同じアメリカの音大で、中国語などを“すらすら話す”学生ほど絶対音感テストが高得点。血筋より言葉?

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中国語などを話す家庭で育てば、自分がすらすら話せなくても絶対音感テストの成績は高い
2009年の研究では、両親が中国語やベトナム語を話す学生でも、自分がすらすら話せない5人の成績は、英語などだけを話す学生とはっきりした差がなかった。
- 対象
- アメリカの音楽大学の学生など
- 規模
- 203人(東アジア系27人)+読み上げ実験36人(ベトナム語7・中国語15・英語14)
- 研究の種類
- 観察研究(全員参加の現地テスト)・読み上げ実験
- 確かさ
- ★★☆☆☆
同じ東アジア系の音大生でも、中国語やベトナム語をすらすら話す学生ほど絶対音感テストの成績が高かった。ただし人数は少なく、反対の結果もある。
ひとことで言うと音の高さで意味が変わる言葉を話していると、絶対音感が育ちやすいのかも!
もくじ
ピアノの音を1つ聞いただけで「今のはソ」と言い当てる絶対音感。アメリカやヨーロッパでは、持っている人は1万人に1人もいないと推定されています。
ところが、アメリカの同じ音楽大学で調べると、中国語やベトナム語を“すらすら話す”学生15人の多くが、36の音の名前を9割以上言い当てました。
しかも、同じ東アジア系の学生でも、家の言葉をあまり話せない学生の成績は、英語などだけを話す学生とはっきりした差がありませんでした。決め手は「血筋」より「話している言葉」かもしれない――そんな研究があります。
01声調言語ってなに? 「ma」が4つの意味になる
中国語(普通話)やベトナム語は、声調言語(tone language)と呼ばれます。音の高さや上がり下がりで、単語の意味が変わる言語です。
研究者のダイアナ・ドイチュ(カリフォルニア大学サンディエゴ校)は、中国語の「ma」を例に挙げています。
- 高く平らに言う(第1声):「母」
- 上がり調子(第2声):「麻」
- 下がってから上がる(第3声):「馬」
- 高いところから下がる(第4声):「ののしる」
つまり中国語の話し手は、赤ちゃんのころから音の高さと意味をセットで覚えていることになります。ドイチュは、これが「音の高さに名前をつける」絶対音感と同じ仕組みではないか、と考えました。
一方、英語は声調言語ではありません。英語の音の高さは、主に文の調子(イントネーション)に使われます。
02実験1:しゃべる声にも「絶対音感」があった?
最初の手がかりは、2004年に学術誌『ミュージック・パーセプション』に載った実験です。ほとんどが音楽の訓練をあまり受けていない人たちに、単語のリストを別々の日に読み上げてもらい、声の高さを比べました。
半音は、ピアノのとなり合う鍵盤(黒鍵もふくむ)の音の差です。その4分の1というと、ほんのわずかなずれです。研究チームは、声調言語の話し手は頭の中に、単語ごとの決まった声の高さを持っていると考えました。
03実験2:同じ音大、同じルーツで比べたら
では、音楽の絶対音感はどうでしょう。ドイチュらは2006年、北京の中央音楽学院とアメリカの音大の学生に同じテストを行い、中国の学生のほうが絶対音感を持つ人がずっと多いと報告しました。ただ、この比べ方では国も教育も遺伝的な背景もちがいます。
そこで2009年、ロサンゼルスの南カリフォルニア大学の音楽学部で、同じ学校の学生どうしを比べました。
白人の学生の点数の分布は、あてずっぽうで答えた場合(正解率12分の1)の分布とよく似ていて、90〜100%の人がほんの少し多いだけでした。
研究チームが注目したのは、東アジア系の27人は両親とも声調言語を話すので、全員が赤ちゃんのころから声調言語を耳にしていたはずだということです。それでも、自分ではすらすら話せない人には有利さが見られませんでした。チームは、声調言語を話し続けていることが大事なのだろう、と考えています。
さらに、「とても流ちょう」な15人のうち、アメリカ生まれか9歳より前に渡米した人と、それより後に来た人の成績にも、はっきりした差はありませんでした。音楽教育を受けた国のちがいでは説明できない、というのが研究チームの見方です。

04日本語はどうなの?
