「過去は東、未来は西」。座る向きを変えると時間の並べ方も変わる、オーストラリアの村の実験

読む前に予想してみよう!
ポンプラーウの人たちは、どちらを向いて座っていても、時間を左から右に並べた
東から西へ並べる傾向があった。南を向くと左→右、北を向くと右→左、東を向くと体に近づく向き、西を向くと体から遠ざかる向きになる。
- 対象
- オーストラリア・ポンプラーウの住民と米国カリフォルニアの英語話者
- 規模
- 少人数(2012年の追加比較はクーク・ターヨレ語も話す6人と英語だけの3人)
- 研究の種類
- カード・点を並べる課題(実験)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
オーストラリアの村ポンプラーウの人たちは、時間を「左→右」ではなく「東→西」に並べる傾向があった。北を向けば右→左、東を向けば体に向かって流れる。
ひとことで言うと時間を「左から右」じゃなく「東から西」に並べる人たちがいる!
赤ちゃん、小学生、大人、お年寄り。同じ人の写真を4枚渡されて「古い順に並べて」と言われたら、どう置きますか?
多くの人は、左から右に並べるでしょう。年表もグラフの横軸も、左が昔で右が未来です。
ところが、オーストラリアのある村の人たちは、東から西に並べる傾向がありました。北を向いて座れば「右から左」、東を向いて座れば「向こうから自分に向かって」並びます。時間の向きが、体ではなく方角で決まっていたのです。
そこで注目されたのが、この村で話されているクーク・ターヨレ語。左右より東西南北で話す言語です。
01「左・右」より「東・西」で話す言葉
舞台は、オーストラリア北東部のケープヨーク半島の西海岸にある先住民の村、ポンプラーウ(Pormpuraaw)です。ここではクーク・ターヨレ語(Kuuk Thaayorre)をはじめ、いくつかの先住民の言語が話されています。2012年の論文によると、クーク・ターヨレ語を話す人は200人あまり。いまこの言語を最初の言葉として覚えている子どもは、ほんの数人です。
この言語の大きな特徴は、空間の言い方です。日本語や英語では「コップの右」「私の左」のように、見る人の立場から左右を言います。ところがクーク・ターヨレ語には、見る人の立場から「右・左」を言う言葉がありません。体の「右手の側」「左手の側」を指す言葉はありますが、使い方は日本語の「右・左」とは違います。
そのかわりに、東西南北の言葉をとてもよく使います。遠くの土地の位置だけでなく、身の回りの物の小さな並びも方角で言うのです。「東」と「西」は太陽の通り道で決まっています。
02向きを変えると「未来の場所」が動く
東から西、というルールを座る向きに当てはめてみましょう。
- 南を向いて座る → 東は左、西は右。だから「左から右」
- 北を向いて座る → 東は右、西は左。だから「右から左」
- 東を向いて座る → 過去が向こう側、未来が自分の側。時間が自分に向かって流れてくる
- 西を向いて座る → 過去が自分の側。時間が自分から遠ざかっていく
つまり、私たちのように「左が過去」と決まっているのではありません。過去は東、未来は西という並べ方です。論文によると、それまでに報告された時間の並べ方は、左右も前後も、すべて体が基準でした。方角を基準にするこの並べ方は、そのどれとも違うと論文は書いています。

03「時間」と「場所」が同じ単語
では、クーク・ターヨレ語では時間をどう言い表すのでしょう。
ギャビーの2012年の論文によると、この言語には「時間は東から西へ流れる」のような言い回しはありません。それでも、空間と時間をつなぐ言葉はあります。たとえば raak という1つの単語が、「場所」と「時間」の両方を指します(ほかに「地面」「土」などの意味もあります)。
身ぶりにも手がかりがあります。ギャビーは、話し手が1日の時刻を言うときに太陽があるはずの位置を指すこと(昼なら真上、夕方なら西)や、40年前のような遠い昔の話で東を指す人がいたことを報告しています。ただし、これは本格的に調べたものではなく、ギャビーが気づいた観察です。
04英語の時間は「前と後ろ」
では、英語ではどうでしょう。英語の時間の言い方は、主に前と後ろを使います。
- We have a busy week ahead.(これから忙しい1週間が待っている)
- Let's put the argument behind us.(あのけんかは水に流そう)
- I'm looking forward to the trip.(旅行が楽しみだ)
一方で、紙の上で時間を並べると、英語話者は左から右にします。これは言い回しより、文字を書く向きの影響が大きいと考えられています。2010年の別の研究では、出来事の絵を順番に並べてもらうと、左から右に読み書きする英語話者は左から右に、右から左に読み書きするヘブライ語話者は右から左に並べました。
05どんでん返し:原因は「言葉」なのか?
