「多様性」と聞くと人の話だと思うかもしれませんが、生物の多様性は、私たちの食べ物、薬、空気、水を支えている土台です。そしていま、その土台が人類史上まれに見る速さで崩れている、と多くの科学者が警告しています。
このテーマは、理科が得意な人には「知っている話を英語で読む」チャンスであり、苦手な人には「英語で理科の基本を押さえ直す」チャンスです。どちらにしても、押さえておけば長文の理解が段違いに速くなります。
なぜ生物多様性のテーマは入試に出まくるのか
1つ目の理由は、理科と社会をつなぐ橋になること。生態系や食物連鎖といった科学の説明から、森林伐採の経済的な背景、国際条約まで、1本の長文で分野を横断できます。理系学部でも文系学部でも出せる、出題者にとって便利な素材です。
2つ目は、意外な因果関係が話の中心になること。「ハチが減ると果物が実りにくくなる」「ラッコが減るとウニが増えて海藻の森が消える」のような、一見つながらない事柄の連鎖は、内容一致問題や要約問題を作りやすいのです。
3つ目は、「人間と自然のどちらを優先するか」という古くて新しい対立があること。開発か保護か、地元の暮らしか世界の環境か。自由英作文のお題として、どちらの立場でも書ける素材です。
先輩からのひと言
生物多様性の長文は「ある生き物が減った→予想外のところに影響が出た→だから守るべきだ」という因果の連鎖で組み立てられます。設問は「なぜAが起きたのか」を問う形が多いので、because や as a result、lead to を見つけたら矢印を書き込みながら読みましょう。
3分でわかる背景知識
「100万種が絶滅の危機」の出どころ
生物多様性のニュースでよく引かれるのが、生物多様性に関する政府間の科学組織 IPBES が2019年に公表した報告書です。約100万種の動植物が絶滅の危機にあるとされ、多くはこの数十年のうちに絶滅するおそれがあると警告しました。両生類の4割以上、サンゴの約3分の1が脅かされているという数字もこの報告書によります。
もう一つの定番が、WWF(世界自然保護基金)とロンドン動物学会の Living Planet Report です。2024年版では、監視対象となった野生動物の個体群の規模が1970年から2020年の間に平均で73%減少したと報告されました。淡水にすむ生き物の減少がとくに大きく、85%とされています。
生き物が減る5つの理由
- habitat loss(生息地の喪失):農地や都市の開発、deforestation(森林伐採)で、住む場所そのものがなくなります。陸や淡水の生き物にとっては最大の原因とされます。
- overfishing(乱獲)やpoaching(密猟):取りすぎることで、回復が追いつかなくなります。海の生き物にとっては、魚などの取りすぎが最大の原因とされます。
- climate change(気候変動):海水温の上昇によるcoral bleaching(サンゴの白化)など、環境そのものが変わってしまいます。
- 汚染:農薬やプラスチックごみなど。pollinator decline(花粉を運ぶ昆虫の減少)は農薬との関係が指摘されています。
- invasive species(外来種):人が持ち込んだ生き物が、もともといたnative species(在来種)を追いやります。
世界の約束:30by30
2022年12月、カナダのモントリオールで開かれた生物多様性条約の会議(COP15)で、昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されました。その柱が30 by 30 target、つまり2030年までに陸と海のそれぞれ30%を保護区などとして守るという目標です。「2030年までに生物多様性の損失を止め、回復に向かわせる」という大きな方向も、この枠組で決まりました。
国際自然保護連合(IUCN)が作る「レッドリスト」は、絶滅のおそれのある生き物の一覧です。2025年10月の更新では、評価された172,620種のうち48,646種が絶滅の危機にあるとされました。長文で the Red List や threatened species という語が出たら、この一覧のことです。
このテーマの必修時事英語
語カードをタップすると、意味・例文・音声が見られます。「生態系のしくみ」「減る原因」「守る対策」の3グループに分けて覚えると、長文の流れに沿って思い出せます。
生物多様性・絶滅危惧種の必修語30語
- 環境中級 biodiversity 生物多様性
- 環境上級 biodiversity loss 生物多様性の損失
- 環境初級 ecosystem 生態系
- 環境上級 ecosystem services 生態系サービス、自然の恵み
- 科学中級 species 種、生物の種類
- 環境中級 endangered species 絶滅危惧種
- 環境中級 extinction 絶滅、消滅
- 環境中級 mass extinction 大量絶滅
- 環境上級 keystone species キーストーン種、中枢種
- 環境初級 food chain 食物連鎖
- 環境中級 habitat loss 生息地の喪失
- 環境中級 deforestation 森林破壊、森林伐採
- 食中級 overfishing 乱獲、獲り過ぎ
- 環境中級 poaching 密猟、密漁
- 環境中級 invasive species 侵略的外来種、外来種
- 環境中級 native species 在来種
- 環境上級 pollinator decline 花粉媒介者の減少、ハチなどの減少
