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「This is a pen.」は本当に教科書の1文目だった。1908年、斎藤秀三郎の本で

「This is a pen.」は本当に教科書の1文目だった。1908年、斎藤秀三郎の本で

読む前に予想してみよう!

「This is a pen.」は、昔の日本の英語の教科書に本当にのっていた

研究カード(どんな研究?)
対象
1891〜1944年の英語教科書・教師用の本
規模
国立国会図書館デジタルコレクションで10冊を誌面で確認
研究の種類
歴史資料の確認+辞書
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「This is a pen.」は実在した。英語学者・斎藤秀三郎の中学1年用の教科書(1908年)で、第1課の1文目。昭和の教師用の本は「ペンを手に取って言う」と指示していた。

ひとことで言うと「This is a pen.」は、110年以上前の教科書に本当にのっていた!

もくじ
  1. 国会図書館で探すと、明治から何十冊も
  2. なぜ「ペン」だったのか:どの教室にもあるから
  3. 明治の先生の心配:生徒が「this pen is」と並べてしまう
  4. どんでん返し:1930年、「ペンを見せるだけでは生徒が納得しない」という指摘
  5. 実際の英語の「This is 〜」:人の紹介と電話
  6. テストや英作文ではどうする?
  7. まとめ
  8. よくある質問

This is a pen.(これはペンです)

中学校の英語の、いちばん最初の文として語られる一文です。「見れば分かる」「一生言わない」と、“使えない学校英語”の代表としてネタにされてきました。昔の教科書を見たことがない世代には「本当にのっていたの?」と半分伝説のようにも聞こえます。

国立国会図書館のデジタル資料で調べると、伝説ではありませんでした。英語学者・斎藤秀三郎の中学1年用の教科書(1908年の日付)で、第1課の1文目。ペンを握った手の絵の下に、太い活字で印刷されています。

01国会図書館で探すと、明治から何十冊も

国立国会図書館の「次世代デジタルライブラリー」では、著作権の切れた古い本の中身を、文字で検索できます。"This is a pen" と入れると、明治から昭和の英語の本が数十冊ヒットしました(古い活字を機械で読み取っているので、数は目安です)。そのうち、誌面の画像で確かめたものを古い順に並べます。

斎藤秀三郎は1866年に仙台藩士の子として生まれ、少年のころ仙台で英語を学んだ英語学者です。旧制の第二高等学校や第一高等学校で教え、たくさんの英語辞書や文法書を出しました(宮城県の文化財の解説)。

その斎藤の教科書の序文には、こう書いてあります。

「ふつうでない表現や役に立たない表現は、本文からも練習問題からも注意深く取り除いた」(著者による序文の要旨)

そして本文の最初、LESSON I の1文目が This is a pen. です。

02なぜ「ペン」だったのか:どの教室にもあるから

答えは、昭和の教師用の本に書いてあります。

1944年の高等女学校1・2年用の教科書の「編纂趣意書」(先生向けの説明書き)には、英語の最初の授業について、こう指示があります。

  • 挿し絵にある物は どこの教室にもあるはず だから、本物を見せる のがよい
  • 教室になければ、先生が持ってくること
  • 本物を見せながら、This is a pen. This is a book. This is a desk. This is a chair. と言って聞かせる

1937年の英作文の教師用の本は、もっと具体的です。先生は (ペンを取り上げて)This is a pen.、(机にふれながら)This is a desk. と言い、ペンを見せながら Is this a box? No, it is not.(これは箱ですか? いいえ、ちがいます)と自分で問い、自分で答えてみせます。

つまり This is a pen. は、先生が手に持った物を見せながら言うための文 でした。ペン、本、机、いす。どれも教室にあるので、日本語に訳さなくても、英語と物を直接むすびつけられます。

1937年の教師用の本は「ペンを取り上げて This is a pen.」と指示していた(国立国会図書館デジタルコレクション)
1937年の教師用の本は「ペンを取り上げて This is a pen.」と指示していた(国立国会図書館デジタルコレクション)

03明治の先生の心配:生徒が「this pen is」と並べてしまう

この文の教え方を、明治のころから気にしていた人もいます。英語教育者の神田乃武(かんだ・ないぶ)です。1901年の教師向けの本『英語読本説明書』で、こんな失敗を挙げています。

「Kore wa pen desu(これはペンです)」を英語にするとき、生徒が単語を1つずつ置きかえて、Kore wa → this、pen → pen、desu → is とすると、this pen is という並びになってしまう。これでは悪いくせがつく、というのです。

だから神田は、まず文をひとまとまりで口で練習させ、this と that を本物の物で比べて、意味を自然に分からせるのがよい、と書いています。1903年のイーストレーキの講座も、同じページで「文の最初は大文字、終わりには必ずピリオド」と注意しています。This is a pen. は、単語よりも「英語の文の形」を教えるための文だったのです。

