夏の夕方、部活から帰ってエアコンをつける。その瞬間、日本中で同じことをする人が何百万人もいます。そしてちょうどそのころ、太陽は沈んでいきます。この「タイミングのズレ」が、実はエネルギー問題のど真ん中にあります。
再生可能エネルギーの話は、地球温暖化の話だと思われがちです。でも入試の長文を読み解くカギは、もうひとつの顔、エネルギー安全保障のほうにあります。
なぜ再エネは入試に出るのか
1つ目の理由は、環境・経済・国際政治がひとつにつながるテーマだから。温室効果ガスの削減、電気代、燃料の輸入、紛争による価格高騰まで、1本の長文で幅広い背景知識を試せます。
2つ目は、「理想と現実」の対比が書きやすいこと。「燃料代はタダ、でも天気まかせ」「クリーン、でも送電網の整備にお金がかかる」という構図は、but や however で展開する論説文の型にぴったりです。
3つ目は、技術の進歩が速く、未来予測を論じやすいこと。蓄電池、洋上風力、次世代の太陽電池など、「これから社会はどう変わるか」を問う英作文のお題にも使いやすいのです。
先輩からのひと言
再エネの長文で狙われるのは「再エネを増やすべきか」より「再エネをどう安定させるか」という論点です。intermittent(断続的な、天気で変わる)や store(蓄える)という語が出てきたら、その段落が設問の山場だと思って読みましょう。
3分でわかる背景知識
世界の電気、ついに「再エネが石炭を抜いた」
- 2015年に採択されたパリ協定では、先進国だけでなくすべての参加国が、温室効果ガスの削減目標を自ら決めて提出することになりました。
- 2023年12月にドバイで開かれたCOP28では、2030年までに世界の再エネの発電設備容量を3倍にする目標で各国が合意しました。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、約3,400ギガワットから11,000ギガワット超へ増やす計算です。
- エネルギー分野のシンクタンク Ember によると、再エネは2024年に世界の電力の32%を供給しました。
- 同じくEmberの報告書によると、2025年には再エネの割合(33.8%)が石炭(33.0%)を上回りました。約100年ぶりの逆転とされています。
日本の弱点は「自給率」
日本のエネルギー自給率(国内でまかなえるエネルギーの割合)は2024年度で約16%。G7の中で最も低い水準です。石油や天然ガスの多くを海外から買っているため、遠くの国の紛争や価格の急上昇が、そのまま家庭の電気代に響きます。これがenergy securityの問題です。
一方、日本の発電に占める再エネの割合は2024年度で23.1%と、2013年度の10.9%から2倍以上になりました。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度に再エネを4〜5割程度とし、初めて最大の電源と位置づけています。
日本が隠し持つ「資源」
資源が少ないと言われる日本ですが、地熱の資源量は約2,347万キロワットで世界3位(1位アメリカ、2位インドネシア)です。また、軽くて曲げられる次世代のperovskite solar cell(ペロブスカイト太陽電池)は、2009年に日本の研究グループが最初の論文を発表しました。主な原料のヨウ素は、日本が世界の生産量の約3割を占める世界2位の生産国です。
このテーマの必修時事英語
エネルギーの語は「発電の方法」「電気を運ぶ・ためる仕組み」「政策と目標」の3つに分けて覚えると、長文のどの段落が何の話かがすぐに見えてきます。
再エネ・エネルギー安全保障の必修語30語
- 環境初級 renewable energy 再生可能エネルギー
- エネルギー中級 energy security エネルギー安全保障
- エネルギー中級 energy transition エネルギー転換、エネルギー移行
- エネルギー中級 energy mix エネルギーミックス、電源構成
- 環境初級 fossil fuels 化石燃料
- 環境上級 decarbonization 脱炭素化
- 環境中級 net zero ネットゼロ、実質ゼロ
- 環境中級 greenhouse gas 温室効果ガス
- 環境中級 carbon emissions 炭素排出、二酸化炭素排出量
- 環境初級 solar power 太陽光発電、太陽エネルギー
- エネルギー中級 rooftop solar 屋根置き太陽光発電、屋上ソーラー
- エネルギー上級 floating solar 水上太陽光発電
- 環境初級 wind power 風力発電、風力
- エネルギー中級 offshore wind farm 洋上風力発電所
- エネルギー中級 geothermal power 地熱発電
- エネルギー上級 biomass power generation バイオマス発電
- エネルギー上級 pumped storage hydropower 揚水発電
- エネルギー上級 grid-scale battery storage 系統用蓄電池
- 災害中級 power grid 送電網、電力網
- エネルギー中級 smart grid 次世代送電網、スマートグリッド
- エネルギー上級 curtailment of renewable power 再エネの出力制御
- エネルギー上級 baseload power ベースロード電源
