ニワトリの声、平安時代は「カケロ」、江戸時代は「トーテンコー」と書かれた

読む前に予想してみよう!
「コケコッコー」というニワトリの鳴き声の書き方は、平安時代から変わっていない
平安時代の神楽歌では「かけろ」、江戸時代は「トッテコー」「トーテンコー」と書かれた。日本国語大辞典が挙げる「こけこっこう」の最も古い例は1903年の教科書。
- 対象
- 日本語の古典と国語辞典・百科事典、英仏西独の辞書
- 規模
- 辞書・事典 9種
- 研究の種類
- 辞書の用例・語誌の比較
- 確かさ
- ★★★★☆
平安時代の神楽歌では、ニワトリは「かけろ」と鳴く。江戸時代は「トッテコー」「トーテンコー」と書かれ、「コケコッコー」の辞典で最も古い例は1903年の国語の教科書。英語は cock-a-doodle-doo。
ひとことで言うと平安時代のニワトリは「カケロ」って鳴いていたんだって!
もくじ
ニワトリの鳴き声といえば「コケコッコー」。日本中、だれに聞いてもこう答えるはずです。
ところが、平安時代の歌に出てくるニワトリは、こう鳴いています。
「かけろ」。
江戸時代になると、今度は「トッテコー」「トーテンコー」。辞典で調べると、「コケコッコー」のいちばん古い例は、明治36年(1903年)の国語の教科書でした。ニワトリの声の書き方は、時代ごとにかなり変わってきたのです。
01平安時代のニワトリは「かけろ」と鳴いた
小学館の『精選版 日本国語大辞典』で「かけろ」を引くと、「鶏の鳴き声を表わす語」とあります。最も古い例は、9世紀後半の神楽歌(神をまつる「神楽」でうたわれた歌)です。
「鶏はかけろと鳴きぬなり」(神楽歌。日本国語大辞典が挙げる例による)
この歌は「起きよ起きよ」と続きます。ニワトリが「かけろ」と鳴いた、もう夜明けだから起きなさい、人に見られてしまう、と呼びかける歌です。
「かけろ」は、やがてニワトリそのものの呼び名にもなりました。日本国語大辞典には、江戸時代後半の紀行文『菅江真澄遊覧記』(1784〜1809年)に、ニワトリを「かげろ」と呼んだ例があります。
もっと古くは、ニワトリは「かけ」とも呼ばれていました。平凡社の『改訂新版 世界大百科事典』の「ニワトリ」によると、ニワトリは古くその鳴き声から「かけ」「かけろ」と呼ばれ、庭で放し飼いにしたので「庭つ鳥」とも呼ばれました。これが今の「ニワトリ」です。小学館の『日本大百科全書』によると、『万葉集』にも「家つ鳥 鶏(かけ)も鳴く」とうたわれています。
つまり、ニワトリの古い名前「かけ」は、鳴き声から来ていたのです。
02江戸時代は「トッテコー」「トーテンコー」
日本国語大辞典の「こけこっこう」の項目には、鳴き声の書き方の移り変わりをまとめた、言葉の歴史の解説(語誌)がついています。
「トーテンコー」には、漢字もあてられました。「東天紅」です。デジタル大辞泉によると、東の空が紅くなるという意味の漢字をあてたもので、夜明けを知らせるニワトリの声を表します。日本国語大辞典には、1656年の俳諧に「東天光」と書いた例が載っています。
ニワトリが鳴くのは夜明け。その声に「東の空が紅く染まる」という字をあてるのは、うまい当て字です。今では「東天紅」は、高知県で生まれたニワトリの品種の名前にもなっています。日本国語大辞典によると、長く鳴く「長鳴鶏(ちょうめいけい)」の一つで、天然記念物です。

03辞典が挙げる「コケコッコー」の最古の例は、明治の教科書
そして明治時代。日本国語大辞典が挙げる「こけこっこう」の最も古い例は、文部省の国語の教科書『尋常小学読本』(明治36年=1903年)です。おんどりが羽ばたきをして「こけこっこーと、なきました」という一文が載っています。
平安時代の「カケロ」はカ行、江戸時代の「トッテコー」「トーテンコー」はタ行、明治の「コケコッコー」はまたカ行。辞典の語誌にそって並べると、日本人が書き表すニワトリの声は、千年かけてカ行からタ行へ行き、またカ行に戻ってきたことになります。
04世界のニワトリは、こう鳴く
ほかの言語では、ニワトリの声をどう書くのでしょう。それぞれの国の辞書で確かめました。
- 英語:cock-a-doodle-doo(コッカドゥードゥルドゥー)。Dictionary.com によると、最初の記録は1565〜75年。子ども向けのお話などで使う決まった言い方
- ドイツ語:kikeriki(キケリキー)。ドゥーデン辞典では「おんどりの鳴き声をまねた語」で、子どもの言葉として扱われている
- フランス語:cocorico(ココリコ)。ラルース辞典では、1つ目の意味が「おんどりの鳴き声」。2つ目の意味は、くだけた言い方で「フランスのお国自慢、せまい愛国心の象徴」
- スペイン語:quiquiriquí(キキリキー)。スペイン王立アカデミーの辞書に「おんどりの鳴き声をまねる語」とある
フランス語では、ニワトリの鳴き声が「お国自慢」の意味にまでなっています。
英語の名前にも、鳴き声が関係しているかもしれません。American Heritage Dictionary によると、おんどりを表す英語の cock は、昔の英語(古英語)の cocc から来ていて、おそらくローマ時代の終わりごろのラテン語(後期ラテン語)の coccus、さらに「コッコッと鳴くこと」を表す、鳴き声をまねた語にさかのぼります。日本語の「かけ」と同じように、鳴き声が鳥の名前になったとみられるのです。
05どんでん返し:「コケコッコーは明治に生まれた」とは言えない
ここまで読むと、「コケコッコーは明治生まれの新しい言葉」と言いたくなります。でも、それは言いすぎです。
まず、1903年の『尋常小学読本』は、辞典が見つけた最も古い例です。それより前に、だれかが「コケコッコー」と言ったり書いたりしていた可能性はあります。
次に、日本国語大辞典の語誌そのものが、慎重な書き方をしています。江戸時代のタ行は「一般的になっていたらしく」、明治の変化は「再びカ行音が一般的となったものか」。どちらも、言い切ってはいません。
それに、辞典の語誌が追っているのは、ニワトリの声そのものではなく、人間がその声をどう文字に書いたかです。同じ声でも、どの音に近いと感じるかで、文字にしたときの形は変わります。英語の cock-a-doodle-doo とフランス語の cocorico の違いも、同じように考えられます。
