「チャオ」のもとの意味は「あなたの奴隷です」。日本語の「僕」も、もとは“しもべ”だった

読む前に予想してみよう!
イタリア語の「チャオ」は、もとは「こんにちは」「さようなら」という意味の古いラテン語だった
イタリアの辞書 Treccani によると、ヴェネト地方の方言で「(私はあなたの)奴隷です」という意味の言い方から生まれた。
- 対象
- イタリア語・ドイツ語・英語・日本語の辞書の語源欄
- 規模
- 辞書6種
- 研究の種類
- 辞書の語源・用法の記述
- 確かさ
- ★★★★☆
イタリア語の「チャオ」は、ベネチア周辺の方言で「(私はあなたの)奴隷です」という言い方から。ドイツ南部の「Servus」はラテン語の「しもべ」、日本語の「僕」も、もとは男の召使いを指す語だった。
ひとことで言うと「チャオ」は、もとは「わたしはあなたの奴隷です」という意味のあいさつだった!
もくじ
「チャオ!」
イタリア映画や旅行番組でおなじみの、軽くて明るいあいさつです。日本語の国語辞典にも「親しい間柄であいさつに用いる語」として載っています。
ところがこの言葉、もとをたどると 「(私はあなたの)奴隷です」 という意味でした。しかも、似たような「しもべ」生まれのあいさつはドイツ南部にもあり、私たちが自分を指して毎日のように使う「僕」まで、もとは男の召使いを指す言葉だったのです。
01「チャオ」の本来の意味は「あなたの奴隷です」
イタリアを代表する辞書『Treccani(トレッカーニ)』は、ciao の語源をこう説明しています。
標準のイタリア語で「奴隷」は schiavo(スキアーヴォ)。これがベネチアあたりの方言では s-ciavo、さらに短くなって ciao になりました。「あなたの奴隷です」と言ってへりくだる決まり文句が、いつのまにか「やあ」「じゃあね」くらいの軽いあいさつになったわけです。
ちなみに、AHD によると schiavo のもとは中世ラテン語の sclavus(奴隷、しもべ)。英語の slave(奴隷) も同じ sclavus から来ています。
02会うときも別れるときも「チャオ」。ただし相手は選ぶ
Treccani によると、ciao は会ったときにも別れるときにも使えます。日本語の辞書も「おはよう。こんにちは。さようなら。」(デジタル大辞泉)と、三つの意味を並べています。英語でいえば Hi! と Bye! を一語で兼ねている感じです。
ただし使う相手には決まりがあります。イタリア語には、親しい相手に使う「きみ」にあたる tu と、ていねいな「あなた」にあたる Lei があります。Treccani は ciao を「tu で話す相手」へのあいさつだと書いています。手紙の結びに使うことは少なく、使えばとても親しげな感じになる、とも説明しています。
小さな子どもが手を開いたり閉じたりして「バイバイ」することも、イタリア語では fare ciao(チャオをする)と言います。

03ドイツ南部・オーストリアの「Servus」は「しもべ」
「しもべ」から生まれたあいさつは、チャオだけではありません。
ドイツ語の辞書『Duden(ドゥーデン)』を引くと、servus(ゼルヴス) は「別れのとき、会ったときの親しいあいさつ」で、特にバイエルン(ドイツ南部)とオーストリアで使う言葉です。語源はラテン語の servus で、意味は 「(あなたの)しもべ」。
チャオとそっくりですね。会うときにも別れるときにも使えて、親しい相手向けで、もとの意味は「あなたのしもべ」。AHD の ciao の項目は、このラテン語の servus があいさつとして今も使われている地域として、ドイツ南部やオーストリアのほか、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、ウクライナなど、かつてオーストリア=ハンガリー帝国に含まれていた中央ヨーロッパの地域を挙げています。
英語にも同じ発想の言い方がありました。オックスフォードの学習辞典には Your obedient servant(あなたの忠実なしもべ)という表現が「古い言い方。改まった手紙の結びに使った」として載っています。AHD も、Your obedient servant や Your servant, madam はかつての英語ではありふれた言い方だった、と書いています。
04日本語の「僕」も、もとは「しもべ」
ここで日本語に戻ります。
小学館の『デジタル大辞泉』を引くと、「僕(ぼく)」の名詞としての意味は「男の召使い。下男。」です。『日本国語大辞典』も「男のめしつかい。下男。しもべ。」と書いています。「下僕」「公僕」の「僕」と同じ字です。
つまり「僕」は、自分を「しもべ」と呼んで、相手にへりくだる言葉でした。それが学生の言葉として広まり、今では小さな男の子の「ぼくね」にまでなっています。
そして、ここで話がつながります。アメリカの辞書 AHD の ciao の項目の中に、日本語の boku が出てくるのです。AHD は、東アジアや東南アジアには、もとは「奴隷」「あなたの奴隷」を意味した語が、敬意やへりくだりを示すのに使われるうちに一人称(「私」)になった例がある、と書き、その例として日本語の boku を挙げています。boku のもとは「奴隷」「しもべ」を意味する中国語の言葉だ、という説明です。
チャオと「僕」は、語源のつながりはまったくありません。 ただ、「相手より下に立つ言葉が、だんだん軽くて親しい言葉になる」という同じ道を、イタリアと日本で別々にたどったのです。
05どんでん返し:「へりくだる言葉」が、目上には使えない言葉に
ここで一つ、逆転が起きています。
もとは「あなたの奴隷です」「あなたのしもべです」と、相手を立てるための言葉でした。ふつうに考えれば、目上の人にこそ使いそうです。
ところが今はどうでしょう。Treccani によると、ciao は tu で話す相手、つまり親しい相手へのあいさつ。デジタル大辞泉の「僕」も、「対等またはそれ以下の人に対して用いる」と書き、改まったときは「わたくし」を使う、と補足しています。Duden も servus を「親しいあいさつ」としています。
へりくだりの言葉が、使われるうちに軽くなり、ついには目上の人には使いにくい言葉になってしまったのです。
もう一つ注意があります。「奴隷」という訳語の強さです。Treccani は schiavo(奴隷)と書きますが、AHD は「(I am your) servant(しもべ)」と訳し、Duden も servus を Diener(召使い、しもべ)と訳しています。当時の人が本当に自分を奴隷だと思っていたわけではなく、「何なりとお申しつけください」くらいの決まり文句のへりくだりだった、と受け取るのが自然でしょう。
