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「日本人は返事までの間が長い」は逆だった。10言語の会話を測ると、日本語の平均は0.007秒で最短

「日本人は返事までの間が長い」は逆だった。10言語の会話を測ると、日本語の平均は0.007秒で最短

読む前に予想してみよう!

10言語の会話を比べた研究で、質問への返事までの平均の「間」がいちばん長かったのは日本語だった

研究カード(どんな研究?)
対象
5大陸10言語の日常会話(録画)
規模
1言語あたり350の「はい・いいえ」質問、計101の会話
研究の種類
言語間比較(会話の録画を測定・分析)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

会話の「間」は世界でほぼ共通だった。10言語の「はい・いいえ」質問への返事を測ると、どの言語も0〜0.2秒がいちばん多く、平均がいちばん短かったのは日本語(0.007秒)だった。

ひとことで言うと10の言語で会話の「間」を測ったら、日本語がいちばん返事が早かったんだって!

もくじ
  1. 会話の「間」は言語でどれくらい違う? 10言語で測った
  2. 「北欧は沈黙が長い」も、測ると0.5秒以内
  3. 話すのに0.6秒かかるのに、0.2秒で返せるのはなぜ?
  4. 「間」が長いと、答えがバレる
  5. どんでん返し:差は小さい。でも「感じ方」はちゃんと違う
  6. まとめ

「日本人は、会話で返事をする前の“間”が長い」

そんなイメージを聞いたことはありませんか。実際、文化人類学などの報告には「日本人は答える前に長く黙る」と書かれたものがありました。

ところが、世界の10言語の会話を録画して、質問から返事までの時間を細かく測った研究があります。結果は逆でした。質問への返事までの間が平均でいちばん短かったのは日本語で、たった0.007秒。さらに、どの言語でも人は「ほとんど間を空けずに」返事をしていたのです。

01会話の「間」は言語でどれくらい違う? 10言語で測った

この研究は、オランダのマックス・プランク心理言語学研究所などの研究者たちが、2009年に学術誌『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』に発表しました。

「はい・いいえ」の質問を選んだのは、どの言語にもあって、答え方がシンプルだからです。10言語の質問のうち、67%がこの形でした。

研究者たちによると、各言語の平均は、全体の平均から前後およそ0.25秒の幅に収まっていました。0.25秒は、英語の音節を1つ言うくらいの長さです(音節は音のまとまりで、たとえば cat は1音節)。

02「北欧は沈黙が長い」も、測ると0.5秒以内

この研究が確かめたかったのは、文化人類学の報告に書かれてきた「言語によって会話の間がまるで違う」という話です。

たとえば、論文の冒頭ではフィンランドのハメ地方について、こんな話が紹介されています(1985年の「沈黙」についての研究書から引用されたものです)。仕事に向かう朝、兄弟の一人が「ここでナイフをなくしたんだ」と言うと、もう一人が夕方の帰り道で「ナイフって言った?」と返した――。反対に、話をかぶせるのが当たり前とされる文化の報告もありました。

フィンランド語はこの研究に入っていませんが、同じ北欧のデンマーク語を含む10言語を測ってみると、こうでした。

  • デンマーク語:平均は10言語で最長。それでも0.469秒で、0.5秒に届かない。いちばん多かったのは0.1秒の返事
  • イタリア語:「かぶせて話す」と言われがちだが、平均は0.31秒と、むしろ全体の平均より少し長い。話が重なった返事は17%だけ
  • 日本語:「答える前に長く黙る」と言われてきたが、平均は0.007秒で最短

人はどの言語でも、「相手にかぶせない」と「沈黙を短くする」を同時にねらって話していたのです。

10言語のどれでも、返事は「0〜0.2秒」がいちばん多かった(Stivers ら 2009 の結果をもとにしたイメージ)
10言語のどれでも、返事は「0〜0.2秒」がいちばん多かった(Stivers ら 2009 の結果をもとにしたイメージ)

03話すのに0.6秒かかるのに、0.2秒で返せるのはなぜ?

