第8講 物語の型を知れば速く読める――story grammar・5つの型・予測読み
同じ英語力でも、物語をすいすい読める人と、途中で迷子になる人がいます。その差の正体のひとつが「物語の型」を知っているかどうかです。第8講では、型を地図にして先回りしながら読む、多読のプロの読み方を、しくみ・実例・練習のすべてで伝授します。
なぜ「型」を知ると速く読めるのか:スキーマのしくみ
初めての町を歩くとき、地図があるかないかで歩く速さはまったく違います。物語を読むときも同じです。「この話は、いま設定の部分だな」「そろそろ事件が起きるぞ」とわかっていれば、目の前の1文の役割がすぐにわかり、迷わずに進めます。
読む人が頭の中に持っている知識の枠組みを、心理学ではスキーマと呼びます。スキーマは、空欄のある書類のようなものです。「物語」という書類には「主人公」「望み」「じゃまするもの」「結果」といった空欄があり、読み手は英文を読みながら、その空欄をうめていきます。空欄の場所がわかっていれば、どの情報が大事で、どの情報は流してよいかがすぐに判断できます。
Carrell と Eisterhold(1983)は、読解は文章と読み手の背景知識とのやりとりで成り立つというスキーマ理論の考え方を、英語を外国語・第二言語として学ぶ人の読解指導に結びつけて論じました。物語の流れについての知識も、このスキーマのひとつです。
story grammar(物語文法)とは
物語には共通の骨組みがあり、人はそれを手がかりに話を理解し、記憶する――この考え方は story grammar(物語文法) と呼ばれます。Mandler と Johnson(1977)はその代表的な研究で、物語を「設定」と、いくつかの「エピソード」(出来事の始まり→登場人物の反応や目標→試み→結果→終わり)からなる構造として表し、物語の構造と思い出しやすさの関係を論じました。
これは母語の話だけではありません。英語を第二言語として読む人を対象にした Carrell(1984)は、物語の構造のちがいによって、思い出せる量と、思い出す順序が変わることを報告しています。型どおりに進む話は、外国語でも頭に残りやすく、順序よく思い出しやすいのです。
物語の基本の型:4つのパート
研究の細かい分け方はいろいろありますが、多読で使うなら次の4つで十分です。
| パート | 中身 | よく出る合図の言葉 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| ① 設定 | いつ・どこ・だれ。主人公の望みや困りごと | Once upon a time / There was / lived | さっと読んで「だれの話か」だけつかむ |
| ② 事件 | ふだんの毎日をこわす出来事 | One day / But / Suddenly | ここで「この話の問題」を1行で言えるように |
| ③ 山場 | 問題といちばん強くぶつかる場面 | Then / Just then / 会話の連続 | 速さを落として、じっくり味わう |
| ④ 結末 | 問題がどうなったか、主人公がどう変わったか | At last / In the end / After that day | 最初の「望み」と比べる |
L0 のウサギとカメなら、①足の速いウサギがカメの足の遅さを笑う、②カメが "Let's have a race" と言い出す、③ウサギが木の下で寝てしまい、カメは Step, step, step. と歩き続ける、④結果は……。4つのパートで話全体が言えます。
ポイントは、パートによって読む速さを変えることです。設定は軽く、山場はじっくり。全部の文を同じ速さ・同じ集中力で読む必要はありません。読む速さの配分ができるようになると、平均の速さは自然に上がります。これを、この講義では「4パート速度配分」と呼びます。
実況中継①:くり返しを見抜くと3倍速くなる
多読ベストの L2 の話黄金のガチョウで、型が見える瞬間を体験してみましょう。
One day the oldest son went into the forest to cut wood.
One day。設定が終わり、事件が始まる合図です。長男が森で小さな灰色のおじいさんに出会い、食べ物を分けるのを断って、斧でけがをします。
The second son went the next day.