- 環境中級 coral bleaching サンゴの白化、白化現象
- 環境中級 coral reef サンゴ礁
- 環境初級 climate change 気候変動
- 環境上級 environmental degradation 環境悪化、環境破壊
- 環境中級 conservation 保護、保全、節約
- 環境上級 wildlife corridor 生態系回廊、野生動物の移動経路、コリドー
- 環境上級 marine protected area 海洋保護区
- 環境上級 30 by 30 target 30by30目標、サーティ・バイ・サーティ
- 環境上級 human-wildlife conflict 人と野生動物のあつれき、獣害
- 科学上級 de-extinction 絶滅種の復活、脱絶滅
- 環境上級 reforestation 森林再生、再植林
- 環境上級 genetic diversity 遺伝的多様性
- 環境中級 sustainable development 持続可能な開発
長文でよく出る論点:開発か、保護か
生物多様性の英作文は「生き物を守るべきか」ではほぼ全員が賛成してしまうので、実際のお題は「開発と保護のどちらを優先するか」「誰が費用を負担するか」の形になります。下の論点を持ち札にしておきましょう。
自然保護を優先することへの賛否
保護を優先すべき
- 食料・薬・きれいな水や空気など、人間の暮らしは生態系の働きに支えられている
- 一度絶滅した種は元に戻せず、その影響は予想できない形で広がる
- 森林や湿地は二酸化炭素を吸収し、気候変動の対策にもなる
- 自然は観光や漁業などを通じて、長い目で見れば経済的な価値も生む
- 未来の世代にも、今と同じ豊かな自然を残す責任がある
開発や暮らしとの両立が先
- 途上国では、森林を切り開くことが人々の食料や収入に直結している
- 保護区を広げると、そこで暮らしてきた地元の人々の生活や権利が制限されることがある
- 野生動物が畑を荒らしたり人を襲ったりする地域では、保護だけを唱えても納得は得られない
- 保護には費用がかかり、その負担を誰が持つかで先進国と途上国の意見が合わない
- すべての種を守ることは現実的でなく、優先順位をつけざるをえない
自由英作文で使える表現
生物多様性のお題では、「depend on(依存する)」「rely on」で人間と自然のつながりを示し、「protect」「preserve」「conserve」で守る側の動詞を使い分けると語彙の幅が見せられます。音声で3回まねして読みましょう。
生物多様性・絶滅危惧種の英作文フレーズ
Human life depends on healthy ecosystems for food, clean water and fresh air.
人間の暮らしは、食料やきれいな水、新鮮な空気を健全な生態系に頼っている。
depend on A for B(BをAに頼る)。導入の1文に最適。
The loss of a single species can affect an entire ecosystem in ways we cannot predict.
たった1つの種が失われるだけで、私たちには予測できない形で生態系全体に影響が及びうる。
in ways (that) we cannot predict は「意外な連鎖」を表す万能表現。
Habitat loss caused by farming and urban development is the biggest threat to wildlife.
農業や都市開発による生息地の喪失が、野生生物にとって最大の脅威だ。
過去分詞 caused by で原因を後ろから説明。
Once a species becomes extinct, it is gone forever.
ひとたび種が絶滅すれば、それは永遠に失われる。
短くて強い。Once S V(いったん~すると)の型。
Protecting nature is not a luxury but a necessity for our own survival.
自然を守ることはぜいたくではなく、私たち自身が生き残るための必要条件だ。
not A but B に luxury / necessity の対比を乗せる。
Local communities should be involved in conservation efforts rather than excluded from them.
地元の人々は、保護の取り組みから排除されるのではなく、そこに参加すべきだ。
involved / excluded の対比で「地元の権利」の論点が書ける。
Developing countries cannot be expected to protect their forests without financial support.
途上国が資金の支援なしに森林を守ることは期待できない。
cannot be expected to(~することは期待できない)で費用負担の論点に。
Consumers can help by choosing products that do not contribute to deforestation.
消費者は、森林伐採につながらない製品を選ぶことで貢献できる。
個人にできることを書く型。contribute to は悪いことにも使える。
Setting aside 30 percent of land and sea as protected areas is an ambitious but necessary goal.
