世界の「お茶」は「チャ」か「テ」が大半。英語の tea は中国・福建の港の「テ」から

読む前に予想してみよう!
英語の tea は、中国の標準語(北京語)の「チャー」がなまった言葉だ
世界の言語地図WALSによると、tea は福建の言葉(閩南語)の te から。オランダ商人が福建の港アモイ(厦門)で取引していたため、te の形がヨーロッパに広まった。
- 対象
- 世界の言語
- 規模
- 230言語
- 研究の種類
- 言語地図(辞書をもとに「茶」の語の出どころを分類)
- 確かさ
- ★★★★☆
世界の言語地図WALSで調べた230言語のうち、「チャ」から来た呼び名が110言語、「テ」から来た呼び名が84言語。英語の tea は、オランダ商人が福建の港アモイで覚えた「テ」が広まったもの。
ひとことで言うと世界の「お茶」は、だいたい「チャ」か「テ」。どの港から来たかで決まった!
もくじ
日本語は「お茶(チャ)」。ロシア語は「チャイ」。ヒンディー語も「チャイ」。
ところが英語は tea(ティー)、フランス語は thé(テ)、ドイツ語は Tee(テー)。
同じ飲み物なのに、世界の呼び名はおおまかに「チャ」の仲間と「テ」の仲間に分かれています。どちらももとは中国語。分かれ目は、その国がどこの港で、どの中国語を聞いて茶を買ったかでした。
01230言語を調べたら「チャ」の仲間が110、「テ」の仲間が84
世界の言語の特徴を地図にした『世界言語構造地図』(WALS。ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所が公開)には、「茶」だけを扱った章があります。書いたのはスウェーデンの言語学者エステン・ダール(Östen Dahl)です。
230のうち194言語、つまり8割以上が「チャ」か「テ」のどちらかです。
WALS の言語ごとのデータを見ると、こんなふうに分かれます。
- 「チャ」の仲間:日本語 (o)cha、韓国語 tcha、北京語 chá、ロシア語 čaj、ヒンディー語 čāy、ペルシア語 čaj、トルコ語 çay、エジプトのアラビア語 shay、スワヒリ語 chai、ポルトガル語 chá
- 「テ」の仲間:英語 tea、オランダ語 thee、フランス語 thé、ドイツ語 Tee、スペイン語 té、イタリア語 tè、フィンランド語 tee、インドネシア語 teh
中国語の中でも、言い方はひとつではありません。北京語をはじめ多くの方言は「チャー」に近い形ですが、福建省や台湾で話される閩南語は「テ」に近い形です。世界の「チャ」と「テ」の分かれ目は、もとをたどると中国の中の方言の違いでした。
02オランダ商人が覚えたのは福建の「テ」
では、なぜヨーロッパの多くは「テ」なのでしょう。
ダールの説明はこうです。ヨーロッパに茶を運んだのは主にオランダの商人でした。その取引の相手は、福建の港町アモイ(厦門)が中心でした。そこで聞いた「テ」を、オランダ人は thee と書きました。この形が、ヨーロッパの多くの言葉に広がったのです。
英語の tea もその仲間です。アメリカの辞書『American Heritage Dictionary』は、tea の語源を「おそらくオランダ語の thee から」と書き、さらにさかのぼるとアモイの te に行き着くとしています。
オランダの影響は、アジアにも残っています。オランダの植民地だった地域で話されるマレー語やインドネシア語は teh、ジャワ語は tèh。どれも「テ」の仲間です。

03陸の道で茶を得た国は「チャイ」
一方、東ヨーロッパやアジアの国々のうち、オランダ船からではなく陸の道で茶を手に入れた国では、chai(チャイ)のような形が多いとダールは書いています。ロシア語の čaj、トルコ語の çay、ペルシア語の čaj も、WALS ではどれも「チャ」の仲間に入っています。
英語にも、この「チャイ」が入っています。カフェのメニューにある chai latte(チャイラテ)の chai です。American Heritage Dictionary は、英語の chai を「香辛料を入れた紅茶に、牛乳と砂糖かはちみつを加えた飲み物」と説明し、語源をヒンディー語の cāy・ウルドゥー語の čā'e としています。さらにさかのぼると、おそらくペルシア語を経て、中国語の chá に行き着くそうです。
