315の社会すべてに音楽があった。知らない言葉の歌でも、子守歌なら「何の歌か」を偶然以上に当てられる

読む前に予想してみよう!
世界のどこかには、音楽をまったく持たない社会があることが分かっている
2019年の研究で315の社会の民族誌(現地で暮らした研究者の記録)を調べると、309の社会で音楽の記述があり、残る6つも別の資料で音楽があると確かめられた。
- 対象
- 世界の社会・ネット上の聞き手
- 規模
- 315の社会(民族誌)・60の社会の歌の記述4,709件・118曲・聞き手2万9,357人ほか
- 研究の種類
- 民族誌の比較・聞き取り実験
- 確かさ
- ★★★★☆
315の社会の記録を調べると、音楽のない社会はゼロ。知らない言葉の歌を聞いて何の歌かを当てると、踊りの歌・子守歌・病気を治す歌は、でたらめに選ぶより高い確率で当たった。ラブソングだけは、ほぼ当たらなかった。
ひとことで言うと歌のない社会はなかった!知らない国の子守歌も、聞くとけっこう分かるんだって。
「音楽は世界共通語」。よく聞く言い方ですが、本当でしょうか。
じつは音楽の研究者の多くは、この言い方に冷ややかでした。世界の音楽はあまりに多様で、共通点などほとんどない、というのです。
ところが2019年、ハーバード大学などのチームが世界315の社会の記録を調べると、音楽のない社会は1つも見つかりませんでした。しかも、知らない言葉の歌を聞いただけで、それが踊りの歌か、子守歌かを、偶然より高い確率で言い当てられることも分かったのです。
01音楽のない社会は、本当にある?
論文の筆頭著者は、ハーバード大学の心理学者サミュエル・メアです。使ったのは、世界中の文化人類学者が書いた「民族誌」を集めたデータベース。民族誌とは、研究者がその土地で暮らしながら、人々の生活をくわしく書き残した記録のことです。
最後の点は、ことばの面から見ても大事です。鼻歌や意味のない音だけで歌う例も22の社会で記録されていました。それでも、どの社会にも「ことばをのせた歌」がありました。
02歌の違いは「3つのものさし」で表せた
歌の場面の記述を統計で整理すると、世界の歌のちがいは、おもに3つのものさしで表せることが分かりました。
- かしこまっているか(大人が大勢集まる儀式か、子どもと気軽に歌うか)
- 盛り上がっているか(大人数で踊るにぎやかな場か、ひとりで口ずさむ静かな場か)
- 宗教的か(シャーマンの儀式や葬式の歌か、ふだんの生活の歌か)
この3つで見ると、踊りの歌は「かしこまって、盛り上がって、宗教色はうすい」。子守歌は「気軽で、静か」。ラブソングは「気軽で、静かで、宗教色もうすい」。病気を治す歌は「かしこまって、盛り上がって、宗教的」な場所に集まっていました。
ちなみに英語の lullaby(子守歌)は、Oxford Learner's Dictionaries によると、lull(なだめて眠らせる)と、子守歌のくり返しに使われた bye-bye という音からできた語です。16世紀半ばから使われています。
03知らない言葉の歌、何の歌か当てられる?
