英語の筆記体は、2002年度から中学で“教えなくてもいい”文字に。アメリカの全国基準にも入らず

読む前に予想してみよう!
今の中学校では、英語の筆記体を必ず教えることになっている
1998年告示(2002年度実施)の学習指導要領から「生徒の学習負担に配慮し筆記体を指導することもできる」となり、2017年告示の今の学習指導要領も同じ扱い。
- 対象
- 中学校学習指導要領(1958〜2017年告示)とアメリカの州の法律・議会資料
- 規模
- 国の教育課程の基準7回分・州法1本
- 研究の種類
- 法令・公的資料の比較
- 確かさ
- ★★★★☆
国が決める中学校の教える内容の基準「学習指導要領」は、1958〜1989年の版では筆記体を教える文字に入れていた。1998年に出た版(2002年度から実施)からは「指導することもできる」に。アメリカでも2010年の全国共通の基準に入らず、カリフォルニア州は2023年の州法で、小学校で教えることにした。
ひとことで言うと筆記体は、今の中学校では「教えても教えなくてもいい」ことになっているよ
もくじ
中学1年の英語の時間。4本線のノートに、a、b、c をつなげて書く練習をした。筆記体で名前が書けると、なんだか大人になった気がした――。
そんな思い出がある人に、今の中学生がこう言うかもしれません。「筆記体? 習ってないよ」。
実はこれ、先生がサボったわけではありません。国が決める、学校で教える内容の基準「学習指導要領」で、1998年に告示(国が正式に発表)され、2002年度から実施された版から、筆記体は「指導することもできる」もの、つまり教えても教えなくてもいい文字になったのです。
011958年から1989年までは「教える文字」だった
国立教育政策研究所の学習指導要領データベースで、中学校の外国語の文字の項目を順に見ていきます。
日本英語教育史学会の学会誌に載った西岡淑雄の論文(1988年)によると、1977年版の学習指導要領の解説書は、活字体に慣れさせるとともに筆記体にも慣れさせることが大切だとしていました。それが20年ほどで「教えてもいい」に変わったのです。
今の中学校の決まりでは、筆記体は「教えてもいい」文字。教えるかどうかは、学校や先生しだいです。
1998年の改訂では、学ぶ単語の目安も「1000語程度まで」(1989年版)から「900語程度まで」に減りました。単語の数を減らしたのと同じ改訂で、筆記体にも「生徒の学習負担に配慮し」という言葉が付いたのです。
02同じ1998年、外国語は全員が学ぶ「必修教科」になった
同じデータベースには、学習指導要領と一緒に学校教育法施行規則(学校のしくみを決める文部省の規則)の抜き書きも載っています。
- 1958年版・1969年版・1977年版・1989年版:中学校の外国語は「選択教科」(学校や生徒が選んで学ぶ教科)の一つ
- 1998年版:必修教科(全員が学ぶ教科)に「外国語」が加わる。学習指導要領にも「英語を履修させることを原則とする」(英語を学ばせるのを原則にする)と書かれた
法令の上では、中学校の外国語は1998年の改正まで「選ぶ教科」だったのです。外国語が必修になり、英語を学ぶことが原則になったのと同じ改訂で、筆記体は「教えなくてもいい」に変わりました。
03明治の中学には、英語の「習字」の時間があった
さらにさかのぼると、筆記体は今よりずっと大事にされていました。西岡の論文によると:
- 1872年(明治5年)の「外国語教師ニテ教授スル中学教則」では、予科(本科の前に学ぶ準備のコース)の習字が毎週、初級6時間・上級4時間
- 1902年(明治35年)の教授要目(国が示した教える内容の目安)では、外国語の第1学年で、毎週1時間を習字に分けてよいとした
1871年(明治4年)に出た英習字の本には、筆と墨しか知らない読者のために、ペンとインクの説明や、ペンの持ち方の図が載っています。

04アメリカでも、全国共通の基準に筆記体は入らなかった
筆記体の本場アメリカでも、同じことが起きています。
カリフォルニア州議会の教育委員会がまとめた資料によると、2010年に発表された全国共通の学力基準「コモン・コア」に、筆記体は入りませんでした。カリフォルニア州は、州が独自に足してよい分を使い、3・4年生で筆記体(またはそれに近い続け字)を書く項目を自分の基準に加えました。
それでも法案を出した議員によると、筆記体を習うかどうかは、通う学校によってばらばらでした。そこで、1〜6年生で教える「手書き」の中に、ふさわしい学年で筆記体(またはそれに近い続け字)の指導を含める法案 AB 446 が出され、2023年10月13日に知事が署名して州法になりました。法案を出した議員は、仕事の応募や投票などで、筆記体で署名できることが大事だと訴えています。
