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「とうきょう」は手拍子で4つ、英語の辞書では3音節。俳句の5・7・5が数えるのは「拍」

「とうきょう」は手拍子で4つ、英語の辞書では3音節。俳句の5・7・5が数えるのは「拍」

読む前に予想してみよう!

俳句の「5・7・5」は、音節の数を数えている

研究カード(どんな研究?)
対象
日本語話者の大学生40人、英語話者24人、フランス語話者33人など
規模
言葉の頭の音を聞きつける反応時間の実験4つ(1993年)
研究の種類
聞き取りの実験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

俳句の5・7・5は、手拍子1回で区切る「拍(モーラ)」の数。「とうきょう」は4拍だが、音節で数えると「とう・きょう」の2つ、英語の辞書の発音では3音節になる。日本語話者は聞くときも拍で区切っていることが、1993年の実験で示された。

ひとことで言うと「とうきょう」は手拍子4回。でも英語では3つ、音節なら2つ!

もくじ
  1. 「とうきょう」は4拍、でも2音節
  2. 俳句は拍、フランス語の詩は音節、英語の詩は強勢
  3. 「たにし」の中の「タン」は聞き逃される
  4. 拍で区切る耳は「かな」が育てる?
  5. 英語の音節を数えるときのコツ
  6. もっと知りたい人へ
  7. まとめ
  8. よくある質問

「とうきょう」と言いながら、手をたたいてみてください。と・う・きょ・う。4回です。

ところが英語の辞書(Cambridge Dictionary)を引くと、Tokyo の米国の発音は /ˈtoʊ.ki.oʊ/。発音記号を区切りの点で分けると3つです。そして、言語学で使う「音節」(拍より大きい音のまとまり)の数え方で日本語の「とうきょう」を数えると、「とう・きょう」の2つになります。

同じ「東京」が、4にも、3にも、2にもなる。日本語の俳句の「5・7・5」が数えているのは、このうちの「4」のほう、拍(はく)です。

01「とうきょう」は4拍、でも2音節

日本語で、手拍子1回で区切る音の単位を「拍」、言語学では「モーラ(mora)」と呼びます。

当時イギリス・ケンブリッジの研究所にいた心理言語学者アン・カトラーと、獨協大学の言語学者大竹孝司さんの1994年の論文は、有名な名前でモーラを説明しています。

  • セガ:セ・ガ で2拍
  • ホンダ:ホ・ン・ダ で3拍
  • 東京:ト・ウ・キョ・ウ で4拍

「ホンダ」の「ン」も、1拍に数えます。大竹さんたちの1993年の論文によると、日本語の拍は、形で分けると次の5つの型しかありません。

  • 「か」のような子音+母音
  • 「きょ」のような子音+や行の音+母音
  • 「あ」のような母音だけ(「とう」の「う」のように、のばす部分も1拍)
  • 「ん」
  • 「っ」(次の子音を重ねる音)

一方、音節(syllable)はもう少し大きなまとまりです。同じ論文によると、日本語では「とう」「きょう」「たん」のように、拍に「ん」「っ」や母音が続いたものも1つの音節になります。こうした音節は、1つで2拍ぶんにあたります。だから「とうきょう」は4拍でも2音節、「きって(切手)」は3拍でも2音節(きっ・て)です。

02俳句は拍、フランス語の詩は音節、英語の詩は強勢

大竹さんたちの1993年の論文は、1つの俳句から始まります。芭蕉の一門の俳人の句です。

しんしんと/うめちりかかる/にわびかな

論文はこう説明します。俳句は5・7・5、合わせて17の拍でできている。最初の「しんしんと」は、し・ん・し・ん・と で5拍。でも音節で数えると、「しん・しん・と」の3つしかありません。

では、俳句を英語に訳すとどうなるか。論文によると、ほかの言語に訳すときは、1行ごとの音節の数をそろえて形をまねるのがふつうです。論文自身もこの句を英訳していて、1行目は「In silence they fall」。In・si・lence・they・fall で、ちょうど5音節です。

