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うっかり事故を“He broke it”のように「だれが」入りで言うのは、英語で7割・日本語で5割。「だれがやったか」の記憶にも小さな差

うっかり事故を“He broke it”のように「だれが」入りで言うのは、英語で7割・日本語で5割。「だれがやったか」の記憶にも小さな差

読む前に予想してみよう!

わざとやった行為でも、日本語話者は「だれがやったか」を英語話者より覚えていなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
英語話者と日本語話者(米国・東京)
規模
実験1:58人と22人、実験2:62人と70人、実験3:英語話者65人
研究の種類
実験(動画の説明と記憶テスト)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

うっかり事故を「彼が割った」のように「だれが」入りで説明した割合は、英語で69%、日本語で52%。事故を起こした人物を正しく覚えていた割合も、英語話者のほうが約7ポイント高かった。ただし差は小さい。

ひとことで言うと「割れた」と「He broke it」。言い方で、覚えることまで少しちがうかも!

もくじ
  1. 同じ動画を、英語と日本語で説明してもらった
  2. 記憶テストでも、うっかり事故だけ差が出た
  3. 言葉を変えると、記憶も変わった
  4. 英語ではどう言う?
  5. どんでん返し:差は小さく、原因もまだはっきりしない
  6. まとめ

手がすべって、花瓶が床に落ちました。

日本語なら「あ、花瓶が割れた!」。英語なら Oops, I broke the vase!(あ、花瓶を割っちゃった!)。

同じできごとでも、日本語は「花瓶が割れた」と自動詞で言うことが多く、英語は「わたしが割った」と他動詞で言うことが多い。言語学では、そう指摘されてきました。アメリカの大学などの心理学者たちがこの違いを実験で調べたところ、うっかり事故の「だれがやったか」を覚えている割合にも、英語話者と日本語話者で差が出ました。

01同じ動画を、英語と日本語で説明してもらった

研究したのは、スタンフォード大学などの心理学者 Caitlin Fausey さん、Lera Boroditsky さんらのチームです(2010年、学術誌 Frontiers in Psychology)。

まず、男性がものに手を加える短い動画を16種類用意しました。風船を割る、鉛筆を折る、卵を割る、米をこぼす、などです。それぞれに「わざと」版と「うっかり」版があります。たとえば鉛筆なら、わざと半分に折って満足そうな顔をする版と、字を書いている最中に折れてびっくりする版です。

これを見た人に「何が起きましたか?」と聞き、文で答えてもらいました。

ポイントは、わざとの場合は日本語でも97%の説明が「彼が割った」型だったことです。日本語が「だれが」をいつもぼかすわけではありません。差が出たのは、うっかり起きた事故のときだけでした。

02記憶テストでも、うっかり事故だけ差が出た

では、言い方が違うと、覚えていることも違うのでしょうか。

実験2では、英語話者62人(スタンフォード大学の学生)と日本語話者70人(東京の大学などの学生)に、同じ動画を見てもらいました。今度は説明はさせません。動画には、黒いシャツの男性と白いシャツの男性が入れかわりで出てきます。

そのあと、別の男性が同じ動作をする動画を見せて、「最初にこれをやったのは、どちらの人でしたか?」と2人の写真から選んでもらいました。言葉を使わない記憶のテストです。

うっかり事故を起こしたのがどちらの人かを正しく選べた割合は、英語話者のほうが約7ポイント高くなりました。研究チームは、ふだんの言い方の違いが、どこに注意を向けるかにつながっているのではないか、と考えています。

実験では、鉛筆を折る・風船を割るなど16種類の動作を、「わざと」と「うっかり」の両方の版で見せた(Fausey ら, 2010)
実験では、鉛筆を折る・風船を割るなど16種類の動作を、「わざと」と「うっかり」の両方の版で見せた(Fausey ら, 2010)

03言葉を変えると、記憶も変わった

ここまでだと、「言葉ではなく、文化の違いでは?」という疑問が残ります。研究チームも、たとえば「人の失敗をじろじろ見ないのが礼儀」という文化があれば同じ結果になりうる、と自分たちで書いています。

そこで実験3では、英語話者65人だけを2つのグループに分けました。記憶テストの前に、片方には He burned the toast.(彼がトーストを焦がした)のような「だれが」入りの文を24個、もう片方には The toast burned.(トーストが焦げた)のような「だれが」なしの文を24個聞かせました。

すると、「だれが」入りの文を聞いたグループは、そのあとの記憶テストで人物を78.0%正しく選べました。「だれが」なしのグループは70.7%でした。直前に聞いた文の形によって、人物の記憶に差が出たのです。

同じチームの別の研究(2010年、英語話者)では、事故の説明を「だれが」入りの言い方(他動詞)にすると、「だれが」なしの言い方(自動詞)のときよりも、読んだ人はその人をより強く責め、より高い賠償金を求めました。2004年のスーパーボウルで起きた有名な「衣装のトラブル」を題材にしても、さらに動画を見せても、同じ傾向が出たと報告されています。

04英語ではどう言う?

英語の break(壊す・壊れる)は、どちらの形でも使えます。オックスフォードの学習辞典にも、両方の使い方が載っています。

  • I broke the vase.(わたしが花瓶を割った)……「だれが」が主語
  • The vase broke.(花瓶が割れた)……「もの」が主語

日本語は「割る/割れる」「折る/折れる」のように、形が少し違う動詞のペアで言い分けます。英語は同じ break を、主語を変えて使います。

05どんでん返し:差は小さく、原因もまだはっきりしない

この研究は面白いのですが、気をつけたい点がいくつかあります。

まず、差の大きさです。研究チーム自身が、記憶の差は約7ポイントで、効果の大きさは「小〜中程度」と書いています。英語話者が日本語話者よりずっとよく覚えている、という話ではありません。

次に、人数です。言い方を調べた実験1の日本語話者は22人で、平均年齢も英語話者(約33歳)と日本語話者(約24歳)でずれていました。記憶の実験2は、どちらも大学生くらいの若い人たちです。

そして、言葉を変える実験3をしたのは英語話者だけです。日本語話者の記憶の差が、言葉のせいなのか、文化のほかの部分のせいなのかは、この研究だけでは分けられません。研究チームも、どちらが原因でどちらが結果なのかは、まだ答えの出ていない問いだとしています。

なお、「責める度合い・賠償金」の研究は、2022年に別のチームが事前に計画を公開したうえで追試しました。英語では同じ結果が出ましたが、クロアチア語では、責める度合いへの効果が小さく、賠償金への効果は見られませんでした。言葉の影響があるとしても、その強さは言語によって違うかもしれないのです。

06まとめ

うっかり事故を説明するとき、「彼が割った」型の言い方は、英語話者では約7割、日本語話者では約5割でした。日本語話者のほうが「割れた」型を多く使ったわけです。そして、その事故で「だれがやったか」を正しく覚えていた割合も、英語話者のほうが少し高めでした。

ただし差は約7ポイントで、言葉が原因なのかはまだはっきりしていません。それでも、「割れた」と「割った」のどちらで言うかで、聞く人の受け取り方が変わる可能性はあります。自分がふだんどちらを使っているか、一度気にしてみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA team of psychologists at Stanford University and other schools wanted to know if language affects what we… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A team of psychologists at Stanford University and other schools wanted to know if language affects what we notice. They made short videos of a man popping balloons, breaking pencils and spilling rice. Sometimes he did it on purpose, and sometimes it was an accident. When English speakers described the accidents, 69 percent of their sentences said the man did it, as in "He popped the balloon."

For Japanese speakers, the figure was 52 percent. For actions done on purpose, the two groups were almost the same, at about 97 percent. In a second study, people watched the videos without describing them and then tried to pick out who had done each action. English speakers remembered the person behind an accident a little better, 73 percent compared with 66 percent.

130 words ・ CEFR B1

和訳を見る

スタンフォード大学などの心理学者のチームは、言葉が、わたしたちが何に気づくかに影響するのかを知りたいと考えた。彼らは、男性が風船を割ったり、鉛筆を折ったり、米をこぼしたりする短い動画を作った。わざとやる場合もあれば、うっかりの場合もあった。英語話者が事故を説明したとき、その文の69%が「He popped the balloon(彼が風船を割った)」のように、男性がやったという言い方だった。日本語話者では、その割合は52%だった。

わざとの行為では、両グループはほぼ同じで、約97%だった。2つ目の研究では、人々は動画を説明せずに見て、そのあと、それぞれの動作をしたのがだれかを選ぼうとした。英語話者は、事故を起こした人を少しよく覚えていた。73%対66%だった。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers want to find out?

Q2. When Japanese speakers described accidents, what percent of their sentences said the man did it?

Q3. What does the second study show?

重要単語

  • accidentA2
    名詞事故、偶然のできごとI didn't mean to break it. It was an accident. 交通事故だけでなく「うっかり」全般に使う。It was an accident.「わざとじゃなかった」。
  • on purposeB1
    熟語わざとHe didn't drop the cup on purpose. 反対は by accident。I didn't do it on purpose.「わざとじゃないよ」は会話でよく使う。
  • by accidentB1
    熟語うっかり、偶然にI deleted the file by accident. accidentally(副詞)とほぼ同じ意味。on purpose とセットで覚える。
  • witnessB2
    名詞目撃者、証人The police talked to every witness. eyewitness は「目撃者(自分の目で見た人)」。動詞では「目撃する」。
  • blameB1
    動詞〜のせいにする、責めるDon't blame him. The glass just slipped. blame A for B「BのことでAを責める」。名詞で take the blame「責任を負う」。
  • describeB1
    動詞説明する、描写するCan you describe what happened? describe about としない。名詞は description。
  • deliberateB2
    形容詞故意の、わざとのIt wasn't a deliberate mistake. on purpose のかたい言い方。副詞は deliberately。

動画でもっと知る

うっかり事故の動画を説明してもらうと、「彼が割った」のように「だれが」を入れた言い方は、英語話者の説明の69%、日本語話者の説明の52%。記憶テストでも、事故の「だれがやったか」を英語話者のほうがよく覚えていた(正解率73%対66%)。わざとの行為では差なし。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Fausey, C. M., Long, B. L., Inamori, A., & Boroditsky, L. (2010) Constructing agency: the role of language, Frontiers in Psychology 1:162doi.org
  2. Fausey, C. M., & Boroditsky, L. (2011) Who dunnit? Cross-linguistic differences in eye-witness memory, Psychonomic Bulletin & Review 18(1):150-157doi.org
  3. Fausey, C. M., & Boroditsky, L. (2010) Subtle linguistic cues influence perceived blame and financial liability, Psychonomic Bulletin & Review 17(5):644-650doi.org
  4. Tonković, M., Vlašiček, D., & Dumančić, F. (2022) Preregistered direct replication of the linguistic frame effect on perceived blame and financial liability, Legal and Criminological Psychology 27(2):354-369doi.org

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