ここで不思議なことがあります。言葉を思いついて口に出すまでには、0.6秒以上かかることが心理学の実験で分かっています。なのに会話では、0.2秒ほどで返事が始まります。

レビンソンさんとトレイラさんは2015年の総説で、この差から考えると、聞き手は相手の話が終わるタイミングを予測し、聞きながら返事の準備をしているはずだ、と論じました。英語で言えば、相手が "Are you coming to the..." と言いかけた時点で、もう "Yes!" の準備を始めているわけです。

レビンソンさんの2016年の総説によると、この順番交代のしくみは、赤ちゃんが言葉を使いこなせるようになるより前に現れます。また、霊長類(サルや類人猿のなかま)の主なグループのどれにも見られるそうです。言葉の進化を考える手がかりになるかもしれない、というのです。

04「間」が長いと、答えがバレる

返事の速さには、ちゃんと意味があります。10言語の研究では、次の傾向がどの言語でも見られました。

  • 「はい(その通り)」の返事は、「いいえ(違う)」の返事より速い。差は平均0.1〜0.5秒で、10言語中7言語ではっきりした差になった
  • 「分からない」のように質問にきちんと答えない返事は、答える返事より遅い
  • うなずきなど体を使った返事は、声だけの返事より速い

英語の電話の会話を調べた研究(2015年)もあります。誘い・申し出・お願いなどへの返事195件を分析すると、返事が約0.7秒より遅れたときは、「断り」など相手の望まない返事のほうが多くなりました。ただし、断りの多くはすぐに返ってきていて、それより短い間では、断りと引き受けにはっきりした差はありませんでした。また、断りの返事の約3割は "Well," で始まっていました(引き受ける返事では約5%)。

速い返事は、相手との「気持ちの通じ合い」にもつながっていました。アメリカのダートマス大学の2022年の研究では、大学生66人が計322回、10分ずつ、多くは初対面の相手と自由に話しました。相手の返事が速い会話ほど「通じ合えた」と感じていました。さらに、同じ会話の録音の「間」だけを5分の1に縮めたり2倍に延ばしたりして450人に聞かせると、間が短いほうが「2人は通じ合っている」と判断されたのです。

05どんでん返し:差は小さい。でも「感じ方」はちゃんと違う

では、言語による違いはゼロなのでしょうか。そうではありません。

日本語の0.007秒とデンマーク語の0.469秒では、約0.46秒の差があります。研究者たちは、話の流れから見て「遅れていない」と判断された返事だけの平均も出しました。デンマーク語とラオ語では約0.2秒(203ミリ秒と202ミリ秒)だったのに対し、日本語は0.036秒、ツェルタル語は0.083秒でした。

つまり、デンマーク語ではふつうの「0.2秒の沈黙」が、日本語の会話では「あれ、遅いな」と感じられるかもしれないのです。研究者たちは、人は0.1秒ほどのずれにもとても敏感になるので、外から来た人はこの小さな違いを「北欧の人はものすごく黙る」のように大きく感じてしまうのだろう、と考えています。

また、この研究が測ったのは、くだけた会話での「はい・いいえ」質問への返事だけです。会議や面接のようなかしこまった場面、ほかの種類の質問でも同じかどうかは、この研究からは分かりません。データも1言語あたり5〜17の会話から集めた350問ずつなので、その言語を話す人すべての平均とまでは言えません。日本語の会話では質問する人が相手を見ている割合が88%と高く、相手を見ながら聞かれた質問には返事が速くなる傾向もありました。

06まとめ

「日本人は返事までの間が長い」という思い込みは、少なくともくだけた会話での「はい・いいえ」の質問への返事では当てはまりませんでした。日本語の平均はわずか0.007秒。そして世界の10言語どれでも、人はほとんど間を空けずに会話のバトンを渡していました。

ただし、0.1秒の違いでも人は敏感に感じとります。英語で話すときは、黙りこむより "Hmm," と一言。それだけで「考え中です」が伝わります。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2009, a team of language researchers studied video recordings of everyday conversations in 10 languages. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 2009, a team of language researchers studied video recordings of everyday conversations in 10 languages. The list ran from Japanese and English to languages spoken in small communities in Namibia and Papua New Guinea. The team collected 350 yes-or-no questions in each language.