詩の数え方は、言語ごとに違います。同じ論文によると、次のとおりです。

  • フランス語の詩:音節の数をそろえる
  • 英語の詩:決まりの中心は強く読む音(強勢)の数。たとえば5行の短い詩「リメリック」は、1・2・5行目に強勢が3つ、3・4行目に2つと決まっていて、音節の数はそろえなくてよい
  • 日本語の詩:拍の数をそろえる

英語の詩にとっての強勢、フランス語の詩にとっての音節。日本語の詩では、その役目を拍がになっている、と論文は書いています。

03「たにし」の中の「タン」は聞き逃される

では、日本語話者は、ふだん言葉を聞くときも拍で区切っているのでしょうか。大竹さんたちは、これを実験で確かめました。

「たにし」の頭は、ローマ字で書けば t・a・n で、TAN と同じです。でも拍で区切ると「た・に・し」。TAN は「た」と「に」の途中までにまたがり、拍の切れ目と合いません。だから見つけられなかった、と論文は説明しています。

日本語を知らない英語話者は、同じ音声で、どの組み合わせでも聞き逃しが5〜9%でした。日本語話者の大学生は「たにし」の頭の TAN を6割以上聞き逃したのに、日本語を知らない英語話者はほとんど聞き逃さなかったのです。

フランス語話者は、また違う結果になりました。「たにし」の TAN と「たんし」の TA、つまり音節の切れ目と合わない組み合わせで、聞き逃しが2〜3割に増えました。音節の切れ目と合う組み合わせでは1割ほどでした。フランス語話者は音節で区切るという、それまでの研究と同じ結果です。

聞き手は、自分の言葉のリズムの単位で音を区切っている。日本語なら拍、フランス語なら音節。これが論文の結論です。

「た・に・し」は3つの拍。拍の切れ目をまたぐ「タン」は、日本語話者の耳には引っかかりにくかった
「た・に・し」は3つの拍。拍の切れ目をまたぐ「タン」は、日本語話者の耳には引っかかりにくかった

1994年のカトラーと大竹さんの論文も、同じ方向の結果です。「かんこ」の「ん」のように、1つの拍になっている n は見つけやすく、「かのこ」の n のように拍の一部にすぎない n は見つけにくかったのです。o の音でも同じように調べています。日本語話者40人の実験で、n と o の結果を合わせると、1つの拍になっている音の聞き逃しは7.7%、拍の一部にすぎない音は25.5%でした。英語の音声を聞かせたときも、日本語話者は、調べられる範囲で同じ傾向を示しました。

04拍で区切る耳は「かな」が育てる?

ここで1つ疑問がわきます。日本語話者が拍で区切るのは、話し言葉のしくみのせいなのか。それとも、拍を1文字ずつ書くかな文字を覚えたせいなのか。

大竹さんたち自身も、1993年の論文でこの点を認めています。実験の参加者が、頭の中でかなに置きかえて答えた可能性は、完全には否定できない、と。また、調べたのは「子音+母音」と「ん」の拍だけで、「っ」などでも同じになるかはまだ分からない、とも書いています。

その手がかりになったのが、子どもの研究です。

  • 2000年の稲垣佳世子さん・波多野誼余夫さん・大竹孝司さんの研究:4〜6歳の子どもに、「ん」「っ」やのばす音を含む言葉を区切ってもらった。かなが読めるようになるにつれ、区切り方は「音節と拍のまじったもの」から「ほぼ拍」へ変わった。ただし「っ」を含む言葉だけは、拍で区切るようにはならなかった
  • 2021年のお茶の水女子大学の研究:生後6〜25か月の子ども45人に、言葉の音と画面のボールを見せて、見つめる時間を測った。「子音+母音」だけでできた言葉を、その拍(=音節)の数で区切って聞いているらしい、という結果だった。論文は、4歳の子が「きって」を手拍子2回(きっ・て)で区切ることが多いという先行研究も紹介している

