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日英くらべウソ

TOEICは日本人の依頼で生まれた。1979年の第1回は日本だけで行われ、受験者2,773人

TOEICは日本人の依頼で生まれた。1979年の第1回は日本だけで行われ、受験者2,773人

読む前に予想してみよう!

TOEICは、アメリカで広まった英語のテストが、あとから日本に入ってきたものだ

研究カード(どんな研究?)
対象
1979年12月の第1回TOEIC受験者
規模
2,773人(ETSの分析対象は2,710人)
研究の種類
試験団体の公式記録と、開発したETS担当者の報告
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

TOEICはアメリカから入ってきた試験、ではない。1977年に日本人の北岡靖男がアメリカの試験団体ETSに開発を依頼し、1979年12月に日本の5都市で第1回を実施。日本の外で初めて行われたのは1982年の韓国だった。

ひとことで言うとTOEICは、日本の人がアメリカの団体に「こんなテストを作って」とたのんで生まれたんだって!

もくじ
  1. 「英語の力を測る物差しが欲しい」
  2. 1979年12月2日、会場は日本の5都市だけ
  3. 第1回の受験者は会社員が多かった? 記録が食い違う
  4. 昔のTOEICには「まちがいを探せ」問題があった
  5. 英検はそれより前の1963年、文部省の後援で始まった
  6. どんでん返し:ETSは最初、断っていた
  7. テストではどうする? TOEICと英検の使い分け
  8. まとめ
  9. よくある質問

「応募の条件:TOEIC 600点以上」

就職の求人や大学の単位認定で、こんな一行を見たことはありませんか。TOEICはアメリカの試験団体が作った、世界の160か国以上で使われている英語テストです。だから「アメリカで生まれて、日本に入ってきた試験」だと思っている人も多いでしょう。

ところが順番は逆でした。「こういうテストを作ってほしい」とアメリカに頼んだのは、日本人です。 1979年12月の第1回は日本の5都市だけで行われ、受験者は2,773人。日本の外で初めて行われたのは、それから2年あまり後のことでした。

01「英語の力を測る物差しが欲しい」

TOEICを日本で運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の公式の沿革(これまでの歩みをまとめた記録)によると、始まりは北岡靖男という一人の人物です。

北岡は1951年にアメリカの出版社タイム社に入り、1970年代には日米の財界人が集まる会議でアドバイザーを務めました。交渉の席で感じたのは、英語でやりとりする力を客観的に測る「物差し」が日本にない、ということでした。

そこで北岡は1977年から翌年にかけて、アメリカ・プリンストンにある試験団体 ETS(Educational Testing Service) を何度も訪ねます。ETSは、アメリカの大学に留学するための英語テスト TOEFL を作っている団体です。ETSに頼むよう助言したのは、タイム社の同僚だった三枝幸夫でした。

TOEICは Test of English for International Communication の頭文字です。「国際コミュニケーションのための英語テスト」という意味です。

021979年12月2日、会場は日本の5都市だけ

ウッドフォードは報告の中で、受験者がみな同じ母語(生まれて最初に身につけた言葉。ここでは日本語)を話す人たちだったので、「この点数の人はこのくらいの英語が読める」という見本を作れるようになった、と書いています。受験者の母語がばらばらなら、スペイン語・中国語・日本語……と、母語ごとに別の見本を用意しなければならないからです。

TOEICは、日本人が「作ってほしい」と頼んで生まれた試験。第1回の受験者は、全員が日本の会場で受けていました。

兵庫県立大学の紀要(大学が出す論文集)に載ったブレズナハンの論文(2013年)によると、日本の外で初めてTOEICが行われたのは 1982年1月の韓国 です。TOEIC開始30年の2009年にIIBCが出した会報『TOEIC Newsletter』No.105 の年表にも、1982年の項に「韓国でTOEICテストがスタート」とあります。今では、ETSの公式サイトに「160か国以上」と書かれています。日本で個人が申しこんで受ける公開テスト(聞く・読むを測る TOEIC L&R。L&R は Listening & Reading)だけでも、2025年度の受験者は755,473人。第1回の約270倍です。

03第1回の受験者は会社員が多かった? 記録が食い違う

TOEICは、仕事で使う英語の力を測るために作られました。では、第1回を受けたのはどんな人たちだったのでしょうか。ここは、記録どうしが食い違っています。

  • ウッドフォードの報告(1982年):第1回の受験者には会社に属していない人が予想外に多かった。表の人数は、会社に属する人が828人、属さない人が1,884人
  • IIBCの会報 No.105(2009年):受験者2,773人(男性1,929人、女性844人)のうち、企業・団体に属するビジネスパーソンが1,848人で約7割。約半分の1,402人が20代だった

会社に属する人と属さない人の多い・少ないが、2つの記録で逆になっています。どちらが正しいのか、なぜ食い違ったのかは、今回確かめた資料からは分かりません。

今の受験者は、会社員ばかりではありません。2025年度の日本の公開テストでは、受験者のうち学生が434,399人、社会人が308,493人。学生のほうが多いのです。