つまり英語では、
- Would you like some tea?(お茶はいかがですか?)の tea は海の道の「テ」
- I'll have a chai latte, please.(チャイラテをください)の chai は陸の道の「チャ」
と、同じ茶の2つのルートが、別々の単語として並んでいるのです。
日本語の「茶」の読みも一つではありません。平凡社の漢字辞典『字通』によると、「茶」の音読みはチャ・サ・タ。「喫茶(きっさ)」の「サ」も、同じ字の読み方のひとつです。
04どんでん返し:「海ならテ、陸ならチャ」ではなかった
ここまで読むと、「船で運んだ国は『テ』、陸で運んだ国は『チャ』」とまとめたくなります。でも、そうとは言い切れません。
ダールによると、ヨーロッパで最初に茶を輸入したのは、オランダではなく16世紀のポルトガルでした。ポルトガルも、船で海を渡って取引していました。ところがポルトガル語は chá。ポルトガルの貿易の道はアモイではなくマカオを通っていて、広東語の cha を取り入れたからだ、とダールは説明しています。
決め手は「海か陸か」よりも、どの港で、どの中国語の言い方を聞いたかでした。
ほかにも、二択に入らない言葉があります。
- ポーランド語 herbata、リトアニア語 arbata は、WALS では「チャ」「テ」のどちらにも数えられていない
- 茶の木がもともと生えている地域(西はインドのアッサムから東は中国の東海岸まで、南はミャンマー・タイ・ベトナムまで)には、借りた言葉ではなく昔からの自分たちの言葉を使う言語が少なくない。たとえばミャンマー語は WALS では「その他」に入っている
また、英語の tea の音も変わりました。昔の英語では「テー」に近い音でしたが、英語全体の音の変化で「ティー」になりました(方言には tay という形が残る)。英語から tea を借りた言葉の多くは、この「ティー」の音を写しています。ナイジェリアのヨルバ語 tii がその例です。
05まとめ
日本語の「お茶」、ロシア語の「チャイ」、英語の tea。ばらばらに見える呼び名は、ほとんどが中国語の2つの言い方、「チャ」と「テ」にさかのぼります。
その違いを生んだのは、中国の中の方言の違いと、茶を運んだ商人がどの港に出入りしていたか。毎日飲むお茶の名前に、400年ほど前の貿易の道が残っているのです。次に tea と chai をメニューで見かけたら、2つのルートを思い出してみてください。
よくある質問
英語の tea の語源は何ですか?
中国の福建などで話される閩南語(びんなんご)の「テ(te)」です。American Heritage Dictionary は、tea を「おそらくオランダ語の thee から」とし、さかのぼると福建の港町アモイの te に行き着くとしています。
なぜ英語のお茶は「チャ」ではなく tea なのですか?
ヨーロッパに茶を運んだオランダの商人が、福建の港町アモイ(厦門)で「テ」を聞いて取り入れたからです。オランダ人はこれを thee と書き、この形がヨーロッパの多くの言葉に広がりました(WALS、エステン・ダール)。
世界の言語で「お茶」は何と言いますか?
大半が「チャ」か「テ」の仲間です。言語地図 WALS で調べた230言語のうち、中国語の cha から来た語が110言語、閩南語の te から来た語が84言語、どちらでもない語が36言語でした。
tea と chai の違いは何ですか?
英語では別の飲み物です。chai は「香辛料を入れた紅茶に、牛乳と砂糖かはちみつを加えた飲み物」(American Heritage Dictionary)。tea は海の道で入った「テ」、chai はヒンディー語などを通った陸の道の「チャ」から来ています。
日本語の「お茶」は「チャ」の仲間ですか?
はい。WALS では日本語の (o)cha は「チャ」の仲間です。WALS の章によると、茶は西暦800年ごろにまず日本に広まりました。漢字辞典『字通』によると、「茶」の音読みにはチャのほかにサ・タもあります。
ポルトガル語のお茶が「チャ」なのはなぜですか?