06まとめ
「チャオ」は「あなたの奴隷です」、「Servus」は「あなたのしもべ」、そして「僕」は「男の召使い」。三つの言葉は、遠く離れた土地で、どれも相手より一段下に立つ言葉として始まりました。
それが使われるうちにすり減って、今では親しい相手への気軽な言葉になっています。次に「チャオ!」と手を振るとき、あるいは「僕はね」と話しはじめるとき、ちょっとだけ昔の「しもべ」の姿を思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerItalians use "ciao" with family and friends, both when they meet and when they leave.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Italy, people say "ciao" to their friends. It means "hi," and it also means "bye." But the word has a strange history. Long ago, people around Venice said something like "I am your slave" to be polite.
Over time, the phrase got short and friendly. In Austria and southern Germany, people say "Servus." It comes from the Latin word for "servant." The Japanese word "boku" ("I") also first meant a male servant.
73 words ・ CEFR A2
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イタリアでは、人々は友だちに「チャオ」と言います。それは「やあ」という意味で、「じゃあね」という意味でもあります。でも、この言葉には不思議な歴史があります。ずっと昔、ベネチアのあたりの人々は、ていねいにするために「私はあなたの奴隷です」のようなことを言っていました。
時がたつうちに、その言い方は短く、親しげなものになりました。オーストリアやドイツ南部では、人々は「Servus」と言います。それは「しもべ」を意味するラテン語から来ています。日本語の「僕(わたし)」も、はじめは男の召使いという意味でした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ciao・Servus・boku が、もとは「奴隷」「しもべ」の意味だった話なので B。
Q2. Where do people say "Servus"?
In Austria and southern Germany, people say "Servus." とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "servant"?
servant は「召使い、使用人」。人に仕えて働く人なので A。
Italians use "ciao" with family and friends, both when they meet and when they leave. According to the Italian dictionary Treccani, the word started in the Veneto region, the area around Venice. It comes from a local way of saying "(I am your) slave."
People used the phrase to sound humble and polite, and over time it turned into a quick, friendly greeting. A German dictionary, Duden, tells a similar story about "Servus," a greeting heard in Bavaria and Austria. It comes from the Latin word for "servant."
Japanese has a similar case. The word "boku" first meant a male servant, and later students made it popular as a word for "I." These words are not related to each other. They simply went down the same road.
127 words ・ CEFR B1
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イタリア人は「チャオ」を家族や友だちに対して、会うときにも別れるときにも使う。イタリアの辞書 Treccani によると、この語はベネチアを中心とするヴェネト地方で生まれた。それは「(私はあなたの)奴隷です」という土地の言い方から来ている。
人々はへりくだってていねいに聞こえるようにこの言い方を使い、時がたつうちに、それは手短で親しげなあいさつに変わった。ドイツの辞書 Duden は、バイエルンやオーストリアで聞かれるあいさつ「Servus」について、似た話を伝えている。それは「しもべ」を意味するラテン語から来ている。
日本語にも似た例がある。「僕」という語は、はじめは男の召使いを意味し、のちに学生たちが「わたし」を表す語として広めた。これらの語はたがいに関係はない。ただ同じ道をたどっただけだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ciao・Servus・boku がいずれも「奴隷・しもべ」の意味の言葉から生まれた話なので A。
Q2. According to Treccani, where did "ciao" start?
the word started in the Veneto region, the area around Venice とあるので B。
Q3. What does the writer mean by "They simply went down the same road"?
