朝ごはんのバナナ、スマホの部品、制服のシャツ。私たちの1日は、始まって10分で世界一周しています。しかも、そのほとんどを意識することはありません。
グローバル化(globalization)は、入試英語では「当たり前すぎて見えない仕組み」を言葉にするテーマです。そして最近は、その仕組みが揺らぎ始めたことまでが、長文の新しい素材になっています。
なぜグローバル化は入試に出るのか
1つ目の理由は、ほかのテーマの「土台」になるからです。移民、気候変動、食料、感染症、格差。どのテーマも「国境を越えてつながった世界」が前提になっているので、グローバル化の背景知識はあらゆる長文に効きます。
2つ目は、光と影がはっきりしていること。「安くて便利になった」と「仕事を失った地域がある」「遠い国の労働者に負担がかかっている」が同時に成り立つので、賛否を論じる文章や英作文のお題になりやすいのです。
3つ目は、いま大きな転換期にあること。関税の引き上げ、サプライチェーンの見直し、経済安全保障など、「効率一辺倒からリスク重視へ」という流れは、これからの長文でますます扱われるはずです。
先輩からのひと言
グローバル化の長文は、経済の専門知識がなくても大丈夫。「分業で安くなる」「つながりが強いほど、どこかで止まると全体が止まる」の2つの原理さえ分かっていれば、ほとんどの論点が理解できます。
3分でわかる背景知識
世界をつなげた3つの転機
- 1956年:コンテナ船の登場。 同じ大きさの箱に荷物を詰めて運ぶ方式が広がり、荷物の積み下ろしが劇的に速く安くなりました。この年、アメリカで改造タンカー「アイデアルX」が58個のコンテナを運んだ航海が、その先駆けとされています。
- 1995年:世界貿易機関(WTO)の発足。 貿易のルールを決め、国どうしの争いを解決する国際機関です。加盟国・地域は2024年に166になりました。
- 2001年:中国のWTO加盟。 約15年の交渉を経て加盟し、中国は「世界の工場」として存在感を高めていきました。
ちなみに globalization という語は、1983年にアメリカの経営学者セオドア・レビットがハーバード・ビジネス・レビューに発表した論文「The Globalization of Markets」で広く知られるようになったとされています(語自体はそれ以前から使われていました)。
日本とアジアの自由貿易協定
日本は、2018年に発効したCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、いわゆるTPP11)の最初の締約国のひとつです。2024年12月には、イギリスの加入も発効しました。また、2022年1月に発効したRCEP(地域的な包括的経済連携)は、世界の人口と国内総生産(GDP)のそれぞれ約3割を占める巨大なfree trade agreement(自由貿易協定)です。
揺らぐグローバル化
- 2013年4月: バングラデシュで、衣料品工場が入ったビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、1,134人が亡くなりました。安い服の裏にある労働環境の問題が、世界で注目されるきっかけになりました。
- 2021年3月: 巨大コンテナ船がスエズ運河をふさぎ、6日間にわたって通航が止まりました。止められた貨物の価値は1日あたり約96億ドルと推計されました。
- 2025年4月: アメリカが幅広い国からの輸入品に関税を課すと発表し、4月5日から一律10%の関税が始まりました。tariffやprotectionismという語がニュースの主役に戻ってきました。
このテーマの必修時事英語
貿易の語は「つながる(自由貿易)」「守る(保護主義・関税)」「組み直す(供給網の見直し)」の3つの流れで覚えると、ニュースの流れと一緒に頭に入ります。
グローバル化と貿易の必修語30語
- ビジネス中級 supply chain 供給網、サプライチェーン
- 経済上級 global value chain グローバル・バリューチェーン、国際的な価値連鎖
- 経済中級 free trade agreement 自由貿易協定
- 経済上級 protectionism 保護主義
- 経済中級 tariff 関税
- 外交上級 reciprocal tariffs 相互関税
- 経済上級 retaliatory tariffs 報復関税
- 経済中級 trade war 貿易戦争
- 経済中級 trade deficit 貿易赤字
- 経済中級 trade surplus 貿易黒字
- 経済中級 trade tensions 貿易摩擦、通商をめぐる緊張
- 外交上級 trade bloc 貿易圏、経済ブロック
- 外交中級 trade negotiations 貿易交渉、通商交渉
- テクノロジー上級 semiconductor export controls 半導体輸出規制
- 経済中級 economic security 経済安全保障、経済安保
- 外交上級 decoupling デカップリング、経済の切り離し
- 外交上級 de-risking デリスキング、リスク低減
- 経済上級 friend-shoring フレンド・ショアリング、友好国へのサプライチェーン移転
- 経済上級 reshoring 国内回帰、生産拠点の国内移転
- ビジネス中級 outsourcing 外部委託、アウトソーシング