1977年から翌年にかけて、北岡靖男はアメリカのETSを何度も訪ねた(IIBCの沿革)
1977年から翌年にかけて、北岡靖男はアメリカのETSを何度も訪ねた(IIBCの沿革)

04昔のTOEICには「まちがいを探せ」問題があった

ウッドフォードの報告によると、最初のTOEICの読む問題には、Part VI「誤りを見つける問題」が20問ありました。ブレズナハンの論文の説明では、文の中の4か所に下線があり、そのうち文法などがまちがっている1か所を選ぶ形式です。日本の入試でおなじみの「正誤問題」と同じ形です。たとえばこんな問題です(このサイトで作った例です)。

  • The manager have asked us to finish the report by Friday morning.(部長は金曜の朝までに報告書を仕上げるよう私たちに頼んだ)

正解は have です。主語の The manager は1人なので has にします。

第1回のデータでは、読む問題の中でいちばん難しかったのがこのPart VIでした。この形式は2006年の改訂でなくなり、長めの文章の空所を埋める問題に変わりました。同じ改訂で、聞く問題の音声も、それまでの北米の話し手だけから、イギリス・オーストラリア・ニュージーランドの話し手が加わりました。

05英検はそれより前の1963年、文部省の後援で始まった

日本にはそれより前から英語の検定がありました。日本英語検定協会の沿革によると、英検の第1回は 1963年8月。文部省(今の文部科学省)の後援で、1〜3級が全国47都市で行われ、志願者は37,663人でした。

一方、TOEICの運営委員会が置かれたのは、通商産業省が所管する財団の中でした。同じ英語の試験でも、英検は文部省の側、TOEICは通商産業省の側から始まったのです。

06どんでん返し:ETSは最初、断っていた

IIBCの今の沿革では、ETSの担当者ウッドフォードが北岡の熱意に心を動かされ、協力を申し出たとされています。

ところが、同じIIBCの会報 No.105(2009年)の「TOEIC誕生秘話」には、その前の段階が書かれています。ウッドフォードは北岡の構想に強く興味を持ったものの、ETSの最初の結論は「開発しない」だった。新しいテストを作るには大きな費用がかかり、非営利団体(もうけを目的としない団体)が一つの企業のためにテストを作るのは望ましくない、という意見もあったからです。北岡はそこから数か月かけて日本の公的機関に働きかけ、後援を取りつけました。

ブレズナハンの論文は、その数か月をもう少しくわしく書いています。

  • 1977年の初めに北岡が出した依頼は、ETSの人たちが関心を持ったものの、いったん断られた。北岡が営利企業の経営者で、非営利団体のETSがその会社のためにテストを作るのはふさわしくない、と考えられたため
  • 北岡は次に文部省に話を持ちこんだが、文部省はすでに英検を支えていたので関心を示さなかった
  • その後、通商産業省の側の財団にいた友人の助けで、1977年の後半に通商産業省と経済団体連合会(経団連)の代表がETSと会い、ETSが研究を始めた

「心を動かされて協力」と「最初は断った」は、どちらかがウソなのではなく、話の順番の前と後ろです。ただし、文部省に断られたくだりは、今回確かめた中ではブレズナハンの論文にしか出てきません。会報のほうは「日本の公的機関」と書くだけで、役所の名前は出していません。

07テストではどうする? TOEICと英検の使い分け

  • TOEIC L&R が測るのは聞く・読むだけ。ウッドフォードによると、話す・書くを人が採点すると時間も費用もかかるため、機械で採点できる選択式にしぼった。話す・書く力は、日本では2007年に公開テストが始まった TOEIC S&W(Speaking & Writing)で測る
  • 英検は級ごとに合格・不合格が決まる。TOEICは合格・不合格ではなく、10〜990点の点数で結果が出る
  • TOEICの聞く問題には、今はイギリスなどの発音も入る。Could you send me the file by noon?(お昼までにファイルを送ってもらえますか)のような短い文を、いろいろな発音で聞いておくとよい

08まとめ

TOEICは、アメリカの試験団体ETSが作った試験です。でもその始まりは、「英語の力を測る物差しが欲しい」と考えた日本人の依頼でした。1979年12月の第1回は日本の5都市だけで、受験者は2,773人。日本の外で初めて行われたのは1982年の韓国です。

求人票で「TOEIC 600点以上」を見かけたら、思い出してください。その物差しを最初に欲しがったのは、日本の人だったのです。

よくある質問

TOEICは誰が作ったのですか?

作ったのはアメリカの試験団体 ETS(Educational Testing Service)ですが、開発を頼んだのは日本人の北岡靖男です。北岡は1977年から翌年にかけて、アメリカ・プリンストンの ETS を何度も訪ねました。

TOEICは何の略ですか?

Test of English for International Communication の頭文字です。「国際コミュニケーションのための英語テスト」という意味です。

TOEICはアメリカで生まれた試験ですか?

いいえ。日本人が「英語でやりとりする力を測る物差しが欲しい」と頼んで生まれた試験です。1979年12月の第1回は日本だけで行われ、日本の外で初めて行われたのは1982年1月の韓国でした。

TOEICの第1回はいつ、どこで行われましたか?