- エネルギー上級 green hydrogen グリーン水素
- エネルギー中級 liquefied natural gas 液化天然ガス、LNG
- 環境中級 nuclear power plant 原子力発電所、原発
- エネルギー中級 restart of nuclear reactors 原発再稼働
- 環境中級 energy crisis エネルギー危機
- エネルギー上級 feed-in tariff 固定価格買い取り制度、FIT
- 環境初級 electric vehicle 電気自動車、EV
- エネルギー上級 perovskite solar cell ペロブスカイト太陽電池
長文でよく出る論点:再エネを一気に増やすべきか
英作文では「環境」だけでなく「安全保障」「経済」の理由を入れると、ほかの受験生と差がつきます。反対側の論点を理解しておくと、However 以降の段落も楽に読めます。
再生可能エネルギー拡大のメリットと課題
メリット
- 発電のときに温室効果ガスをほとんど出さない
- 燃料を輸入しなくてよいので、エネルギー自給率が上がる
- 海外の紛争や燃料価格の高騰の影響を受けにくくなる
- 燃料代がかからず、太陽光パネルなどの費用も大きく下がってきた
- 地域で発電し、地域にお金や雇用が生まれる可能性がある
課題
- 太陽光や風力は天候や時間帯によって発電量が大きく変わる
- 安定させるための蓄電池や送電網の整備に多額の費用がかかる
- 発電しすぎた電気を受け入れきれず、出力を抑える無駄が起きる
- 大規模な設置が景観や自然環境、漁業などと衝突することがある
- パネルや電池の原料・製造を特定の国に頼るという新たなリスクがある
- 導入を支える費用が電気料金に上乗せされることがある
自由英作文で使える表現
エネルギーの英作文は、主語を the government、local communities、each household と変えるだけで、国・地域・個人の3つの視点が書けます。
再エネ・エネルギーの英作文フレーズ
Renewable energy sources such as solar and wind produce almost no greenhouse gases when generating electricity.
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、発電時に温室効果ガスをほとんど出さない。
such as で具体例を入れる導入文。
Countries that rely heavily on imported fuel are vulnerable to sudden price increases.
輸入燃料に大きく頼る国は、急な価格上昇の影響を受けやすい。
rely heavily on と vulnerable to は安全保障の論点に必須。
Increasing the use of renewable energy would make our country more energy independent.
再生可能エネルギーの利用を増やせば、わが国はエネルギー面でより自立できるだろう。
would で「もし~すれば」の仮定の結果を示す。
The main drawback of solar power is that its output depends on the weather.
太陽光発電の主な欠点は、発電量が天候に左右されることだ。
The main drawback of A is that ~ で課題を1文で示せる。
Large-scale batteries can store surplus electricity for use at night.
大型の蓄電池は、余った電気を夜に使うためにためておくことができる。
store は動詞で「蓄える」。for use at night も便利。
Although the initial cost is high, renewable energy can save money in the long run.
初期費用は高いが、再生可能エネルギーは長い目で見ればお金の節約になりうる。
in the long run(長い目で見れば)は賛成論の決め手。
It is unrealistic to replace all fossil fuels overnight.
すべての化石燃料を一夜にして置き換えるのは非現実的だ。
overnight(一気に、すぐに)で極端な主張に反論する。
The government should invest in power grids so that renewable energy can be used more efficiently.
政府は、再生可能エネルギーをより効率的に使えるように送電網に投資すべきだ。
so that ~ can で目的を示す提案文。
Each of us can contribute to energy saving by making small changes in our daily lives.
私たち一人ひとりが、日常生活の小さな変化によって省エネに貢献できる。
個人の行動に落とし込む結論文に。
A balanced energy mix is essential to ensure a stable supply of electricity.
