色の名前は「赤・黄」が伝わりやすく「青・緑」は伝わりにくい。110の言語で同じ傾向、アマゾンの人もボストンの学生も

読む前に予想してみよう!
色の名前の伝わりやすさを110の言語でくらべると、言語によって「青がいちばん伝わりやすい」ものもあれば「赤がいちばん伝わりやすい」ものもあり、共通の傾向はなかった
Gibson ら(2017)の分析では、どの言語でも赤や黄色などの暖色の方が、青や緑などの寒色より正確に伝わっていた。
- 対象
- 世界色彩調査の110言語+チマネ語・ボリビアのスペイン語・英語の話者
- 規模
- 3言語の実験で計204人(2つの課題の合計)
- 研究の種類
- 色カードの名づけ実験+既存データの情報理論による分析+写真2万枚の色の集計
- 確かさ
- ★★★☆☆
色の名前の付け方を「名前だけで色を当てるゲーム」として計算すると、赤や黄色は少ない手間で伝わり、青や緑は伝わりにくい。110の言語でも、アマゾンのチマネの人々でも同じ傾向。理由は「話題にする物に暖色が多いから」説と「目の仕組み」説で割れている。
ひとことで言うと「赤いの」は伝わりやすいけど、「青いの」はどの青か迷いやすいんだって!
「その赤いの取って」と言われたら、たいてい迷いません。でも「その青いの取って」だと、「水色の方? 紺の方?」と聞き返したくなることがあります。
じつはこれ、日本語だけの話ではないかもしれません。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームが2017年に発表した研究によると、赤や黄色の名前は正確に伝わりやすく、青や緑の名前は伝わりにくい。色の名前の数や分け方は言語によって大きく違うのに、この傾向は、調べた110の言語のどれにも共通していました。
アマゾンの森で暮らす人々にも、ボストンの学生にも、同じ傾向が見られたのです。
0180枚の色カードで「色当てゲーム」
研究チームが使ったのは「世界色彩調査」というデータです。工業化されていない社会で話される110の言語について、それぞれの話者に色見本カードの色を言ってもらった記録です。
研究チームは、このうち80枚のカードの名前の付け方を、「色当てゲーム」にたとえて分析しました。
- 話し手が80枚のうち1枚を思いうかべ、色の名前を1つだけ言う
- 聞き手はその名前から、どのカードかを当てる
- 当てるまでに必要な「当て推量の手間」が少ないほど、その色は正確に伝わる
たとえば「赤」と言われたときに候補になるカードが少なく、話し手どうしで呼び方もそろっていれば、手間は少なくてすみます。逆に、同じカードを「青」と呼ぶ人も「緑」と呼ぶ人もいると、手間は増えます。
110の言語には、色の名前が多い言語も少ない言語もあります。それでも、「暖色の方が伝わりやすい」という向きはどの言語でも同じでした。
02チマネの人々は、色の名前があまりそろわない
チマネの人々の結果には、もう1つ特徴がありました。同じカードを見ても、人によって違う名前で呼ぶことが多かったのです。
80枚のカードそれぞれで「いちばん多く使われた名前」を調べると、その種類はチマネ語が8つ、英語が10、ボリビアのスペイン語が11でした。ただし赤だけは別で、チマネの人々も赤のカードの呼び方はよくそろっていました。黒と白のカードは、3つの言語のどれでも全員が同じ名前で呼びました。
身近な物の色を聞いても同じでした。チマネの人々は、色の言葉の選び方が英語やスペイン語の話者より大きくばらつきました。ただし血・髪・歯のように、色が赤・黒・白にあたる物では答えがそろいました。
さらに研究チームは、色だけが違う2つの物(緑のバナナと黄色のバナナなど)を続けて見せ、名前を言ってもらいました。すると英語の話者とくらべて、チマネの人々はあまり色の言葉を使いませんでした。ただ、人工の物では、自然の物より色の言葉を使うことが多くなりました。
研究チームは、チマネの人々の暮らしでは色で物を区別する必要が少ないのだろう、と考えています。植物の名前をとてもたくさん知っているので、色に頼らなくてもすむのかもしれない、とも書いています。

03なぜ暖色が伝わりやすい? 「話題になる物」の色
研究チームは、理由を「人が話題にするのは、たいてい暖色の物だから」と考えました。
確かめるため、目立つ物が写るように集められた写真2万枚を使いました。写真の中で、人が「目立つ物」として示した部分と、背景の部分の色をくらべたのです。すると、物の部分は赤・黄・オレンジ寄り、背景は青・緑寄りでした。そして、物によく出てくる色ほど、色当てゲームでの手間が少ない、という関係がありました。
研究チームは、霊長類が食べる果物のように、動物にとって大事な物の色も、伝わりやすい色にあたることを確かめています。話題にする物に暖色が多いから、暖色を正確に言い分ける必要が大きかったのでは、というわけです。
物の名前が色の名前になった例は、英語にも日本語にもあります。論文も、色の名前の多くが歴史的には物の名前から来ていることを手がかりに挙げ、orange を例に出しています。
- pink:Oxford Learner's Dictionaries によると、もとは pink という植物(ナデシコの仲間)の名前。その花の色を表す形容詞として17世紀半ばに使われはじめた
- 桃色:『日本国語大辞典』では「桃の花の色」
- 茶色:『色名がわかる辞典』(講談社)によると、一般に茶の葉を使って染めた色のこと
04どんでん返し:「目の仕組み」で説明できるという反論
この研究には反論も出ています。ザスラフスキーさん、レジエさんら(ヘブライ大学、カリフォルニア大学バークレー校など)が2018年に発表した論文です。
もともとレジエさんたちは2007年に、色の名前の分け方は、人の目にとっての「色の並び」を効率よく区切った形になっている、と報告していました。人の目が感じる色の並びは、きれいにそろった形ではなく、でこぼこしています。
2018年の論文では、まず2017年の研究の結果を、ほぼ同じデータで確かめ直しました。そのうえで、80枚のカードを、それぞれの言語の色の名前と同じ数のグループに、人の目にとっての色の近さだけで機械的に分けてみました。実際の人の呼び方は使いません。すると、そのつくりものの「色の名前の体系」でも、暖色の方が伝わりやすいという似た偏りが出たのです。
さらに、写真の「物によく出る色」は、灰色から遠い、あざやかな色であることとも関係していました。つまり「暖色が伝わりやすい」ことも「物に暖色が多い」ことも、目の感じ方という共通の原因で説明できるかもしれない、というのです。
