クラスに海外ルーツの友だちがいる。バイト先の先輩がベトナム出身。地元のお祭りでネパール料理の屋台が出ている。こんな光景は、もう珍しくありません。
「移民」と聞くと遠い国のニュースに感じるかもしれませんが、実は受験生の身の回りで静かに進んでいる変化です。だからこそ入試では、世界の話としても、日本の話としても出題されます。
なぜ移民・難民は入試に出るのか
まず、少子高齢化・人手不足と直結するテーマだからです。「働き手が足りない社会で、外国から来る人とどう暮らすか」は、日本の未来を考えるうえで避けて通れない問いであり、大学が受験生に考えてほしいテーマそのものです。
次に、経済・人権・文化・政治が1本の長文に同居すること。労働力の話から始まり、言語の壁、差別、アイデンティティの話へと展開する文章は、段落の役割をつかむ読解問題を作りやすいのです。
そして、感情的になりやすいテーマを、冷静に論じる力を試せること。自由英作文では、一方的に決めつけず、メリットと課題を両方示したうえで自分の意見を述べる力が評価されます。
先輩からのひと言
移民の長文でいちばん大事なのは、migrant(移民・移住者)、refugee(難民)、asylum seeker(庇護申請者)の区別です。この3語を混同すると、内容一致の選択肢で確実に引っかかります。下の背景知識で必ず整理しておきましょう。
3分でわかる背景知識
移民・難民・庇護申請者の違い
- migrant:仕事・留学・家族との同居などの理由で、住む国を移った人の広い呼び方。
- refugee:紛争や迫害から逃れるために国外へ出ざるをえなかった人。1951年に採択された難民条約で保護の対象が定められています。
- asylum seeker:他国に保護(庇護)を求めていて、まだ難民として認められるかの審査を待っている人。
- displaced person:住む場所を追われた人。国内にとどまっている人(国内避難民)も含みます。
世界の数字
- 国際移住機関(IOM)の報告書(World Migration Report 2026)によると、2024年半ばの時点で生まれた国の外で暮らす人(国際移民)は約3億400万人、世界人口の約3.7%。
- 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、紛争や迫害などで故郷を追われた人は、2025年末時点で約1億1,800万人で、前年末(約1億2,320万人)より減りました。そのうち約6,900万人は、自国内にとどまる国内避難民です。
- 同じくIOMの報告書によると、移民が母国に送るお金(送金)は2024年に約9,050億ドルと見込まれています。そのうち約6,850億ドルは低・中所得国向けで、政府開発援助(ODA)と海外直接投資を合わせた額を上回る規模とされています。
日本の数字:400万人の時代へ
出入国在留管理庁によると、2025年末の日本の在留外国人は412万5,395人で、前年末より約9.5%増え、初めて400万人を超えました。国籍・地域別では中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ネパールの順に多くなっています。
働き手を受け入れる制度も変わりつつあります。2019年には人手不足の分野で外国人を受け入れる「特定技能」(specified skilled worker)が始まり、長く批判も受けてきたtechnical intern training program(技能実習制度)は、2027年4月に新しい「育成就労」制度へ移行する予定です。なお日本は、難民条約に1981年に加入しました。
このテーマの必修時事英語
移民の語は「人の呼び方」「制度」「社会の反応」の3グループに分けて覚えるのがおすすめです。特に社会の反応を表す語は、筆者の立場を読み取るヒントになります。
移民・難民・多文化共生の必修語30語
- 外交中級 migrant 移民、移住者、渡り鳥
- 社会中級 immigration policy 移民政策、出入国管理政策
- 紛争初級 refugee 難民、避難者
- 外交上級 asylum seeker 亡命希望者、難民申請者
- 外交上級 displaced person 避難民、故郷を追われた人
- 環境上級 climate refugees 気候難民
- 紛争中級 humanitarian crisis 人道危機
- 外交中級 humanitarian aid 人道支援、人道援助
- 社会中級 foreign residents 在留外国人、外国人住民
- ビジネス中級 labor shortage 人手不足、労働力不足
- ビジネス中級 work visa 就労ビザ、労働査証
- ビジネス上級 specified skilled worker 特定技能(外国人)
- ビジネス上級 technical intern training program 外国人技能実習制度
- ビジネス上級 highly skilled foreign professionals 高度外国人材
- 社会上級 multicultural coexistence 多文化共生
- 社会初級 diversity 多様性
- 社会中級 inclusion 包摂、受け入れ、含めること
- 社会中級 discrimination 差別、区別
- 社会上級 xenophobia 外国人嫌悪、排外主義
- 政治上級 anti-immigration sentiment 反移民感情
- 社会中級 racism 人種差別、人種主義
