ポイント
特定分野に特異な才能のある子ども(本文では「特才児童生徒」)の全員を対象にするのではありません。まず、調整授業時数制度で生まれる「裁量的な時間」の活用なども含めて、みんなと一緒に学ぶ通常の教育課程(1階)での支援を考え、それだけでは十分に支援できない子を特別の教育課程(2階)の対象にする案です。目的は、学習や生活での困りごとを減らすことと、「好き」を育み「得意」を伸ばす才能の伸長の両方をバランスよく支えることです。特才の子は、学習のレベルが合わず教室で苦痛を感じたり、人間関係がうまくいかず不登校になったりすることもある、困難を抱えやすい存在でもあるとされています。 P386P387P389
才能に応じた高度な内容の学習を「対象活動」と呼び、その代わりに受けなくてよくなる教科等を「相当教科等」と呼びます。対象活動を行う場合、各教科等や総合的な学習の時間の一部または全部の内容と授業時数を行わないことができるようにする案です(教科が特定できる場合、教科をまたぐため総合で扱う場合、両方を組み合わせる場合のパターンがあります)。まずは算数・数学や理科など、教科に関わる認知的な面に着目して始める方向です。実施できるのは、①受けない教科で身につける力をおおむね身につけられる(すでに身についている場合を含む)と判断でき、②学習上・生活上の困難を減らす点から対象活動の方が効果的だと総合的に判断できる場合で、本人・保護者の意向を丁寧に確かめます。入試対策を助長しない運用が前提です。 P390P391
この制度は、上の学年や学校に移る「完全早修」(飛び級・飛び入学など)ではありません。本来の学年に在籍したまま、通常の教育課程での「拡充」(より深く幅広い学び)を重視しつつ、上の学校種の内容を部分的に学ぶ「部分早修」も取り入れるものです。対象活動以外の時間は、ほかの子どもたちと一緒に通常の教育課程で学ぶことが前提で、在籍校を離れる時間が多くなりすぎないようにします。学級では、特才の子を含めた一人一人の違いを認め合う雰囲気づくりや、認知面以外の個性・特性への配慮も必要とされています。 P387P391P393
対象活動だけを評価するのではなく、受けなかった教科(相当教科等)全体について観点別評価・評定を行うことを前提とする案です。評価しないと高校入試などで不利になるおそれがあるためです。評価規準は、在籍する学級でのその教科の既存の評価規準をそのまま使う案です。評価材料には、対象活動でのレポートや作品、実施機関からの情報、事前のアセスメントの材料などを使えます(例:教科で四則演算を学ぶ代わりに対象活動で微分などを学んだ場合、四則演算に関わる力を見取ることも可能)。判断が難しいときは、学級での単元末・学期末の評価課題を課すことも考えられます。対象活動そのものに別の評定は不要ですが、担任から計画の「学習状況の記録」欄などにフィードバックのコメントを書くことが勧められています。 P397P398
通級指導や日本語指導では要録の総合所見欄に指導の内容などを書きますが、この特例では、入試対策や単なる早修を助長しないよう、要録の本体には特別の教育課程を編成したことを書かず、個別の指導計画の写しを別紙として添付することで記載に代える案です。別紙の内容を調査書で使うべきではないことも「運用の手引き」等で明確にする方向です。一方で、大学等のプログラム参加など対象活動として取り組んだ学習活動そのものは、ボランティア活動などと同じように、必要に応じて総合所見欄に書いても差し支えありません。国から高校などに対して、入試での扱いについて一定の要請をすることも検討します。 P398
知能指数などの数値基準で才能を定義し、当てはまる子だけを特才として扱うことはしない方向です。ラベル付けによる過度な競争や、同級生から異質な存在と見られることを避けるためです。特別の教育課程の対象にすることは「特異な才能がある」と診断することではなく、本人の意向をふまえ、困難や才能の実態に合った支援を提供するのが適切だと判断すること、と位置づけられます。判断の流れは、①日常の見取りに加え、必要に応じて面談やWISC等の心理検査(必須ではない)で困りごとを整理し、②まず通常の教育課程での工夫を考えたうえで、希望する実現可能な対象活動があるか、学習上・生活上の困難が減るかなどを総合的に判断し、教育委員会と学校で調整する、というものです。対象と判断しても実施が義務になるわけではありません。 P388P399