- 外交中級 Global South グローバルサウス
- 経済初級 exchange rate 為替レート、為替相場
- 経済中級 weak yen 円安
- 外交中級 sanctions 制裁、制裁措置
- エネルギー上級 critical minerals 重要鉱物
- 金融中級 commodity prices 商品価格、国際商品市況
- 社会中級 income inequality 所得格差、所得の不平等
- テクノロジー上級 digital services tax デジタルサービス税
- ビジネス中級 multinational corporation 多国籍企業
- 経済中級 fair trade フェアトレード、公正な貿易
長文でよく出る論点:グローバル化は私たちを豊かにしたか
英作文では「消費者の視点」「働く人の視点」「国の安全の視点」を使い分けると、同じテーマでも深みのある答案になります。
グローバル化のメリットと課題
メリット
- 国ごとに得意な分野に集中することで、商品が安く効率よく作られる
- 消費者は世界中の多様な商品を手ごろな価格で買える
- 発展途上国に工場や雇用が生まれ、貧困から抜け出す人が増えた
- 技術や知識、文化が国境を越えて広がりやすくなる
- 国どうしの経済的な結びつきが、対立を抑える力になりうる
課題
- 工場が海外に移り、国内の製造業の地域で仕事が失われることがある
- コスト削減の圧力で、発展途上国の労働者が劣悪な環境で働かされることがある
- 長く複雑な供給網は、災害や紛争、事故で止まりやすい
- 国内外で、利益を得る人と取り残される人の格差が広がりうる
- 世界中で同じ商品や文化が広がり、地域の文化が薄れるおそれがある
- 大量の輸送による環境への負荷が大きい
自由英作文で使える表現
グローバル化の英作文は抽象的になりがちです。「スマホ」「服」「コンビニのお弁当の食材」など、1つ身近な商品を例に出すだけで、ぐっと読みやすくなります。
グローバル化と貿易の英作文フレーズ
Thanks to globalization, consumers can buy a wide variety of products at reasonable prices.
グローバル化のおかげで、消費者は多種多様な商品を手ごろな価格で買うことができる。
Thanks to ~ はメリットを書く導入に便利。
Many of the products we use every day are made from parts produced in several different countries.
私たちが毎日使う製品の多くは、いくつもの国で作られた部品からできている。
具体例への橋渡しに使える一般論の文。
Free trade allows each country to focus on what it can produce most efficiently.
自由貿易によって、各国は最も効率よく生産できるものに集中できる。
allow 人・国 to ~ の型。focus on も必須。
On the other hand, workers in some industries have lost their jobs as factories moved overseas.
一方で、工場が海外に移転したことで仕事を失った産業の労働者もいる。
On the other hand で課題に切り替える。as は「~につれて・~ので」。
Consumers should pay attention to the conditions under which their clothes are made.
消費者は、自分の服がどのような条件のもとで作られているかに注意を払うべきだ。
under which(その条件のもとで)で関係代名詞の力も見せられる。
Relying on a single country for important goods can be risky.
重要な物資をひとつの国に頼るのは危険になりうる。
経済安全保障の論点をシンプルに言える1文。
Raising tariffs may protect domestic industries, but it often leads to higher prices for consumers.
関税を引き上げると国内産業は守られるかもしれないが、消費者にとっては価格の上昇につながることが多い。
may ~, but ... で譲歩と反論を1文で書ける。
The pandemic revealed how fragile global supply chains can be.
感染症の世界的流行は、世界の供給網がいかにもろくなりうるかを明らかにした。
reveal how ~(どれほど~かを明らかにする)は硬めで高評価。
Globalization has benefited many people, but its benefits have not been shared equally.
グローバル化は多くの人々に恩恵をもたらしたが、その恩恵は平等には分配されてこなかった。
benefit を動詞と名詞の両方で使い分けたバランス型の結論文。
Rather than rejecting globalization, we should find ways to make it fairer and more resilient.