ポルトガルの貿易の道がマカオを通っていて、広東語の cha を取り入れたからだと、言語学者のダールは説明しています。ポルトガルも船で取引していたので、「海ならテ、陸ならチャ」とは言い切れません。
「紅茶」は英語で red tea ですか?
いいえ。紅茶は英語で black tea と言い、ふつう red tea とは言いません。「緑茶」は green tea、スパイス入りのミルクティーは chai です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOrder tea in Moscow and you ask for "chai." Order it in Paris and you ask for "thé." Both words come from…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japanese, tea is "ocha." In Russian, it is "chai." But in English, it is "tea," and in French, it is "thé." A world map of languages shows tea words in 230 languages.
In 110 of them, the word for tea comes from Chinese "cha." In 84, it comes from "te," a word used in Fujian, in southern China. Dutch traders bought tea at a port there, so many languages in Europe use a "te" word.
76 words ・ CEFR A2
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日本語では、茶は「おちゃ」です。ロシア語では「チャイ」です。でも英語では「tea」、フランス語では「thé」です。ある世界の言語地図には、230の言語の茶の言葉がのっています。
そのうち110の言語では、茶を表す言葉が中国語の「cha」から来ています。84の言語では、中国南部の福建で使われる「te」という言葉から来ています。オランダの商人がそこの港で茶を買ったので、ヨーロッパの多くの言語は「te」の仲間の言葉を使っています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
日本語・ロシア語・英語などで茶の呼び名が違う理由を説明しているので B。
Q2. How many of the 230 languages have a tea word that comes from "te"?
In 84, it comes from "te" とあるので D。110 は cha から来た言語の数。
Q3. In the passage, what does "traders" mean?
Dutch traders bought tea at a port とあり、品物を売り買いする「商人」のことなので A。
Order tea in Moscow and you ask for "chai." Order it in Paris and you ask for "thé." Both words come from Chinese, but from different kinds of Chinese. Most Chinese dialects say something like "cha," while Min Nan, spoken in Fujian and Taiwan, says "te."
The World Atlas of Language Structures checked 230 languages and found 110 "cha" words and 84 "te" words. The Dutch, who carried most of Europe's tea, did their business in Amoy, a port in Fujian. They wrote the word as "thee," and from Dutch it spread across much of Europe, English included.
Places that got their tea over land instead, such as Russia, tend to use forms like "chai." So English now has both words, "tea" and the "chai" in "chai latte."
128 words ・ CEFR B1
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モスクワで茶を頼むなら「チャイ」と言う。パリで頼むなら「テ」と言う。どちらの語も中国語から来ているが、別々の種類の中国語からだ。中国語の方言の多くは「チャ」のような言い方をするが、福建や台湾で話される閩南語は「テ」と言う。
『世界言語構造地図』は230の言語を調べ、「チャ」系の語を110、「テ」系の語を84見つけた。ヨーロッパの茶の大半を運んだオランダ人は、福建の港アモイで商売をしていた。彼らはその語を「thee」と書き、オランダ語から英語も含めてヨーロッパの多くに広がった。ロシアのように、そうではなく陸路で茶を手に入れた所では、「チャイ」のような形を使うことが多い。
だから英語には今、両方の語がある。「tea」と、「チャイラテ」の「chai」だ。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the passage mention Amoy?
The Dutch ... did their business in Amoy, a port in Fujian. They wrote the word as "thee" とあるので B。
Q2. Which language in the passage says "te" for tea?
Min Nan, spoken in Fujian and Taiwan, says "te" とあるので C。
Q3. What can we guess from the last sentence?
English now has both words, "tea" and the "chai" とあり、海の道の tea と陸の道の chai の両方を取り入れたと分かるので A。
Most languages with a word for tea took it from Chinese, but from different kinds of Chinese. In a chapter of the World Atlas of Language Structures, the Swedish linguist Östen Dahl sorted 230 languages by where their tea word came from. He found 110 that use forms of "cha," the word in Mandarin and most other Chinese dialects, and 84 that use forms of "te," from the Min Nan spoken in Fujian.