ここでプロは「来た」と思います。次男も同じように森へ行く。これは3回くり返し型の可能性が高い。次男の場面は、長男の場面とほぼ同じ展開になるはずなので、速さを上げて確認するだけで読めます。実際、次男も同じことを言い、斧で足をけがします。
Then Simpleton said, "Father, let me go and cut wood."
3人目。みんなにばかにされている末っ子です。3回くり返し型では、3回目で必ず何かが変わる。ここで速さを落とし、末っ子がおじいさんにどう答えるかに集中します。すると末っ子は、自分の粗末な食べ物を "we can eat together" と分けてあげる。ここが話の分かれ目です。
この話には、くり返しがもう1つ入っています。金のガチョウにさわった人が次々にくっついて離れなくなる場面です。1人目、2人目、3人目……と同じ形の文が続くので、2人目からはほとんど読む負担がありません。くり返しに気づける人は、くり返しの部分を「確認モード」で速く読み、変化の部分にだけ力を使えます。
実況中継②:合図の言葉で場面の切りかえをつかむ
L1 の舌切り雀は、短い中に合図の言葉がぎっしりつまっています。
But his wife did not like the bird. One day, she made some starch paste for washing clothes.
設定(やさしいおじいさんと雀)のすぐあとに But と One day。2つ続けて「事件が始まる」と知らせています。starch paste(洗濯用ののり)を知らなくても、「雀が食べてしまう何か」とわかれば十分です(第7講のA箱です)。
At last he found a small house in the bamboo.
At last は「ずいぶん探して、ようやく」。おじいさんの旅の目的地に着いた合図です。そして最後の段落は After that day で始まり、おばあさんがどう変わったかが語られます。これは欲ばった人物が失敗する型の結末です。
英語の物語によく出てくる5つの型
骨組みの上に、さらに「よくある展開パターン」があります。知っておくと、先の展開が読めるようになります。
1. 3回くり返し型
同じことが3回くり返され、3回目で変化が起きる型。黄金のガチョウのように、昔話や民話にとても多い型です。2回目は確認モードで速く、3回目はじっくり。
2. 行って帰る型
主人公がふだんの場所を離れ、ふしぎな世界で冒険し、変わって帰ってくる型。L3 のオズの魔法使いでは、灰色の大草原の設定のあとに One day a terrible cyclone came. の1文で事件が始まり、家ごと別の世界へ運ばれます。「どこへ行くのか」「何を手に入れて帰るのか」の2点を追えば、長い話でも迷いません。
3. 欲ばり・うぬぼれ失敗型
欲ばりや油断をした人物が失敗し、最後に教訓が来る型。イソップ物語や舌切り雀のような昔話に多く、だれが失敗しそうかを最初の数行で予想できます。
4. 謎解き型
事件→手がかり→まちがった推理→意外な真相、と進む型。ホームズのような推理小説です。手がかりらしい描写が出てきたら、少しだけ速度を落とします。
5. 変身・成長型
主人公の性格が、ある体験を通して変わる型。L4 のクリスマス・キャロルのスクルージがその典型です。「最初の主人公」と「最後の主人公」の差を追うと、話の芯がつかめます。
型は、昔話、世界の名作童話、世界の民話、神話と伝説など、ジャンルによって出やすさが違います。いろいろなジャンルを読んで、「この型、前にも見た」という経験を増やしましょう。
レベル別:型の見え方はこう変わる
型の読み方は、レベルによって少しずつ変わります。
- L0〜L1:型がそのまま見える段階。ウサギとカメのように、4つのパートが数段落ではっきり分かれています。ここでは「合図の言葉で場面が変わる」感覚をつかむことに集中します
- L2〜L3:型が組み合わさる段階。黄金のガチョウのように、3回くり返し型の中に、もう1つのくり返し(人がくっついていく場面)が入れ子になっています。「大きな型」と「小さな型」を分けて見ると、長い話でも迷いません
- L4〜L5:型がくずされる段階。回想で時間が前後したり、登場人物の心の中が長く描かれたりします。クリスマス・キャロルのように、過去・現在・未来を行き来する話では、いま話がいつの時点にいるかを段落ごとに確かめるのがコツです
