネイティブスピーカー
- ネット中級 endangered language 危機言語、消滅の危機にある言語
- ネット上級 language revitalization 言語の復興、消滅危機言語の再生
- ネット中級 indigenous language 先住民の言語、土着の言語
- ネット上級 World Englishes 世界の多様な英語、世界諸英語
- 教育中級 bilingual education バイリンガル教育、二言語教育
- ネット中級 multilingual 多言語の、複数の言語を話す
- ネット上級 code-switching コードスイッチング、言語の切り替え
- ネット中級 intercultural communication 異文化間コミュニケーション
- ネット中級 cultural diversity 文化の多様性
- 社会上級 multicultural coexistence 多文化共生
- 社会初級 diversity 多様性
- 社会中級 inclusion 包摂、受け入れ、含めること
- 社会中級 stereotype 固定観念、ステレオタイプ、決まりきった見方
- ネット上級 cultural appropriation 文化の盗用、文化の横取り
- 政治上級 culture war 文化戦争、価値観をめぐる対立
- 教育中級 English-language education 英語教育
- 社会中級 foreign residents 在留外国人、外国人住民
- 外交中級 migrant 移民、移住者、渡り鳥
- 政治上級 anti-immigration sentiment 反移民感情
- ネット中級 inbound tourism インバウンド観光、訪日観光
- 外交中級 soft power ソフトパワー、文化的影響力
- ネット上級 UNESCO Intangible Cultural Heritage ユネスコ無形文化遺産
- ネット中級 heritage site 遺産(登録地)、世界遺産
- 社会中級 literacy 読み書き能力、識字、活用能力
- テクノロジー中級 machine translation 機械翻訳
- テクノロジー上級 large language model 大規模言語モデル、LLM
- テクノロジー中級 generative AI 生成AI
- 社会中級 digital divide 情報格差、デジタル・デバイド
stereotype は「悪口」ではなく「決めつけ」
stereotype は「ある集団の人はみんな〜だ」という固定観念のこと。ほめ言葉でも stereotype になりえます(「日本人はみんな礼儀正しい」など)。長文では generalization(一般化) や oversimplification(単純化しすぎ) と言い換えられることが多いので、セットで覚えましょう。
長文でよく出る論点:英語が世界共通語になるのは良いこと?
英語の世界共通語化
メリット
- 国や母語が違う人どうしが、共通の道具で直接話し合える。
- 研究・ビジネス・国際協力で情報が早く共有される。
- 英語ができれば、留学や海外の仕事など選択肢が広がる。
- インターネット上の膨大な情報にアクセスしやすくなる。
- 非ネイティブどうしの会話が増え、「ネイティブのように話す」必要性が下がる。
課題・批判
- 少数言語の話し手が減り、言語とともに文化や知恵が失われる。
- 英語が得意な人とそうでない人の間に、機会の格差が生まれる。
- 英語圏の価値観や文化ばかりが広まり、文化の多様性が損なわれるおそれがある。
- ネイティブの発音だけを「正しい」とする考えが、なまりへの偏見を生む。
- 機械翻訳が進むと、外国語を学ぶ意欲そのものが下がるかもしれない。
自由英作文で使える表現
言語・異文化のテーマで使える英文
English has become a global lingua franca that connects people from different linguistic backgrounds.
英語は、異なる言語的背景をもつ人々をつなぐ世界共通語になった。
導入の一文。linguistic backgrounds は言語テーマの必須フレーズ
Most conversations in English today take place between non-native speakers.
今日、英語の会話の大半は非ネイティブどうしで行われている。
take place で「行われる」。事実の紹介に
Being understood is more important than sounding like a native speaker.
ネイティブのように聞こえることよりも、理解してもらうことのほうが大切だ。
動名詞の主語で主張をすっきり言える
When a language dies, a unique way of seeing the world disappears with it.
ある言語が消えるとき、世界の独自の見方もそれと一緒に消えてしまう。
消滅危機言語の話題の決め台詞に
Learning a foreign language helps us see our own culture from a new perspective.
外国語を学ぶことは、自分の文化を新しい視点から見る助けになる。
from a new perspective は異文化理解の定番
Machine translation is useful, but it cannot fully replace human communication.