ただし、この反論論文も「話す必要はまったく関係ない」とは言っていません。別の計算方法で調べると、色の名前には、目の仕組みだけでは説明できない「よく話す色」の跡も残っていました。結論は「目の仕組みと、話す必要の両方が色の名前を形づくる」です。
2021年には別のチームが130の言語を分析し、「どの色をどれくらい話す必要があるか」は色によって30倍も違うことがあり、必要がいちばん大きい色は、熟した果物などの目立つ物の色と関係していると報告しています。その必要の大きさは、言語や暮らす地域によっても違っていました。
05まとめ
赤や黄色は、どの言語でも名前だけで比較的正確に伝わる。青や緑は、言葉だけだと迷いやすい。110の言語とアマゾンの人々のデータが示したのは、そんな共通点でした。
なぜそうなるのかは、「話題にする物の色」説と「目の仕組み」説で、まだ決着していません。ただ、青や緑の物を指すときに the dark blue one のように一言足すと伝わりやすい、というのはどの説でも役に立ちそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHow well does a color word tell a listener which color you mean?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Scientists asked people to name the colors of 80 small color cards. Then they checked how well each color name could help another person find the right card. Red and yellow were easy to get across.
Blue and green were harder, because people who say "blue" may mean many different cards. The scientists found this in 110 languages. They also found it among a group of people in the Amazon and among students near Boston.
75 words ・ CEFR A2
和訳を見る
科学者たちは、人々に80枚の小さな色カードの色の名前を言ってもらいました。そして、それぞれの色の名前が、ほかの人が正しいカードを見つけるのにどれくらい役立つかを調べました。赤と黄色は伝わりやすいものでした。
青と緑はもっと難しく、それは「青」と言う人が、いろいろな違うカードを指している場合があるからです。科学者たちは、これを110の言語で見つけました。アマゾンのある集団や、ボストン近くの学生たちでも同じでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
どの色の名前が相手に伝わりやすいかを調べた話なので B。
Q2. Which colors were easy to get across?
Red and yellow were easy to get across とあるので C。
Q3. In the passage, what does "get across" mean?
get across は「(考えや意味を)相手に伝える、分からせる」という意味なので B。
How well does a color word tell a listener which color you mean? Researchers at MIT and elsewhere studied this with 80 color cards. They used data from 110 languages and also ran their own tests with the Tsimane' people of the Amazon, Spanish speakers in Bolivia, and English-speaking students near Boston.
In every language, warm colors such as red and yellow were easier to communicate than cool colors such as blue and green. The team then looked at 20,000 photos. The objects in the photos were usually warm colors, while the backgrounds were often blue or green. The researchers think warm colors are named more precisely because we mostly talk about objects, and objects tend to be warm colors.
120 words ・ CEFR B1
和訳を見る
色の言葉は、どれくらいうまく聞き手に、どの色のことかを伝えられるのだろうか。MIT などの研究者たちは、80枚の色カードを使ってこれを調べた。110の言語のデータを使い、さらにアマゾンのチマネの人々、ボリビアのスペイン語話者、ボストン近くの英語を話す学生を対象に、自分たちでも実験をした。
どの言語でも、赤や黄色などの暖色は、青や緑などの寒色より伝えやすかった。研究チームは次に、2万枚の写真を調べた。写真の中の物はたいてい暖色で、背景は青や緑であることが多かった。研究者たちは、私たちが話題にするのはたいてい物で、物は暖色であることが多いので、暖色の方が正確に名づけられているのだと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the researchers want to know?
最初の文 How well does a color word tell a listener which color you mean? が研究の問いなので B。
Q2. What did the team find in the 20,000 photos?