- L6(原文):型の上に、作者ごとのくせが乗る段階。ホームズの話なら「依頼人が来る→話を聞く→調べる→意外な真相」という型が毎回ほぼ同じなので、2話目、3話目と読むほど速くなります。原文に挑戦するなら、同じシリーズを続けて読むのがいちばんの近道です(シリーズ読みは第5講)
予測読みのプロトコル
型と合図の言葉を知ったら、いよいよ予測読みです。次の4か所でだけ、短く「先」を予想します。
- 読む前(10秒):タイトルと紹介文、挿絵を見て、「どの型の話か」を予想する
- 事件の合図(One day / But)のあと(3秒):「この問題は、どうなりそう?」と一言だけ予想する
- 2回目のくり返しのあと、または山場の前(3秒):「3回目は何が変わる?」「主人公はうまくいく?」
- 読み終わったら(30秒):予想が当たったか、どこで外れたかを確かめる
予想は外れてもかまいません。むしろ、外れたときこそ物語はおもしろいのです。大切なのは、予想しながら読むことで、頭が「次の情報」を待ちかまえる状態になること。待ちかまえている頭には、英文がすっと入ってきます。
説明文にも「型」がある
物語以外の文章にも、よく使われる型があります。ノンフィクションや自己啓発の名著を読むときは、次の型を思い浮かべてください。
- 問題→原因→解決:環境問題や歴史の出来事を説明する文章に多い。The problem is... や because が合図
- 主張→理由→例:意見を述べる文章の基本。First, ... For example, ... と続く
- 時の流れ:伝記や歴史。年号や When he was ten... のような時を表す語が段落の頭に来る
偉人伝は物語と説明文の中間で、「子ども時代→転機→困難→達成」という物語の型で書かれていることがよくあります。
誤解をくつがえす:「速く読む」をめぐる思いこみ
誤解1:速く読むコツは、目を速く動かすこと
英語を母語とする大人の読む速さを、190の研究(18,573名)からまとめた Brysbaert(2019)によると、黙読の平均は説明文で毎分238語、物語で毎分260語でした。そして、この速さは人が聞いて理解できる最大の速さと同じくらいで、読むためだけの特別な処理を考える必要はない、と述べています。つまり読む速さの上限は、目ではなく理解の速さで決まります。型を知って理解を速くすることこそ、本物の速読なのです。なお、英語を第二言語として読む人の速さは、これより低くなることも報告されています。
誤解2:物語の型を学ぶのは子ども向け
Carrell(1984)は、英語を第二言語として読む人でも、物語の構造が理解と記憶を左右することを示しました。大人の学習者こそ、母語で身につけた物語の型を英語に持ちこめる強みがあります。
誤解3:予測は当たらなければ意味がない
予測読みの目的は、当てることではなく、頭を「待ちかまえる」状態にすることです。外れた予測も、「なぜ外れたのか」を考える材料になり、話を深く味わう助けになります。
子どもの研究からわかること
Fitzgerald と Spiegel(1983)は、物語の構造の感覚が弱い小学4年生20名を2つのグループに分け、一方には物語の構造について、もう一方には辞書の使い方と語の学習について指導しました。物語の構造を学んだグループは、構造の知識が伸びただけでなく、読解にもはっきりとよい効果が出ました。母語の子どもの研究ですが、「型を知ることが読解を助ける」ことを示す古典的な研究です。
今日からやる練習
練習1:4コマ要約(毎日1話)
読み終わったら、「設定・事件・山場・結末」を1行ずつ、日本語でメモします。慣れてきたら、本文の語を借りて英語で書いてみましょう。
練習2:予測ストップ(週2回)
事件の合図(One day や But)が来たら、いったん目を止めて、3秒だけ「どうなる?」と予想してから続きを読みます。多読ベストの音声を使っているなら、そこで一時停止するとよい区切りになります。
練習3:型コレクション(1か月)
読んだ話を、5つの型のどれにあてはまるか分類してメモします。1か月たつと、自分が好きな型が見えてきます。迷ったときは今日の1冊ガチャで出た話の型を当てるゲームにしても楽しめます。
練習4:同じ型を3本連続
イソップ物語を3本、昔話を3本というように、同じ型の話を続けて読み、それぞれWPM計測で速さを測ります。同じレベルなら、3本目に速さが上がるのを実感できるはずです。
プロの1週間メニュー
| 曜日 | 読むもの | この講義の技 |
|---|---|---|
