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口笛だけで会話する島がある。最大10km届く“口笛のスペイン語”シルボ・ゴメロ

口笛だけで会話する島がある。最大10km届く“口笛のスペイン語”シルボ・ゴメロ

読む前に予想してみよう!

口笛言語は、もとの話し言葉とは関係のない、まったく別の言語である

研究カード(どんな研究?)
対象
口笛言語を話す人々(スペイン語・トルコ語など)
規模
30以上の言語の調査、脳の実験
研究の種類
フィールド調査・神経科学の実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

スペイン領ラ・ゴメラ島には、スペイン語を口笛に変えて話す「シルボ・ゴメロ」がある。口笛で話す習慣は30以上の言語にあり、口笛トルコ語では右脳も大きく働いていた。

ひとことで言うと口笛のメロディーだけで、ふつうの言葉と同じように話せる人たちがいる!

もくじ
  1. 母音5つを、口笛2種類で
  2. 世界の30以上の言語に「口笛版」がある
  3. 口笛を聞くとき、脳はどう働く?
  4. どんでん返し:口笛言語は「別の言語」ではない
  5. まとめ
  6. よくある質問

大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島の一つ、ラ・ゴメラ島。深い谷が刻まれたこの島では、谷の向こうにいる人と口笛だけで会話ができます。

「おーい」の合図ではありません。名前を呼び、用件を伝え、返事をもらう。ふつうのスペイン語の文を、そのまま口笛のメロディーに変えて話すのです。

この「口笛のスペイン語」は Silbo Gomero(シルボ・ゴメロ)。ユネスコの英語の登録名は「Whistled language of the island of La Gomera (Canary Islands), the Silbo Gomero」。2009年、ユネスコの無形文化遺産(代表一覧表)に登録されました。

01母音5つを、口笛2種類で

ユネスコの説明によると、シルボ・ゴメロはスペイン語の母音や子音を、一つずつ口笛の音に置きかえます。スペイン語の5つの母音は2種類の口笛に、子音は4種類の口笛にまとめられ、音の高さと、音が途切れるか続くかで聞き分けます。

音の種類をぐっと減らしているのに、慣れた人ならどんな内容でも伝えられるとされています。

口笛は、ふつうの声より遠くまで届く。 谷や山にはさまれた土地で、羊飼いなどの人たちが使ってきたのには、ちゃんと理由があるのです。

02世界の30以上の言語に「口笛版」がある

口笛で話すのは、ラ・ゴメラ島だけではありません。口笛言語を長年調べてきた研究者ジュリアン・メイエ(Julien Meyer)さんは、2008年の論文で、口笛で話す習慣が世界の30を超える言語で見つかっていると報告しました。

2015年の著書では、口笛言語は人が住むすべての大陸に残る「昔ながらの遠距離通信」だと説明しています。著者は約20の言語コミュニティで、のべ30か月の現地調査をしました。

口笛で話す習慣は、山・森・島など、声が届きにくい土地に点々と残っている
口笛で話す習慣は、山・森・島など、声が届きにくい土地に点々と残っている

トルコ北東部の山あいでも、トルコ語を口笛にした「口笛トルコ語」が使われてきました。こちらは2017年に、ユネスコの緊急に保護が必要な無形文化遺産に登録されました。ユネスコは、おもな脅威の一つに携帯電話の利用を挙げています。遠くの人と話す手段が、口笛からスマホに置きかわりつつあるのです。

03口笛を聞くとき、脳はどう働く?

ふつう、言葉を理解するときは左脳が中心になると考えられてきました。一方、音の高さやメロディーの処理は右脳が得意です。では、メロディーでできた言葉はどうなるのでしょう?

