このままだと今世紀末、母語として話す人のいない言語が1500を超える。日本にもユネスコが挙げた「危機言語」が8つ

読む前に予想してみよう!
ほかの言語とたくさん接している言語ほど、消えやすい
2022年の研究では、接する言語が多いほど危機の度合いはむしろ低かった。危機と結びついていたのは、道路の多さや学校に通う年数などだった。
- 対象
- 世界の話し言葉
- 規模
- 6,511言語・51の要因
- 研究の種類
- 統計モデルによる分析と将来予測
- 確かさ
- ★★★☆☆
6,511言語を分析した研究は、手を打たなければ今世紀末には母語として話す人のいない言語が少なくとも1,500になると予測。日本でもアイヌ語など8言語が危機にある。
ひとことで言うとこのままだと、今世紀の終わりには、母語として話す人のいないことばが1500をこえるかも!
世界で記録されている言語は、およそ7,000。そのうち半分近くが「危機にある」と考えられています。
しかも、このままいけば、今世紀の終わりには、母語として話す人のいない言語が少なくとも1,500になる——。2022年、そんな予測が学術誌『Nature Ecology & Evolution』に発表されました。
遠い国の話ではありません。日本にも、ユネスコが「消滅の危機にある」と挙げた言語が8つあるのです。
01生き物の「絶滅」の手法で、言語の未来を予測
予測したのは、オーストラリア国立大学のリンデル・ブロムハム(Lindell Bromham)さんたちのチーム。ブロムハムさんの所属は同大学の生物学の研究部門で、生き物の分布や絶滅を地球規模で調べる「マクロ生態学(macroecology)」の考え方と統計手法を、言語にあてはめました。
論文は、生き物と比べるとどうかも書いています。いま絶滅の危機にあるのは、両生類で約40%、哺乳類で約25%、鳥類で約14%。言語の「半分近く」がいかに大きいかがわかります。
ちなみに、母語として話す人がいなくなった言語を、この論文は Sleeping(眠っている) と呼びます。「死んだ(dead)」ではなく「眠っている」。危機言語の話し手の多くが、この言い方を好むからです。
02犯人は「ほかの言語」じゃなかった
ここが、この研究のいちばん意外なところ。
ほかの言語と触れ合うと、強い言語にのみこまれて消える——ふつうはそう考えますよね。ところが分析では、まわりに接している言語が多いほど、危機の度合いはむしろ低かったのです。ふだんから近くの先住民の言語の話し手と付き合っている人たちは、自分の母語を手放さないまま、いくつもの言語を使えるようになることがある——著者らはそう考えています。
かわりに危機と結びついていたのは、次のような要因でした。
- 母語として話す人の数
- 道路の多さ:遠くの村と町がつながり、商売や中央の政府の影響、共通語が入りやすくなるためと考えられている
- 学校に通う平均年数:長いほど危機が高い。とくに2つの言語で学ぶ教育(bilingual education)が支えられていない場合に、学校が少数言語を弱める例が報告されている

03日本の8つの危機言語
日本はどうでしょう。文化庁によると、ユネスコが2009年2月に発表した『Atlas of the World's Languages in Danger』(第3版)には、世界で約2,500の言語が消滅の危機にあるとして載っています。日本の言語は次の8つです。
- 極めて深刻(critically endangered):アイヌ語
- 重大な危機(severely endangered):八重山語、与那国語
- 危険(definitely endangered):八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語
国立国語研究所は、この8つを「アイヌ語、八丈語、6つの琉球諸語」とまとめています。なお、ユネスコは「言語」と「方言」を区別しません。日本では一般に、アイヌ語以外の7つは「方言」と呼ばれています。
「沖縄方言」も、ユネスコの分類では立派な「危機言語」の一つ。これは今日だれかに話したくなるネタです。
04守る取り組みは、もう始まっている
ブロムハムさんたちは、予測は「死の宣告」ではなく、何もしなかった場合の可能性だと強調しています。
- 沖永良部島(鹿児島県):島のことば「シマムニ」は、国頭語に含まれる地元のことば。国頭語は「家庭で子どもが母語として学ばなくなった(children no longer learn the language as a mother tongue in the home)」として「危険」に分類されています。ユネスコの記事(2024年)は、島生まれの夫婦と4人の子どもの一家が、シマムニで歌ったり日記をつけたりしながら毎日海岸を清掃し、シマムニを学べる「シマムニ・サロン」にも参加している様子を紹介しています
- アイヌ語:2019年にアイヌ施策推進法が施行され、指定法人によるアイヌ語指導者の育成、教材づくり、講座や弁論大会などが支援されています。2020年7月には北海道白老町に「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が開業しました
- 記録:国立国語研究所は「消滅危機言語の保存研究」を進め、危機言語の音声を公開しています
- 世界では:国連総会は2022〜2032年を先住民族の言語のための「国際の10年(International Decade of Indigenous Languages)」と定め、ユネスコが中心になって取り組んでいます
05どんでん返し:数字はどこまで信じていい?