「話す言葉が、時間の感じ方まで変えた」と言い切りたくなりますが、ここは慎重に考える必要があります。
ポンプラーウの人たちは、言葉だけでなく、暮らし方や土地の景色も私たちと違います。方角に気を配る暮らしをしているから、言葉にも方角が多く、時間の並べ方にも方角が出る――という説明も成り立ちます。ギャビー自身も、2010年の結果だけでは原因の向きは決められないと書いています。
似た論争は、空間の研究でも起きました。2002年、米国の研究者リーとグライトマンは、英語を話す大学生でも、目印になる手がかりを変えるだけで方角を基準にした解き方をすることがあると示し、「言葉そのものが原因とは限らない」と主張しました。これに対し、オランダのマックス・プランク研究所のレヴィンソンらは同じ年に反論の論文を出し、「空間の基準の大事な区別ができておらず、自分たちの実験結果を読み違えている」と批判しています。
そこでギャビーは2012年、同じ村の同じ民族の人たちを比べました。クーク・ターヨレ語と英語の両方を話す人と、英語だけを話す人です。年齢や仕事が近い人同士を選んでいます。結果、英語だけの人は全員が左から右に並べ、両方を話す人は東から西に並べることがいちばん多かったのです。暮らす場所が同じでも、話す言葉によって違いが出たことになります。
ただし、この比較は両方を話す人が6人、英語だけの人が3人です。英語だけの人には説明を英語でしたので、指示が分かりやすかった可能性もギャビーは挙げています。
06まとめ
私たちにとって「時間は左から右」はあまりにも当たり前です。でもそれは、文字を書く向きなど、育った環境の中で身についた並べ方の一つにすぎないのかもしれません。
ポンプラーウの人たちにとって、時間は太陽と同じように東から西へ流れます。次に年表を書くとき、どうして左から書くのか、少しだけ考えてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers Lera Boroditsky and Alice Gaby gave people in Pormpuraaw, an Aboriginal community in Australia,…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
How would you put pictures of a growing crocodile in order, from egg to adult? English speakers in California always put the earliest picture on the left. In Pormpuraaw, a small town in Australia, people often did something else. They put the past in the east and the future in the west.
So when they sat facing north, the pictures went from right to left. One language spoken there uses north, south, east and west all the time.
78 words ・ CEFR A2
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育っていくワニの絵を、卵から大人まで順番に並べるとしたら、どう並べますか?カリフォルニアの英語話者は、いつもいちばん早い場面の絵を左に置きました。オーストラリアの小さな町ポンプラーウでは、人々はよく違うやり方をしました。過去を東に、未来を西に置いたのです。
だから北を向いて座ったときは、絵は右から左に並びました。そこで話されている言語の一つは、北・南・東・西をいつも使います。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
They put the past in the east and the future in the west とあり、時間を方角で並べる人たちの話なので B。
Q2. Where did English speakers in California put the earliest picture?
English speakers in California always put the earliest picture on the left とあるので C。
Q3. In the passage, what does "facing north" mean?
face は「(ある方向を)向く」。sat facing north は「北を向いて座った」なので A。
Researchers Lera Boroditsky and Alice Gaby gave people in Pormpuraaw, an Aboriginal community in Australia, sets of cards that showed something changing over time, such as a crocodile growing from an egg into an adult. People laid the cards out in order on the ground.
Then they turned to face a different direction and did it again. English speakers tested in California always went from left to right. People in Pormpuraaw tended to go from east to west instead. Facing south, that looked like left to right. Facing north, it looked like right to left. Kuuk Thaayorre, one of the languages spoken there, uses words for north, south, east and west even for things that are close by.
118 words ・ CEFR B1
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研究者のレラ・ボロディツキーとアリス・ギャビーは、オーストラリアの先住民の村ポンプラーウの人々に、ワニが卵から成長して大人になるような、時間とともに変わっていく物事を写したカードのセットを渡した。人々はカードを順番に地面に並べた。
それから別の方向を向いて、同じことをもう一度した。カリフォルニアで調べた英語話者は、いつも左から右に並べた。ポンプラーウの人々は、そうではなく東から西に並べる傾向があった。南を向いていれば、それは左から右に見えた。北を向いていれば、右から左に見えた。そこで話されている言語の一つ、クーク・ターヨレ語は、すぐ近くにある物についても北・南・東・西の言葉を使う。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the researchers ask people in Pormpuraaw to do?
People laid the cards out in order on the ground とあるので C。
Q2. Why did the researchers ask people to turn and do the task again?
向きを変えると、東西で並べる人は左右の見え方が変わる(Facing south … Facing north …)。体の左右か方角かを見分けるためと推測できるので A。
Q3. If a person in Pormpuraaw faced north, how would the cards probably look?
Facing north, it looked like right to left とあるので B。
In earlier studies of how people picture time, the direction always depended on the body. English speakers put earlier events on the left. Hebrew speakers, who read from right to left, tend to put them on the right.