陸と海の30%を保護区として確保することは、野心的だが必要な目標だ。
set aside(取っておく)。ambitious but necessary で肯定的な譲歩。
In my view, we should treat the natural world as a partner to live with, not a resource to use up.
私の考えでは、自然界を使い尽くす資源ではなく、共に生きる相手として扱うべきだ。
締めの1文。use up(使い尽くす)が効く。
オリジナル長文にチャレンジ
共通テスト〜国公立二次レベルの書き下ろし長文です。まず訳を隠して1回読み、「ハチが減ると何が起きるのか」の連鎖を矢印でメモしてからクイズに進んでください。
What the Bees Are Trying to Tell Us共通テスト〜国公立二次
Imagine a supermarket where apples, strawberries, almonds and coffee have quietly disappeared from the shelves. This is not a scene from a science fiction film. It is a rough picture of what would happen if the insects that carry pollen from flower to flower vanished. Many of the crops we eat every day depend on bees, butterflies and other pollinators, and in many regions their numbers are falling.
リンゴ、イチゴ、アーモンド、コーヒーが棚から静かに消えてしまったスーパーを想像してみてほしい。これはSF映画の一場面ではない。花から花へ花粉を運ぶ昆虫がいなくなったら何が起きるかを、大まかに描いた姿である。私たちが毎日食べる作物の多くはハチやチョウなどの花粉を運ぶ生き物に頼っており、多くの地域でその数は減っている。
Scientists point to several causes, and they usually work together. Fields have grown larger and more uniform, leaving fewer wild flowers for insects to feed on. Pesticides designed to kill harmful insects often harm useful ones too. And a warming climate is shifting the seasons, so that flowers sometimes bloom before the insects that need them have appeared. Each factor alone might be manageable; combined, they can push a population past the point of recovery.
科学者はいくつかの原因を挙げており、それらはたいてい重なって働く。畑は大きく、画一的になり、昆虫が餌にする野の花が減った。害虫を殺すために作られた農薬は、役に立つ昆虫まで傷つけることが多い。そして温暖化する気候が季節をずらし、花が、それを必要とする昆虫が現れる前に咲いてしまうこともある。一つ一つの要因だけなら対処できるかもしれない。しかし重なると、個体群を回復できない地点まで追いやりかねない。
Bees are only one example of a much larger pattern. In 2019, a major United Nations report estimated that around one million animal and plant species were threatened with extinction, many within decades. Such losses are rarely noticed until something we value is affected. A forest that loses its birds may also lose the trees whose seeds those birds used to spread.
ハチは、はるかに大きな現象の一例にすぎない。2019年、国連の主要な報告書は、約100万種の動植物が絶滅の危機にあり、その多くは数十年のうちに絶滅するおそれがあると見積もった。こうした喪失は、私たちが大切にしている何かに影響が出るまで、ほとんど気づかれない。鳥を失った森は、その鳥がかつて種を運んでいた木々をも失うかもしれないのだ。
The encouraging news is that nature can recover when it is given the chance. In 2022, nearly 200 countries agreed to protect 30 percent of the world's land and sea by 2030. Whether that promise is kept will depend less on scientists than on ordinary people: farmers who leave space for wild flowers, shoppers who ask where their food comes from, and students who decide that a world with fewer species is not the world they want to inherit.