| 月 | 昔話・童話を2〜3本 | 4コマ要約(日本語) |
| 火 | 同じジャンルを2〜3本 | 予測ストップ(One day と But で止まる) |
| 水 | イソップを3本連続 | 同型3本連続+WPM計測 |
| 木 | 長めの話を1本 | 4パート速度配分(設定は軽く、山場はじっくり) |
| 金 | ノンフィクションを1〜2本 | 説明文の型で読む |
| 土 | 1つ上のレベルを1本 | 読む前に型を予想してから挑戦 |
| 日 | 1週間の型コレクションを整理 | 4コマ要約を1本だけ英語で書く |
よくある罠
- 型に当てはめすぎる:「きっとこうなる」と決めつけて読むと、細かい展開を読みちがえます。予想はあくまで仮のもの
- 山場まで同じ速さで読む:設定でエネルギーを使い切ると、いちばんおもしろい山場で集中力が切れます
- ノンフィクションにも物語の型を使う:説明文には説明文の型があります
- 予想を外して落ち込む:外れるのは、作者の工夫にまんまと乗せられた証拠です。楽しみましょう
まとめのチェックリスト
- 読む前に、タイトル・紹介文・挿絵から型を予想している
- 設定・事件・山場・結末の4パートを意識している
- One day、But、At last などの合図の言葉で、場面の変化に気づける
- くり返しの部分は確認モードで速く、変化の部分はじっくり読んでいる
- 読み終わったら4コマ要約で話全体をふり返っている
物語の型は、一度身につくと一生使える「読書の地図」です。次の第9講 多読で文法が身につく読み方では、その地図の上を走る「英文の形」に目を向けます。
よくある質問
型を知っていると、話の結末がわかってつまらなくなりませんか?
型は大まかな流れを教えてくれるだけで、細部や意外な展開までは教えてくれません。むしろ「予想が外れた」ときの驚きが大きくなり、物語をより楽しめるようになります。
グレーデッド・リーダーのやさしいレベルでも型はありますか?
はい。やさしいレベルの話ほど、設定→事件→山場→結末がはっきりしています。型の練習は、むしろやさしいレベルから始めるのがおすすめです。
ノンフィクションや自己啓発書にも使えますか?
物語の型はそのままでは使えませんが、「問題→原因→解決」「主張→理由→例」のような説明文の型があります。考え方は同じで、型を予想しながら読むと速く楽になります。
参考文献
- Carrell, P. L., & Eisterhold, J. C. (1983). Schema theory and ESL reading pedagogy. TESOL Quarterly, 17(4), 553–573. doi.org/10.2307/3586613
- Mandler, J. M., & Johnson, N. S. (1977). Remembrance of things parsed: Story structure and recall. Cognitive Psychology, 9(1), 111–151. doi.org/10.1016/0010-0285(77)90006-8
- Carrell, P. L. (1984). Evidence of a formal schema in second language comprehension. Language Learning, 34(2), 87–108. doi.org/10.1111/j.1467-1770.1984.tb01005.x
- Brysbaert, M. (2019). How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate. Journal of Memory and Language, 109, 104047. doi.org/10.1016/j.jml.2019.104047
- Fitzgerald, J., & Spiegel, D. L. (1983). Enhancing children’s reading comprehension through instruction in narrative structure. Journal of Reading Behavior, 15(2), 1–17. doi.org/10.1080/10862968309547480
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