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英語の two とヒンディー語の do は同じ祖先の言葉。印欧語の“ルーツ”は約8100年前?

英語の two とヒンディー語の do は同じ祖先の言葉。印欧語の“ルーツ”は約8100年前?

読む前に予想してみよう!

英語とヒンディー語は、同じ祖先の言語から分かれた「親せき」の言語である

研究カード(どんな研究?)
対象
印欧語族の言語
規模
161言語(うち古代・歴史上の言語52)×基本語170の意味
研究の種類
系統樹の統計的推定(ベイズ系統解析)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

英語の two・name とヒンディー語の do・nām は同じ祖先の言葉から来た。2023年の研究は、印欧語族が約8100年前に分かれ始めたと推定。ただし起源の時期と場所はいまも論争中。

ひとことで言うと英語とインドのヒンディー語は、何千年も前に分かれた「親せき」なんだ!

もくじ
  1. two と do、name と nām は「同源語」
  2. 2つの説:「農業とともに」か「馬とともに」か
  3. 2023年の答え:「どちらも少しずつ正しい」?
  4. どんでん返し:古代DNAは「約6400〜6000年前」を指した
  5. まとめ

英語の two(2)は、インドのヒンディー語で do(दो)。英語の name(名前)は、ヒンディー語で nām(नाम)。

似ているのは偶然ではありません。英語とヒンディー語は、何千年も前に同じ祖先の言葉から分かれた「親せき」なのです。

この大家族を「印欧語族(インド・ヨーロッパ語族)」と呼びます。マックス・プランク協会の発表によると、いまでは世界の人口のほぼ半分が、この語族の言葉を話しています。では、その祖先の言葉はいつ、どこで話されていたのか。この「印欧語族の起源」をめぐって、2023年、科学誌『サイエンス』に「約8100年前」という新しい推定が発表されました。

01two と do、name と nām は「同源語」

同じ祖先の単語から来た語を同源語(cognate)と言います。2023年の研究チームがつくった印欧語のデータベース「IE-CoR」で、「2」と「名前」を表す語を見てみましょう。

  • 「2」:英語 two/ドイツ語 zwei/ラテン語 duo/ロシア語 dva/ペルシア語 do/ヒンディー語 do
  • 「名前」:英語 name/ドイツ語 Name/ラテン語 nōmen/ロシア語 imja(имя)/ペルシア語 nām/ヒンディー語 nām

どれも、印欧語の祖先の言葉(印欧祖語)の同じ単語にさかのぼる、とされています。「3」も英語 three、ヒンディー語 tīn で同源です。

ただし、何でもそろうわけではありません。「塩」は英語 salt とドイツ語 Salz が同源ですが、ヒンディー語の namak(नमक)はペルシア語から借りた語で、salt とは別の単語にさかのぼります。「夜」も、英語 night とヒンディー語 rāt は別の語から来ています。言葉の親せき関係は、似ている単語を拾うのではなく、こうした基本の語を一つひとつ確かめて決めていくのです。

022つの説:「農業とともに」か「馬とともに」か

印欧語の故郷をめぐっては、200年以上も議論が続いてきました。近年の主な説は2つです。

  • アナトリア(農耕)説:約9000年前、いまのトルコにあたるアナトリアから、農業が広がるのといっしょに言葉も広がった
  • ステップ説:約6000年前、黒海とカスピ海の北に広がる草原(ステップ)から、馬を使う牧畜民とともに広がった

コンピューターで言語の系統樹をつくる研究でも、結果は割れていました。2012年の研究は103の言語の基本語を分析し、アナトリア説を強く支持しました。ところが2015年、アメリカの言語学者たちは、古代の言語と現代の子孫の関係を前提として組みこむ方法で分析し直し、ステップ説を強く支持する結果を出しました。

同じ2015年には、古代人の骨からDNAを調べる研究も大きな発見をしました。約4500年前にドイツにいた人々(縄目文土器文化)の祖先の約75%が、ステップの牧畜民(ヤムナ文化)に由来していたのです。研究者は、少なくとも一部のヨーロッパの印欧語はステップから来た、と考えました。

印欧語は「農業とともに」広がったのか、「馬を使う牧畜民とともに」広がったのか。200年以上続く論争
印欧語は「農業とともに」広がったのか、「馬を使う牧畜民とともに」広がったのか。200年以上続く論争

032023年の答え:「どちらも少しずつ正しい」?

2023年の研究は、マックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ)が中心となり、80人を超える言語の専門家が参加しました。

研究チームは、両方の説をまぜた「ハイブリッド説」を提案しました。最初の故郷はコーカサス山脈のすぐ南。そこから一部が北へ移ってステップに入り(約7000年前)、さらにそこからヨーロッパの一部へ広がった(約5000年前)という筋書きです。

この筋書きでは、ステップはヨーロッパに入った一部の枝にとっての「第2の故郷」です。一方、アナトリアの枝はステップを通らずに広がり、ほかにも同じように広がった枝があったかもしれません。こう考えれば、言語の年代と古代DNAの両方を説明できる、というのです。

