赤ちゃんの泣き声に“お国なまり”? 生後2〜5日、フランスの子は上がり調子、ドイツの子は下がり調子が多め

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生まれて数日の赤ちゃんの泣き声は、どの国でもまったく同じ調子だと確かめられている
2009年の研究では、フランスの新生児は上がり調子、ドイツの新生児は下がり調子の泣き声が多かった。ただし、別の研究チームからは疑問の声も出ている。
- 対象
- フランスとドイツの新生児(生後2〜5日)
- 規模
- 60人・有声の泣き声1,254個
- 研究の種類
- 泣き声の音響分析(観察研究)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
生後2〜5日のフランスとドイツの赤ちゃん60人の泣き声を分析。フランスの子は上がり調子、ドイツの子は下がり調子が多かった。ただし反論もある。
ひとことで言うと生まれて数日の赤ちゃんの泣き方に、お母さんの言葉のクセが出ているかも!
「オギャー」と泣く赤ちゃん。その泣き声に、もう「お国なまり」があるかもしれません。
2009年、ドイツとフランスの研究チームが、生まれて2〜5日の赤ちゃん60人の泣き声を分析しました。すると、フランスの赤ちゃんは「上がり調子」、ドイツの赤ちゃんは「下がり調子」で泣くことが多かったのです。
まだ一言もしゃべれない赤ちゃんが、お腹の中で聞いていた母語(家族が話す言葉)の「メロディー」を、泣き声でまねているのでは――。研究チームはそう考えました。ただし、この話には反論もあります。順番に見ていきましょう。
01赤ちゃんの泣き声に「なまり」はある?
ここで言う「なまり」は、発音や単語のことではありません。声の高さが上がったり下がったりするメロディー(イントネーション)のことです。英語では、話し方のクセを accent、声の上がり下がりを intonation と言います。
生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声は、ふつう「高くなって、また低くなる」山形をしています。研究チームが調べたのは、その山のてっぺんが、泣き声の前のほうに来るか、後ろのほうに来るかでした。
- てっぺんが後ろ寄り → ゆっくり上がって急に下がる「上がり調子」
- てっぺんが前寄り → 急に上がってゆっくり下がる「下がり調子」
02フランス語は上がって、ドイツ語は下がる
では、なぜこの違いが「なまり」なのでしょう。
論文によると、フランス語は単語や句の終わりに向かって声が上がるのが特徴です(文の最後だけは下がる)。一方ドイツ語は、強く言う音節から句の終わりに向かって声が下がっていく形が典型です。赤ちゃんの泣き声の違いは、ちょうどそれぞれの言語のメロディーと同じ向きだったのです。
研究チームは、赤ちゃんが妊娠の終わりごろ、お腹の中で聞いた言葉のメロディーを覚え、それを自分の泣き声でまねていると考えました。お腹の中では、言葉の細かい発音はくぐもって届きにくい一方、声の上がり下がりはよく届くからです。

また、泣き声が「息を吐く勢い」だけで決まるなら、吐く息はだんだん弱くなるので、泣き声はいつも下がり調子になるはずです。ところがフランスの赤ちゃんは、上がり調子の泣き声を多く出していました。研究チームは、生まれたばかりの赤ちゃんでも、息とのどを合わせて声の高さをコントロールできている証拠だと見ています。
03お腹の中で「母語」を聞いている
赤ちゃんがお腹の中で言葉を聞いているという研究は、ほかにもあります。
2013年の研究では、スウェーデンとアメリカで生まれた赤ちゃん計80人(平均生後33時間)に、おしゃぶりを吸うと母音が聞こえるしかけを使いました。赤ちゃんは、聞き慣れない外国語の母音のほうを、よりたくさん吸って聞こうとしたのです。生まれてからの時間(7〜75時間)は結果に影響していませんでした。研究者は、お腹の中で聞いた言葉が、母音の聞こえ方にまで影響していると考えています。
では日本の赤ちゃんは? 2009年の研究に日本の新生児は入っていません。ただ、1991年の研究では、1歳半ごろのフランスの子ども4人と日本の子ども4人の「2音節の声(喃語や単語)」を比べ、フランスの子は上がり調子、日本の子は下がり調子が多かったと報告されています。大人の日本語・フランス語のメロディーと同じ傾向です。
04どんでん返し:「数え方」で差が消える?