グローバル化を拒むのではなく、それをより公平で強いものにする方法を見つけるべきだ。
Rather than -ing で極端な意見を退け、自分の提案を出す。resilient(回復力のある)も覚えたい。
オリジナル長文にチャレンジ
共通テスト〜国公立二次レベルの書き下ろし長文です。第2段落の「利点」と第3段落の「隠れたコスト」の対比を意識しながら読んでみてください。
The Long Journey of a Cheap T-Shirt共通テスト〜国公立二次
Look at the label inside your T-shirt. It may say the shirt was made in Bangladesh or Vietnam, but the story rarely begins or ends there. The cotton might have been grown in one country, spun into thread in another, and designed by a company based somewhere else entirely. This network of production across borders is what economists call a global supply chain.
あなたのTシャツの内側のタグを見てほしい。そのシャツはバングラデシュやベトナムで作られたと書いてあるかもしれないが、物語がそこで始まったり終わったりすることはめったにない。綿はある国で栽培され、別の国で糸に紡がれ、まったく別の場所に本社を置く会社によってデザインされたのかもしれない。国境を越えたこの生産のネットワークこそ、経済学者が「グローバル・サプライチェーン」と呼ぶものである。
Globalization has brought undeniable benefits. By allowing each country to focus on what it can produce most efficiently, trade has lowered prices for consumers and created millions of jobs in developing economies. The spread of shipping containers, which began in the 1950s, played a surprisingly large role, since it made moving goods across oceans far cheaper and faster.
グローバル化は、否定しがたい恩恵をもたらしてきた。各国が最も効率よく生産できるものに集中できるようにすることで、貿易は消費者にとっての価格を下げ、発展途上の経済に何百万もの雇用を生み出した。1950年代に始まった輸送用コンテナの普及は、意外なほど大きな役割を果たした。海を越えてモノを運ぶことを、はるかに安く速くしたからである。
Yet the same system has hidden costs. When factories move abroad in search of lower wages, workers in older industrial regions may lose their jobs. In some supplier countries, pressure to cut costs has led to unsafe working conditions. In 2013, the collapse of the Rana Plaza building in Bangladesh, which housed several garment factories, killed more than 1,100 people. Long supply chains are also fragile. When a giant container ship blocked the Suez Canal for six days in 2021, deliveries around the world were delayed.
しかし、同じ仕組みには隠れたコストがある。工場がより安い賃金を求めて海外に移ると、昔からの工業地域の労働者は仕事を失うかもしれない。部品や製品を供給する国の中には、コスト削減の圧力が危険な労働環境につながったところもある。2013年には、いくつもの衣料品工場が入っていたバングラデシュのラナ・プラザというビルが崩壊し、1,100人を超える人々が亡くなった。長い供給網は、もろくもある。2021年に巨大なコンテナ船がスエズ運河を6日間ふさいだときには、世界中で配送が遅れた。
For these reasons, many governments now talk about economic security as well as efficiency. Some are raising tariffs, while companies are moving production closer to home or to friendly countries. Globalization is not disappearing, but it is changing shape. The real question is how to keep its benefits while reducing its risks.