04どんでん返し:古代DNAは「約6400〜6000年前」を指した

ところが、話はまだ終わっていません。

2025年、科学誌『ネイチャー』に、435人分の古代DNAを分析した研究が発表されました。分かったことは2つです。1つ目は、ステップのヤムナ文化の人々の祖先の大部分が、コーカサスからヴォルガ川下流に住んでいた人々だったこと。2つ目は、その同じ人々が、アナトリアの人々(ヒッタイト語を話した)の祖先の一部にもなっていたことです。

研究チームは、アナトリアの言葉もふくめた印欧語の共通の祖先が最後にまとまって話されていたのは、紀元前4400〜4000年ごろ(いまから約6400〜6000年前)、この人々の間だったと提案しています。2023年の「約8100年前」とは、2000年ほどの開きがあります。

言語の系統樹は「単語がどれくらいの速さで入れかわるか」から年代を出します。古代DNAが教えてくれるのは「人がどう移動し、まじり合ったか」です。その人たちが何語を話していたかは、骨のDNAには残りません。どちらの方法にも弱点があり、印欧語の故郷の論争は、まだ決着していないのです。

05まとめ

英語の two とヒンディー語の do。遠く離れた2つの言葉は、何千年も前に同じ祖先の言葉から分かれた親せきです。

その祖先の言葉が話されていたのは「約8100年前、コーカサスの南」なのか、それとも「約6400〜6000年前、コーカサスからヴォルガ川下流にかけて」なのか。言語学と遺伝学がそれぞれの手がかりを持ち寄って、いまも答えを探している最中です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy does the English word "name" look so much like Hindi "nām" and Latin "nōmen"? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Why does the English word "name" look so much like Hindi "nām" and Latin "nōmen"? These languages all belong to the Indo-European family and share a common ancestor. Experts have argued for more than 200 years about where and when that ancestor was spoken. One idea says it spread with farming from Anatolia, in what is now Turkey, about 9,000 years ago.

Another says it spread with herders who used horses on the grasslands north of the Black and Caspian Seas, about 6,000 years ago. In 2023, a team of more than 80 language experts compared basic words in 161 languages. They estimated that the family began to split about 8,100 years ago, and they placed its first home just south of the Caucasus Mountains.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

英語の「name」は、なぜヒンディー語の「nām」やラテン語の「nōmen」にこんなに似ているのだろうか。これらの言語はすべて印欧語族に属し、共通の祖先をもっている。専門家たちは200年以上、その祖先がどこで、いつ話されていたのかを議論してきた。1つの説は、約9000年前に、いまのトルコにあたるアナトリアから農業とともに広がったというもの。

もう1つの説は、約6000年前に、黒海とカスピ海の北の草原で馬を使う牧畜民とともに広がったというものだ。2023年、80人を超える言語の専門家のチームが、161の言語の基本語をくらべた。彼らは、この語族が約8100年前に分かれ始めたと推定し、最初の故郷をコーカサス山脈のすぐ南に置いた。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How many languages did the 2023 team compare?

Q3. What can you infer about the 2023 date?

重要単語

  • language familyB2
    名詞語族English and Hindi belong to the same language family. family tree(系統樹、家系図)と合わせて覚える。the Indo-European family で「印欧語族」。
  • ancestorB2
    名詞祖先Latin is the ancestor of Italian and Spanish. 反対語は descendant(子孫)。ancestry は「家系、祖先(全体)」で、DNA研究の英文によく出る。
  • cognateC1
    名詞同源語(同じ祖先から来た単語)English "name" and German "Name" are cognates. co-(共に)+ラテン語 natus(生まれた)から。借用語(loanword)とは区別される。
  • homelandB2
    名詞故郷、発祥の地Scientists still disagree about the homeland of these languages. home+land。言語学では「祖語が話されていた土地」の意味で使う。
  • ancientB1
    形容詞古代のHittite is an ancient language from what is now Turkey. 発音は「エインシェント」。ancient DNA で「古代DNA」。
  • migrationB2
    名詞移住、人の大移動Many birds make a long migration every fall. 動詞は migrate。鳥の「渡り」にも使う。immigration(入国して移住)と区別。
  • splitB1
    動詞分かれる、分けるThe group split into two teams. 過去形・過去分詞も split。split up で「別れる、解散する」。
英語の two(2)はヒンディー語で do、name(名前)は nām。同じ祖先の言葉から分かれた親せきだ。2023年の研究はこの「印欧語族」が約8100年前に分かれ始めたと推定。でも2025年の古代DNA研究は約6400〜6000年前を示し、論争は続く。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Heggarty et al. (2023) Language trees with sampled ancestors support a hybrid model for the origin of Indo-European languages, Science 381(6656)doi.org
  2. Bouckaert et al. (2012) Mapping the Origins and Expansion of the Indo-European Language Family, Science 337(6097)doi.org
  3. Chang, Cathcart, Hall & Garrett (2015) Ancestry-constrained phylogenetic analysis supports the Indo-European steppe hypothesis, Language 91(1)doi.org
  4. Haak et al. (2015) Massive migration from the steppe was a source for Indo-European languages in Europe, Nature 522(7555)doi.org
  5. Lazaridis et al. (2025) The genetic origin of the Indo-Europeans, Nature 639(8053)doi.org

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