ここまで読むと「赤ちゃんはもう母語で泣く」と言い切りたくなります。でも、話はそう単純ではありません。
2017年、別の研究チームが、中国語の環境で生まれた赤ちゃんと、英語の環境で生まれた赤ちゃんの泣き声を比べました。すると、泣き声1つ1つを別々のデータとして数えると、統計で「偶然ではない」と判定される差がいくつも出たのに、同じ赤ちゃんの泣き声をまとめて扱うと、差はほとんど消えてしまったのです。
赤ちゃんの泣き声には、一人ひとり指紋のようなクセがあります。同じ子の泣き声を何十個も「別々の証拠」として数えると、本当はない差まで「ある」ように見えてしまう、というわけです。このチームは、新生児が周りの言語に合わせて泣き方を変えるという主張そのものに疑問を投げかけました。
一方、2009年の研究にも加わった研究者を含むグループは、2017年に、声調のある中国語の環境の赤ちゃんと、ドイツ語の環境の赤ちゃん計102人(生後1週間以内)の泣き声6,480個を、赤ちゃんごとに平均してから比べました。その結果、中国語グループのほうが声の高さの揺れ幅が大きかったと報告しています。
つまり、「赤ちゃんの泣き声に母語のなまりがあるか」は、まだ決着していない問いなのです。
05まとめ
生後2〜5日のフランスの赤ちゃんは上がり調子、ドイツの赤ちゃんは下がり調子で泣くことが多かった。お腹の中で聞いた言葉のメロディーが、生まれてすぐの泣き声に表れている可能性があります。
ただ、泣き声の数え方しだいで差が消えるという反論もあり、「赤ちゃんは母語で泣く」と言い切れる段階ではありません。「なまっているかもしれない」くらいが、いまの科学の正直な答えです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCan a baby have an accent before it says a single word?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Babies start crying as soon as they are born. But do all babies cry in the same way? In a 2009 study, scientists checked the cries of 60 babies who were two to five days old.
Half of them had French-speaking parents, and half had German-speaking parents. The French babies often cried with a rising sound. The German babies often cried with a falling sound. The scientists think the babies learned this from the language they heard before birth.
79 words ・ CEFR A2
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赤ちゃんは生まれるとすぐに泣き始めます。でも、すべての赤ちゃんが同じように泣くのでしょうか。2009年の研究で、科学者たちは生後2〜5日の赤ちゃん60人の泣き声を調べました。
半分はフランス語を話す親の子どもで、もう半分はドイツ語を話す親の子どもでした。フランスの赤ちゃんは上がっていく声で泣くことが多く、ドイツの赤ちゃんは下がっていく声で泣くことが多かったのです。科学者たちは、赤ちゃんが生まれる前に聞いていた言葉からこれを身につけたと考えています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フランス語の家とドイツ語の家の赤ちゃんで泣き方が違った、という話なので B。泣く回数の多さの話ではない。
Q2. How old were the babies in the study?
60 babies who were two to five days old とあるので D。
Q3. In the passage, what does "a rising sound" mean?
rise は「上がる」。a rising sound は「上がっていく声」で、反対の a falling sound と対になっているので A。
Can a baby have an accent before it says a single word? A team of researchers in Germany and France tried to find out. They studied the cries of 30 French and 30 German newborns, all between two and five days old.
A newborn's cry usually goes up and then comes down, like a small hill. The team looked at where the top of that hill was. For the French babies, the highest point tended to come later, so their cries had a rising shape.
For the German babies, it tended to come earlier. This fits the way each language sounds. French speech often rises toward the end of a phrase, while German speech usually falls. The researchers believe the babies picked up these patterns in the womb.
128 words ・ CEFR B1
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赤ちゃんは、一言もしゃべらないうちから「なまり」を持てるのだろうか。ドイツとフランスの研究チームがそれを確かめようとした。彼らは、すべて生後2〜5日のフランスの新生児30人とドイツの新生児30人の泣き声を調べた。
新生児の泣き声はふつう、小さな丘のように上がってから下がる。チームは、その丘のてっぺんがどこにあるかを見た。フランスの赤ちゃんでは、いちばん高い点が後ろのほうに来る傾向があり、泣き声は上がり調子の形になった。
ドイツの赤ちゃんでは、それが前のほうに来る傾向があった。これは、それぞれの言語の話し方に合っている。フランス語の話し声は句の終わりに向かって上がることが多く、ドイツ語の話し声はふつう下がっていく。研究者たちは、赤ちゃんがこれらのパターンをお腹の中で身につけたと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the researchers want to find out?
Can a baby have an accent before it says a single word? という問いを確かめた研究なので B。
Q2. What was different about the French babies' cries?
For the French babies, the highest point tended to come later とあるので C。
Q3. Why do the researchers think the babies cried this way?
最後の文 The researchers believe the babies picked up these patterns in the womb から、生まれる前に親の言語のメロディーを聞いていたと考えていることが分かるので A。
In 2009, researchers analyzed 1,254 cries from 60 babies who were two to five days old. Thirty came from French-speaking homes and thirty from German-speaking homes. The team treated every cry as if it lasted exactly one second and marked where the highest pitch fell. French newborns tended to peak later, so their cries had a rising shape. German newborns tended to peak earlier.
The researchers linked this to the melody of each language. They argued that babies pick it up in the womb, where the rise and fall of speech gets through better than individual sounds. Not everyone agrees. Each baby's cry has its own signature, so if you record dozens of cries from one infant and count them as separate pieces of evidence, you can find differences that are not really there.