06まとめ
ニワトリの声は、平安時代は「かけろ」、江戸時代は「トッテコー」「トーテンコー」、そして明治の教科書に「こけこっこー」。同じ鳥の同じ声が、時代によってこれだけ違う文字で書かれてきました。
あした、どこかでニワトリの声を聞いたら、耳をすませてみてください。「コケコッコー」に聞こえるか、「カケロ」に聞こえるか。千年前の人の耳が、少しだけ分かるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerToday a Japanese rooster says "kokekokko." But this way of writing the sound is fairly new.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japan today, a rooster says "kokekokko." But in an old song from more than a thousand years ago, a rooster says "kakero."
Later, in the Edo period, people wrote the sound as "tottekō" or "tōtenkō." A big Japanese dictionary says the oldest example of "kokekokko" is in a school textbook from 1903. Other languages have their own sounds too. In English, a rooster says "cock-a-doodle-doo."
66 words ・ CEFR A2
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今の日本では、おんどりは「コケコッコー」と鳴きます。でも、千年以上前の古い歌では、おんどりは「かけろ」と鳴いています。
のちの江戸時代には、人々はその声を「トッテコー」や「トーテンコー」と書きました。日本の大きな辞典によると、「コケコッコー」の最も古い例は1903年の学校の教科書にあります。ほかの言語にもそれぞれの鳴き声があります。英語では、おんどりは「cock-a-doodle-doo」と鳴きます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
おんどりの鳴き声の書き方が時代によって変わったことを説明しているので B。
Q2. Where is the oldest example of "kokekokko" in the dictionary?
the oldest example of "kokekokko" is in a school textbook from 1903 とあるので D。
Q3. In the passage, what is a "rooster"?
kokekokko と鳴く鳥なので、おんどり(male chicken)の A。
Today a Japanese rooster says "kokekokko." But this way of writing the sound is fairly new. In a song from the late ninth century, a rooster cries "kakero," and the bird itself was once called "kake" because of its call. In the Edo period, the sound was often written with "t" sounds, as "tottekō" or "tōtenkō."
Writers even gave "tōtenkō" kanji that mean "the eastern sky turns red," since roosters crow at dawn. The earliest example of "kokekokko" given in a major Japanese dictionary comes from a 1903 school reader. So over about a thousand years, the spelling moved from "k" to "t" and back to "k" again.
108 words ・ CEFR B1
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今の日本のおんどりは「コケコッコー」と鳴く。しかし、この書き方はわりと新しい。9世紀後半の歌では、おんどりは「かけろ」と鳴き、この鳥自体もかつてはその鳴き声から「かけ」と呼ばれていた。江戸時代には、その声はよく「t」の音で「トッテコー」や「トーテンコー」と書かれた。
おんどりは夜明けに鳴くので、書き手たちは「トーテンコー」に「東の空が紅くなる」という意味の漢字まであてた。日本の大きな辞典が挙げる「コケコッコー」の最も古い例は、1903年の学校の読本のものだ。つまり、およそ千年の間に、鳴き声の書き方は「k」から「t」へ、そしてまた「k」へと移ったのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. Why was the bird once called "kake"?
the bird itself was once called "kake" because of its call とあるので B。
Q2. What do the kanji for "tōtenkō" mean?
kanji that mean "the eastern sky turns red" とあるので C。
Q3. What does the last sentence of the passage mean?