The other 36 use something else, sometimes an older local word, especially where the tea plant grows naturally. The "te" group owes a lot to Dutch traders, who bought their tea in the port of Amoy and passed the word "thee" on to much of Europe. It's tempting to say that sea routes gave "te" and land routes gave "cha," but Portugal breaks that rule.
According to Dahl, the Portuguese shipped tea to Europe before the Dutch did, yet they say "chá," because they traded through Macao, where people said "cha" in Cantonese. What mattered was which port the buyers used and which Chinese they heard there. English "tea" changed, too. Its vowel shifted over time, and Yoruba, in Nigeria, later borrowed it as "tii."
198 words ・ CEFR B2
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茶を表す語を持つ言語の多くは、それを中国語から取り入れたが、もとになった中国語は一種類ではない。『世界言語構造地図』のある章で、スウェーデンの言語学者エステン・ダールは230の言語を、茶の語がどこから来たかで分類した。北京語やほかの多くの中国語方言の語である「チャ」の形を使う言語が110、福建で話される閩南語から来た「テ」の形を使う言語が84あった。残りの36は別の語を使っており、とくに茶の木が自然に生えている地域では、昔からの土地の言葉であることもある。
「テ」のグループは、オランダ商人に負うところが大きい。彼らはアモイの港で茶を買い、「thee」という語をヨーロッパの多くに伝えた。海の道なら「テ」、陸の道なら「チャ」と言いたくなるが、ポルトガルがこの決まりを破る。
ダールによれば、ポルトガル人はオランダ人より先に船で茶をヨーロッパへ運んだのに「chá」と言う。人々が広東語で「チャ」と言っていたマカオを通して取引していたからだ。大事だったのは、買い手がどの港を使い、そこでどの中国語を聞いたかだった。英語の「tea」も変わった。その母音は時代とともに変わり、のちにナイジェリアのヨルバ語がそれを「tii」として借りた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
not from the same Chinese と述べ、最後に What mattered was which port ... and which Chinese they heard there とまとめているので B。
Q2. Why does Portuguese say "chá"?
they traded through Macao, where people said "cha" in Cantonese とあるので C。
Q3. Why does the writer say that Portugal "breaks that rule"?
「海の道ならテ」という決まりに対し、The Portuguese shipped tea ... yet they say "chá" とあるので A。
重要単語
- borrowA2動詞借りる;(言葉を)取り入れるEnglish probably borrowed the word "tea" from Dutch.
言語学では、外国語の単語を取り入れることも borrow と言う。名詞は borrowing(借用語)。 - traderB1名詞商人、貿易業者Dutch traders carried tea to Europe by ship.
trade(貿易、商売)+-er(人)。trade route は「交易路」。 - routeB1名詞道筋、経路The word changed depending on the trade route.
発音は「ルート」が基本。アメリカ英語では「ラウト」とも言う。root(根)と混同しないこと。 - importB1動詞輸入するDutch traders imported most of Europe's tea.
im-(中へ)+port(運ぶ)。反対は export(輸出する)。名詞も同じ形で、アクセントが前に来る。 - portA2名詞港、港町Amoy was a busy port in southern China.
import・export・transport の port はラテン語で「運ぶ」の意味。港の port(ラテン語の portus)とは別の語から来ている。 - dialectB2名詞方言Some English dialects still say "tay" for tea.
Min Nan や Cantonese は「中国語の方言」と呼ばれることが多い。a regional dialect(地方の方言)。
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世界の言語地図WALSで230言語の「茶」を調べると、日本語・ロシア語・ヒンディー語など「チャ」の仲間が110、英語・フランス語・ドイツ語など「テ」の仲間が84。オランダ商人が福建の港アモイで聞いた「テ」がヨーロッパに広がったからだった。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Dahl, Östen (2013) Tea, in Dryer & Haspelmath (eds.) The World Atlas of Language Structures Online, Chapter 138(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)wals.info
- WALS Online, Datapoint Japanese / Tea(Feature 138A)wals.info
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「tea」(HarperCollins)ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「chai」(HarperCollins)ahdictionary.com
- 白川静『普及版 字通』「茶」(平凡社、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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