In 2010, Lera Boroditsky and Alice Gaby reported a different pattern from Pormpuraaw, an Aboriginal community on Australia's Cape York Peninsula. When people there arranged cards showing a sequence of events, they tended to lay them out from east to west, whichever way they were facing. Facing east, time came toward the body.
Facing west, it moved away. Kuuk Thaayorre, one of the local languages, describes even small spaces with words for east, west, north and south. That alone does not show the language caused the pattern. Other researchers have argued that surroundings, such as clear landmarks, can push people toward one kind of spatial thinking.
So Gaby compared Thaayorre people living in the same town. With only nine people in all, her result is just a clue. Three who spoke only English always worked left to right, while six who also spoke Kuuk Thaayorre most often chose east to west.
189 words ・ CEFR B2
和訳を見る
人が時間をどう思い描くかを調べたそれまでの研究では、向きはいつも体を基準に決まっていた。英語話者は前の出来事を左に置く。右から左に読むヘブライ語話者は、右に置く傾向がある。
2010年、レラ・ボロディツキーとアリス・ギャビーは、オーストラリアのケープヨーク半島にある先住民の村ポンプラーウから、違うパターンを報告した。そこの人々は、一連の出来事を示すカードを並べるとき、どちらを向いていても東から西に並べる傾向があった。東を向けば時間は体に近づき、西を向けば遠ざかった。
地元の言語の一つであるクーク・ターヨレ語は、狭い空間さえも東・西・北・南の言葉で表す。それだけでは、言語がこのパターンの原因だとは言えない。ほかの研究者は、はっきりした目印などの周りの環境が、人をある種の空間の考え方に向かわせることがあると主張してきた。
そこでギャビーは、同じ町に住むターヨレの人たちを比べた。全部で9人しかいないので、この結果は手がかりにすぎない。英語しか話さない3人はいつも左から右に並べたが、クーク・ターヨレ語も話す6人は東から西を最も多く選んだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What makes the Pormpuraaw results different from most earlier studies?
それまでの研究では the direction always depended on the body だが、ポンプラーウでは from east to west, whichever way they were facing だったので B。
Q2. In Gaby's follow-up study, what did the three English-only speakers do?
Three who spoke only English always worked left to right とあるので C。
Q3. Why does the writer call Gaby's result "just a clue"?
With only nine people in all(全部で9人だけ)とあり、人数が少ないので決め手にならないと言っているので B。
重要単語
- cardinal directionC1名詞東西南北の方角The four cardinal directions are north, south, east and west.
cardinal は「基本の」。地図や地理の英文で出る。ふだんは単に the four directions とも言う。 - sequenceB2名詞順番、一続きの出来事Put the pictures in the right sequence.
in sequence「順番に」。sequel(続編)と同じ「後に続く」の語源。 - arrangeB1動詞並べる、整理するShe arranged the cards on the table.
「手配する」の意味もある(arrange a meeting)。名詞は arrangement。 - remoteB2形容詞人里離れた、遠いThey live in a remote village with no shops.
テレビのリモコンは remote control。remote work は「離れた場所での仕事=在宅勤務など」。 - faceB1動詞(ある方向を)向くOur classroom faces south, so it gets a lot of sun.
名詞の「顔」から。face the problem で「問題に向き合う」。 - aheadB1副詞前に、これから先にWe have a busy week ahead.
英語では未来を「前」で表すことが多い。Go ahead.「どうぞ(先に進んで)」も同じ発想。 - landmarkB2名詞目印になるもの、名所The tall tower is a useful landmark when you get lost.
land(土地)+mark(しるし)。「画期的な」の意味でも使い、a landmark decision は「画期的な判決」。
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- Remembrances of times East(PubMed)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- The Thaayorre think of Time Like They Talk of Space(PMC・全文公開)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
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時間の流れを表すカードを古い順に並べてもらうと、米国の英語話者は例外なく左から右。でもオーストラリアの村ポンプラーウでは「東から西」に並べる傾向があった。北を向いて座れば右から左、東を向けば自分に向かって流れる。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Boroditsky L., Gaby A. (2010) Remembrances of Times East, Psychological Science 21(11)doi.org
- Gaby A. (2012) The Thaayorre think of Time Like They Talk of Space, Frontiers in Psychology 3doi.org
- Fuhrman O., Boroditsky L. (2010) Cross-Cultural Differences in Mental Representations of Time, Cognitive Science 34(8)doi.org
- Li P., Gleitman L. (2002) Turning the tables: language and spatial reasoning, Cognition 83(3)doi.org
- Levinson S.C., Kita S., Haun D.B.M., Rasch B.H. (2002) Returning the tables: language affects spatial reasoning, Cognition 84(2)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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