機械翻訳は便利だが、人間どうしのコミュニケーションに完全に取って代わることはできない。
譲歩 A, but B の型。fully で全否定を避ける
We should avoid judging people based on stereotypes about their nationality.
国籍に関する固定観念にもとづいて人を判断することは避けるべきだ。
based on で「〜にもとづいて」
Communities can protect their own languages while also learning a global one.
地域社会は、世界的な言語を学びながら自分たちの言語を守ることもできる。
while also doing で「〜しつつ同時に」。両立の主張に
Living with people from diverse cultures requires patience and mutual respect.
多様な文化をもつ人々と暮らすには、忍耐と相互の尊重が必要だ。
mutual respect は多文化共生のキーワード
For these reasons, I believe that studying a foreign language is still worthwhile in the age of AI.
これらの理由から、AIの時代でも外国語を学ぶことにはなお価値があると私は考える。
結論の一文。worthwhile は「やりがいのある、価値のある」
オリジナル長文で力試し
Whose English Is It?共通テスト〜国公立二次レベル(約250語)
When people imagine a conversation in English, they often picture a native speaker from London or New York. In reality, many of the English conversations taking place right now involve no native speakers at all. A Brazilian engineer negotiating with a Thai supplier, or a Japanese student chatting online with a friend in Finland, is likely to use English as a shared tool rather than as a cultural identity.
英語での会話を想像するとき、人はよくロンドンやニューヨーク出身のネイティブスピーカーを思い浮かべる。実際には、今まさに行われている英語の会話の多くには、ネイティブスピーカーがまったく加わっていない。タイの納入業者と交渉するブラジル人技術者や、フィンランドの友人とオンラインでおしゃべりする日本人学生は、英語を文化的なアイデンティティとしてではなく、共有の道具として使っている可能性が高い。
This shift has changed how some teachers think about accents. If the main purpose of English is to be understood by people from many backgrounds, then sounding exactly like a native speaker may matter less than speaking clearly and adjusting to your listener. An accent, in this view, is not a mistake to be corrected but a trace of the other languages a person knows.
この変化によって、なまりについての考え方を変えた教師もいる。英語の主な目的がさまざまな背景をもつ人々に理解してもらうことなら、ネイティブスピーカーそっくりに聞こえることは、はっきり話し、聞き手に合わせることほど重要ではないのかもしれない。この見方では、なまりは直すべき誤りではなく、その人が知っている他の言語の痕跡なのである。
At the same time, the global spread of one language raises uncomfortable questions. As young people move to cities and use a major language at school and online, smaller languages can lose speakers within a few generations. When a language disappears, it may take with it songs, place names and ways of describing the natural world that exist nowhere else.
同時に、1つの言語が世界に広がることは、居心地の悪い問いを投げかける。若者が都市に移り、学校やネットで主要な言語を使うにつれて、小さな言語は数世代のうちに話し手を失いうる。ある言語が消えるとき、ほかのどこにも存在しない歌や地名、自然界を描写するやり方までもが一緒に失われるかもしれない。
The choice, however, is not between English and everything else. Many communities are finding ways to keep their own languages alive while also learning a global one. Perhaps the most valuable skill in a multilingual world is not perfect grammar, but the willingness to listen carefully to people who speak differently from ourselves.