1979年12月2日に、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の5都市で行われました。受験者は2,773人です。聞く問題100問・読む問題100問の選択式で、合計10〜990点という点数の物差しは今と同じでした。

北岡靖男はなぜTOEICを作ろうとしたのですか?

日米の財界人が集まる会議でアドバイザーを務めた北岡は、交渉の席で、英語でやりとりする力を客観的に測る「物差し」が日本にないと感じたからです(日本の運営団体の公式の沿革)。

昔のTOEICはどんな問題があったのですか?

最初のTOEICには、文の中の下線4か所から誤りを1つ選ぶ「誤りを見つける問題」が20問ありました。第1回では読む問題の中でいちばん難しく、2006年の改訂でなくなりました。

TOEICと英検の違いは何ですか?

英検は級ごとに合格・不合格が決まり、TOEICは10〜990点の点数で結果が出ます。始まりも違い、英検は1963年に文部省の後援で始まり、TOEICの運営委員会は1979年に通商産業省が所管する財団の中に置かれました。

TOEICの受験者は今どれくらいいますか?

日本で個人が申しこむ公開テスト(TOEIC L&R)だけで、2025年度の受験者は755,473人でした。第1回の約270倍です。学生が434,399人、社会人が308,493人で、学生のほうが多くなっています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTOEIC scores show up on job ads all over Japan, and the test is now used in more than 160 countries. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

TOEIC scores show up on job ads all over Japan, and the test is now used in more than 160 countries. So it is easy to assume that it came to Japan from America. It actually went the other way. In 1977, Yasuo Kitaoka, a Japanese businessman, traveled to ETS in Princeton, New Jersey, again and again.

ETS already made the TOEFL, but Kitaoka wanted a different test that could measure English for work. The first TOEIC was given on December 2, 1979, in Sapporo, Tokyo, Nagoya, Osaka and Fukuoka. Scores ran from 10 to 990, just as they do today. The test was not held outside Japan until 1982, when it was given in South Korea for the first time.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

TOEICの点数は日本中の求人広告に出てくるし、この試験は今では160か国以上で使われている。だから、アメリカから日本に入ってきたと思いこみやすい。実際は逆の道をたどった。1977年、日本の実業家である北岡靖男は、ニュージャージー州プリンストンのETSへ何度も足を運んだ。

ETSはすでにTOEFLを作っていたが、北岡は仕事のための英語を測れる別のテストを求めていた。最初のTOEICは1979年12月2日に、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡で行われた。点数は今と同じく10点から990点までだった。この試験が日本の外で行われたのは1982年になってからで、そのとき韓国で初めて実施された。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Kitaoka want?

Q2. Where was TOEIC given for the first time outside Japan?

Q3. What does the writer mean by "It actually went the other way"?

重要単語

  • commissionC1
    動詞(仕事や作品を)依頼する、発注するThe city commissioned a famous artist to paint the wall. commission A to do で「Aに〜するよう依頼する」。名詞では「手数料」「委員会」の意味もある。
  • proficiencyB2
    名詞(技能の)熟達度、実力The test measures your English proficiency. 形容詞は proficient(熟達した)。英検の正式な英語名も Test in Practical English Proficiency。
  • examineeB2
    名詞受験者Each examinee got a test book and an answer sheet. examine(試験する)+-ee(〜される人)。employee(雇われる人=従業員)と同じ作り。
  • administerC1
    動詞(試験を)実施するThe exam is administered twice a year. 試験の案内でよく使う硬い語。ふつうの会話なら give a test / hold a test で足りる。
  • nonprofitB2
    形容詞非営利のShe works for a nonprofit group that helps children. non-(〜でない)+profit(利益)。反対は for-profit(営利の)。NPO は nonprofit organization の略。
  • yardstickC1
    名詞物差し、判断の基準Sales are not the only yardstick of success. もとは1ヤード(約91cm)の物差し。「測る基準」というたとえでよく使う。
TOEICはアメリカから輸入された試験…ではありません。1977年に日本人の北岡靖男がアメリカの試験団体ETSに開発を依頼。1979年12月の第1回は札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の5都市だけで、受験者は2,773人でした。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. 国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)「IIBCの歩み」(1977年・1979年・2006年・2007年の項)iibc-global.org
  2. Woodford, P. E. (1982) An Introduction to TOEIC: The Initial Validity Study, TOEIC Research Summary, Educational Testing Serviceets.org
  3. Bresnihan, B. D. (2013) Have the Changes Made to the TOEIC Caused Any Differences in the Ways It Assesses Test Takers' English Language Abilities?, 人文論集(兵庫県立大学)48u-hyogo.repo.nii.ac.jp
  4. 国際ビジネスコミュニケーション協会 (2009) TOEIC Newsletter No.105「特集・TOEIC 30年の軌跡」「TOEIC誕生秘話」(Internet Archive 保存版)web.archive.org
  5. 日本英語検定協会「英検協会の沿革」(1963年・1968年の項)eiken.or.jp
  6. 国際ビジネスコミュニケーション協会 (2026) TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026(2025年度)iibc-global.org

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