こうした理由から、現在多くの政府は、効率だけでなく経済安全保障についても語るようになっている。関税を引き上げる国もあれば、企業は生産拠点を自国の近くや友好国へと移しつつある。グローバル化は消えつつあるのではなく、形を変えつつあるのだ。本当に問われているのは、その恩恵を保ちながら、どうやってリスクを減らすかである。
語句
- spin A into BAを紡いでBにする(spun は spin の過去分詞)
- based~に拠点を置く
- what economists call経済学者が~と呼ぶもの
- undeniable否定できない、明白な
- developing economies発展途上の経済(国)
- in search of~を求めて
- supplier供給元、部品や製品を納める側
- house(動詞)~を収容する、~が入っている
- fragileもろい、壊れやすい
- A as well as BBだけでなくAも
長文の理解度チェック
Q1第1段落で筆者がTシャツのタグの例を使っている目的として、最も適切なものはどれですか。
綿の栽培、糸にする工程、デザインが別々の国で行われる例を挙げ、This network of production across borders と global supply chain を説明しています。身近な具体例から抽象的な概念に入る、長文の定番の書き出しです。
Q2第3段落の Long supply chains are also fragile. に最も意味が近いものはどれですか。
fragile は「もろい」。直後のスエズ運河の例(1隻の船で世界の配送が遅れた)から、「簡単に混乱させられる(be disrupted)」という言い換えが正解です。
Q3第2段落の内容と一致するものはどれですか。
created millions of jobs in developing economies と一致します。コンテナは played a surprisingly large role とあり、1950年代に普及が始まったので、1と4は誤りです。
Q4この文章の主旨として最も適切なものはどれですか。
最終段落の Globalization is not disappearing, but it is changing shape と how to keep its benefits while reducing its risks が主旨です。not A but B の B に筆者の主張があります。
ここで差がつく:言い換えと誤読ポイント
| 本文の表現 | 設問・選択肢での言い換え | 注意点 |
|---|---|---|
| tariff | tax on imported goods / import duty | 関税を払うのは主に輸入する側。誰の負担かが論点 |
| protectionism | policies that shield domestic industries from foreign competition | protect の名詞形だが「保護主義」という経済政策 |
| supply chain | the network of companies that make and deliver a product | chain は「鎖」。1か所切れると全体が止まるイメージ |
| trade deficit | importing more than exporting | 赤字=悪、とは限らないと論じる文章もある |
| developing economies | developing countries / emerging economies | economy は「国」の意味で使われることがある |
| reshoring | bringing production back home | outsourcing / offshoring の逆方向 |
economy と economics と economical
economy は「経済・経済圏(国)」、economics は「経済学」、economic は「経済の」、economical は「節約になる、安上がりな」。economic security を「安上がりな安全」と読んでしまうと、段落の意味がまるごと崩れます。語尾の違いは語彙問題の大好物です。
「関税は外国が払う」と思い込まない
tariff は輸入品にかかる税で、支払うのは基本的に輸入する企業です。そのコストが商品の価格に上乗せされれば、最終的に負担するのは国内の消費者になりえます。長文で who pays for tariffs? という問いが出てきたら、この仕組みがカギです。
ツッコミどころ・意外な雑学
- 世界を変えたコンテナ船の先駆け「アイデアルX」は、実は改造したタンカー。1956年4月26日、58個のコンテナを積んで、アメリカのニューアークからヒューストンへ向かいました。世界経済の主役は、最初はこんなに地味な顔をしていたのです。
- イギリスの経済誌 The Economist は1986年から、世界各地のビッグマックの値段を比べる「ビッグマック指数」を発表しています。同じハンバーガーがいくらで買えるかで、通貨の価値のズレを考えようというもの。経済学の理論(購買力平価)を、ハンバーガーで説明してしまう大胆さです。
- 2021年のスエズ運河の事故では、止められた貨物の価値が1時間あたり約4億ドルと推計されました。たった1隻の船が「世界の物流の鎖」の弱点をこれほど分かりやすく見せた出来事は、なかなかありません。
- globalization という言葉は1983年の論文で有名になりましたが、オックスフォード英語辞典に載っている最も古い用例は1930年のもの(教育についての本)です。流行語に見えて、実は意外と長生きな言葉なのです。
よくある質問
自由英作文で「グローバル化は良いことか」と聞かれたら、どう書けばいいですか?
賛成なら「安く多様な商品を買える」「発展途上国の雇用と成長」、慎重派なら「国内の雇用の喪失」「供給網のもろさ」が書きやすい理由です。どちらの立場でも、身近な商品の例を1つ入れると説得力が上がります。
free trade と fair trade の違いは何ですか?
free trade(自由貿易)は、関税などの障壁をなくして自由に取引すること。fair trade(フェアトレード)は、発展途上国の生産者に適正な価格や労働条件を保証する取り組みです。発音が似ているので、長文でも英作文でも混同に注意しましょう。
最新の関税のニュースまで覚える必要はありますか?
細かい税率まで覚える必要はありません。「保護主義の動きが強まっている」「企業が供給網を見直している」という大きな流れを理解しておけば、長文にも英作文にも十分対応できます。
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今日、服を脱ぐときにタグをひとつだけ見てみてください。そこに書かれた国名から、綿の畑、糸の工場、コンテナ船の旅を想像できたら、あなたはもうグローバル化の長文を「自分の話」として読めるはずです。