本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
日本語のマジか!?ホント

「箸」と「橋」は声の高さで言い分ける。でも大阪では高低が東京と逆になる

「箸」と「橋」は声の高さで言い分ける。でも大阪では高低が東京と逆になる

読む前に予想してみよう!

共通語で「高低」と言う「はし」は「箸」だが、大阪で「高低」と言う「はし」は「橋」である

研究カード(どんな研究?)
対象
東京・京都・大阪などの方言のアクセントの記述と、無アクセント地域出身者の聞き取り実験
規模
2010年の実験は無アクセント地域と首都圏の各12人(18〜25歳)
研究の種類
方言の記述研究と知覚実験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

共通語では「箸が」は「は」だけが高い。「橋が」は「し」が高くて「が」で下がり、「端が」は「しが」が高いまま下がらない。大阪では箸と橋の高低が入れ替わる。高低で単語を区別しない「無アクセント」の地域もある。

ひとことで言うと「はし」の高い・低いが、東京と大阪で入れ替わる!

もくじ
  1. 日本語のアクセントは「強さ」ではなく「高さ」
  2. 大阪では「箸」と「橋」が入れ替わる
  3. 平安時代の高低は、辞書に書きこまれた点で分かる
  4. 高さで単語を区別しない地域もある
  5. 英語の強勢とはどう違う?
  6. もっと知りたい人へ
  7. まとめ
  8. よくある質問

「箸が」「橋が」「端が」。3つ続けて、声に出して言ってみてください。

書けば同じ「はしが」なのに、声の高さの上がり下がりがそれぞれ違います。日本語は、声の高さだけで単語を言い分けているのです。

ところが大阪では、「箸」と「橋」の高い・低いが東京とそっくり入れ替わります。さらに、高さで単語を区別しない地域まであります。

01日本語のアクセントは「強さ」ではなく「高さ」

英語の辞書で、単語に強く読む印がついているのを見たことがあるでしょう。英語のアクセントは「どこを強く読むか」です。

日本語にもアクセントがあります。ただし共通語(東京の言葉がもとになった全国共通の話し言葉)のアクセントは、どこで声の高さが下がるかです。国立国語研究所の野口大斗さんの解説では、「はし」は次のように区別されます。

  • 箸が:「は」が高く、「しが」が低い(高低低)
  • 橋が:「は」が低く、「し」が高く、「が」で下がる(低高低)
  • 端が:「は」が低く、「しが」が高いまま下がらない(低高高)

「橋」と「端」は、単語だけを言うとどちらも「低高」です(「花」と「鼻」も同じ関係です)。違いが出るのは、後ろに「が」がついたとき。橋は「が」で下がり、端は下がりません。言語学ではこの下がり目を「アクセント核(かく)」と呼びます。

似た組み合わせはたくさんあります。音声学者の川原繁人さんの英語の解説では、「かき」が3通りに分かれる例が挙がっています。

  • 柿が:下がり目なし
  • 牡蠣が:「か」のあとで下がる
  • 垣が:「き」のあとで下がる

ほかに「飴(あめ)」と「雨(あめ)」、「酒(さけ)」と「鮭(さけ)」も、下がり目があるかないかで区別されます。

つまり、同じ音の単語の組の多くは、高さでは区別されていません。「はし」のように高さで分かれる組は、むしろ少数派です。

02大阪では「箸」と「橋」が入れ替わる

では、大阪ではどうでしょう。野口さんの同じ解説は、大阪弁の「はし」を次のように示しています。

  • 橋:高低
  • 箸:低高
  • 端:高高

東京で「高低」と言えば箸ですが、大阪で「高低」と言えば橋です。同じ「はし」の高低が、東京と大阪で入れ替わっているのです。

京都・大阪と東京の高低の違いは、「はし」だけに見られるものではありません。日本語のアクセントの研究では、方言どうしや昔の資料との間で高低の対応のしかたが同じになる単語を、グループ(「類」)にまとめて比べます。国語学者の金田一春彦の説をまとめた木部暢子さんの論文(2010年)によると、2拍の名詞では次のようになります。