よく「1世紀で世界の言語の9割が消える」という話を聞きます。ブロムハムさんたちの論文も、そうした最も悲観的な予測があると紹介しています。でも、彼らのモデルの答えは「少なくとも1,500」。6,511言語で割ると4〜5つに1つほどで、9割よりずっと控えめです。
一方で、この予測は「控えめに見積もった」ものでもあります。いま子どもに受け継がれている言語は、将来あぶなくなるかもしれなくても計算に入れていないからです。
さらに、言語ごとに危機の度合いはばらばらですが、そのばらつきのうちモデルで説明できたのは34%だけ。自分の言語を話すと罰せられた、子どもが親から引き離された、といった過去の出来事は、今のデータではとらえきれません。学校教育の年数も多くの地域で国ごとの平均値しかなく、分析が示したのは「結びつき」です。「学校のせいで言語が消える」とまで言い切れるわけではないのです。
06まとめ
ことばが消えるのは、人がいなくなるからとは限りません。多くは、別のことばに乗りかえて親が子に話さなくなることで起きます。逆に言えば、話す人がいるうちなら、記録も、教え合うことも、まだ間に合います。
あなたのおじいさん・おばあさんの話すことばにも、あなたしか受け継げない単語があるかもしれません。今度、「これ、昔は何て言ったの?」と聞いてみませんか。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA team led by Lindell Bromham at the Australian National University studied 6,511 languages and 51 factors…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
There are about 7,000 known languages in the world, and nearly half of them are in danger. A study from 2022 looked at 6,511 languages. It says that by the end of this century, at least 1,500 languages may have no native speakers if nobody helps them.
Japan has eight endangered languages, such as Ainu and Okinawan. Some people are working hard to pass these languages on to children.
69 words ・ CEFR A2
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世界には約7,000の知られている言語があり、そのほぼ半分が危機にあります。2022年のある研究は、6,511の言語を調べました。その研究によると、だれも助けなければ、今世紀の終わりまでに少なくとも1,500の言語で母語として話す人がいなくなるかもしれません。
日本には、アイヌ語や沖縄語など、危機にある言語が8つあります。これらの言語を子どもたちに伝えようと、一生懸命に取り組んでいる人たちもいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
危機にある言語と、今世紀中に話者がいなくなるかもしれない言語の数が中心なので B。
Q2. How many languages did the 2022 study look at?
A study from 2022 looked at 6,511 languages とあるので B。1,500 は予測される数、7,000 は世界の言語の数。
Q3. What does "endangered" mean in the passage?
前の文の in danger(危機にある)と同じ意味で使われているので C。
A team led by Lindell Bromham at the Australian National University studied 6,511 languages and 51 factors that might affect them. Their model predicts that, without action, the loss of languages will at least triple in the next 40 years. By the end of this century, at least 1,500 languages could have no first-language speakers left. The team also found something unexpected. Languages that touch many other languages were actually less endangered.
Instead, more roads and more years of schooling went along with higher risk. In Japan, UNESCO lists eight endangered languages, including Ainu, Hachijo and six Ryukyuan languages. Ainu is in the most serious group, called critically endangered.
109 words ・ CEFR B1
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オーストラリア国立大学のリンデル・ブロムハムが率いるチームは、6,511の言語と、それらに影響しそうな51の要因を調べた。彼らのモデルは、何も手を打たなければ、言語の消失は今後40年で少なくとも3倍になると予測している。今世紀の終わりには、母語として話す人が一人もいない言語が少なくとも1,500になる可能性がある。チームは意外なことも見つけた。多くのほかの言語と接している言語は、実はむしろ危機の度合いが低かったのだ。
かわりに、道路の多さや学校に通う年数の長さが、より高い危険と結びついていた。日本では、ユネスコがアイヌ語、八丈語、6つの琉球諸語の8つを危機言語として挙げている。アイヌ語は「極めて深刻」と呼ばれる最も深刻なグループに入っている。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the model predict for the next 40 years?
the loss of languages will at least triple in the next 40 years とあるので B。
Q2. What was unexpected about contact with other languages?
Languages that touch many other languages were actually less endangered とあるので A。
Q3. Which statement about Japan is true according to the passage?