ドイツ・ルール大学ボーフムのギュンテュルキュン(Güntürkün)さんらは、口笛トルコ語を使いこなす31人に、声の音節と口笛の音節を聞かせて比べました(2015年、Current Biology)。

すると、声のトルコ語ではいつもどおり左脳が優位(右耳から入った音節のほうがよく聞き取れた)だったのに、口笛のトルコ語では左右の脳がほぼ同じくらい働いていたのです。左脳の役割が減り、右脳の役割が相対的に増えていました。

「言葉は左脳」という常識は、言葉が“どんな音でできているか”で変わりうる。

04どんでん返し:口笛言語は「別の言語」ではない

「口笛言語」という名前から、まったく新しい言語を想像するかもしれません。

でもメイエさんの著書は、口笛で話す方法は必ずもとの話し言葉にもとづいていると書いています。口笛のギリシャ語はギリシャ語のまま。同じように、口笛のスペイン語もスペイン語です。メイエさんの2008年の論文は、口笛を「叫び声(shouted voice)の工夫をさらに押し広げたもの」と見ています。英語でいえば whistled speech、つまり話し方の一種なのです。

脳も、口笛を「言葉」として扱っていました。2005年の『Nature』の研究では、シルボ・ゴメロに熟達した人が口笛を聞くと、ふだん話し言葉で働く脳の領域が活動しました(口笛を知らない人では見られなかった)。ギュンテュルキュンさんらは、この研究でも左右両側の言語領域が働いていたことに触れ、自分たちの結果と重ねています。

05まとめ

口笛のメロディーだけで、名前も用件も伝えられる。それは魔法ではなく、言葉の音のうち、何が本当に大事かを人間が見きわめて、口笛に乗せてきた結果です。

次に口笛を吹くとき、「これで文を言えたら…」と想像してみてください。ラ・ゴメラ島の子どもたちは、それを学校で習っているのです。

よくある質問

シルボ・ゴメロとは何ですか?

スペイン領カナリア諸島のラ・ゴメラ島で使われている、スペイン語を口笛に変えて話す方法です。2009年に、ユネスコの無形文化遺産(代表一覧表)に登録されました。

口笛でどうやって言葉を伝えるのですか?

音の高さと、音が途切れるか続くかで聞き分けます。ユネスコによると、シルボ・ゴメロはスペイン語の5つの母音を2種類の口笛に、子音を4種類の口笛にまとめています。慣れた人なら、どんな内容でも伝えられるとされています。

口笛の言葉はどこまで届きますか?

ラ・ゴメラ島では、最大10km届くことが確かめられています(Meyer, 2004)。口笛言語の音の多くは、およそ1,000〜3,000Hzのあいだを上下します。ふつうの声より遠くまで届くので、谷や山にはさまれた土地で使われてきました。

口笛言語はほかの国にもありますか?

あります。研究者ジュリアン・メイエさんは2008年の論文で、口笛で話す習慣が世界の30を超える言語で見つかっていると報告しました。トルコ北東部の「口笛トルコ語」は、2017年にユネスコの緊急に保護が必要な無形文化遺産に登録されています。

口笛言語は、もとの言葉とは別の言語ですか?

いいえ。口笛で話す方法は、必ずもとの話し言葉にもとづいています。口笛のスペイン語はスペイン語のままです。英語では whistled speech とも呼ばれ、話し方の一種と考えられています。

口笛言語を聞くとき、脳はどう働くのですか?

2015年の研究で、口笛トルコ語を使いこなす31人を調べると、声のトルコ語では左脳が優位だったのに、口笛のトルコ語では左右の脳がほぼ同じくらい働いていました。「言葉は左脳」という常識は、言葉の音の種類で変わりうるのです。

シルボ・ゴメロは今も使われていますか?

はい。ユネスコによると、1999年から学校で教えられるようになり、島のほぼ全員が理解できます。ラ・ゴメラ島の子どもたちは、シルボ・ゴメロを学校で習っているのです。

口笛言語はなくなりかけているのですか?