The objects in the photos were usually warm colors, while the backgrounds were often blue or green とあるので A。
Q3. According to the researchers, why are warm colors named more precisely?
because we mostly talk about objects, and objects tend to be warm colors とあるので B。
Tell someone to grab "the red one," and they rarely hesitate. Ask for "the blue one," and they may ask, "Which blue?" A 2017 study led by researchers at MIT found a similar pattern across languages. Using color-naming data from 110 languages, plus new experiments with the Tsimane' of Bolivia, Bolivian Spanish speakers, and English speakers near Boston, the team showed that reds and yellows are communicated more precisely than blues and greens.
The Tsimane' agreed less with each other on the names for most colors, except red, and they were much less likely to use color words to tell two objects apart. The researchers traced the warm-cool gap to what we talk about. In 20,000 photos, objects tended to be warm colored and backgrounds cool.
A 2018 reply offered another explanation. When the color cards were grouped only by how similar they look to the human eye, a similar warm-cool gap appeared. That suggests the way we see color could produce much of it. The same authors also found signs that the need to talk about certain colors helps shape color words.
183 words ・ CEFR B2
和訳を見る
だれかに「赤いのを取って」と言えば、相手はほとんど迷わない。「青いのを」と頼むと、「どの青?」と聞き返されるかもしれない。MIT の研究者たちが率いた2017年の研究は、これに近い傾向が言語をこえて見られることを明らかにした。
110の言語の色の名づけのデータに加えて、ボリビアのチマネの人々、ボリビアのスペイン語話者、ボストン近くの英語話者を対象にした新しい実験から、研究チームは、赤や黄色が青や緑より正確に伝わることを示した。チマネの人々は、赤以外のほとんどの色の名前で、互いの答えがあまりそろわず、2つの物を区別するのに色の言葉を使うこともずっと少なかった。研究者たちは、暖色と寒色の差の原因を、私たちが何について話すかに求めた。
2万枚の写真では、物は暖色、背景は寒色になりがちだった。2018年の反論は別の説明を示した。色カードを人の目にとっての似ている度合いだけでグループ分けしても、似た暖色と寒色の差が現れた。つまり、私たちの色の見え方がその多くを生み出しうるということだ。同じ研究者たちは、特定の色について話す必要が色の言葉を形づくるのに役立っている跡も見つけている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
暖色の方が正確に伝わる傾向と、その理由について2つの説明があることを述べているので A。
Q2. What was different about the Tsimane' results?
agreed less with each other on the names for most colors, except red と much less likely to use color words to tell two objects apart から B。
Q3. What does the 2018 reply suggest?
目にとっての似ている度合いだけで分けても同じ差が出たので、the way we see color could produce much of it とある。C。
重要単語
- warm colorB1名詞暖色(赤・オレンジ・黄など)Red and orange are warm colors.
反対は cool color(寒色)。warm colors は「暖かく感じる色」。 - cool colorB1名詞寒色(青・緑など)The bedroom is painted in cool colors.
cool は「涼しい」。色について言うときは「寒色の」。 - shadeB2名詞色合い、(同じ色の)濃淡This shade of blue is darker than the sky.
a shade of ~「〜系の色の1つ」。「日かげ」の意味もある(sit in the shade)。 - backgroundB1名詞背景The red apple stands out against the green background.
stand out against ~「〜を背景に目立つ」はよく使う組み合わせ。 - objectB1名詞物、物体Name an object that is usually yellow.
動詞 object(反対する)は後ろを強く読む。名詞は前を強く読む。 - describeA2動詞説明する、言い表すCan you describe the color of the bag?
名詞は description。describe A as B「A を B だと言い表す」。 - get acrossB2動詞句(考えや意味を)伝える、分からせるIt was hard to get the idea across in English.
get ~ across の語順もよく使う。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- Color naming across languages reflects color use(論文の全文、PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- pink の語源(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- 「茶色」(コトバンク:色名がわかる辞典ほか)kotobank.jp
このネタ、誰かに教えたくなった?
色の名前だけで相手に色を当ててもらうゲームを考えて計算すると、赤や黄色は伝わりやすく、青や緑は伝わりにくい。世界110の言語でも、アマゾンのチマネの人々でも、ボストンの学生でも同じ傾向だった。MITなどの研究チームの説明は「人が話題にする物は暖色が多いから」。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Gibson, E., Futrell, R., Jara-Ettinger, J., Mahowald, K., Bergen, L., Ratnasingam, S., Gibson, M., Piantadosi, S. T., & Conway, B. R. (2017) Color naming across languages reflects color use, PNAS 114(40)doi.org
- Zaslavsky, N., Kemp, C., Tishby, N., & Regier, T. (2018) Color Naming Reflects Both Perceptual Structure and Communicative Need, Topics in Cognitive Science 11(1)doi.org
- Twomey, C. R., Roberts, G., Brainard, D. H., & Plotkin, J. B. (2021) What we talk about when we talk about colors, PNAS 118(39)doi.org
- Regier, T., Kay, P., & Khetarpal, N. (2007) Color naming reflects optimal partitions of color space, PNAS 104(4)doi.org
- 精選版 日本国語大辞典「桃色」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