次にチームは、世界の30の地域から、踊りの歌・子守歌・病気を治す歌・ラブソングの録音を集めました。86の社会の118曲です。
これをインターネットで公開し、聞いた人に「この歌は何に使われている?」と4択で答えてもらいました。
歌詞の意味が分からなくても、歌い方やリズムに「何のための歌か」がにじみ出ている、ということです。

「でも、聞き手が英語を話すネット利用者ばかりなら、似た音楽に耳が慣れているだけでは?」という疑問もわきます。実際、それまでの研究の参加者は、ほとんどが英語を話す人でした。
そこで2023年、メアも加わったリディア・ユルドゥムたちのチームは、聞き手を広げて調べ直しました。49か国で28の言語を母語とする5,516人に加えて、外の世界の音楽にふれる機会が少ない3つの小さな社会(エチオピア、インドネシア、バヌアツ)の116人にも、同じような歌を聞いてもらったのです。
結果は、どちらのグループも、踊りの歌・子守歌・病気を治す歌の使いみちを言い当てられたというものでした。聞き手と歌い手の言語や住む地域が近くても、正解率はほとんど上がりませんでした。
04どんでん返し:ラブソングだけは、ほぼ通じなかった
ただし、全部の歌が通じたわけではありません。
ラブソングだけは、ほとんど見分けられませんでした。2019年の実験では正解率26.2%。でたらめに選んだときの25%を統計の上ではわずかに上回ったものの、ほぼ同じです。2023年の研究では、どちらのグループもラブソングを「愛を伝える歌」と見抜けませんでした。
もう一つ大事なのは、社会どうしの差より、同じ社会の中の差のほうがずっと大きいことです。3つのものさしで比べると、同じ社会の中のばらつきは、社会どうしのばらつきのおよそ6倍ありました。「この民族の歌はこう」と一言でまとめるのは難しい、ということです。
それでも、社会ごとの平均にはちがいもありました。どのものさしでも、およそ3分の1の社会は、世界の平均から偶然とは言えないほどずれていました。共通点もあれば、ちがいもある。研究チームは、論文の題名にも「普遍性」と「多様性」を並べています。
05まとめ
315の社会のどこにも、音楽はありました。そして、知らない言葉の歌でも、踊りの歌や子守歌は「なんとなく分かる」ことが、何万人もの聞き手で確かめられました。
一方で、ラブソングは通じず、同じ社会の中でも歌は大きくちがいます。「音楽は世界共通語」は、大筋では当たっているけれど、全部ではないと受け取るのがよさそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1835, the poet Henry Wadsworth Longfellow called music the universal language of mankind.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Is there a place in the world with no music? A team of scientists read records about 315 different societies. They found music in every one of them.
Then they put recordings of songs from 86 societies on a website. Most listeners did not know the languages, but they could often guess what kind of song it was. Dance songs were the easiest to guess. Lullabies, or songs for babies, came next. Love songs were very hard.
77 words ・ CEFR A2
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世界に音楽のない場所はあるのでしょうか?科学者のチームが、315のさまざまな社会についての記録を読みました。そのすべてに音楽がありました。
次に、86の社会の歌の録音をウェブサイトにのせました。聞いた人のほとんどはその言語を知りませんでしたが、何の歌かを言い当てられることがよくありました。いちばん当てやすかったのは踊りの歌でした。次は子守歌、つまり赤ちゃんのための歌でした。ラブソングはとても難しかったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
世界中に音楽があったことと、知らない言語の歌の使いみちを当てる話なので B。
Q2. Which kind of song was the easiest to guess?
Dance songs were the easiest to guess とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "lullaby"?
Lullabies, or songs for babies とあるので A。
In 1835, the poet Henry Wadsworth Longfellow called music the universal language of mankind. Many music scholars later doubted this. In 2019, a team of researchers at Harvard and other universities checked written records from 315 societies and found music in every one.
They also collected 118 recordings of dance songs, lullabies, healing songs and love songs from 86 societies. About 29,000 visitors to a website heard the songs and picked one of four possible uses for each.
They were right 42.4 percent of the time, while random guessing would give 25 percent. Dance songs were the easiest, at 54.4 percent. Love songs were the exception. With them, listeners did only a little better than chance.
116 words ・ CEFR B1
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1835年、詩人のヘンリー・ワズワース・ロングフェローは、音楽を「人類の普遍のことば」と呼んだ。その後、多くの音楽学者がこれを疑ってきた。2019年、ハーバード大学などの研究者チームは、315の社会についての記録を調べ、そのすべてに音楽を見つけた。
チームはまた、86の社会から、踊りの歌・子守歌・病気を治す歌・ラブソングの録音を118曲集めた。ウェブサイトを訪れた約2万9,000人が歌を聞き、それぞれについて4つの使いみちから1つを選んだ。
正解率は42.4%で、でたらめに選んだ場合は25%になる。いちばん当てやすかったのは踊りの歌で、54.4%だった。例外はラブソングだった。ラブソングについては、聞き手は偶然よりほんの少しよい成績しか出せなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the team find in the written records?
checked written records from 315 societies and found music in every one とあるので B。
Q2. How often would a listener be right by random guessing?
random guessing would give 25 percent とあるので D。4択なので4分の1。
Q3. What does the passage suggest about love songs?
Love songs were the exception... listeners did only a little better than chance から、音だけでは使いみちが分かりにくいと読み取れる。B。
When researchers at Harvard and other universities went through ethnographic records from 315 societies, they could not find a single one without music. In a closer study of 60 societies, every one had songs, and every one had songs with words. The team then asked whether the purpose of a song comes through even when listeners cannot follow the lyrics.