- 法律中級 human trafficking 人身取引、人身売買
- 外交上級 deportation 国外退去、強制送還
- 紛争中級 border crossing 国境検問所、越境(地点)
- 政治上級 birthright citizenship 出生地主義による市民権、出生地主義
- 医療中級 aging population 高齢化、高齢化する人口
- 社会中級 population decline 人口減少
- 社会中級 brain drain 頭脳流出、人材流出
- 経済上級 remittances 海外送金、(出稼ぎ労働者の)仕送り
- 社会中級 assimilation 同化、(知識などの)吸収
長文でよく出る論点:外国人の受け入れを増やすべきか
英作文では「経済的な必要性」と「社会の受け入れ態勢」の両方に触れると、バランスのとれた答案になります。特定の国籍や集団をひとまとめにして悪く書くのは、内容以前に減点対象になりうるので避けましょう。
外国人の受け入れ拡大のメリットと課題
メリット
- 人手不足の産業や地域の働き手を確保できる
- 新しい考え方や技術が入り、企業や社会のイノベーションにつながる
- 消費や納税によって、地域経済や社会保障を支える力になる
- 異なる文化に日常的に触れることで、社会の視野が広がる
- 紛争や迫害から逃れた人々を守るという人道的な責任を果たせる
課題
- 言葉の壁から、医療や行政サービス、教育で困る人が出る
- 受け入れの体制が整わないと、低賃金や長時間労働などの搾取が起きやすい
- 急な変化に地域住民が不安を感じ、対立や偏見が生まれることがある
- 外国人の子どもへの日本語教育や学習支援が追いつかない
- 働き手を送り出す国では、優秀な人材が流出するおそれがある
「統合」と「同化」は別物
integration(統合)は、移り住んだ人が社会に参加しながら、自分の文化も保てる状態を目指す考え方。assimilation(同化)は、受け入れ側の文化に合わせることを求める考え方です。長文では「同化ではなく統合を」という主張がよく出るので、この2語の違いは必ず押さえましょう。
自由英作文で使える表現
移民の英作文では、people from other countries や foreign residents のように、相手を尊重する中立的な言い方を選ぶことも大切です。
移民・多文化共生の英作文フレーズ
As the population ages, Japan will need more workers from overseas to support its economy.
人口の高齢化が進むにつれ、日本は経済を支えるために海外からより多くの働き手を必要とするだろう。
As ~(~につれて)で社会の変化と必要性を結びつける。
Foreign workers already play a vital role in industries such as nursing care and construction.
外国人労働者は、介護や建設などの産業ですでに不可欠な役割を果たしている。
play a vital role in は万能の型。already で現状を強調。
People from different cultural backgrounds can bring fresh ideas to a community.
異なる文化的背景を持つ人々は、地域社会に新しい発想をもたらしうる。
cultural background(文化的背景)はこのテーマの必須表現。
Language barriers can prevent newcomers from getting the medical care they need.
言葉の壁によって、新しく来た人が必要な医療を受けられないことがある。
prevent 人 from -ing(人が~するのを妨げる)は語法問題でも頻出。
Local governments should provide information in several languages.
地方自治体は、いくつかの言語で情報を提供すべきだ。
具体的な提案として書きやすい1文。
Accepting refugees is not only a political issue but also a humanitarian responsibility.
難民を受け入れることは、政治的な問題であるだけでなく、人道的な責任でもある。
not only A but also B で視点を広げる。
Without proper support, foreign workers may be exploited through low wages and long hours.
適切な支援がなければ、外国人労働者は低賃金や長時間労働によって搾取されるおそれがある。
Without ~ で条件を示し、課題を指摘する型。exploit は「搾取する」。
Integration requires efforts from both newcomers and the communities that welcome them.
統合には、新しく来た人と、その人々を迎える地域社会の双方の努力が必要だ。
both A and B で「一方だけの問題ではない」と示す結論文。
Schools can help children from immigrant families by offering extra language lessons.