つまり、「ん」やのばす音まで1拍として区切る感覚は、かな文字を覚えるのと並行して強まっていくらしいのです。ただし「っ」は例外で、文字を覚えても拍で区切るようにはなりませんでした。拍が話し言葉そのもののしくみなのか、文字の影響なのかは、まだはっきり分けきれていません。

05英語の音節を数えるときのコツ

日本語の拍の感覚のまま英語を数えると、ずれが生まれます。この記事で見た Tokyo のように、日本語で4拍の言葉が、英語では3音節になることもあります。英語の音節の数は、辞書の発音記号の区切りで確かめられます。

英語と日本語のリズムの違いを測った研究は、本館の記事でくわしく紹介しています。

06もっと知りたい人へ

  • 拍・モーラ(mora)、音節(syllable)、特殊拍(special mora:撥音・促音・長音)、音声の分節化(speech segmentation)、モーラ拍リズム(mora-timing)
  • Takashi Otake, Giyoo Hatano, Anne Cutler & Jacques Mehler (1993) "Mora or syllable? Speech segmentation in Japanese." Journal of Memory and Language 32.
  • Anne Cutler & Takashi Otake (1994) "Mora or phoneme? Further evidence for language-specific listening." Journal of Memory and Language 33.
  • Kayoko Inagaki, Giyoo Hatano & Takashi Otake (2000) "The effect of kana literacy acquisition on the speech segmentation unit used by Japanese young children." Journal of Experimental Child Psychology 75.
  • Anne Cutler (2012) Native Listening: Language Experience and the Recognition of Spoken Words. MIT Press.

07まとめ

「とうきょう」は、拍なら4つ、日本語の音節なら2つ、英語の発音なら3つ。どれが正しいのではなく、数えている単位が違うのです。

俳句の5・7・5は、その中の「拍」を数えています。そして日本語話者の耳は、ふだんの聞き取りでも拍で音を区切っていました。次に俳句を作るとき、「ん」や「っ」を指で数えながら、自分の耳がどの単位で動いているか確かめてみてください。

よくある質問

モーラ(拍)とは何ですか?

手拍子1回で区切る音の単位です。日本語では「拍」と言い、言語学ではモーラ(mora)と呼びます。「セガ」は2拍、「ホンダ」は3拍、「東京」は ト・ウ・キョ・ウ で4拍です。

モーラと音節の違いは何ですか?

音節のほうが大きなまとまりです。日本語では「とう」「きょう」「たん」のように、拍に「ん」「っ」や母音が続いたものも1つの音節になり、1つで2拍ぶんにあたります。だから「とうきょう」は4拍でも2音節です。

俳句の5・7・5は何を数えていますか?

拍(モーラ)の数です。音節ではありません。たとえば「しんしんと」は し・ん・し・ん・と で5拍ですが、音節で数えると「しん・しん・と」の3つしかありません。

「ん」「っ」「ー」は1音に数えますか?

拍で数えるときは、それぞれ1拍です。「ホンダ」の「ン」も1拍に数えます。ただし音節で数えるときは、前の音とまとめて1つにします(「きっ・て」「とう・きょう」)。

「東京」は英語では何音節ですか?

3音節です。Cambridge Dictionary の米国の発音は /ˈtoʊ.ki.oʊ/ で、区切りの点で分けると3つになります。同じ「東京」が、日本語の拍では4つ、日本語の音節では2つ、英語では3つになります。

俳句を英語に訳すときは、何を数えますか?

1行ごとの音節の数をそろえるのがふつうだと、1993年の論文は書いています。論文自身も、ある俳句の1行目を「In silence they fall」と英訳していて、In・si・lence・they・fall でちょうど5音節です。

日本語話者は聞くときも拍で区切っているのですか?