電力の安定供給を確保するには、バランスのとれた電源構成が不可欠だ。
ensure a stable supply(安定供給を確保する)は硬めで高評価。
オリジナル長文にチャレンジ
共通テスト〜国公立二次レベルの書き下ろし長文です。第1段落の「安全保障」、第3段落の「弱点」、第4段落の「解決策」のつながりを意識して読んでください。
Free Sunshine, Difficult Questions共通テスト〜国公立二次
For a country with few natural resources, energy is not only an environmental issue but also a matter of national security. Japan, for example, imports most of the fossil fuels it burns, which means that a war or a sudden jump in global prices far away can quickly raise electricity bills at home. Sunlight and wind, by contrast, cannot be stopped at a border or controlled by another government.
天然資源の少ない国にとって、エネルギーは環境問題であるだけでなく、国の安全保障の問題でもある。たとえば日本は、燃やしている化石燃料の大部分を輸入している。これは、遠く離れた場所での戦争や世界的な価格の急上昇が、すぐに国内の電気代を押し上げうることを意味する。それに対して、日光や風は国境で止められることも、ほかの国の政府に支配されることもない。
This is one reason renewable energy has grown so rapidly. Solar panels have become far cheaper over the past two decades, and according to one energy research group, renewables generated a larger share of the world's electricity than coal in 2025 for the first time in about a century.
これが、再生可能エネルギーがこれほど急速に拡大してきた理由のひとつである。太陽光パネルはこの20年ではるかに安くなり、あるエネルギー研究機関によると、2025年には再生可能エネルギーが、約100年ぶりに石炭を上回る割合の世界の電力を生み出した。
Yet clean power has a weakness that fossil fuels do not have: it depends on the weather. Solar output peaks around midday and disappears after sunset, just as many families return home and turn on lights, air conditioners, and cooking appliances. When the demand left for other power plants is drawn on a graph, it looks like the outline of a duck, so engineers call it the duck curve. On sunny days, some regions even have to stop accepting solar power at noon, wasting energy that cost nothing to collect.
しかし、クリーンな電力には化石燃料にはない弱点がある。天気に左右されるということだ。太陽光の発電量は正午ごろに最大になり、日没後にはなくなってしまう。それはちょうど、多くの家族が帰宅して照明やエアコン、調理器具のスイッチを入れる時間帯である。ほかの発電所がまかなうべき残りの需要をグラフに描くと、アヒルの輪郭のように見えるため、技術者たちはそれを「ダックカーブ」と呼んでいる。晴れた日には、正午に太陽光の電気の受け入れを止めなければならない地域さえあり、集めるのに費用がかからなかったエネルギーが無駄になっている。
Solving this problem requires more than building additional panels. Large batteries, stronger connections between regions, and pumped storage hydropower can move energy from times of plenty to times of need. Such systems are expensive, and they take years to build. Still, the direction seems clear. The question for the coming decades is not whether to use renewable energy, but how to make it reliable enough to trust.