しかし、選択肢は英語かそれ以外のすべてか、の二択ではない。多くの地域社会が、世界的な言語を学びながら自分たちの言語を生かし続ける方法を見つけつつある。多言語の世界で最も価値のある技能は、完璧な文法ではなく、自分とは違う話し方をする人々の言うことに注意深く耳を傾けようとする姿勢なのかもしれない。
語句
- picture動詞で「思い浮かべる、想像する」。名詞の「絵・写真」と区別
- involve no native speakers at allネイティブスピーカーがまったく関わらない。no ... at all は強い否定
- A rather than BBではなくむしろA。筆者が強調したいのは A(a shared tool)
- matter less than〜ほど重要ではない。matter は動詞で「重要である」
- adjust to〜に合わせる、適応する
- not A but BAではなくB。なまりの評価をひっくり返す、第2段落の核
- a trace of〜の痕跡、名残
- take with itそれと一緒に持ち去る。目的語 songs, place names ... が後ろに回った語順
- The choice is not between A and BAかBかの二択ではない。二項対立を否定して結論へ向かう合図
- the willingness to do〜しようとする意志・姿勢
Whose English Is It? の確認問題
Q1【内容一致】第1段落の内容に合うものはどれですか。
many of the English conversations taking place right now involve no native speakers at all が根拠です。4は as a shared tool rather than as a cultural identity と逆の内容です。
Q2【語彙の言い換え】第2段落の a trace of に最も近い意味はどれですか。
trace は「痕跡・名残」。なまりは、その人が知っている他の言語が残した「しるし」だ、という意味です。
Q3【内容一致】第3段落によると、小さな言語が話し手を失う理由として挙げられているのはどれですか。
As young people move to cities and use a major language at school and online が根拠です。本文に法律や文字の話は出てきません。
Q4【主旨】本文の主旨として最も適切なものはどれですか。
第3段落で課題を示したうえで、最終段落の The choice ... is not between English and everything else と the willingness to listen carefully ... が結論です。
ここで差がつく:言語テーマの読み方
よく出る言い換えと誤読ポイント
1. first language / mother tongue / native language はすべて「母語」。 2. second language は「第二言語(生活で使う言語)」、foreign language は「外国語(授業などで学ぶ言語)」で、厳密には区別されます。 3. bilingual は2言語、multilingual は多言語。 4. accent は「アクセント(強勢)」より「なまり・話し方の特徴」の意味で出ることが多いです。 5. culture は「文化」ですが、company culture なら「社風」。訳語は文脈で決めましょう。
- language death / language loss / language extinction は「言語の消滅」の言い換えセット。
- assimilation は「同化」。少数派が多数派の言語や文化に吸収されることで、否定的な文脈で出やすい語です。
- diversity と inclusion は並んで出ることが多く、「多様性」と「包摂(みんなを受け入れること)」の違いが問われます。
- It is often said that ... の後に来る内容は、筆者がこの後で反論する「よくある考え」であることが多いので要注意です。
ツッコミどころ・意外な雑学
- 「英語のネイティブ」は英語話者の少数派。 推計では英語を使う人の4分の3ほどが非ネイティブ。英語の授業で「ネイティブみたいに話せない」と落ち込む必要は、数字の上ではあまりありません。
- 英語になった日本語は意外と多い。 tsunami、karaoke、emoji はそのまま英語のニュースに出てきます。「大物」を意味する tycoon も、もとは日本語の「大君(たいくん)」から来た語です。
- 北海道の地名の多くはアイヌ語に由来する。 地図を見るだけで、消滅の危機にある言語がじつは毎日の生活のすぐそばにあることがわかります。
- 「言葉が思考を決める」説は、半分だけ本当? 使う言語が物の見方にある程度影響する、という研究はあります。ただ「言語がなければその概念を考えられない」という強い形の説は、今では支持されていません。長文で出たら「どこまで言っているか」に注意しましょう。
- 「雪を表す語が何百もある言語」は盛られた話かもしれない。 北極圏の言語についてよく語られる話ですが、語形の変化まで数えるかどうかで数が大きく変わるため、言語学者のあいだでは誇張された俗説として取り上げられることが多いのです。
よくある質問
「機械翻訳があるのに英語を学ぶ必要はあるか」という英作文には、どう答えればいいですか?
「必要がある」の立場なら、①翻訳を確認・修正するにも語学力がいる、②言語を学ぶと相手の文化や考え方への理解が深まる、の2点が理由として書きやすいです。譲歩として Machine translation is useful, but ... と便利さを認めてから反論すると、説得力が上がります。
World Englishes とは何ですか?
インド、シンガポール、ナイジェリアなど、各地域で独自に発達した英語をまとめて呼ぶ言葉です。「英語はイギリスやアメリカだけのものではなく、使う人みんなのもの」という考え方にもとづいています。入試の長文では、なまりや発音への偏見を見直す文脈でよく出ます。
言語の長文は難しい専門用語が多いですか?
専門用語はそれほど多くありません。むしろ native speaker、second language、accent、identity などの基本的な語が、文脈によって少しずつ違う意味で使われるのが難しさです。このページの必修語と言い換えのポイントを押さえておけば十分に対応できます。