英語では、続け書きの筆記体を cursive、イギリスでは joined-up writing とも言います(Oxford Learner's Dictionaries)。一方、続けずに書くことは print と言います。
- Please print your name in capital letters.(お名前を活字体の大文字で書いてください)
- Please sign here.(ここにサインをお願いします)
- She writes her diary in cursive.(彼女は日記を筆記体で書く)
書類で print と言われたら「活字体で」の意味です。印刷機は関係ありません。
05なぜ「教えなくてもいい」になったのか
学習指導要領の文面にあるのは「生徒の学習負担に配慮し」という理由です。1998年版は、特に「聞くこと及び話すこと」に重点を置いて教えるよう書いています。筆記体を禁じたのではなく、教えるかどうかを学校に任せた形です。
06どんでん返し:「筆記体は頭にいい」は、まだはっきりしない
AB 446 を出した議員は、筆記体は脳の発達によいと書いています。ところが先ほどのカリフォルニア州議会の資料は、それまでの研究をまとめ直した論文2本(2012年・2022年)を引いて、活字体と筆記体のどちらを、あるいは両方を教えるべきかは、はっきりしないとまとめています。
- 何かしらの手書きを教えることには意味がある
- 筆記体から習った子は、書く速さでは遅かったが、つづりや文の組み立てで上回ったという研究がある
- 両方を習うのは子どもの負担が大きいが、読む力にはよいらしい
「筆記体がいい」「いらない」と言い切れるほどの証拠は、まだそろっていないのです。
07テストや英作文ではどうする?
- 入試や英検の英作文は、採点する人が読みやすい活字体で書くのが無難。筆記体を使う場合も、読みにくくならないように
- 海外の書類で print とあれば活字体、signature の欄は署名
- 筆記体を習っていなくても、英語のカードや手紙のために、読めるようにしておくと役に立つ
08まとめ
中学校の学習指導要領では、1958年から1989年まで筆記体は教える文字でした。1998年告示(2002年度実施)で「指導することもできる」に変わり、今もそのままです。アメリカでも2010年の全国共通の基準に筆記体は入らず、カリフォルニア州は2023年に法律で教えると決めました。
今の中学生が「筆記体? 習ってないよ」と言っても、それは誰かが手を抜いたからではありません。国の決まりが変わった結果だったのです。
よくある質問
筆記体を中学で習わなくなったのはいつからですか?
2002年度からです。1998年に告示され、2002年度から実施された学習指導要領で、筆記体は「指導することもできる」もの、つまり教えても教えなくてもいい文字になりました。1958年から1989年の版では、教える文字に入っていました。
なぜ筆記体を教えなくてもよくなったのですか?
学習指導要領の文面にある理由は「生徒の学習負担に配慮し」です。同じ1998年の改訂では、学ぶ単語の目安も「1000語程度まで」から「900語程度まで」に減りました。筆記体を禁じたのではなく、教えるかどうかを学校に任せた形です。
今の中学校では筆記体を教えないのですか?
学校や先生しだいです。今の2017年告示の学習指導要領でも、筆記体は「生徒の学習負担にも配慮しながら」「指導することもできる」とされています。教える学校もあれば、教えない学校もあります。
入試や英検の英作文で筆記体を使ってもいいですか?
採点する人が読みやすい活字体で書くのが無難です。筆記体を使う場合も、読みにくくならないようにしましょう。英作文は読みやすさがいちばんです。
アメリカの学校では筆記体を習いますか?
州や学校によって違います。2010年に発表された全国共通の学力基準「コモン・コア」に、筆記体は入りませんでした。カリフォルニア州は2023年10月13日に知事が署名した州法で、1〜6年生のふさわしい学年で筆記体(またはそれに近い続け字)を教えることにしました。
筆記体は英語で何と言いますか?
cursive です。イギリスでは joined-up writing とも言います(Oxford Learner's Dictionaries)。続けずに書く活字体は print で、書類の Please print your name. は「活字体で書いてください」という意味です。
筆記体を習うと頭がよくなりますか?