04どんでん返し:1930年、「ペンを見せるだけでは生徒が納得しない」という指摘

ところが、この「ペンを見せる」方法にも、昭和の初めに疑問が出ています。英語教育を研究した石黒魯平は、1930年の『外語教授原理と方法の研究』で、こう書いています。

  • ペン軸にさしたペンや、万年筆を見せて教えようとしても、生徒は This is a pen. では満足しない
  • 生徒は日本語で、軸にさしたペン、軸から外したペン先、万年筆 を区別しているから
  • 「pen」は日本語にもなっているので、ペン先を見せてしまえば、この取りちがえは防げるだろう

石黒が挙げているのは、軸にペン先をさしてインクにひたして書くペンと、万年筆です。軸から外したペン先も「ペン」と呼ばれていたので、先生が何を見せるかで、生徒の頭に浮かぶ物がずれたわけです。斎藤の教科書の絵も、細い軸の先にペン先がついたペンでした。

ただし石黒は、This is a pen. をやめろと言ったのではありません。同じ本の87ページでは、最初の授業は This is a pen (desk, box, hat, cap, map, book…) のように、手近な物を指して言う文から入るのがよいとし、「This is a pen. の型で実物と共に、幾度でも聞かせる」とまで書いています。疑問を出した本人も、入門の1文目にはこの型を勧めていたわけです。

もう一つ、どの教科書もペンから始めたわけではありません。1939年に出た文部省の読本(1942年の教師用書の目次で確認)は、第1課が This is a map.(地図)で、ペンは第2課です。戦後の有名な教科書『Jack and Betty』(1948年、開隆堂)にこの文があったかどうかは、今回は中身を確かめられませんでした。

05実際の英語の「This is 〜」:人の紹介と電話

では、英語を話す人は This is 〜 をどこで使うのでしょうか。学習者向けの『オックスフォード現代英英辞典』の this の項目には、近くの物を指すほかに、こんな使い方がのっています。

  • 人を紹介するとき:Mom, this is Aya. We're in the same class.(お母さん、こちらはアヤ。同じクラスなの)
  • 電話で名乗るとき:Hi, this is Kenta from Sakura Dental.(もしもし、さくら歯科のケンタです)
  • 電話で相手をたしかめるとき:アメリカ英語では Is this Maria?、イギリス英語では Is that Maria?(マリアさんですか)
  • 話を始めるとき(くだけた言い方):There was this guy at the station...(駅にさ、ある男がいてね…)

This is a pen. そのものも、物が見ただけでは分からないときなら自然です。

  • Believe it or not, this is a pen.(信じられないかもしれないけど、これ、ペンなんです)
  • This is a pen, but it's also a tiny camera.(これはペンだけど、小さなカメラでもあるんです)

06テストや英作文ではどうする?

This is a pen. は、テストでもそのまま正解になる英語です。気をつけるのは、明治・大正の本もすでに注意していた3点です。

  1. a を落とさない:This is pen. はまちがい。数えられる物が1つなら a(母音の音で始まる語なら an)をつける
  2. 文の最初は大文字、終わりはピリオド
  3. 語順は「これは+です+ペン」:日本語の順に並べた This pen is. は文になっていない

そのうえで英作文や会話の練習なら、This is my pen.(これは私のペンです)や This is a pen from my grandfather.(これは祖父にもらったペンです)のように、相手が知らない情報を足すと、生きた文になります。

07まとめ

This is a pen. は、作り話ではありませんでした。1903年の通信講座、1908年の斎藤秀三郎の教科書の第1課、1920年代や1940年代の教科書。どれも、先生がペンを手に持って見せながら言う ための文です。「役に立たない表現は除いた」と書いた教科書の1文目だったのは、教室で本物を見せられる、いちばん身近な物だったからでした。

実際の英語で This is 〜 がいちばん活躍するのは、人を紹介するときと電話です。This is a pen. の次は、This is my friend. と Hi, this is 〜. を言えるようにしておきましょう。

よくある質問

This is a pen は本当に教科書にのっていたのですか?

本当です。英語学者・斎藤秀三郎の中学1年用の教科書『Middle-School English Lessons』(1908年の日付)で、第1課の1文目にあります。ペンを握った手の絵の下に印刷されていて、国立国会図書館のデジタル資料で見られます。

This is a pen はいつごろから使われていますか?

国立国会図書館の資料では、1901年の神田乃武の教師向けの本や、1903年の通信講座の教材にすでに出てきます。いちばん古い例は特定していません。1924年の教科書の予習書や、1942年の文部省の読本の教師用書にも出てきます。

なぜ「ペン」が選ばれたのですか?

どの教室にもある物だからです。1944年の教科書の説明書きは、挿し絵の物はどこの教室にもあるはずだから本物を見せるのがよい、と指示しています。日本語に訳さなくても、英語と物を直接むすびつけられました。

This is a pen はどう教えられていたのですか?

先生が手に持った物を見せながら言う文でした。1937年の教師用の本は、先生は(ペンを取り上げて)This is a pen.、(机にふれながら)This is a desk. と言うよう指示しています。

This is a pen は「使えない英語」ですか?