Then they measured the time between the end of each question and the start of the answer. They found the same pattern everywhere. People tried not to talk over each other, and they also kept silences short.

The average gap for all the languages was about 0.2 seconds. Japanese had the shortest average, only 0.007 seconds, even though some writers had described Japanese speakers as slow to reply. Danish had the longest, at 0.469 seconds.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2009年、言語の研究者のチームが、10の言語の日常会話の録画を調べた。言語は、日本語や英語から、ナミビアやパプアニューギニアの小さな共同体で話される言語までさまざまだった。チームは各言語で「はい・いいえ」で答える質問を350個ずつ集めた。

そして、質問が終わってから返事が始まるまでの時間を測った。どこでも同じパターンが見つかった。人は相手の話にかぶせないようにし、同時に沈黙も短くしていた。全言語の平均の間は約0.2秒だった。

平均がいちばん短かったのは日本語でわずか0.007秒。日本語の話し手は返事が遅いと書いた人もいたのに、である。いちばん長かったのはデンマーク語で、0.469秒だった。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers measure?

Q2. What was the average gap for all the languages?

Q3. What does the result about Japanese show?

重要単語

  • turn-takingC1
    名詞(会話の)順番交代Turn-taking in conversation happens very quickly. take turns「交代でする」から。It's your turn.「君の番だよ」の turn と同じ。
  • pauseB1
    名詞・動詞間、短い沈黙;ひと休みするThere was a short pause before she answered. 動画の「一時停止」ボタンも pause。a long pause「長い沈黙」。
  • overlapB2
    動詞・名詞重なる;重なりOur voices overlapped, and we both laughed. 二人の声が「かぶる」ときに使う。人の話にかぶせて話すことは talk over someone とも言う。
  • respondB1
    動詞返事をする、反応するHe responded with a quick nod. 名詞は response。respond to ~「~に答える」の to を落としやすいので注意。
  • hesitateB1
    動詞ためらう、口ごもるShe hesitated, so I guessed the answer was no. Don't hesitate to ask.「遠慮なく聞いてね」は手紙やメールの定番表現。
  • predictB1
    動詞予測するGood listeners can predict when a sentence will end. pre(前に)+dict(言う)。dictionary の dict と同じ「言う」の語根。
  • refusalB2
    名詞断り、拒否His long silence felt like a refusal. 動詞は refuse「断る」。refuse to do「~するのを拒む」の形でよく出る。

4コマでわかる

「日本人は返事までの間が長い」は逆だった。10言語の会話を測ると、日本語の平均は0.007秒で最短の4コマ漫画
「日本人は返事までの間が長い」は逆だった。10言語の会話を測った研究で、はい・いいえ質問への返事までの平均は日本語が0.007秒で最短、最長のデンマーク語でも0.469秒。人は世界中で、ほぼ間を空けずに返事をしていた。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Stivers, T., Enfield, N. J., Brown, P., Englert, C., Hayashi, M., Heinemann, T., Hoymann, G., Rossano, F., de Ruiter, J. P., Yoon, K.-E., & Levinson, S. C. (2009) Universals and cultural variation in turn-taking in conversation, PNAS 106(26)doi.org
  2. Levinson, S. C., & Torreira, F. (2015) Timing in turn-taking and its implications for processing models of language, Frontiers in Psychology 6doi.org
  3. Levinson, S. C. (2016) Turn-taking in Human Communication – Origins and Implications for Language Processing, Trends in Cognitive Sciences 20(1)doi.org
  4. Kendrick, K. H., & Torreira, F. (2015) The Timing and Construction of Preference: A Quantitative Study, Discourse Processes 52(4)doi.org
  5. Templeton, E. M., Chang, L. J., Reynolds, E. A., Cone LeBeaumont, M. D., & Wheatley, T. (2022) Fast response times signal social connection in conversation, PNAS 119(4)doi.org

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