この問題を解決するには、パネルを増やすだけでは足りない。大型の蓄電池、地域どうしをつなぐより強い送電網、揚水発電によって、エネルギーを余っている時間から必要な時間へと移すことができる。こうした設備は高価で、建設には何年もかかる。それでも、進むべき方向ははっきりしているように思われる。これからの数十年の課題は、再生可能エネルギーを使うかどうかではなく、どうすれば信頼できるほど安定したものにできるかなのである。
語句
- a matter of national security国の安全保障に関わる問題
- which means that(前の内容を受けて)それはつまり~ということだ
- by contrastそれとは対照的に
- a larger share of~のより大きな割合
- peak(動詞)最大になる、ピークに達する
- just asちょうど~するときに
- outline輪郭、外形
- times of plenty(エネルギーが)豊富にある時間帯
- not whether A but how BAかどうかではなくどのようにBか(主張の核心を示す型)
- reliable頼りになる、安定して信頼できる
長文の理解度チェック
Q1第1段落によると、日光や風がエネルギー安全保障の面で優れているのはなぜですか。
cannot be stopped at a border or controlled by another government が根拠です。by contrast の後ろに、化石燃料との違いが書かれています。
Q2第3段落の Solar output peaks around midday に最も意味が近いものはどれですか。
output は「発電量」、peak は動詞で「最大になる」。直後の disappears after sunset との対比からも判断できます。
Q3第3段落の内容と一致するものはどれですか。
some regions even have to stop accepting solar power at noon, wasting energy と一致します。日没ごろは家族が帰宅して需要が増えるので、2は逆です。
Q4この文章の主旨として最も適切なものはどれですか。
最終文 not whether to use renewable energy, but how to make it reliable enough to trust が主旨です。requires more than building additional panels とあるので、2は本文と矛盾します。
ここで差がつく:言い換えと誤読ポイント
| 本文の表現 | 設問・選択肢での言い換え | 注意点 |
|---|---|---|
| renewable energy | clean energy / green energy / energy from natural sources | clean energy に原子力を含める文章もあるので要注意 |
| intermittent | not constant / depends on the weather / unstable | 「断続的な」。再エネの弱点の決まり文句 |
| fossil fuels | coal, oil and natural gas | fossil は「化石」。ふつう複数形で使う |
| energy security | a stable and affordable supply of energy | security=警備ではなく「安定確保」 |
| power | electricity | power は「力・権力」だけでなく「電力」 |
| generate | produce (electricity) | generation は「世代」だけでなく「発電」 |
原子力は「再エネ」ではない
原子力発電は発電時に二酸化炭素をほとんど出しませんが、ウランという燃料を使うので renewable(再生可能)には含まれません。英文では low-carbon(低炭素)や clean という語でまとめられることがあります。「再エネ=脱炭素の電源すべて」と思い込むと、内容一致で引っかかります。
generation と power の二重の顔
power generation を「権力の世代」と訳してしまうのは、ありがちな事故です。エネルギーの長文では、power は「電力」、generation は「発電」、plant は「植物」ではなく「発電所」。この3語だけで、読むスピードが変わります。
ツッコミどころ・意外な雑学
- ダックカーブという名前は、2010年代前半にカリフォルニア州の電力系統運用機関(CAISO)が示したグラフから広まりました。電力のプロたちが、真顔でアヒルのグラフを見ながら会議をしているわけです。
- 日本は地熱の資源量が世界3位なのに、地熱発電の設備容量では世界10位前後にとどまっています。有望な場所の多くが国立公園や温泉地と重なることが、開発が進みにくい理由のひとつとされています。温泉大国ならではの悩みです。
- ペロブスカイト太陽電池の主な原料はヨウ素。日本は世界2位のヨウ素の生産国で、世界の生産量の約3割を占めています。うがい薬でおなじみのあの成分が、未来の太陽電池を支えるかもしれません。
- Emberの報告書によると、2025年に再エネが石炭を上回ったのは約100年ぶり。100年に一度の逆転が、みなさんの受験期に起きたことになります。長文の導入に使われそうな「歴史的な転換点」なので、覚えておいて損はありません。
よくある質問
自由英作文で「再エネを増やすべきか」と聞かれたら、どう書けばいいですか?
賛成なら「温室効果ガスの削減」と「エネルギー自給率の向上(安全保障)」の2つの理由が強力です。反対・慎重派なら「天候による不安定さ」と「送電網や蓄電池のコスト」を挙げ、段階的な導入を提案すると説得力が出ます。
energy security と energy independence の違いは何ですか?
energy security は「必要なエネルギーを安定して、手の届く価格で確保できる状態」、energy independence は「他国に頼らずにエネルギーをまかなえる状態」を指します。独立はセキュリティを高める手段のひとつ、と考えると整理しやすいです。
数字はどこまで覚えるべきですか?
英作文で数字を無理に使う必要はありません。「日本はエネルギーの多くを輸入に頼っている」「世界では再エネの割合が増えている」という大きな傾向を正確に言えれば十分です。数字を書くなら、年まで正確に書ける場合だけにしましょう。
あわせて読みたい
次に晴れた日の昼、窓から屋根の太陽光パネルが見えたら、It is generating power right now. とつぶやいてみてください。そして夕方、エアコンをつけるときにはダックカーブを思い出す。それだけで、エネルギーの長文はぐっと身近になります。