文法として正しい英語で、テストでもそのまま正解になります。「使えない」と言われるのは、見れば分かる物に言うからです。Believe it or not, this is a pen.(信じられないかもしれないけど、これ、ペンなんです)のような場面なら自然です。

実際の英語では This is 〜 をどう使いますか?

人を紹介するときと電話でよく使います。This is my friend, Yuto.(こちらは友だちのユウトです)、Hi, this is Mika.(もしもし、ミカです)のように言います。電話で相手をたしかめるときは、アメリカ英語なら Is this 〜? です。

This is a pen を書くときの注意点は何ですか?

a を落とさないこと(This is pen. はまちがい)、文の最初は大文字・終わりはピリオド、日本語の順に並べた This pen is. にしないこと、の3つです。大文字とピリオドは1903年の講座が、語順は1901年の神田乃武の本が、すでに注意していました。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor years, "This is a pen" has been a joke about school English in Japan. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

For years, "This is a pen" has been a joke about school English in Japan. Who would ever need to say that? Old books in the National Diet Library show that the sentence was not made up. It is the first sentence of the first unit in a textbook by the scholar Hidesaburo Saito, dated 1908, and a drawing of a hand holding a pen sits right above it.

A 1937 guide for teachers explains how it was used. The teacher picks up a pen and says, "This is a pen," then touches a desk and says, "This is a desk." Pens and desks were in every classroom, so students could connect the English words with real things.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

何年もの間、「This is a pen」は日本の学校英語についての冗談のネタだった。そんなことを言う必要がある人などいるだろうか。国立国会図書館にある古い本を見ると、この文が作り話ではないことが分かる。それは学者の斎藤秀三郎による、1908年の日付がある教科書の最初の課の最初の文で、すぐ上にはペンを握った手の絵がある。

1937年の先生向けの手引きが、それがどう使われたかを説明している。先生はペンを手に取って「This is a pen」と言い、次に机にふれて「This is a desk」と言う。ペンと机はどの教室にもあったので、生徒は英語の言葉を本物の物と結びつけることができた。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the passage mainly show?

Q2. According to the 1937 guide, what does the teacher do after saying "This is a pen"?

Q3. Why did teachers choose objects like pens and desks?

重要単語

  • textbookA2
    名詞教科書Open your textbook to page 12. text(本文)+book。「教科書の何ページを開いて」は open your textbook to page ~。
  • introduceA2
    動詞紹介するLet me introduce my sister. This is Rina. 人を紹介するときは This is ~ がふつう。introduce A to B「AをBに紹介する」。
  • objectB1
    名詞物、物体The teacher held up a small object and asked, "What is this?" 動詞(object to ~「~に反対する」)は後ろを強く読む。名詞は前を強く読む。
  • prefaceB2
    名詞(本の)序文、まえがきIn the preface, the writer explains why she wrote the book. pre-(前に)+「話すこと」。発音は「プレフィス」に近く、face とは読まない。
  • translateB1
    動詞訳すTry not to translate every word. Think about the whole sentence. translate A into B「AをBに訳す」。word by word「1語ずつ」と組み合わせて使うことが多い。
  • nibC1
    名詞ペン先The old pen had a metal nib that you dipped in ink. つけペンや万年筆の金属の先。英語の pen は「書く道具全体」を指す。
  • joke aboutB1
    動詞句~を冗談のネタにするMy friends joke about my old phone. make a joke about ~ とも言う。相手を傷つける冗談は a mean joke。
「使えない学校英語」とネタにされる「This is a pen.」。1908年の斎藤秀三郎の英語教科書で、本当に第1課の1文目でした。ペンを握る手の絵つき。しかもその本の序文には「役に立たない表現は取り除いた」とあります。

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出典・参考文献(8件)タップで表示
  1. 斎藤秀三郎『Middle-School English Lessons』No.1 First Year(興文社、扉に1908年/国会図書館の記録は1909年)序文・LESSON I(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  2. 斎藤秀三郎『Elementary English Lessons 漢訳』No.1(興文社、表紙に1908年/国会図書館の記録は1909年)同じ本の中国語訳つきの版の訳者の凡例・序文・LESSON I(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  3. イーストレーキ『英語講義録』(イーストレーキ英語学会ほか、1903)110〜111ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  4. 神田乃武『英語読本説明書』(三省堂、1901)6〜7ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  5. 開拓社編輯所『ザ・ニュー・メソッド・コンポジション 教授用参考書』巻1・2(開拓社、1937)LESSON 1(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  6. 中等学校教科書株式会社『英語編纂趣意書 高等女学校第1・2学年用』(1944)7ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  7. 石黒魯平『外語教授原理と方法の研究』(開拓社、1930)54・87ページ(国立国会図書館デジタルコレクション)dl.ndl.go.jp
  8. Oxford Learner's Dictionaries「this」(determiner, pronoun)oxfordlearnersdictionaries.com

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