対象活動を行うときは指導計画を作ります。国は最低限入れる内容を示し、各学校が項目を追加したり様式を決めたりできるようにする案です。計画は本人・保護者の意向をふまえ、本人の関与を重視して、活動の内容だけでなく目標や、学習改善につなげる形成的な評価のプロセスも書きます。通常の学級での学習指導での支援や留意点も、必要に応じて書くことが大切とされます。計画は紙も可としつつ、学級担任・教科担任・養護教諭・スクールカウンセラーなどが見たり一緒に作業したりできるよう、電子媒体でのクラウド共有を原則とする案です。大学等の実施機関とは、保護者の同意を前提に、日時・場所・移動方法などの調整を共有します。 P395
対象活動の例は、上の学校種の内容の部分的な早修、大学教員等の支援を得た発展的な「マイ探究」、大学の科目の受講、大学・研究機関・民間等のプログラムやコンテストへの参加とその事前指導などです。実施方法は、相当教科等の時間に高校等へ移動して授業を受ける、在籍校の空き教室などでオンラインで大学や高校の講義を受ける・来校した大学教員の授業を受ける、大学・研究機関・博物館・図書館などへ移動して学ぶ、などが考えられています。夏休みなどの休業日に行うプログラムを組み合わせたものも対象にする方向です。 P391
在籍校でオンラインを積極的に使うことが想定されますが、小・中学生だけで高度なオンライン学習を進めるのは簡単ではないため、教員や学習指導員、連携機関のスタッフなどが立ち会って支援することもあり得ます。大学や研究機関で学ぶ場合は、危険な環境で学んだり、大学生と配慮なく同じ環境で学んだりしないよう、必要に応じた保護者の同伴も含めた安全管理と、指導者への倫理面の啓発が必要です。校外へ移動する場合は移動時間も含めて対象活動とし、全体として出席扱いが基本で、最終的には各教育委員会が判断します。相当教科等以外の時間にやむを得ず行う場合も、欠ける授業の影響を最小限にすることを前提に同様の扱いが基本です。 P393
在籍校以外の機関(実施機関)が対象活動を行う場合は、①その分野の一定の専門性がある、②発達段階や特才の子の特性を理解し、困難を減らせる活動ができる、③在籍校と学習内容や様子を適切に連携できる(評価や卒業認定のため)、の3つを基本の要件とする案です。想定される主体は、高校等(SSH等)、大学・短大・大学院・高専、公的研究機関、博物館、一定の専門性と実績のある公益的な法人の民間団体などです。指導者は、高校なら当該教科の免許状保有者、大学なら教授・准教授・講師・助教等、博物館なら学芸員等とされ、性暴力防止を含む子どもの安心・安全の留意事項は「運用の手引き」で詳しく示す予定です。 P392P393
才能や困難に合った活動を考えるには専門性が必要で、国内の事例もまだ少ないため、学校の知見だけで計画を作るのは難しいとされています。そこで、知見のある複数の大学等による全国対象の相談支援プラットフォームの構築や、中期的には都道府県教育委員会(総合教育センター等)への相談支援担当の設置などを検討します。相談支援は、対象とするかどうかの判断や、学校と適切な実施機関をつなぐことにも役立てます。計画作成の負担を軽くし質を高めるため、相談支援で生成AIを補助的に活用することも検討します。 P388P396
対象は当面、義務教育段階(小学校、中学校〈中等教育学校前期課程を含む〉、義務教育学校、特別支援学校の小学部・中学部)です。高校は、現行でも大学の科目等履修などの学校外学修を最大36単位まで自校の単位として認められ、次期は必履修科目の履修免除の仕組みも検討されているため、通常の教育課程で対応できると考えられ、成果を見て必要なら検討します。直ちに全ての学校に求めるのではなく、まず一定数の事例をつくり、改善しながら少しずつ増やしていく方針です。学習指導要領の全面実施を待たず、令和10年度からの先行実施期間から取り組めるようにする方向で、国が「運用の手引き」を作ります。不登校などほかの特例と重なる子のために、計画をまとめる「2階シート(仮称)」も国が示します。 P387P388P396P400
関連
出典:中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(2026年10月5日)。P○ は本体PDFのページ、資料P○ は資料編のページ(クリックで該当ページが開きます)。