2026年9月20日(日)
クマが町に出てくる
山の実りと、人の減った里の話
秋になると、日本のニュースはクマの話でいっぱいになります。駅前にクマ、小学校の校庭にクマ、スーパーの中にクマ。外国から来た人には、かなり奇妙に見えるようです。日本は電車が時間どおりに来る国のはずなのに、なぜ町に野生のクマが歩いているのか。この話は、クマが増えたという一言では終わりません。
去年は、記録がある中でいちばんひどい年でした
環境省の速報値によると、2025年度にクマに襲われてけがをしたり亡くなったりした人は、全国で238人。うち13人が亡くなりました。それまで最も多かった2023年度の219人・死亡6人を大きく上回っています。
出没の通報そのものも5万776件で、2023年度の2万4348件の倍以上になりました。捕獲されたクマも1万4720頭で、こちらも過去最多です。
被害が集中しているのは東北で、秋田県だけで67人、東北6県で158人と全体の6割を超えます。月でいうと10月が89人と突出していて、9月から11月までの3か月に161人が集中しています。冬眠の前に食べ物を探して動き回る時期です。
クマが増えたから、だけではありません
クマ側の事情は、その年の山の実りです。ブナやドングリが不作の年は、山に食べ物がないのでクマが里に下りてくる。ただしこれは全国一律ではありません。東北森林管理局が2026年7月に出した今年のブナの予測は「並作」で、一方で群馬県は今年の堅果類を「凶作」と判定して注意を呼びかけています。同じ秋でも、県によって話がまったく違います。
人の側の事情のほうが、たぶん大きいと言われています。山あいの集落から人が減り、畑や果樹が手入れされないまま残る。人が通らなくなった道は藪になる。すると森と町のあいだにあった「人の気配がする帯」が消えて、クマにとって里が怖くない場所になります。放置された柿の木は、クマから見れば手のかからない食料庫です。
追い払う側の人数も減っています。狩猟免許を持つ人は1970年ごろの約53万人をピークに減り続け、2021年度は21万3千人。しかもその約6割が60歳以上です。
去年から、対応の仕方が変わりました
日本では長いあいだ、市街地で猟銃を撃つことが実質できませんでした。弾がどこへ行くか分からないからです。そのため町中にクマが入ると、警察と猟友会と自治体が何時間もにらみ合う、という光景が毎年くり返されていました。
2025年9月1日に施行された改正鳥獣保護管理法で、この点が変わりました。人の生活圏にクマなどが入り、ほかに方法がなく、住民の避難ができているといった条件を満たす場合に限り、市町村長の判断で猟銃を使えるようになっています。「緊急銃猟」と呼ばれる制度です。
2025年の秋には、秋田県の要請で自衛隊も出ました。ただし中身は、200キロほどある箱わなを運ぶ、捕獲されたクマを運ぶ、ドローンで様子を見る、といった後方支援です。11月27日までに延べ815人が11市町村で活動しました。自衛隊が銃でクマを撃つわけではありません。ここは外国の人に誤解されやすいところなので、説明するときは分けて話したほうが伝わります。
英語で説明するときのコツ
「日本は危ない国になった」という話に聞こえないようにするのが大事です。被害が出ているのは主に東北や北陸の山に近い地域で、東京や大阪の市街地を歩いていてクマに会うことはまずありません。
逆に「日本は自然と共生している」と美しくまとめるのも、いまの状況には合いません。人が減って里山が管理できなくなった結果として起きていることなので、そのまま説明するのがいちばん正確です。
英語で言うと
Japan's bear problem is as much about the emptying countryside as it is about the bears. In the 2025 fiscal year 238 people were injured or killed, 13 of them fatally, the worst on record. When the beech and acorn crop fails, bears come down from the mountains looking for food, and the villages in between have too few people left to keep them away. It is a regional problem, though — you are not going to meet a bear in central Tokyo.
日本のクマの問題は、クマの話であると同じくらい、人の減った里の話です。2025年度にクマに襲われてけがをしたり亡くなったりした人は二百三十八人、うち十三人が亡くなりました。記録のあるなかで最も多い年です。ブナやドングリが不作の年、クマは食べ物を求めて山から下りてきます。そして山と町のあいだの集落には、クマを追い返すだけの人がもう残っていません。ただしこれは地域の問題です。東京の都心でクマに会うことはありません。
このコラムから、使えるフレーズ
- Bears have been coming down into towns, and last year was the worst on record.クマが町まで下りてきていて、去年は記録が残っている中で最悪の年でした。
- It's mostly in the north — Tohoku, the mountainous part of the country. You won't run into a bear in central Tokyo.被害はほとんど東北の山沿いです。東京の都心でクマに出くわすことはありません。
- Autumn is the dangerous season. They're eating as much as they can before they hibernate.危ないのは秋です。冬眠の前に、できるだけ食べようとするので。
- When the nuts fail in the mountains, the bears come looking for food where people live.山の木の実が不作だと、クマは人のいるところまで食べ物を探しに来ます。
- Fewer people live in the mountain villages now, so the line between the forest and the town has blurred.山あいの集落から人が減って、森と町の境目があいまいになってしまったんです。
- Since 2025, a town mayor can authorize shooting inside a built-up area if there's no other way.2025年から、ほかに手がない場合に限って、市町村長の判断で市街地でも銃が使えるようになりました。
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