直前に These words are not related to each other. とあり、関係はないが同じように変化した、という意味なので C。
In the old dialect of Venice, one polite way to greet someone was to say, in effect, "I am your slave." The Italian dictionary Treccani traces "ciao" back to this phrase from the Veneto region.
Today the word works as both hello and goodbye, but only with people you address with the informal "tu." Bavarians and Austrians have their own version. Duden, the German dictionary, says "Servus" comes from the Latin for "(your) servant," and it too is a friendly word for meeting and parting. English once had "Your obedient servant" at the end of formal letters. Japanese offers a parallel case with no shared roots.
"Boku," now a common word for "I" among boys and young men, first meant a male servant, and students made it popular as a pronoun. In each case, a phrase meant to put the speaker below the listener slowly lost its weight. The odd result is that these once-humble words now sound too casual for a boss or a teacher. Even "slave" may be too strong a translation. The American Heritage Dictionary gives the Venetian phrase as "I am your servant."
187 words ・ CEFR B2
和訳を見る
ベネチアの古い方言では、人にあいさつするていねいな言い方の一つは、要するに「私はあなたの奴隷です」と言うことだった。イタリアの辞書 Treccani は、「チャオ」をヴェネト地方のこの言い方までさかのぼっている。
今日この語は「こんにちは」にも「さようなら」にもなるが、くだけた「tu(きみ)」で話す相手にだけ使う。バイエルンやオーストリアの人々には、自分たちの版がある。ドイツの辞書 Duden によると、「Servus」は「(あなたの)しもべ」を意味するラテン語から来ており、これも会うときと別れるときの親しい言葉だ。英語にもかつて、改まった手紙の終わりに書く「Your obedient servant(あなたの忠実なしもべ)」があった。日本語には、語源のつながりはないが似た例がある。
今では少年や若い男性がよく使う「わたし」を表す語「僕」は、はじめは男の召使いを意味し、学生たちが代名詞として広めた。どの場合も、話し手を聞き手より下に置くための言い方が、少しずつ重みを失った。おかしなことに、そうしたもとはへりくだった言葉が、今では上司や先生に使うにはくだけすぎて聞こえる。「奴隷」という訳でさえ強すぎるかもしれない。アメリカン・ヘリテージ辞典は、ベネチアのこの言い方を「私はあなたのしもべです」と訳している。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
a phrase meant to put the speaker below the listener slowly lost its weight など、へりくだりの言葉がくだけた言葉になった話なので B。
Q2. According to Treccani, who do Italians say "ciao" to?
but only with people you address with the informal "tu" とあるので C。
Q3. Why does the writer say "slave" may be too strong a translation?
最後の文で、アメリカン・ヘリテージ辞典はこの言い方を I am your servant と訳しているとあるので A。
重要単語
- greetingB1名詞あいさつ"Ciao" is a friendly greeting in Italy.
greet(あいさつする)+-ing。Season's Greetings は年末のカードの決まり文句。 - farewellB2名詞別れ、別れのあいさつYou can use "ciao" as a farewell, too.
fare(行く)+well(うまく)。a farewell party は「送別会」。 - servantB1名詞召使い、使用人The old house had three servants.
serve(仕える)から。civil servant は「公務員」。Your obedient servant は昔の手紙の結び。 - slaveB2名詞奴隷The word "ciao" once meant "your slave."
イタリア語 schiavo と同じく中世ラテン語 sclavus から。a slave to ~ で「~のとりこ」。 - humbleC1形容詞謙虚な、へりくだったHe gave a humble answer and thanked everyone.
名詞は humility(謙虚さ)。「僕」や ciao は、もとは humble な言い方だった。 - informalA2形容詞くだけた、形式ばらない"Hi" is more informal than "Good morning."
in-(否定)+formal(改まった)。会話・作文問題で「場面に合った語」を選ぶときの基準になる。 - pronounB1名詞代名詞"I" and "you" are pronouns.
pro-(代わり)+noun(名詞)。first-person pronoun は「一人称の代名詞」。
公式・一次情報をチェック
- servant(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- slave(The American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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イタリア語の軽いあいさつ「チャオ」、もとはベネチア周辺の方言で「(私はあなたの)奴隷です」。ドイツ南部やオーストリアの「Servus(ゼルヴス)」はラテン語の「しもべ」。日本語の「僕」も、もとは男の召使いのことだった。
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出典・参考文献(7件)タップで表示
- Treccani, Vocabolario on line「ciao」(Istituto della Enciclopedia Italiana)treccani.it
- Treccani, Vocabolario on line「buongiorno」treccani.it
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「ciao」(Word History)ahdictionary.com
- Duden online「servus」duden.de
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「僕」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「チャオ」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「ciao」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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