そう示す実験があります。1993年の実験で、日本語話者の大学生は「たにし」の頭の TAN を64.3%も聞き逃しました。拍で区切ると「た・に・し」で、TAN は拍の切れ目と合わないからです。日本語を知らない英語話者の聞き逃しは5〜9%でした。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1993, researchers from Japan, Britain and France tested how people break up the words they hear. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1993, researchers from Japan, Britain and France tested how people break up the words they hear. Japanese students listened to lists of Japanese words and pressed a button when a word began with certain sounds, such as "ta" or "tan." The word tanishi, a kind of water snail, begins with the letters t, a and n.

But in Japanese it is split into three morae, ta-ni-shi, and "tan" does not match any of them. The Japanese students missed "tan" in tanishi 64.3 percent of the time. English speakers who knew no Japanese heard the same recordings and missed only 5 to 9 percent of the targets. The team decided that listeners cut speech into the units of their own language.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1993年、日本・英国・フランスの研究者たちが、人は聞いた言葉をどう区切るのかを調べた。日本の学生が日本語の単語の並びを聞き、「タ」や「タン」のような決まった音で始まる単語が聞こえたらボタンを押した。「たにし」という単語は、t・a・n の文字で始まる。

しかし日本語では「た・に・し」の3つの拍に分かれ、「タン」はどれにも合わない。日本の学生は、「たにし」の中の「タン」を64.3%の割合で聞き逃した。日本語を知らない英語話者が同じ録音を聞いたときは、聞き逃したのは目標の5〜9%だけだった。研究チームは、聞き手は自分の言語の単位で音声を区切っていると結論づけた。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 1993 study test?

Q2. How often did the Japanese students miss "tan" in tanishi?

Q3. Why was "tan" hard to find in tanishi for Japanese listeners?

重要単語

  • syllableB2
    名詞音節"Banana" has three syllables. 英語の辞書では発音記号の区切りで数が分かる。アクセントは sýl- の第1音節。
  • beatB1
    名詞拍、リズムの1打Clap once on every beat. 動詞では「打つ、負かす」。音楽の「ビート」も同じ語。
  • verseB2
    名詞詩、韻文Haiku is a short form of Japanese verse. 散文(ふつうの文章)は prose。歌の「1番、2番」の意味でも使う。
  • listenerB1
    名詞聞き手The listeners pressed a button when they heard the sound. listen に「人」を表す -er。t は発音しない(リスナー)。
  • detectB2
    動詞見つける、気づくThe machine can detect very small sounds. 名詞は detection、「探偵」は detective。入試の研究紹介文でよく出る。
  • translateB1
    動詞訳すShe translated the poem into English. translate A into B で「AをBに訳す」。名詞は translation。
  • boundaryB2
    名詞境界、切れ目The river forms a boundary between the two towns. 言語学では word boundary(単語の切れ目)、syllable boundary(音節の切れ目)のように使う。
「とうきょう」を手拍子で区切ると、と・う・きょ・う の4拍。でも日本語を音節で数えると「とう・きょう」の2つ。英語の辞書の発音では To-ki-o の3音節。俳句の5・7・5が数えているのは、音節ではなくこの「拍」。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Otake T., Hatano G., Cutler A., Mehler J. (1993) Mora or Syllable? Speech Segmentation in Japanese, Journal of Memory and Language 32(2)doi.org
  2. Cutler A., Otake T. (1994) Mora or Phoneme? Further Evidence for Language-Specific Listening, Journal of Memory and Language 33(6)doi.org
  3. Inagaki K., Hatano G., Otake T. (2000) The Effect of Kana Literacy Acquisition on the Speech Segmentation Unit Used by Japanese Young Children, Journal of Experimental Child Psychology 75(1)doi.org
  4. Cheong Y., Uehara I. (2021) Segmentation of Rhythmic Units in Word Speech by Japanese Infants and Toddlers, Frontiers in Psychology 12doi.org
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