口笛だけで会話する島がある。最大10km届く“口笛のスペイン語”シルボ・ゴメロ

読む前に予想してみよう!
口笛言語は、もとの話し言葉とは関係のない、まったく別の言語である
口笛言語は必ずもとの話し言葉にもとづく「話し方の一種」。口笛のスペイン語は、あくまでスペイン語。
- 対象
- 口笛言語を話す人々(スペイン語・トルコ語など)
- 規模
- 30以上の言語の調査、脳の実験
- 研究の種類
- フィールド調査・神経科学の実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
スペイン領ラ・ゴメラ島には、スペイン語を口笛に変えて話す「シルボ・ゴメロ」がある。口笛で話す習慣は30以上の言語にあり、口笛トルコ語では右脳も大きく働いていた。
ひとことで言うと口笛のメロディーだけで、ふつうの言葉と同じように話せる人たちがいる!
大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島の一つ、ラ・ゴメラ島。深い谷が刻まれたこの島では、谷の向こうにいる人と口笛だけで会話ができます。
「おーい」の合図ではありません。名前を呼び、用件を伝え、返事をもらう。ふつうのスペイン語の文を、そのまま口笛のメロディーに変えて話すのです。
この「口笛のスペイン語」は Silbo Gomero(シルボ・ゴメロ)。ユネスコの英語の登録名は「Whistled language of the island of La Gomera (Canary Islands), the Silbo Gomero」。2009年、ユネスコの無形文化遺産(代表一覧表)に登録されました。
01母音5つを、口笛2種類で
ユネスコの説明によると、シルボ・ゴメロはスペイン語の母音や子音を、一つずつ口笛の音に置きかえます。スペイン語の5つの母音は2種類の口笛に、子音は4種類の口笛にまとめられ、音の高さと、音が途切れるか続くかで聞き分けます。
音の種類をぐっと減らしているのに、慣れた人ならどんな内容でも伝えられるとされています。
口笛は、ふつうの声より遠くまで届く。 谷や山にはさまれた土地で、羊飼いなどの人たちが使ってきたのには、ちゃんと理由があるのです。
02世界の30以上の言語に「口笛版」がある
口笛で話すのは、ラ・ゴメラ島だけではありません。口笛言語を長年調べてきた研究者ジュリアン・メイエ(Julien Meyer)さんは、2008年の論文で、口笛で話す習慣が世界の30を超える言語で見つかっていると報告しました。
2015年の著書では、口笛言語は人が住むすべての大陸に残る「昔ながらの遠距離通信」だと説明しています。著者は約20の言語コミュニティで、のべ30か月の現地調査をしました。

トルコ北東部の山あいでも、トルコ語を口笛にした「口笛トルコ語」が使われてきました。こちらは2017年に、ユネスコの緊急に保護が必要な無形文化遺産に登録されました。ユネスコは、おもな脅威の一つに携帯電話の利用を挙げています。遠くの人と話す手段が、口笛からスマホに置きかわりつつあるのです。
03口笛を聞くとき、脳はどう働く?
ふつう、言葉を理解するときは左脳が中心になると考えられてきました。一方、音の高さやメロディーの処理は右脳が得意です。では、メロディーでできた言葉はどうなるのでしょう?
ドイツ・ルール大学ボーフムのギュンテュルキュン(Güntürkün)さんらは、口笛トルコ語を使いこなす31人に、声の音節と口笛の音節を聞かせて比べました(2015年、Current Biology)。
すると、声のトルコ語ではいつもどおり左脳が優位(右耳から入った音節のほうがよく聞き取れた)だったのに、口笛のトルコ語では左右の脳がほぼ同じくらい働いていたのです。左脳の役割が減り、右脳の役割が相対的に増えていました。
「言葉は左脳」という常識は、言葉が“どんな音でできているか”で変わりうる。
04どんでん返し:口笛言語は「別の言語」ではない
「口笛言語」という名前から、まったく新しい言語を想像するかもしれません。
でもメイエさんの著書は、口笛で話す方法は必ずもとの話し言葉にもとづいていると書いています。口笛のギリシャ語はギリシャ語のまま。同じように、口笛のスペイン語もスペイン語です。メイエさんの2008年の論文は、口笛を「叫び声(shouted voice)の工夫をさらに押し広げたもの」と見ています。英語でいえば whistled speech、つまり話し方の一種なのです。
脳も、口笛を「言葉」として扱っていました。2005年の『Nature』の研究では、シルボ・ゴメロに熟達した人が口笛を聞くと、ふだん話し言葉で働く脳の領域が活動しました(口笛を知らない人では見られなかった)。ギュンテュルキュンさんらは、この研究でも左右両側の言語領域が働いていたことに触れ、自分たちの結果と重ねています。
05まとめ
口笛のメロディーだけで、名前も用件も伝えられる。それは魔法ではなく、言葉の音のうち、何が本当に大事かを人間が見きわめて、口笛に乗せてきた結果です。
次に口笛を吹くとき、「これで文を言えたら…」と想像してみてください。ラ・ゴメラ島の子どもたちは、それを学校で習っているのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the deep valleys of La Gomera, one of the Canary Islands, people have long used a special way of speaking.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
On La Gomera, a small island in the Canary Islands, people can talk with whistles. They change Spanish words into whistled sounds. These sounds can travel up to 10 kilometers across deep valleys.