学校は、追加の言語の授業を提供することで、移民の家庭の子どもたちを支援できる。
by -ing で手段を示す提案文。
Learning about other cultures helps us see our own society from a new perspective.
ほかの文化について学ぶことは、自分たちの社会を新しい視点から見る助けになる。
from a new perspective(新しい視点から)は締めの一文に便利。
オリジナル長文にチャレンジ
共通テスト〜国公立二次レベルの書き下ろし長文です。「移動の理由→受け入れる側の利点→課題→解決の方向」という4段落の流れを意識して読んでください。
Neighbors from Far Away共通テスト〜国公立二次
People have always moved in search of safety and opportunity. According to the International Organization for Migration, about 304 million people were living outside their country of birth in 2024. Some leave home to escape war or persecution, while others move to study, to join family members, or to find better-paid work. Researchers often describe these reasons as push and pull factors.
人は昔から、安全と機会を求めて移動してきた。国際移住機関によると、2024年には約3億400万人が、自分の生まれた国の外で暮らしていた。戦争や迫害から逃れるために故郷を離れる人もいれば、学ぶため、家族と一緒に暮らすため、あるいはより給料の良い仕事を見つけるために移り住む人もいる。研究者たちは、こうした理由をしばしば「押し出す要因」と「引きつける要因」として説明する。
For countries with aging populations, migrants can fill serious gaps in the labor force. In Japan, the number of foreign residents passed four million for the first time at the end of 2025, and many of them work in fields such as manufacturing, construction, and nursing care. Without them, some local industries would struggle to survive. Migrants also send money home, and these remittances support millions of families in lower-income countries.
高齢化が進む国々にとって、移民は労働力の深刻な不足を埋める存在になりうる。日本では2025年末に在留外国人の数が初めて400万人を超え、その多くが製造業、建設業、介護などの分野で働いている。彼らがいなければ、生き残るのに苦労する地域の産業もあるだろう。また、移民は母国に送金しており、この送金は低所得国の何百万もの家族の暮らしを支えている。
However, arriving in a new country is only the beginning. Newcomers may face language barriers, difficulty finding housing, or discrimination at work. Meanwhile, some long-term residents worry that rapid change will affect wages, public services, or the traditions of their community. When such concerns are ignored rather than discussed, they can turn into anti-immigrant feelings that divide society.
しかし、新しい国に到着することは始まりにすぎない。新しく来た人は、言葉の壁、住まい探しの難しさ、職場での差別に直面するかもしれない。その一方で、長く住んでいる住民の中には、急激な変化が賃金や公共サービス、地域の伝統に影響するのではないかと心配する人もいる。そうした懸念が話し合われずに無視されると、社会を分断する反移民感情に変わってしまうことがある。
Successful integration therefore has to work in both directions. Newcomers need opportunities to learn the local language and rules, but host communities also need to adjust, for example by offering information in several languages and inviting foreign residents to take part in local events. The goal is not to make everyone the same, but to build a society in which people of different backgrounds can live side by side as neighbors.