  • 「石」「川」のグループ(第2類):京都は「高低」、東京は「低高」で次の「が」が下がる
  • 「松」「笠」のグループ(第4類):京都は「低低」で次の「が」が上がる、東京は「高低」

どちらのグループも、単語の出だしの上がり下がりが、京都と東京で反対向きです。

京都・大阪の言葉(京阪式アクセント)は、東京より型の種類が多いのも特徴です。単語が高く始まるか(高起式)、低く始まるか(低起式)の区別があり、そのうえで下がり目の位置も区別します。木部さんによると、京都の言葉では、理論上、拍の数がnなら「2n+1」通りの型があります。木部さんは例として、京都では「端」が高く始まり、「箸」が低く始まることも挙げています。大阪の「端」(高高)と「箸」(低高)と同じ向きです。

同じ「高低」の「はし」でも、東京なら箸、大阪なら橋
同じ「高低」の「はし」でも、東京なら箸、大阪なら橋

03平安時代の高低は、辞書に書きこまれた点で分かる

東京と京都のどちらが古い形を残しているのか。これを考える手がかりが、平安時代の終わりの漢和辞典『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』です。この辞典には、言葉の高低を示す点(声点〈しょうてん〉)が書きこまれています。

先ほどの「類」というグループは、この声点と、いまの各地の方言の高低の対応から立てられたものです。言語学者の上野善道さん(2006年)は、類が「アクセントのみ」にもとづくもので、意味や文法には関係ないと強調しています。

木部さんがまとめた金田一の説では、「石」「川」のグループは、平安時代の京都でもすでに「高低」でした。いまの京都と同じです。一方、東京の型は、この古い京都のような型から、出だしが低くなる変化、高いところが後ろへずれる変化が重なってできた、と金田一は考えました。そしてこうした変化は、関東では近畿より早く進み、鎌倉時代の初めより前に途中の段階に達していたのではないか、とされます。

ただし、ここは研究者の間で考え方が分かれます。木部さんは、この説明は一つ一つの単語の変化を追ったもので、アクセントの体系全体がどう変わったかを見ていないと指摘しています。木部さん自身は、関東の言葉が「高く始まるか、低く始まるか」の区別を早くに失った(あるいは、はじめから取り入れなかった)ために、こうした変化が進んだ、という見方を示しています。

04高さで単語を区別しない地域もある

日本には、高さで単語を区別しない地域もあります。これを「無アクセント」と呼びます。

木部さんの論文によると、福島や熊本の方言は、単語ごとの決まった型がなく、同じ単語でもいろいろな高さで発音されます。宮崎県都城(みやこのじょう)の方言は少し違い、すべての単語が「最後が高い」1つの型になります。木部さんは、こちらは無アクセントとは別の種類(すべての単語が1種類の高さの型をもつ方言)に分ける方がよい、としています。

では、無アクセントの地域で育った人は、共通語の高低を聞き分けられるのでしょうか。

同じ研究者たちは2026年にも続きの論文を出しています。無アクセント地域の人の話し方は共通語に近づいていて、聞き手が共通語の話し手と区別できないことも多くありました。ところが聞き取りの実験では、高低の区別がまだ苦手でした。話すときは共通語のアクセントでも、耳はまだ高低の違いをつかみきれていないというのです。

各地のアクセントがなぜこれほど違うのかについても、考え方は分かれています。木部さんの論文は、これまでの説を2つにまとめています。平安時代の京都のような体系がもとになり、それが各地で変化したという説。もともと日本語には高低の区別がなく、京都に生まれた複雑な区別の影響で、各地に区別が生まれたという説です。木部さん自身の案では、東北や北関東の無アクセントは、東京式から下がり目の区別が消えて生まれたものと考えられています。

05英語の強勢とはどう違う?