日本語は、中国語のような声調言語にはふつう数えられません。ただ、ドイチュらの論文は、日本語を高低アクセントの言語として挙げています。一部の単語で、音の高さの型が意味の区別に使われる言語です。
2004年の論文は、こうした言語で「声の高さそのもの」が単語の区別に効いているかは分からない、と書いています。日本語の話し手の声が、中国語の話し手のように日をまたいでも同じ高さにそろうのかは、この研究では調べられていません。
05どんでん返し:「耳のよさ」まで言葉で決まるわけではない
まず、2009年の研究は東アジア系の学生が27人と少なく、「話す力」も本人の答えによるものです。家庭の音楽環境など、ほかの条件までそろえたわけではありません。分かったのは「よく話す人ほど成績が高い」という関係までで、声調言語を話すことが絶対音感を生む原因だと実験で確かめたわけではありません。
さらに、別のチームの研究もあります。カナダの心理学者シェレンバーグとトレハブは2008年、カナダに住む9〜12歳の子どもで、中国系とヨーロッパ系を比べました。よく知っている曲の5秒の一部を、元の高さと、高さをずらしたものの2通りで聞かせ、元の高さを選ばせるテストです。音の名前は答えなくてよいテストでした。
結果、2つのグループの成績は同じくらいで、声調言語を知っているかどうかも成績に影響しませんでした。
つまり、声調言語の話し手が「音の高さを覚える力」そのものですぐれている、とまでは言えません。ちがいが出るのは、音の高さに名前をつけるところなのかもしれません。ドイチュらの2006年の論文も、ほかの研究を引いて、絶対音感を持たない人の多くが、名前を答えなくてよければ音の高さをかなり正確に覚えていると紹介しています。
06まとめ
音の高さで意味が変わる言葉を、毎日話していること。それが、音楽の音に名前をつける力と関係しているかもしれない――アメリカの同じ音大で比べた研究は、そんな可能性を示しました。
ただし、調べた人数は少なく、「音の高さを覚える力」そのものには差が出なかった研究もあります。言葉と音楽は、思ったより近いところでつながっているのかもしれない。そのくらいの距離感で受け止めておくのがよさそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbsolute pitch is the ability to name a musical note without hearing another note first.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Chinese, the word "ma" can mean "mother" or "horse." It depends on how high or low you say it. Languages like this are called tone languages. A team in the United States tested 203 students at one music school.
Each student heard 36 piano notes and wrote down the name of each note. Students who spoke Chinese or Vietnamese very well did the best. Many of them got at least 90 percent right.
74 words ・ CEFR A2
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中国語では、「ma」という単語が「母」にも「馬」にもなります。高く言うか低く言うかで決まるのです。このような言語は声調言語と呼ばれます。アメリカの研究チームが、ある音楽大学の学生203人をテストしました。
学生はピアノの音を36個聞き、1つずつその音の名前を書きました。中国語やベトナム語をとても上手に話す学生が、いちばん良い成績でした。その多くは9割以上正解しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
声調言語の話を出したあと、中国語やベトナム語を上手に話す学生が音名テストでいちばん良かったと述べているので B。
Q2. How many piano notes did each student hear?
Each student heard 36 piano notes とあるので B。203は学生の人数。
Q3. What is a "tone language" in the passage?
"ma" の意味が高く言うか低く言うかで変わる、こういう言語が tone languages だと説明しているので C。
Absolute pitch is the ability to name a musical note without hearing another note first. In the U.S. and Europe, fewer than one person in 10,000 is thought to have it. The psychologist Diana Deutsch wondered if language played a part. In tone languages such as Mandarin, the pitch of a word changes its meaning.
In one study, Mandarin speakers read a word list on two different days, and their voices stayed at almost the same pitch. Her team then tested 203 students at a music school in Los Angeles. Students of Chinese or Vietnamese heritage who spoke the language very fluently did best. Those who could understand it but not speak it well did no better than students who spoke only non-tone languages like English.
126 words ・ CEFR B1
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絶対音感とは、ほかの音を先に聞かなくても、楽器の音の名前を言える能力だ。アメリカやヨーロッパでは、持っている人は1万人に1人もいないと考えられている。心理学者のダイアナ・ドイチュは、言葉が関係しているのではないかと考えた。中国語のような声調言語では、単語の音の高さで意味が変わる。
ある研究では、中国語の話し手が単語のリストを別々の2日に読み上げたところ、声はほとんど同じ高さのままだった。次に彼女のチームはロサンゼルスの音楽大学で学生203人をテストした。中国系やベトナム系の学生のうち、その言語をとても流ちょうに話す人がいちばん良い成績だった。聞いて分かるが上手には話せない人は、英語のような声調のない言語だけを話す学生より良いわけではなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Diana Deutsch want to find out?
wondered if language plays a part とあり、絶対音感に言葉が関係しているかを調べたので A。
Q2. What happened when Mandarin speakers read the same words on two days?
their voices stayed at almost the same pitch とあるので C。
Q3. What does the result for students who could not speak the language well suggest?
同じ中国系・ベトナム系でも上手に話せない人は英語などだけを話す学生と同じくらいだったので、家族のルーツだけでは高得点を説明できないと考えられる。A。
Say "ma" in Mandarin with a high, level voice and it means "mother." Say it with a falling voice and it becomes a scolding word. Because pitch carries meaning in tone languages like this, the psychologist Diana Deutsch suspected that their speakers might find it easier to develop absolute pitch, the rare ability to name a musical note with no reference note.