Visitors to their website heard field recordings from 86 societies and picked one of four uses. They identified dance songs 54.4 percent of the time, lullabies 45.6 percent and healing songs 43.3 percent, all well above the 25 percent expected by chance. Love songs reached only 26.2 percent.
A 2023 follow-up widened the pool to 5,516 listeners who spoke 28 languages, plus 116 people in three small communities with little access to global media. Both groups recognized dance songs, lullabies and healing songs, and neither group could pick out love songs. The 2019 data also showed how much music varies inside one place. Within a single society, song events differed about six times as much as the averages of different societies did.
182 words ・ CEFR B2
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ハーバード大学などの研究者たちが315の社会の民族誌の記録を調べると、音楽のない社会は1つも見つからなかった。60の社会をくわしく調べると、どの社会にも歌があり、どの社会にも歌詞のある歌があった。次にチームは、聞き手が歌詞を理解できなくても歌の目的は伝わるのかを調べた。
研究サイトを訪れた人たちが86の社会で録音された歌を聞き、4つの使いみちから1つを選んだ。踊りの歌は54.4%、子守歌は45.6%、病気を治す歌は43.3%の割合で正しく選ばれ、どれも偶然で期待される25%を大きく上回った。ラブソングは26.2%にとどまった。
2023年の追加研究では、聞き手を28の言語を話す5,516人に広げ、さらに世界のメディアにふれる機会が少ない3つの小さな共同体の116人も加えた。どちらのグループも踊りの歌・子守歌・病気を治す歌を見分けたが、ラブソングはどちらも見抜けなかった。2019年のデータは、1つの場所の中で音楽がどれほど多様かも示していた。1つの社会の中での歌の場面のちがいは、社会どうしの平均のちがいのおよそ6倍だった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
どの社会にも音楽があること、知らない文化の歌でも一部の種類は見分けられることが中心なので B。
Q2. Who took part in the 2023 follow-up?
5,516 listeners who spoke 28 languages, plus 116 people in three small communities とあるので C。
Q3. What can be inferred from the last two sentences?
1つの社会の中のちがいが社会どうしの差の約6倍なので、ある社会の音楽を一言でまとめると多様さが抜け落ちる、と推測できる。C。
重要単語
- lullabyB2名詞子守歌My mother sang me a lullaby every night.
lull(なだめて眠らせる)+bye-bye(子守歌のくり返しの音)から。16世紀半ばから使われる(Oxford Learner's Dictionaries)。 - universalB2形容詞普遍的な、どこにでもあるSmiling seems to be universal.
universe(宇宙、全体)と同じ仲間。a universal language「世界共通のことば」。 - societyB1名詞社会、(ある文化をもつ)人々の集団Every society has its own stories.
数えられる名詞として使うと「1つの社会・集団」。形容詞は social。 - lyricsB1名詞歌詞I know the tune, but I forgot the lyrics.
ふつう複数形で使う。tune や melody(旋律)とセットで覚えると便利。 - sootheC1動詞(人を)なだめる、落ち着かせるA soft song can soothe a crying baby.
th は有声音で「スーズ」。soothe pain「痛みをやわらげる」とも使う。 - chanceA2名詞偶然;機会;見込みWith four choices, you'll guess right by chance about 25 percent of the time.
by chance「偶然に」、above chance「偶然より上で」。研究の英文でよく出る。 - exceptionB1名詞例外Everyone came to the party, with one exception.
except(〜を除いて)の名詞形。with the exception of ~「~を除いて」。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- The Music Lab(ハーバード大学ほかの研究グループ。論文の歌を聞けるページ)themusiclab.org
- lullaby(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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世界315の社会の記録を調べたら、音楽のない社会はゼロだった。知らない言葉の歌を聞いて「何の歌?」と4択で答えると、踊りの歌・子守歌・病気を治す歌は偶然より当たる。ところがラブソングの正解率は、偶然とほぼ同じだった。
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- Mehr, S. A. et al. (2019) Universality and diversity in human song, Science 366(6468) eaax0868doi.org
- Mehr, S. A., Singh, M., York, H., Glowacki, L. & Krasnow, M. M. (2018) Form and Function in Human Song, Current Biology 28(3)doi.org
- Yurdum, L. et al. (2023) Universal interpretations of vocal music, PNAS 120(37)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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