はっきりしていません。カリフォルニア州議会の資料は、研究をまとめ直した論文2本を引いて、活字体と筆記体のどちらを、あるいは両方を教えるべきかははっきりしないとまとめています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk people in Japan who started junior high school in the 1980s, and many will remember writing joined-up…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan, many adults learned to write English in cursive in their first year of junior high school. They practiced joining the letters in special notebooks with four lines.
But today, a lot of students do not learn it. Since 2002, the national rules have said that teachers can teach cursive, but they do not have to. In the United States, cursive was also left out of the national standards in 2010.
72 words ・ CEFR A2
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日本では、多くの大人が中学1年生のときに英語の筆記体の書き方を習いました。4本線の特別なノートで、文字をつなげる練習をしたのです。
でも今では、習わない生徒もたくさんいます。2002年から、国の決まりでは、先生は筆記体を教えてもよいけれど、教えなくてもよいことになっています。アメリカでも、2010年の全国の基準に筆記体は入りませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
昔は習った筆記体が、今は教えなくてもよくなった、という学校での扱いの変化の話なので B。
Q2. Since when have Japanese teachers not had to teach cursive?
Since 2002, the national rules have said that teachers can teach cursive, but they do not have to とあるので C。2010年はアメリカの話。
Q3. In the passage, what does "joining" mean in "joining the letters"?
筆記体は文字をつなげて書くので、join は「つなぐ」。C の connecting が同じ意味。
Ask people in Japan who started junior high school in the 1980s, and many will remember writing joined-up English letters in four-line notebooks. Back then, the national curriculum listed cursive as part of what first-year students should learn. That changed with the curriculum issued in 1998 and used from 2002. It says teachers may teach cursive, keeping in mind how much work students already have.
So it is now optional, and each school decides. Something similar happened in the United States. The Common Core standards, released in 2010, did not include cursive. Later, in 2023, California passed a law that requires cursive, or a similar joined style, to be taught at some point in grades 1 to 6.
118 words ・ CEFR B1
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1980年代に中学校に入学した日本の人にたずねると、多くの人が4本線のノートに英語の続け字を書いたことを覚えているだろう。当時、国の学習指導要領は、筆記体を1年生が学ぶべきものの一つとして挙げていた。それが変わったのは、1998年に告示され2002年から使われた学習指導要領でだった。そこには、生徒がすでに抱えている学習の量に気を配りながら、先生は筆記体を教えてもよい、と書かれている。
だから今は選択になっていて、学校ごとに決める。似たことがアメリカでも起きた。2010年に発表されたコモン・コアの基準には、筆記体が入らなかった。その後2023年に、カリフォルニア州は、1〜6年生のどこかの学年で筆記体かそれに近い続け書きを教えることを求める法律を作った。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1998 curriculum say about cursive?
It says teachers may teach cursive, keeping in mind how much work students already have とあるので C。
Q2. What did California do in 2023?
California passed a law that requires cursive ... to be taught at some point in grades 1 to 6 とあるので A。1〜6年生は小学校にあたる。
Q3. What can be inferred about Japanese students today?
it is now optional, and each school decides から、学校によって習うかどうかが違うと推測できるので B。
Japan's national curriculum for junior high schools listed cursive alongside printed letters in every version from 1958 to 1989, usually as something for first-year students. The 1998 version moved it into a note saying teachers may teach cursive while keeping the load on students in mind. The same reform made foreign languages a required subject in the official rules, and it cut the target vocabulary from about 1,000 words to about 900.
Handwriting once mattered more. Under one set of rules for middle schools from 1872, beginners in the preparatory course had six hours of penmanship a week. In the United States, cursive was left out of the Common Core standards of 2010. California added it to its own standards, but whether children learned it depended on where they went to school.
So in 2023 the state passed a law requiring it at some point in grades 1 to 6. The research is less settled than the bill's author suggested. A committee report on the bill quoted two research reviews, and neither could say whether schools should teach print, cursive or both. In one study they described, children who learned cursive wrote more slowly but spelled better.