したがって、統合を成功させるには、双方向の取り組みが必要である。新しく来た人には地域の言葉やルールを学ぶ機会が必要だが、受け入れる地域社会の側も、たとえば複数の言語で情報を提供したり、外国人住民を地域の行事に招いたりすることで、変わっていく必要がある。目指すのは全員を同じにすることではなく、異なる背景を持つ人々が隣人として並んで暮らせる社会を築くことなのである。
語句
- in search of~を求めて
- persecution迫害
- push and pull factors(移住の)押し出し要因と引きつけ要因
- fill gaps in the labor force労働力の不足を埋める
- struggle to survive生き残るのに苦労する
- remittances(出稼ぎ先から母国への)送金
- long-term residents長く住んでいる住民
- rather than~ではなく、~するよりむしろ
- host community受け入れ側の地域社会
- side by side並んで、共に
長文の理解度チェック
Q1第1段落の push and pull factors が指すものとして最も適切なものはどれですか。
直前に戦争や迫害から逃れる(押し出す要因)、学業や仕事のために移る(引きつける要因)という理由が挙げられ、these reasons と言い換えています。
Q2第2段落の内容と一致するものはどれですか。
the number of foreign residents passed four million for the first time at the end of 2025 と一致します。送金は低所得国の家族を支えるとあるので、3は誤りです。
Q3第3段落の anti-immigrant feelings that divide society に最も意味が近いものはどれですか。
anti-immigrant は「反移民の」、divide は「分断する」。hostility(敵意)と split(分裂させる)を使った言い換えが正解です。
Q4この文章の主旨として最も適切なものはどれですか。
最終段落の integration has to work in both directions と The goal is not to make everyone the same が主旨です。「全員を同じにすることではない」とあるので、2の同化の考え方は本文と逆です。
ここで差がつく:言い換えと誤読ポイント
| 本文の表現 | 設問・選択肢での言い換え | 注意点 |
|---|---|---|
| immigrant / emigrant | someone who moves into / out of a country | im=入ってくる、e=出ていく。どちらの視点かに注意 |
| refugee | someone who fled war or persecution | migrant(自分の意思で移る人を含む広い語)と区別 |
| newcomer | someone who has recently arrived | 移民を中立的に言い換えるときの定番 |
| host country / host community | the country / community that receives migrants | host は「宴会の主催者」ではなく「受け入れ側」 |
| integration | becoming part of society while keeping one's identity | assimilation(同化)と対比されやすい |
| labor shortage | a lack of workers | shortage は「不足」。short(背が低い)ではない |
「移民=仕事を奪う」と決めつけた選択肢に注意
入試の長文では「移民が賃金を下げるという主張には、はっきりした根拠がない場合もある」のように、よくある思い込みに疑問を投げかける論調がよく見られます。一般的なイメージで選ぶと外すので、本文にその根拠が書かれているかを必ず確かめましょう。
melting pot と salad bowl
多文化社会のたとえとして、melting pot(るつぼ:さまざまな文化が溶け合って1つになる)と salad bowl(サラダボウル:それぞれの文化が個性を保ったまま共存する)がよく対比されます。長文でこの2つが出たら、筆者がどちらの社会像を支持しているかが設問のカギです。
ツッコミどころ・意外な雑学
- melting pot(人種のるつぼ)という言葉を広めたのは、イズレイル・ザングウィルが書いた1908年初演の劇「The Melting Pot」とされています。つまりこの有名な社会学っぽい用語、もとは舞台のタイトルだったのです。
- 2025年末の日本の在留外国人を国籍・地域別に見ると、ネパールが前年末から約6万8,000人増えて約30万人に。地元でネパール料理やインド料理の店が増えたと感じたなら、それは統計にも表れている変化かもしれません。
- IOMの報告書によると、低・中所得国への移民の送金は、政府開発援助(ODA)と海外直接投資を合わせた額を上回る規模です。個人が家族に送る少額のお金が積み重なると、国や企業のお金の流れより大きくなる。ちりも積もれば、は世界経済でも本当でした。
- 英語の refugee の語源はフランス語の réfugié で、17世紀に宗教的な迫害を逃れてフランスから国外へ渡ったプロテスタントの人々を指す言葉として英語に入ったとされています。「難民」という言葉自体が、国境を越える移動の歴史を背負っているわけです。
よくある質問
自由英作文で「日本はもっと外国人労働者を受け入れるべきか」と聞かれたら、どう書けばいいですか?
賛成なら「人手不足の解消」と「多様な視点による社会の活性化」、慎重派なら「言語や生活の支援体制の不足」と「労働環境の問題」が書きやすい理由です。どちらの立場でも、受け入れ体制を整えるという提案を最後に添えると、バランスのとれた答案になります。
immigrant と migrant はどう違いますか?
migrant は国内外を問わず住む場所を移った人を広く指します。immigrant は受け入れ国から見て「入ってきた移民」、emigrant は送り出す国から見て「出ていった移民」です。長文ではどちらの国の視点で書かれているかを確認しましょう。
難民の話と移民の話は、英作文で混ぜてもいいですか?
区別したほうが安全です。難民は「逃れざるをえなかった人を保護する」という人道の問題、労働のための移民は「社会や経済の制度」の問題として論じるのが一般的です。お題がどちらを聞いているかをまず確認しましょう。
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次に街で外国語が聞こえてきたら、その人がどんな理由で日本に来たのか、少しだけ想像してみてください。push か pull か。その想像力こそが、移民の長文を読み解き、英作文で説得力のある意見を書くための一番の武器になります。