英語にも、アクセントの場所で意味が変わる単語があります。たとえば record です。辞書(Cambridge Dictionary)の米国の発音では、こうなっています。

  • 名詞「記録」:REcord /ˈrek.ɚd/(前を強く)
  • 動詞「記録する」:reCORD /rɪˈkɔːrd/(後ろを強く)

発音記号を見ると、強く読まない音節では「e」が「ɪ」に、「ɔːr」が「ɚ」(弱いあいまいな母音に r の響きがついた音)に変わっています。英語の強勢は、強さだけでなく、母音の音そのものまで変えることがあるのです。

これに対して、共通語で「箸」と「橋」を言い分けるときに使っているのは、主に声の高さです。

なお、中国語のような「声調言語」は、日本語とも違います。先ほどの2010年の論文の説明では、中国語は一つ一つの音節に声調(高さの型)が決まっています。一方、共通語の日本語で決まっているのは、下がり目があるか、あるならどこか、だけです。声調言語については声調と絶対音感の記事もどうぞ。

06もっと知りたい人へ

  • ピッチアクセント(pitch accent)、アクセント核(accent nucleus / accent kernel)、無アクセント(accentless dialects)、類別語彙(Kindaichi's accent classes)、強勢アクセント(stress accent)
  • Haruo Kubozono (ed.) (2015) Handbook of Japanese Phonetics and Phonology. De Gruyter Mouton.
  • Shigeto Kawahara (2015) "The phonology of Japanese accent." In Kubozono (ed.) Handbook of Japanese Phonetics and Phonology, 445–492.
  • Mary E. Beckman (1986) Stress and Non-Stress Accent. Foris.
  • 木部暢子 (2010)「方言アクセントの誕生」『国語研プロジェクトレビュー』2
  • NHK放送文化研究所 編 (2016)『NHK日本語発音アクセント新辞典』NHK出版

07まとめ

「はし」は、書けば同じでも、声の高さで3つに言い分けられています。しかもその高低は、東京と大阪で入れ替わり、高低で区別しない地域まであります。

ふだん意識しない声の上がり下がりに、平安時代の京都の言葉から続く長い歴史がつまっています。出身地のちがう友だちと「箸が」「橋が」を言い比べてみてください。

よくある質問

「箸」「橋」「端」のアクセントはどう違いますか?

共通語では、「箸が」は「は」だけが高い高低低、「橋が」は「し」が高くて「が」で下がる低高低、「端が」は「しが」が高いまま下がらない低高高です(国立国語研究所の解説)。「が」まで言うと違いがはっきり出ます。

「橋」と「端」は同じアクセントですか?

単語だけを言うと、どちらも「低高」で同じです。違いが出るのは後ろに「が」がついたときで、橋は「が」で下がり、端は下がりません。この下がり目を言語学では「アクセント核」と呼びます。

大阪では「箸」と「橋」のアクセントが逆なのですか?

はい。大阪弁では、橋が高低、箸が低高、端が高高です(国立国語研究所の解説)。東京で「高低」と言えば箸ですが、大阪で「高低」と言えば橋で、高低がそっくり入れ替わっています。

日本語のアクセントは英語のアクセントと何が違いますか?

日本語の共通語は「どこで声の高さが下がるか」、英語は「どこを強く読むか」です。英語の record は名詞が前、動詞が後ろを強く読み、強く読まない音節では母音の音まで変わることがあります。日本語が単語の区別に使う高さは「高」と「低」の2段階だけです。

アクセントで区別される同音語は多いのですか?

多くはありません。1990年の調査の数字によると、音の並びが同じ単語の組のうち、高さで区別されるのは14%です。「はし」や「あめ(飴・雨)」のように高さで分かれる組は、むしろ少数派です。

無アクセントの地域とは何ですか?

高さで単語を区別しない地域です。福島や熊本の方言は単語ごとの決まった型がなく、同じ単語でもいろいろな高さで発音されます。2010年の実験では、無アクセント地域で育った人は、共通語の高低の違いを聞き分ける成績が低くなりました。

昔の日本語のアクセントはどうやって分かるのですか?