カケロ(k)→トッテコー・トーテンコー(t)→コケコッコー(k)と書き方が移ったという意味なので A。
A late ninth-century song for Shinto ritual music contains the line "the rooster cries kakero," followed by a call to get up. A major historical dictionary of Japanese gives this line as its earliest example of "kakero," and the bird was once named "kake" after its call. The same dictionary has a short history of the sound.
In the Edo period, writers tended to use "t" sounds, such as "tottekō" in a 1623 collection of funny stories and "tōtenkō" in a dictionary of the time. The first example of "kokekokko" it lists is from a 1903 school reader by the Ministry of Education. The dictionary is careful here. It says the "t" spellings "seem" to have been common, and that the "k" sound "perhaps" became normal again in the Meiji era.
A first recorded example also does not tell us when people first said a word. The birds themselves probably sounded much the same all along. It was people who heard and wrote the call in new ways. English writes the same call as "cock-a-doodle-doo," and French has "cocorico," which in casual speech can also stand for boastful French patriotism.
190 words ・ CEFR B2
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9世紀後半の神楽(神をまつる儀式の音楽)の歌に「鶏はかけろと鳴きぬなり」という一節があり、そのあとに起きるよう呼びかける言葉が続く。日本語の代表的な歴史辞典は、この一節を「かけろ」の最も古い例として挙げている。また、この鳥はかつてその鳴き声から「かけ」と名づけられていた。同じ辞典には、この鳴き声の短い歴史が載っている。
江戸時代には、書き手は「t」の音を使う傾向があり、1623年の笑い話集には「トッテコー」、当時の辞書には「トーテンコー」とある。辞典が挙げる「コケコッコー」の最初の例は、文部省の1903年の学校の読本のものだ。辞典はここで慎重だ。「t」の書き方は一般的だった「らしい」とし、明治時代に「k」の音が再びふつうになったのは「〜ものか」と書いている。
また、最初に記録された例は、人々がその言葉を初めて口にした時期を教えてくれるわけではない。鳥の声そのものは、おそらくずっとほとんど同じだった。新しい聞き方・書き方をしたのは人間のほうだ。英語は同じ鳴き声を「cock-a-doodle-doo」と書き、フランス語には「cocorico」がある。この語は、くだけた言い方では、自慢げなフランスの愛国心を表すこともある。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
カケロ→トッテコー・トーテンコー→コケコッコーという鳴き声の書き方の変化が中心なので C。
Q2. Which statement about the dictionary is true?
It says the "t" spellings "seem" to have been common, and that the "k" sound "perhaps" became normal again とあるので B。
Q3. What does the writer suggest about the rooster's call?
The birds themselves probably sounded much the same … It was people who heard and wrote the call in new ways. とあるので A。
重要単語
- roosterB1名詞おんどりThe rooster wakes up the whole farm.
同じ意味で cock も使う。めんどりは hen、ひよこは chick。 - crowB2動詞(おんどりが)鳴く、時をつくるRoosters crow early in the morning.
名詞の crow は「カラス」。同じつづりで意味が違うので注意。 - onomatopoeiaC1名詞オノマトペ、擬音語"Cock-a-doodle-doo" is an example of onomatopoeia.
つづりが長いので、onomato(名前)+ poeia(作ること)と分けて覚える。 - dawnB2名詞夜明けThe rooster crowed at dawn.
at dawn「夜明けに」、from dawn to dusk「朝から晩まで」。 - imitateB1動詞まねるChildren like to imitate animal sounds.
名詞は imitation。辞書の語源欄の imitative は「音をまねた」という意味。 - textbookA2名詞教科書Our English textbook has a story about a rooster.
reader も「(学校の)読本」の意味で使う。 - prideB1名詞誇り、自慢French people sometimes say "cocorico" to show national pride.
形容詞は proud。be proud of ~「~を誇りに思う」。
公式・一次情報をチェック
- ニワトリ(世界大百科事典・日本大百科全書ほか、コトバンク)kotobank.jp
- cock(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- quiquiriquí(Real Academia Española)dle.rae.es
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平安時代の歌では、ニワトリは「カケロ」と鳴いた。江戸時代は「トッテコー」「トーテンコー」。「コケコッコー」の、辞典にある最も古い例は1903年の国語の教科書。英語は cock-a-doodle-doo、フランス語は cocorico。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「こけこっこう」(語誌つき、小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- 精選版 日本国語大辞典「かけろ」・世界大百科事典「ニワトリ」(小学館・平凡社、コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「東天紅」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- Dictionary.com, "cock-a-doodle-doo"dictionary.com
- Duden, "kikeriki"duden.de
- Larousse, "cocorico"larousse.fr
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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