When another team compared newborns from Mandarin- and English-speaking homes, most of their differences vanished once the cries were grouped by baby. The original authors also admit that the babies may have learned something in their first days after birth. And each baby in their study was recorded for only three to ten minutes.
188 words ・ CEFR B2
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2009年、研究者たちは生後2〜5日の赤ちゃん60人の泣き声1,254個を分析した。30人はフランス語を話す家庭、30人はドイツ語を話す家庭の子だった。チームはどの泣き声もちょうど1秒の長さだとみなして、いちばん高い音がどこに来るかに印をつけた。フランスの新生児はピークが後ろに来る傾向があったので、泣き声は上がり調子の形になった。ドイツの新生児はピークが前に来る傾向があった。
研究者たちはこれをそれぞれの言語のメロディーと結びつけた。彼らは、赤ちゃんがお腹の中でそれを身につけると主張した。お腹の中では、一つ一つの音よりも、話し声の上がり下がりのほうがよく届くからだ。だれもが賛成しているわけではない。赤ちゃんの泣き声にはそれぞれ固有のクセがあるので、1人の赤ちゃんの泣き声を何十個も録音して別々の証拠として数えると、本当はない差が見つかってしまうことがある。
別のチームが中国語(普通話)と英語の家庭の新生児を比べたとき、泣き声を赤ちゃんごとにまとめると、見つかった差のほとんどが消えた。元の論文の著者たちも、赤ちゃんが生まれてから数日のうちに何かを学んだ可能性を認めている。それに、彼らの研究では、一人ひとりの赤ちゃんの録音時間はわずか3〜10分だった。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
前半で泣き声と言語のメロディーを結びつけた研究、後半の Not everyone agrees 以降で疑問が出ていることを述べているので C。
Q2. According to the passage, how did the team measure each cry?
The team treated every cry as if it lasted exactly one second and marked where the highest pitch fell とあるので B。
Q3. What can be inferred about counting many cries from the same baby?
Each baby's cry has its own signature ... you can find differences that are not really there とあるので、1人のクセが集団の差のように見えてしまうと推測できる。D。
重要単語
- newbornB1名詞新生児、生まれたばかりの赤ちゃんThe newborn slept for most of the day.
new(新しい)+born(生まれた)。形容詞として a newborn baby とも言う。 - pitchB2名詞音の高さHer voice rose in pitch when she got excited.
野球の「投球」も同じつづり。音の話では high pitch / low pitch(高い音・低い音)。 - intonationB2名詞抑揚、声の上がり下がりYour intonation tells people when you are asking a question.
rising intonation(上昇調)と falling intonation(下降調)はリスニング問題でもよく出る。 - accentB1名詞なまり、話し方のクセ;強勢He has a strong Scottish accent.
日本語の「アクセント(強く言う位置)」の意味もあるが、会話では「なまり」の意味でよく使う。 - wombC1名詞子宮、お腹の中Babies can hear sounds while they are still in the womb.
発音は「ウーム」で b は読まない(comb, climb と同じ)。 - native languageB1名詞句母語Her native language is Japanese, but she also speaks French.
mother tongue とも言う。first language(第一言語)もほぼ同じ意味。 - signatureB2名詞署名;その人ならではの特徴Bright colors are this artist's signature.
動詞 sign(署名する)から。「サイン」を頼むときは autograph を使う。
公式・一次情報をチェック
- Babies with an accent(マックス・プランク協会のプレスリリース)mpg.de
- Newborns' cry melody is shaped by their native language(PubMed)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
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生後2〜5日の赤ちゃん60人の泣き声を調べたら、フランスの子は上がり調子、ドイツの子は下がり調子が多かった。お腹の中で聞いた言葉のまね? ただ中国語と英語の赤ちゃんを比べた別の研究では、同じ子の泣き声をまとめて数えると差がほぼ消えた。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Mampe B., Friederici A.D., Christophe A., Wermke K. (2009) Newborns' Cry Melody Is Shaped by Their Native Language, Current Biology 19(23)doi.org
- Moon C., Lagercrantz H., Kuhl P.K. (2013) Language experienced in utero affects vowel perception after birth: a two-country study, Acta Paediatrica 102(2)doi.org
- Hallé P.A., de Boysson-Bardies B., Vihman M.M. (1991) Beginnings of Prosodic Organization: Intonation and Duration Patterns of Disyllables Produced by Japanese and French Infants, Language and Speech 34(4)doi.org
- Wermke K. et al. (2017) Fundamental Frequency Variation in Crying of Mandarin and German Neonates, Journal of Voice 31(2)doi.org
- Gustafson G.E., Sanborn S.M., Lin H.-C., Green J.A. (2017) Newborns' Cries are Unique to Individuals (But Not to Language Environment), Infancy 22(6)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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