Ainu is in the most serious group, called critically endangered とあるので C。日本の危機言語は8つなので D は誤り。
The gloomiest forecasts say nine in ten languages could vanish within a century. A 2022 study in Nature Ecology & Evolution offers a more careful figure. Lindell Bromham's team, based in a biology school, took statistical tools used to study the extinction of species and applied them to 6,511 languages and 51 possible threats. Without new support, they estimate, at least 1,500 languages will have no first-language speakers by the end of the century.
The team calls such languages "sleeping" rather than dead, a term many speakers prefer. Contact with neighboring languages did not predict danger. Road density and average years of schooling did, and other work finds schools do the most harm where bilingual education is weak. These links are correlations, and the schooling data exist mostly as national averages, so they do not show that schools alone cause loss.
The model also explains only about a third of the variation between languages. In Japan, UNESCO's 2009 atlas listed Ainu as critically endangered and seven other languages as endangered to some degree. On Okinoerabu Island, one family sings and keeps diaries in Shimamuni, a local form of Kunigami, and joins a salon where people can learn it.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
最も悲観的な予測は、1世紀のうちに言語の10のうち9が消えうるとしている。2022年に『Nature Ecology & Evolution』に載った研究は、より慎重な数字を示している。生物学の研究部門に拠点を置くリンデル・ブロムハムのチームは、生物種の絶滅を研究するための統計手法を、6,511の言語と51の想定される脅威にあてはめた。彼らの推定では、新たな支援がなければ、今世紀末には母語話者のいない言語が少なくとも1,500になる。
チームはそうした言語を「死んだ」ではなく「眠っている」と呼ぶ。多くの話し手が好む言い方だ。近隣の言語との接触は危機を予測しなかった。予測したのは道路の密度と学校に通う平均年数で、ほかの研究では、学校がいちばん害を与えるのは2言語教育が手薄な場所だとわかっている。これらの関連は相関であり、学校教育のデータはほとんどが国ごとの平均値なので、学校だけが言語の消失を引き起こすことを示すものではない。
また、このモデルが説明できるのは、言語どうしの違いのおよそ3分の1にすぎない。日本では、ユネスコの2009年の地図帳がアイヌ語を「極めて深刻」、ほかの7つの言語をさまざまな程度の危機にあるとして挙げた。沖永良部島では、ある一家が国頭語の地元のことばであるシマムニで歌い、日記をつけ、人々がシマムニを学べるサロンに参加している。
4択リーディングクイズ
Q1. How does the 2022 forecast compare with the gloomiest ones?
「10のうち9」という悲観的予測に対し、offers a more careful figure として「少なくとも1,500」を示しているので B。
Q2. Why does the writer say the results do not show that schools alone cause language loss?
These links are correlations, and the schooling data exist mostly as national averages とあるので C。
Q3. Why does the team use the word "sleeping"?
a term many speakers prefer とあるので B。
重要単語
- endangeredB2形容詞絶滅の危機にあるAinu is listed as a critically endangered language.
danger(危険)に en-(〜にする)と -ed。endangered species「絶滅危惧種」と同じ語で、言語にも使う。 - mother tongueB1名詞母語Children no longer learn the language as their mother tongue.
first language(第一言語)とほぼ同じ意味。tongue は「舌」のほかに、やや文語的に「言語」の意味もある。 - bilingualB2形容詞2つの言語を使うThe school started a bilingual program in English and Spanish.
bi-(2つの)+ lingual(言語の)。bicycle(二輪車)の bi- と同じ。3つなら trilingual。 - revitalizeC1動詞よみがえらせる、再び活気づけるThe town is trying to revitalize its local language.
re-(再び)+ vital(生き生きした)+ -ize。名詞 revitalization は危機言語の話でよく使われる。 - generationB1名詞世代Stories were passed down from generation to generation.
from generation to generation「代々」。pass down ~「(次の世代に)伝える」とセットで覚えると便利。 - documentB2動詞記録するLinguists document languages by recording elderly speakers.
名詞「書類」でおなじみだが、動詞では「(記録に)残す」。名詞 documentation は「記録すること・記録資料」。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- 日本の危機言語(国立国語研究所の音声データ公開サイト)kikigengo.ninjal.ac.jp
- International Decade of Indigenous Languages 2022-2032(UNESCO)unesco.org
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6,511の言語を分析した研究によると、手を打たなければ今世紀末には、母語として話す人のいない言語が1,500を超えるらしい。意外にも「ほかの言語との接触」そのものは原因ではなかった。日本でもアイヌ語など8言語が危機に。
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※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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