197 words ・ CEFR B2
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日本の中学校の学習指導要領は、1958年から1989年までのすべての版で、活字体と並べて筆記体を挙げており、たいていは1年生で学ぶものとしていた。1998年版は、それを、生徒の負担に気を配りながら先生は筆記体を教えてもよい、という注意書きに移した。同じ改革で、外国語は公式の規則上の必修教科となり、学ぶ単語の目安は約1,000語から約900語に減らされた。
手書きは、かつてもっと重んじられていた。1872年の中学校のある規則のもとでは、予科の初級の生徒に習字が週6時間あった。アメリカでは、2010年のコモン・コアの基準に筆記体は入らなかった。カリフォルニア州は自分たちの基準に筆記体を加えたが、子どもがそれを習うかどうかは通う学校によって違った。
そこで2023年、州は1〜6年生のどこかで筆記体を教えることを求める法律を作った。研究は、法案を出した議員が言うほどには固まっていない。この法案についての委員会の報告書は2本の研究レビューを引用しているが、学校が活字体、筆記体、あるいは両方のどれを教えるべきかを、どちらのレビューも言い切れていない。報告書が紹介した研究の一つでは、筆記体で習った子どもは書くのが遅かったが、つづりはよくできた。
4択リーディングクイズ
Q1. Which change came with Japan's 1998 curriculum reform?
The same reform made foreign languages a required subject in the official rules とあるので B。単語は1,000語から900語に「減った」。週6時間は1872年の話。
Q2. Why did California pass the 2023 law?
whether children actually learned it depended on where they went to school. So in 2023 ... とあるので C。
Q3. What is the writer's view of the research on cursive?
The research is less settled than the bill's author suggested とあり、どれを教えるべきかはまだ言えないと続くので C。
重要単語
- cursiveB2形容詞・名詞(手書きの文字が)続け書きの;筆記体My grandmother writes letters in cursive.
in cursive で「筆記体で」。ラテン語の currere(走る)から。ペンが走るように書く文字。 - printB1動詞(続けずに)活字体で書くPlease print your name clearly on the form.
書類の Please print は「活字体で書いて」。「印刷する」と取りちがえやすい。 - signatureB1名詞署名、サインI need your signature at the bottom of the page.
動詞は sign。有名人の「サインください」は autograph を使う。 - handwritingB1名詞手書きの文字、筆跡His handwriting is hard to read.
数えない名詞。neat handwriting「きれいな字」、messy handwriting「汚い字」。 - optionalB2形容詞選択の、任意のThe extra lesson is optional.
option(選択肢)の形容詞。反対は compulsory / required(必修の)。 - curriculumB2名詞教育課程、カリキュラムCoding became part of the school curriculum.
複数形は curricula または curriculums。ラテン語で「コース」の意味で、currere(走る)から。 - joined-upC1形容詞(文字が)続け書きのShe learned joined-up writing at the age of seven.
イギリス英語。joined-up writing で「続け字、筆記体」。
公式・一次情報をチェック
- 学習指導要領データベース(国立教育政策研究所)erid.nier.go.jp
- cursive(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- joined-up(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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中1で4本線のノートに筆記体を練習した人へ。国の学習指導要領では、1998年に出た版(2002年度から実施)から、筆記体は「指導することもできる」扱いに。必ず教える文字ではなくなりました。アメリカでも2010年の全国共通の基準には入らず、州法で教えると決めた州があります。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- 文部省 (1998) 中学校学習指導要領「第9節 外国語」(国立教育政策研究所 学習指導要領データベース)erid.nier.go.jp
- 文部省 (1989) 中学校学習指導要領「第9節 外国語」(同データベース。1958年・1969年・1977年・2017年版も同データベースで確認)erid.nier.go.jp
- 西岡淑雄 (1988) 英習字教育史序説, 日本英語教育史研究 3: 155–168doi.org
- California Assembly Committee on Education (2023) AB 446 (Quirk-Silva) Pupil instruction: handwriting, Bill analysis, hearing of March 22, 2023aedn.assembly.ca.gov
- California Legislature (2023) AB-446 Pupil instruction: handwriting, Chapter 804, Statutes of 2023(成立した条文)leginfo.legislature.ca.gov
- Office of Governor Gavin Newsom (2023) Governor Newsom Issues Legislative Update 10.13.23gov.ca.gov
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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