励みになる知らせは、機会さえ与えられれば自然は回復できるということだ。2022年、200近い国々が、2030年までに世界の陸と海の30%を守ることに合意した。その約束が守られるかどうかは、科学者よりもむしろ、ふつうの人々にかかっている。野の花のために場所を残す農家、食べ物がどこから来たのかを尋ねる買い物客、そして、種の少ない世界は自分たちが受け継ぎたい世界ではないと決める学生たちに。
語句
- rough picture大まかな姿、おおざっぱな見取り図
- vanish消える、姿を消す
- pollinator花粉を運ぶ生き物(ハチ、チョウなど)
- uniform(形容詞)画一的な、均一な
- feed on~を餌にする
- bloom(花が)咲く
- past the point of recovery回復できない地点を越えて
- within decades数十年のうちに
- depend less on A than on BAよりもむしろBにかかっている
- inherit受け継ぐ、相続する
長文の理解度チェック
Q1第1段落で、筆者がスーパーの棚の話から始めた目的は何ですか。
It is a rough picture of what would happen if the insects ... vanished とあります。仮定法(would happen if ... vanished)で「もし消えたら」を描いています。
Q2第2段落で、筆者が原因について強調している点は何ですか。
they usually work together と Each factor alone might be manageable; combined, they can push ... が根拠。alone と combined の対比を読み取りましょう。
Q3第3段落の「鳥を失った森」の例は、何を説明するために出されていますか。
直前の Such losses are rarely noticed until something we value is affected を具体化した例です。「一般論→具体例」の流れを押さえましょう。
Q4最終段落で、筆者は30%の目標の達成が何にかかっていると述べていますか。
depend less on scientists than on ordinary people とあり、その後に農家・買い物客・学生が列挙されています。less A than B は「AよりむしろB」です。
ここで差がつく:言い換えと誤読ポイント
| 本文の表現 | 設問・選択肢での言い換え | 注意点 |
|---|---|---|
| endangered | at risk of extinction / threatened | 「危険な」は dangerous。endangered は「危機にさらされた」 |
| habitat | the natural home of an animal or plant | 「習慣」は habit。1文字違い |
| species | a kind of living thing | 単数も複数も species。specie ではない |
| conservation | protecting nature / keeping something from being lost | 「保守的」は conservative |
| ecosystem | all the living things in an area and their environment | 「生態系」。eco- は「環境」ではなく「家(住まい)」が原義 |
| decline | decrease / fall in number | 「断る」の意味もある。文脈で判断 |
endangered と extinct の距離
endangered(絶滅のおそれがある)はまだ生きている、extinct(絶滅した)はもういない。長文では「endangered species を守れば extinct にならずに済む」という関係で出ます。選択肢で extinct と書かれていたら、本文が「絶滅した」と言っているかを必ず確認しましょう。
「キーストーン種」の連鎖を追う
keystone species(キーストーン種)は、数は少なくても生態系全体を支えている種のこと。アーチの頂点の石(keystone)を抜くとアーチ全体が崩れることから来ています。この種をめぐる長文は「1つ減る→別のものが増える→さらに別のものが減る」という3段以上の連鎖になるので、矢印を書いて整理しましょう。
ツッコミどころ・意外な雑学
- IPBESの「100万種」という数字は、地球上の種の数を約800万と見積もり、そのうち昆虫以外の約25%、昆虫の約10%が危機にあると仮定して計算したものです。つまり「100万」はきっちり数えた数ではなく、慎重な推定値。数字の出どころまで読めると、長文の内容一致で強くなります。
- Living Planet Report の「73%減少」は、「生き物の数が73%減った」ではなく「調べた個体群の規模が平均で73%減った」という意味です。何が何%なのかを丁寧に読む練習は、そのまま資料問題の対策になります。
- IUCNのレッドリストは、絶滅のおそれを「絶滅」「野生絶滅」「近絶滅」「絶滅危惧」「危急」などの段階で示します。「危機にある」と一言で言っても、段階によって深刻さがまったく違います。
- biodiversity は biological diversity(生物学的多様性)を縮めた言葉。英作文で biodiversity と書けると「時事英語を知っている人」に見えますが、綴りの o と i の順番を間違えやすいので、一度は手で書いて確認しておきましょう。
ちなみにこのページの数字は、すべて確認できたものだけを載せています。生き物の数を適当に書いたら、それこそ「事実の絶滅」ですからね。
よくある質問
自由英作文で「絶滅危惧種を守るために何をすべきか」と聞かれたら、何を書けばいいですか?
「生息地を守る(保護区を広げる)」と「消費者として選ぶ(森林伐採につながらない製品を買う)」の2本立てが書きやすいです。政府の対策と個人の行動を1つずつ入れると、構成のバランスがよくなります。
protect、preserve、conserve はどう違いますか?
protect は「危険から守る」の一般語、preserve は「今の状態のまま保つ」、conserve は「むだにせず大切に使う」というニュアンスです。自然保護の文脈では conservation という名詞がよく使われます。英作文では protect を軸にして、1回だけ conserve を混ぜると語彙の幅が出ます。
このテーマとセットで出やすい分野はありますか?
気候変動(サンゴの白化)、プラスチックごみ(海の生き物)、食料問題(受粉と農業)、そしてSDGsの目標14・15です。関連トピックのページもあわせて読んでおくと、1本の長文の中で話題が移っても因果関係を追えます。
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今日このページを読んだあと、リンゴやイチゴを食べたら、一度だけ英語で考えてみてください。Thank you, bees. と頭に浮かんだら、もう立派な時事英語の使い手です。