Children have learned this way of talking at school since 1999. People whistle words in more than thirty languages around the world. In Turkey, there is whistled Turkish too. But fewer people use it now, partly because of mobile phones.
73 words ・ CEFR A2
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カナリア諸島の小さな島、ラ・ゴメラ島では、人々は口笛で話すことができます。スペイン語の言葉を口笛の音に変えるのです。その音は、深い谷をこえて最大10キロメートルまで届くことがあります。
子どもたちは1999年から、この話し方を学校で学んできました。世界では、30以上の言語で人々が言葉を口笛で吹いています。トルコにも口笛のトルコ語があります。しかし、携帯電話の影響もあって、今では使う人が減っています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
people can talk with whistles から始まり、口笛で話す習慣について説明しているので A。
Q2. Since when have children on La Gomera learned it at school?
Children have learned this way of talking at school since 1999 とあるので B。
Q3. In the passage, "travel" in "These sounds can travel up to 10 kilometers" means
音が谷をこえて10キロ先まで「届く(移動する)」という意味なので D。travel は「旅行する」だけでなく、音や光が「伝わる」の意味でも使う。
In the deep valleys of La Gomera, one of the Canary Islands, people have long used a special way of speaking. They whistle Spanish. Each vowel and consonant becomes a whistled sound, and listeners tell the sounds apart by pitch and by whether they stop or continue. According to UNESCO, the five Spanish vowels are covered by just two whistles.
Even so, skilled whistlers can send any message, and the sound has been shown to carry up to 10 kilometers. This practice, called Silbo Gomero, was added to UNESCO's list of intangible cultural heritage in 2009. One researcher has reported whistled speech in more than thirty languages. It is always based on a spoken language, so whistled Spanish is still Spanish.
121 words ・ CEFR B1
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カナリア諸島の一つ、ラ・ゴメラ島の深い谷では、人々は昔から特別な話し方を使ってきた。スペイン語を口笛で吹くのだ。母音と子音はそれぞれ口笛の音になり、聞き手は音の高さと、音が途切れるか続くかで聞き分ける。ユネスコによると、スペイン語の5つの母音は、わずか2種類の口笛で表される。
それでも熟練した人はどんなメッセージでも送ることができ、その音は最大10キロメートル届くことが示されている。シルボ・ゴメロと呼ばれるこの習慣は、2009年にユネスコの無形文化遺産の一覧に加えられた。ある研究者は、30以上の言語で口笛による話し方を報告している。それは必ず話し言葉にもとづいているので、口笛のスペイン語はやはりスペイン語なのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
ラ・ゴメラ島でスペイン語を口笛で話すこと、30以上の言語で同様の話し方があることを述べているので B。A は最後の文と矛盾する。
Q2. According to UNESCO, how many whistles are used for the five Spanish vowels?
the five Spanish vowels are covered by just two whistles とあるので C。
Q3. Why is whistled speech useful on La Gomera?
深い谷のある島で、音が最大10キロ届くと書かれていることから、遠くの人と話せるからだと推測できるので A。
A widely held view says that the left side of the brain does the heavy work of understanding language, while the right side is better at pitch and melody. Whistled languages put that idea to the test, because they turn words into melodies. In the mountains of northeast Turkey, some villagers whistle Turkish well enough to hold complex conversations over long distances.
A team from Ruhr University Bochum in Germany compared how these whistlers understood the same syllables when they were spoken and when they were whistled. For spoken Turkish, the left hemisphere led as usual. For whistled Turkish, the two hemispheres contributed about equally. An earlier study in Nature found that when skilled whistlers of Silbo Gomero, the whistled Spanish of La Gomera, listened to whistles, brain areas linked to spoken language became active, but not in people who did not know the system.
The two studies used different methods and languages, so their results cannot be lined up neatly. Both point the same way, though. Once a listener knows the code, the brain handles whistles as language. Whistled Turkish has been on UNESCO's urgent safeguarding list since 2017, partly because mobile phones are taking its place.
198 words ・ CEFR B2
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広く受け入れられている考えでは、言葉を理解する重労働は脳の左側が担い、右側は音の高さやメロディーが得意だとされる。口笛言語は、言葉をメロディーに変えるので、この考えを試すことになる。トルコ北東部の山あいでは、トルコ語を口笛で吹き、遠く離れた相手と込み入った会話をする村人たちがいる。
ドイツのルール大学ボーフムのチームは、こうした口笛の使い手が、同じ音節を声で聞いたときと口笛で聞いたときで、どう理解するかを比べた。声のトルコ語では、いつもどおり左半球が主導した。口笛のトルコ語では、左右の半球がほぼ同じくらい働いた。それより前に『Nature』に載った研究では、ラ・ゴメラ島の口笛のスペイン語であるシルボ・ゴメロに熟練した人が口笛を聞くと、話し言葉に関わる脳の領域が活動したが、この方式を知らない人ではそうならなかった。
2つの研究は方法も言語も違うので、結果をきれいに並べて比べることはできない。それでも、2つは同じ方向を指している。聞き手がその決まりを知っていれば、脳は口笛を言葉として扱うのだ。口笛トルコ語は2017年からユネスコの緊急保護リストに載っており、その理由の一つは携帯電話に取って代わられつつあることだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
左脳・右脳の役割という考えを口笛言語で試した研究を中心に説明しているので D。
Q2. What did the Bochum team find for whistled Turkish?
For whistled Turkish, the two hemispheres contributed about equally とあるので C。
Q3. Which statement would the writer most likely agree with?
Once a listener knows the code, the brain handles whistles as language とあるので C。A は「方法も言語も違う」、B は「知らない人では活動しなかった」、D は「携帯電話に取って代わられつつある」と矛盾する。
重要単語
- whistleB1動詞・名詞口笛を吹く/口笛、笛He whistled to his friend across the valley.
t は発音しない(castle, listen と同じ)。blow the whistle on ~ は「~を内部告発する」 - valleyA2名詞谷Their voices could not reach the other side of the valley.
複数形は valleys。Silicon Valley のように地名にもよく出る - pitchB2名詞音の高さListeners tell the whistles apart by pitch.
野球の「投球」も pitch。音楽では perfect pitch(絶対音感) - hemisphereC1名詞(脳の)半球、(地球の)半球The left hemisphere usually leads when we understand speech.
hemi-(半分)+sphere(球)。the Northern Hemisphere(北半球)も同じ語 - heritageB2名詞遺産、受け継がれてきたものSilbo Gomero is part of the island's cultural heritage.
World Heritage Site(世界遺産)、intangible cultural heritage(無形文化遺産) - endangeredB2形容詞消滅の危機にあるMany whistled languages are endangered today.
endangered species(絶滅危惧種)が入試の定番。言語にも endangered language と使う - tell A apartB2動詞句Aを見分ける・聞き分けるCan you tell the two whistles apart?
tell A from B(AとBを区別する)とセットで覚える
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- Whistled language of the island of La Gomera (Canary Islands), the Silbo Gomero(UNESCO 無形文化遺産)ich.unesco.org
- Whistled language(トルコ、UNESCO 緊急保護リスト)ich.unesco.org
- Brain Symmetry of Whistled Turkish(ルール大学ボーフム 生物心理学部門)bio.psy.ruhr-uni-bochum.de
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スペインのラ・ゴメラ島には、スペイン語を口笛に変えて話す「シルボ・ゴメロ」がある。谷をこえて最大10kmほど届いた記録も。口笛トルコ語を聞くときは、ふだん言葉を担う左脳だけでなく右脳も同じくらい働いていたらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Meyer (2008) Typology and acoustic strategies of whistled languages: Phonetic comparison and perceptual cues of whistled vowels, Journal of the International Phonetic Associationdoi.org
- Meyer (2004) Bioacoustics of human whistled languages: an alternative approach to the cognitive processes of language, Anais da Academia Brasileira de Ciênciasdoi.org
- Meyer (2015) Whistled Languages: A Worldwide Inquiry on Human Whistled Speech, Springerdoi.org
- Güntürkün, Güntürkün & Hahn (2015) Whistled Turkish alters language asymmetries, Current Biologydoi.org
- Carreiras et al. (2005) Neural processing of a whistled language, Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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