A 2006 study had already found it far more common among students in Beijing than at a U.S. music school, but country, schooling and genes all differed between the groups. So in 2009 her team tested all 203 students they invited at a music school in Los Angeles.
Among the 27 students whose parents spoke Chinese or Vietnamese, those who said they spoke the language very fluently scored highest, and many named at least 90 percent of the 36 notes correctly. Those who could only understand it scored about the same as white students who spoke only non-tone languages. The groups were small, and fluency was self-reported. A Canadian study of children found no tone-language advantage when the children simply had to pick the original pitch of a familiar song.
192 words ・ CEFR B2
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中国語で「ma」を高く平らな声で言うと「母」という意味になる。下がる声で言うと、ののしる言葉になる。このような声調言語では音の高さが意味を運ぶので、心理学者のダイアナ・ドイチュは、その話し手は絶対音感を身につけやすいのではないかと考えた。
絶対音感とは、基準の音なしに楽器の音の名前を言える、めずらしい能力だ。2006年の研究ですでに、北京の学生のほうがアメリカの音楽大学の学生よりはるかに多く持っていることが分かっていたが、2つのグループでは国も学校教育も遺伝子もちがっていた。そこで2009年、彼女のチームはロサンゼルスの音楽大学で、声をかけた学生203人全員をテストした。
両親が中国語かベトナム語を話す27人のうち、その言語をとても流ちょうに話すと答えた学生がいちばん高い点をとり、その多くは36音の9割以上の名前を正しく言えた。聞いて分かるだけの学生は、声調のない言語だけを話す白人の学生とほぼ同じ点だった。グループは小さく、流ちょうさは自己申告だった。カナダで子どもを調べた研究では、よく知っている曲の元の高さを選ぶだけの課題では、声調言語による有利さは見られなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did Deutsch's team run the 2009 study?
2006年の比較では国・教育・遺伝子がちがっていたので、同じ学校で、両親が中国語かベトナム語を話す学生を話す力で分けて比べたとあるので B。
Q2. How did students who could only understand the language score?
Those who could only understand it scored about the same as white students who spoke only non-tone languages とあるので B。
Q3. What does the Canadian study suggest?
元の高さを選ぶだけ(音名は不要)の課題では声調言語の有利さが見られなかったので、有利さは音名をつけない課題では出ないのかもしれない、と読める。C。
重要単語
- absolute pitchC1名詞絶対音感She has absolute pitch, so she can name any note she hears.
absolute(絶対の)+pitch(音の高さ)。研究論文ではこちらの言い方がふつう。相対音感は relative pitch。 - perfect pitchB2名詞絶対音感(日常的な言い方)Do you have perfect pitch, or do you need to hear a C first?
absolute pitch と同じ意味で、会話ではこちらがよく使われる。 - pitchB2名詞音の高さHer voice rose in pitch when she got excited.
野球の「投球」、サッカーの「競技場」、売りこみの「ピッチ」など意味が多い多義語。 - tone languageC1名詞声調言語(音の高さで単語の意味が変わる言語)Vietnamese is a tone language.
tonal language とも言う。中国語・ベトナム語・タイ語などが代表例。 - fluentB2形容詞(言葉が)流ちょうな、すらすら話せるHe is fluent in both English and Mandarin.
be fluent in+言語 の形でよく使う。名詞は fluency、副詞は fluently。 - semitoneC1名詞半音C and C-sharp are a semitone apart.
semi-(半分)+tone(音)。アメリカ英語では half step とも言う。 - heritageB2名詞(受け継いだ)文化的背景、ルーツMany students at the school have Chinese heritage.
world heritage site「世界遺産」の heritage と同じ語。「受け継がれたもの」が元の意味。
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- Absolute Pitch(ダイアナ・ドイチュ教授の解説ページ、カリフォルニア大学サンディエゴ校)deutsch.ucsd.edu
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絶対音感と「話す言葉」の関係。アメリカの同じ音大で調べると、中国語やベトナム語をすらすら話す学生15人の多くは36音の音名テストで9割以上正解。同じ東アジア系でも、あまり話せない学生は英語などだけを話す学生とはっきりした差がなかった。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Deutsch, D., Dooley, K., Henthorn, T., & Head, B. (2009) Absolute pitch among students in an American music conservatory: Association with tone language fluency, The Journal of the Acoustical Society of America 125(4)doi.org
- Deutsch, D., Henthorn, T., & Dolson, M. (2004) Absolute pitch, speech, and tone language: Some experiments and a proposed framework, Music Perception 21(3)doi.org
- Deutsch, D., Henthorn, T., Marvin, E., & Xu, H.-S. (2006) Absolute pitch among American and Chinese conservatory students: Prevalence differences, and evidence for a speech-related critical period, The Journal of the Acoustical Society of America 119(2)doi.org
- Schellenberg, E. G., & Trehub, S. E. (2008) Is there an Asian advantage for pitch memory? Music Perception 25(3)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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