多くが消滅の危機にあります。ユネスコは、口笛トルコ語のおもな脅威の一つに携帯電話の利用を挙げています。メイエさん(2015年)によると、フランスのアースの口笛言語は途絶え、ギリシャのアンティアのものは消滅寸前です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the deep valleys of La Gomera, one of the Canary Islands, people have long used a special way of speaking. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the deep valleys of La Gomera, one of the Canary Islands, people have long used a special way of speaking. They whistle Spanish. Each vowel and consonant becomes a whistled sound, and listeners tell the sounds apart by pitch and by whether they stop or continue. According to UNESCO, the five Spanish vowels are covered by just two whistles.

Even so, skilled whistlers can send any message, and the sound has been shown to carry up to 10 kilometers. This practice, called Silbo Gomero, was added to UNESCO's list of intangible cultural heritage in 2009. One researcher has reported whistled speech in more than thirty languages. It is always based on a spoken language, so whistled Spanish is still Spanish.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

カナリア諸島の一つ、ラ・ゴメラ島の深い谷では、人々は昔から特別な話し方を使ってきた。スペイン語を口笛で吹くのだ。母音と子音はそれぞれ口笛の音になり、聞き手は音の高さと、音が途切れるか続くかで聞き分ける。ユネスコによると、スペイン語の5つの母音は、わずか2種類の口笛で表される。

それでも熟練した人はどんなメッセージでも送ることができ、その音は最大10キロメートル届くことが示されている。シルボ・ゴメロと呼ばれるこの習慣は、2009年にユネスコの無形文化遺産の一覧に加えられた。ある研究者は、30以上の言語で口笛による話し方を報告している。それは必ず話し言葉にもとづいているので、口笛のスペイン語はやはりスペイン語なのだ。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. According to UNESCO, how many whistles are used for the five Spanish vowels?

Q3. Why is whistled speech useful on La Gomera?

重要単語

  • whistleB1
    動詞・名詞口笛を吹く/口笛、笛He whistled to his friend across the valley. t は発音しない(castle, listen と同じ)。blow the whistle on ~ は「~を内部告発する」
  • valleyA2
    名詞谷Their voices could not reach the other side of the valley. 複数形は valleys。Silicon Valley のように地名にもよく出る
  • pitchB2
    名詞音の高さListeners tell the whistles apart by pitch. 野球の「投球」も pitch。音楽では perfect pitch(絶対音感)
  • hemisphereC1
    名詞(脳の)半球、(地球の)半球The left hemisphere usually leads when we understand speech. hemi-(半分)+sphere(球)。the Northern Hemisphere(北半球)も同じ語
  • heritageB2
    名詞遺産、受け継がれてきたものSilbo Gomero is part of the island's cultural heritage. World Heritage Site(世界遺産)、intangible cultural heritage(無形文化遺産)
  • endangeredB2
    形容詞消滅の危機にあるMany whistled languages are endangered today. endangered species(絶滅危惧種)が入試の定番。言語にも endangered language と使う
  • tell A apartB2
    動詞句Aを見分ける・聞き分けるCan you tell the two whistles apart? tell A from B(AとBを区別する)とセットで覚える

動画でもっと知る

4コマでわかる

口笛だけで会話する島がある。最大10km届く“口笛のスペイン語”シルボ・ゴメロの4コマ漫画
スペインのラ・ゴメラ島には、スペイン語を口笛に変えて話す「シルボ・ゴメロ」がある。谷をこえて最大10kmほど届いた記録も。口笛トルコ語を聞くときは、ふだん言葉を担う左脳だけでなく右脳も同じくらい働いていたらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Meyer (2008) Typology and acoustic strategies of whistled languages: Phonetic comparison and perceptual cues of whistled vowels, Journal of the International Phonetic Associationdoi.org
  2. Meyer (2004) Bioacoustics of human whistled languages: an alternative approach to the cognitive processes of language, Anais da Academia Brasileira de Ciênciasdoi.org
  3. Meyer (2015) Whistled Languages: A Worldwide Inquiry on Human Whistled Speech, Springerdoi.org
  4. Güntürkün, Güntürkün & Hahn (2015) Whistled Turkish alters language asymmetries, Current Biologydoi.org
  5. Carreiras et al. (2005) Neural processing of a whistled language, Naturedoi.org
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