平安時代の終わりの漢和辞典『類聚名義抄』に、言葉の高低を示す点(声点)が書きこまれているからです。金田一春彦の説では、「石」「川」は平安時代の京都でもすでに「高低」で、いまの京都と同じでした。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJapanese has many words that sound the same but mean different things, and hashi is a famous example. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Japanese has many words that sound the same but mean different things, and hashi is a famous example. In standard Japanese, which grew out of the Tokyo dialect, speakers tell these words apart by pitch, or how high or low the voice is. Hashi meaning chopsticks starts high and then falls.

Hashi meaning bridge starts low and rises, and the voice drops on the small word that follows, such as ga. Hashi meaning edge rises and never drops. In Osaka, the pitch patterns for chopsticks and bridge are switched. English works in a different way. In record, the noun puts the stress on the first part and the verb puts it on the second.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本語には、音は同じでも意味が違う言葉がたくさんあり、「はし」は有名な例だ。東京の方言から生まれた共通語では、話し手はこうした言葉を、声の高さ、つまり声がどれだけ高いか低いかで区別する。箸の「はし」は高く始まって下がる。

橋の「はし」は低く始まって上がり、「が」のような後ろにつく小さな語で声が下がる。端の「はし」は上がって、下がらない。大阪では、箸と橋の高さの型が入れ替わっている。英語は別のしくみだ。record では、名詞は前の部分を、動詞は後ろの部分を強く言う。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. In standard Japanese, which hashi never drops in pitch?

Q3. Why does the writer mention the English word record?

重要単語

  • pitchB2
    名詞声や音の高さHer voice has a high pitch. 野球の「投げる」と同じつづり。音楽の「音程」の意味でも使い、perfect pitch は「絶対音感」。
  • stressB1
    名詞(発音の)強勢、強く言うところIn "banana," the stress is on the second syllable. 「心の負担」のストレスと同じ語。put stress on ~で「~を強調する」。
  • dialectB2
    名詞方言My grandmother speaks a dialect from northern Japan. アクセントは dia-(第1音節)。「なまり」だけなら accent を使う。
  • chopsticksA2
    名詞箸Can you eat noodles with chopsticks? 2本で1組なので複数形。「1膳」は a pair of chopsticks。
  • bridgeA2
    名詞橋We walked across the old bridge. bridge the gap で「差を埋める」。人と人の「橋渡し」の意味でも使う。
  • distinguishB2
    動詞区別する、見分けるIt is hard to distinguish between the twins. distinguish A from B で「AとBを区別する」。tell A from B と同じ意味で、入試頻出。
  • syllableB2
    名詞音節The word "water" has two syllables. 英語の強勢は音節ごとに置かれる。日本語の「拍」とは数え方が違うことがある。
共通語で「箸が」は「は」だけが高く、「橋が」は「し」が高くて「が」で下がる。ところが大阪では、橋が「高低」、箸が「低高」。高さの並びがそっくり入れ替わる。しかも福島などには、高低で単語を区別しない「無アクセント」の地域まである。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. 野口大斗 (2023) 英語にはアクセントがありますが、日本語にもあるのでしょうか, 国立国語研究所 ことば研究館「よくあることばの質問」kotoba.ninjal.ac.jp
  2. Kawahara S. (2015) The phonology of Japanese accent, in Kubozono H. (ed.) Handbook of Japanese Phonetics and Phonology, De Gruyter Moutondoi.org
  3. 木部暢子 (2010) 方言アクセントの誕生, 国語研プロジェクトレビュー 2doi.org
  4. 上野善道 (2006) 日本語アクセントの再建, 言語研究 130doi.org
  5. Utsugi A., Koizumi M., Mazuka R. (2010) The perception of non-native lexical pitch accent by speakers of 'accentless' Japanese dialects, Speech Prosody 2010doi.org
  6. Utsugi A., Koizumi M., Marushima A., Mazuka R. (2026) Incomplete lexical pitch accent representation in the standardization of accentless dialects in Japanese, Phonetica 83(5)doi.org
特設コーナー「言語学のマジか!?」 音のふしぎ(音声学・音韻論)の記事ですコーナーを見る →

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →