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日英くらべウソ

「〜じゃないの?」への Yes・No。千年前の英語には、否定の言葉に返す専用の yes があった

「〜じゃないの?」への Yes・No。千年前の英語には、否定の言葉に返す専用の yes があった

読む前に予想してみよう!

英語の yes は、昔からどんな質問への返事にも使われてきた

研究カード(どんな研究?)
対象
古英語の文献、1560〜1760年の英語の会話資料、1611年の欽定訳聖書、英語・日本語・独仏の辞書
規模
会話資料から無作為に選んだ yes 100例・ay 100例と、yea 62例
研究の種類
歴史言語学の論文+用例の数え上げ+辞書の記述
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

否定の質問への Yes・No が日本語と逆になるのは、日本語は「相手の言葉に賛成か」で、英語は「答えの中身が肯定か否定か」で決めるから。古い英語には否定の言葉に返す専用の yes があり、今も読まれる英語の聖書、欽定訳聖書(1611年初版)でも yes は4回だけ、すべて否定の言葉への返事だった。

ひとことで言うと昔の英語には、「〜しないの?」専用の「yes」があった!

もくじ
  1. 日本語と英語は「何に」答えているかがちがう
  2. 千年前の英語には「はい」が2つあった
  3. 欽定訳聖書では、yes は4回だけ
  4. シェイクスピアの時代の会話を数えると
  5. おまけ:もう2つの「マジか」
  6. テストや英作文ではどうする?
  7. どんでん返し:yes の語源は、まだ決着していない
  8. まとめ
  9. よくある質問

英語の授業で、こう聞かれたとします。

Don't you like natto?(納豆、好きじゃないの?)

好きではないとき、日本語なら「はい、好きじゃないです」。ところが英語でつい Yes. と答えると、相手は「好きなんだ」と受け取ります。正しくは No, I don't.。否定の質問への Yes・No は、中学からずっと日本人を悩ませてきました。

でも、英語にも昔、否定の言葉に返事をするための 専用の言葉 がありました。今の yes こそ、その言葉の子孫です。1611年に出た英語の聖書(欽定訳聖書)で yes が出てくるのは、今の版の本文で数えると、たったの4回。4回とも、否定の言葉への返事 なのです。

01日本語と英語は「何に」答えているかがちがう

まず、どこがずれているのかを確かめましょう。

小学館の『日本国語大辞典』は、「いいえ」の項目の解説(語誌)で、はっきり書いています。英語の yes・no は、そのあとに続く答えの中身が肯定か否定か で分かれる。日本語の「はい」は、相手の問いを受け止める(多くは同意の)合図、「いいえ」は 相手の問いの意図に賛成しない合図 だ、と。

つまり、

  • 日本語:相手の言ったことに「そのとおり」なら「はい」
  • 英語:自分が「好き(肯定)」なら Yes、「好きじゃない(否定)」なら No

という、別々の物差しで答えているのです。

ケンブリッジ大学出版局の文法解説(English Grammar Today)も、yes は否定の質問への答えにも使う、として、こんな会話を載せています。

  • Haven't you got two sisters?(お姉さんか妹さんが2人いるんじゃなかった?)
  • Yes. That's right.(うん、そのとおり)

そして、わざわざ「No, that's right. とは言わない」と注意を書き添えています。日本語の「いいえ、そのとおりです」がおかしいのと同じで、英語では No のあとに「そのとおり」は続けられません。

言語学者アンダース・ホルムベリの『The Syntax of Yes and No(イエスとノーの文法)』(オックスフォード大学出版局、2015年)は、100をはるかに超える言語のデータをもとに、否定の質問への答え方には 2つの方式 があり、ある言語の「はい」が別の言語の「いいえ」に当たるように見えることがある、と論じています。どちらが正しい、という話ではありません。

02千年前の英語には「はい」が2つあった

では、英語の歴史をさかのぼってみましょう。英語学者ウォラジとファン・デル・ウルフの2013年の論文は、古英語(だいたい1100年ごろまでの英語)の文献を調べ、「はい」を表す語が2つあったことを示しました。

フランス語の si、ドイツ語の doch が、まさにこの仲間です。ケンブリッジの仏英辞典は si を「否定の文のあとで『はい』と言うときの語」とし、Tu ne l'as pas vu ? – Si.(彼に会わなかったの? いや、会ったよ)という例を挙げています。独英辞典も doch を「否定の形の質問や発言に反対する返事」と説明し、Kommst du nicht mit? – Doch!(一緒に来ないの? 行くよ!)を載せています。

今の英語の yes は、もとは、この si や doch のような 「否定をひっくり返す専用の yes」 だったわけです。

03欽定訳聖書では、yes は4回だけ

この使い分けは、いつまで続いたのでしょう。1611年にイギリスで出た『欽定訳聖書』で確かめてみました(今ふつうに読まれている形の本文を、Project Gutenberg 版で数えました)。

yes が出てくる節は、聖書全体でたった4つ。 しかも、4つとも直前が否定です。

  • マタイによる福音書17章24〜25節:Doth not your master pay tribute?(あなたがたの先生は税を納めないのか)→ Yes.(納めます)
  • ローマの信徒への手紙3章29節:is he not also of the Gentiles?(神は異邦人の神でもあるのではないか)→ Yes, of the Gentiles also(そうだ、異邦人の神でもある)
  • ローマの信徒への手紙10章18節:Have they not heard?(彼らは聞かなかったのか)→ Yes verily(いや、確かに聞いた)
  • マルコによる福音書7章27〜28節:「子どものパンを取って犬にやるのはよくない」という否定の言葉に、女性が Yes, Lord(主よ、そのとおりです。でも…)と返す

一方、yea は340回 出てきます(外典をのぞいた本文で数えた数。「そうだ」の返事のほか、「まさに、それどころか」の意味もふくむ)。1611年版にふくまれていた外典(旧約と新約の間に置かれた文書)も数えると、yes は0回のままで、yea は52回ふえます。

1611年に出た欽定訳聖書で、yes が出てくるのは4回だけ。4回とも、否定の言葉への返事です。

ローマの信徒への手紙3章には、その対比がわずか3節の間に並んでいます。27節では By what law? of works?(どんな法によってか。行いの法か)という肯定の質問に Nay(いいえ)と答え、29節では否定の質問に Yes と答えています。

1611年に出た欽定訳聖書で yes が出てくるのは4つの節だけ。どれも否定の言葉への返事だった(今の版の本文を Project Gutenberg 版で数えた)
1611年に出た欽定訳聖書で yes が出てくるのは4つの節だけ。どれも否定の言葉への返事だった(今の版の本文を Project Gutenberg 版で数えた)

04シェイクスピアの時代の会話を数えると

もっと大きな資料で調べた研究もあります。イギリス・ランカスター大学のジョナサン・カルペパーは2018年、1560〜1760年の劇・裁判記録・教科書などの会話を集めた資料(A Corpus of English Dialogues)で、yes・yea・ay(はい)を調べました。

  • 無作為に選んだ yes 100例のうち、直前が否定の質問だったのは 9例。肯定の質問のあとは38例で、yes はもう、どんな質問にも使われていた
  • ところが、調べた yea 62例は、否定の質問のあとには1度も出てこない。質問への返事に使うときの yea は、最後まで「肯定の質問への『はい』」のままだった
  • yea は1600〜1639年に yes に追い越されて急に減り、1640〜1679年には19例、それより後には1例もない
  • カルペパーの結論は、ゲルマン型の使い分けが完全に消えたのは1600年代の半ば ごろ

「1600年ごろには yes が全部の役割を引きついでいた」という先行研究の見方は、このデータでは支持されなかった、とカルペパーは書いています。

このころの「はい」には、もう一つ ay もありました。ay は最初のころ、よく I とも書かれました。カルペパーによると、シェイクスピアの戯曲集「ファースト・フォリオ」では、「はい」の意味の I が 302回 使われています。I と書いてあっても、「私」ではなく「はい」のことがあるのです。

05おまけ:もう2つの「マジか」

1. 「いいえ」がていねいな返事になったのは江戸時代『日本国語大辞典』によると、室町時代には目上の人にも「いや」で否定の返事をしていて、「いえ」「いいえ」がていねいな否定の言葉として分かれたのは江戸時代に入ってから。最も古い例として、1693年の歌舞伎のせりふ(「『そちは酒を売ったか』『いいえ』」)が挙がっています。

2. nay はバイキングの言葉アメリカン・ヘリテージ英語辞典によると、nay の語源は 古ノルド語(バイキングが話した北欧の言葉)の nei。yea のほうは古英語の gēa から来ています。

06テストや英作文ではどうする?

英語の結婚式の誓いが I do.(誓います)なのも、この「主語+動詞で答える」英語らしさの表れだという見方があります。カルペパーの論文が紹介する言語学者フェネマンの指摘で、英語の式では Do you take this man ...? に I do. と答えるのに、ドイツ語の式では Ja.(はい)と答える、というものです。

07どんでん返し:yes の語源は、まだ決着していない

yes が「否定への返事」だった理由は、語源と関係があるかもしれません。ただし、その語源には説が分かれています。

  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、古英語の gēse を gēa(そう)+ sīe(そうであれ)、つまり「そうであれかし」から来たらしい、としています
  • ウォラジとファン・デル・ウルフは、それでは「否定への返事」という使い方を説明できないと考え、gea(hit)is swa(はい、それはそうだ) が縮まったという新しい説を出しました。「はい」のあとに「それはそうだ」とわざわざ文を足すことで、否定の質問のあいまいさが消える、という考え方です
  • カルペパーは、これまでの説を3つ並べ、古い2つの説の弱点を挙げたうえで、ウォラジらの説に沿って説明を進めています

フェネマンは、主語+動詞で答える英語の習慣はケルト語(ウェールズ語などの仲間)の影響ではないか、とも考えています。でもカルペパーも「ケルト語の影響で崩れたのかもしれない」という書き方で紹介しているだけで、確かめられた話ではありません。古い英語の答え方は、細かいところほど、まだ研究の途中なのです。

08まとめ

否定の質問への Yes・No で日本人が迷うのは、日本語が「相手の言葉に賛成か」で答え、英語が「答えの中身が肯定か否定か」で答えるからです。

そして英語の yes は、千年前には「否定の言葉への『はい』」専用の言葉でした。1611年に出た欽定訳聖書でも、その名残ははっきり見えます。今の英語ではどちらにも使う万能の言葉になったぶん、迷ったら Yes, I do. / No, I don't. と、中身まで言い切るのがいちばんです。

よくある質問

否定疑問文にはどう答えればいいですか?

答えの中身で決めます。する・好きなら Yes、しない・好きじゃないなら No です。Don't you like natto?(納豆、好きじゃないの?)に、好きではないなら No, I don't. と答えます。

なぜ日本語と英語で Yes・No が逆になるのですか?

何に答えているかがちがうからです。『日本国語大辞典』によると、日本語の「はい」は相手の問いを受け止める(多くは同意の)合図です。英語の yes・no は、そのあとに続く答えの中身が肯定か否定かで分かれます。

否定疑問文で迷わない答え方はありますか?

Yes・No のあとに、主語と動詞をつけることです。Yes, I do. や No, I don't. と言えば、Yes・No を言いまちがえても、中身で伝わります。

昔の英語の yes は、否定の言葉への返事専用だったのですか?

古英語ではそうでした。古英語の「はい」には gea(のちの yea)と gyse(のちの yes)があり、gea は肯定の言葉への「はい」、gyse は否定の言葉への「はい」と使い分けていました(ウォラジとファン・デル・ウルフ、2013年)。

欽定訳聖書に yes は何回出てきますか?

今の版の本文で数えると、4つの節だけです。4つとも、否定の言葉への返事です。一方、yea は340回出てきます(外典をのぞいた本文で数えた数。「まさに、それどころか」の意味もふくむ)。

yes と yea の使い分けはいつなくなったのですか?

ランカスター大学のカルペパー(2018年)は、1600年代の半ばごろだと結論しています。1560〜1760年の劇や裁判記録などの会話を調べると、yea は否定の質問のあとに1度も出てこず、1640〜1679年の19例を最後に見られなくなりました。

フランス語やドイツ語にも、否定への「はい」はありますか?

あります。フランス語の si、ドイツ語の doch です。Tu ne l'as pas vu ? – Si.(彼に会わなかったの? いや、会ったよ)のように、否定の質問や発言に反対して「そうだ」と答えるときに使います。

No, that's right. は正しい英語ですか?

英語ではそうは言いません。ケンブリッジの文法解説は、「そのとおり」なら Yes, that's right. と言い、No, that's right. とは言わない、と注意しています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJapanese learners often get confused when someone asks a question like "Didn't you finish your homework?"… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Japanese learners often get confused when someone asks a question like "Didn't you finish your homework?" In Japanese, "hai" shows that you agree with the person asking. In English, "yes" and "no" depend on the answer itself.

If you finished it, you say "Yes, I did," even though the question was negative. English used to work a little differently. Old English had two words for "yes." "Gea," which later became "yea," answered positive questions.

"Gyse," which later became "yes," answered negative ones. Traces of this system can still be seen in the King James Bible, first printed in 1611. There, "yes" appears only four times, and each time it follows something negative.

112 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「宿題、終わらなかったの?」のような質問をされると、日本人の学習者はよく混乱する。日本語の「はい」は、質問した人に同意していることを示す。

英語では、yes と no は答えの中身で決まる。終わったのなら、質問が否定の形でも「Yes, I did」と言う。英語は昔、少しちがう仕組みだった。古英語には「はい」を表す語が2つあった。

のちに yea になった gea は、肯定の質問に答えた。のちに yes になった gyse は、否定の質問に答えた。この仕組みの名残は、1611年に初めて出た欽定訳聖書にも見られる。そこでは yes は4回しか出てこず、毎回、否定の言葉のあとに来ている。

4択リーディングクイズ

Q1. According to the passage, what does "hai" show in Japanese?

Q2. What did "gyse" do in Old English?

Q3. Why does the writer mention the King James Bible?

重要単語

  • negativeB1
    形容詞否定の;マイナスの"Don't you like it?" is a negative question. negative question「否定疑問文」。反対語は positive(肯定の)。
  • replyA2
    名詞・動詞返事;返事をするShe didn't reply to my question. reply to ~「~に返事をする」。to を落とさないこと。
  • agreeA2
    動詞同意する、賛成するI agree with you. agree with 人「人に賛成する」、agree to 案「案に応じる」。日本語の「はい」は同意の合図。
  • contradictC1
    動詞反論する、打ち消す"Doch" in German contradicts what the other person just said. contra-(反対)+dict(言う)。名詞は contradiction(矛盾)。
  • confirmB1
    動詞確認する、(正しいと)認める"Yes, I did" confirms that it happened. confirm a reservation「予約を確認する」も頻出。
  • ancestorB2
    名詞祖先;(物事の)原型The Old English word "gyse" is the ancestor of "yes." 人だけでなく、言葉や機械の「元になったもの」にも使う。反対語は descendant(子孫)。
「Don't you~?」への Yes・No、日本人はいつも迷う。昔の英語では、yes はもともと“否定への返事”専用の言葉だった。1611年に出た欽定訳聖書で yes が出てくるのは(今の版の本文で数えて)4回だけ。4回とも否定の言葉への返事。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. Culpeper (2022) Affirmatives in Early Modern English: Yes, yea and ay, Journal of Historical Pragmatics 19(2), pp. 243–264(誌面の巻号表記は19:2 (2018)。Crossref の発行日の登録は2022年)doi.org
  2. Wallage & van der Wurff (2013) On saying 'yes' in early Anglo-Saxon England, Anglo-Saxon England 42doi.org
  3. Holmberg (2015) The Syntax of Yes and No, Oxford University Pressdoi.org
  4. Cambridge Dictionary, English Grammar Today「Yes」dictionary.cambridge.org
  5. 精選版 日本国語大辞典「いいえ」(語誌)(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  6. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「yes」「yea」「nay」(語源)ahdictionary.com

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