話す人が多い言語ほど、語尾の変化が少ない傾向。2,236言語の分析と「大人の学習者のせい?」論争

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世界の言語では、話す人が多い言語ほど、単語の形を変えて文法を表すしくみが少ない傾向がある
2,236言語を調べた2010年の研究で、話す人の数を中心とする指標が、語形変化に関わる28項目のうち26項目と関係していた。ただし理由については論争がある。
- 対象
- 世界の言語
- 規模
- 2,236言語(項目ごとに112〜1,074言語)
- 研究の種類
- 言語データベースと話者人口の統計的な比較(相関研究)
- 確かさ
- ★★★☆☆
2,236言語を調べると、話す人が多い言語ほど名詞や動詞の語形変化が少ない傾向があった。理由は「大人の学習者が多いから」? その説をめぐり論争が続く。
ひとことで言うと話す人が多いことばほど、単語の形があまり変わらないんだって!
何億人もが話す英語と、数百人しか話さない小さな村のことば。文法が複雑なのはどちらだと思いますか?
「大きな言語のほうが、いろいろなルールがありそう」と考えた人は、逆かもしれません。世界の2,236言語を調べると、話す人が多い言語ほど、単語の形を変えて文法を表すしくみが少ない傾向があったのです。
英語の文法がドイツ語より“あっさり”している理由も、ここにあるのかもしれません。
012,236言語を「話す人の数」とくらべた
2010年、アメリカのペンシルベニア大学のゲーリー・ルピアンと、メンフィス大学のリック・デールは、世界の言語の文法をまとめたデータベースと、各言語を話す人の数などのデータを組み合わせました。
まず知っておきたいのは、世界の言語の大半は、とても小さいということです。論文によると、言語の目録『エスノローグ』に載る6,912言語の話者数は、真ん中の値(中央値)がわずか7,000人。平均は82万8,000人を超えますが、これは英語や中国語のような巨大な言語が平均を押し上げているからです。
02「格」とは? 英語なら he と him のちがい
ここで出てくる「格(case)」とは、文の中での役割によって、名詞の形が変わるしくみのことです。
英語でいちばん身近なのは代名詞です。He likes her. と She likes him. では、同じ人を指していても、主語なら he、目的語なら him と形が変わります。これが格です。
論文によると、英語は「主語・動詞・目的語」の語順で「だれがだれに何をしたか」を表します。一方、ドイツ語やポーランド語は、名詞の格で役割を示すので、語順をもっと自由に変えられます。そして論文は、英語は語形変化の多くを捨て、ドイツ語は残した、という例を挙げて、その理由を問いかけています。
語尾で細かく表す言語の例も、論文には紹介されています。
- ペルーのヤグア語は、過去のできごとが「数時間前」「1日前」「1週間〜1か月前」などのどれかで、動詞の語尾を5段階に変える
- カリフォルニア北西部のカロック語には、「火の中へ投げる」「水の中へ投げる」を区別する語尾がある
英語なら I broke my foot a few years ago. のように、「何年か前に」を単語で足せば済みます。言わなくてもかまいません。でも語尾で区別する言語では、過去の話をするたびに、ふつうはどれかを選ばなければなりません。

03理由は「大人になってから学ぶ人」?
なぜ大きな言語ほど、語形変化が少ないのでしょうか。ルピアンとデールが考えたのは、大人の学習者の影響です。
大きな言語は、広い地域で、ちがう母語をもつ人どうしの共通語として使われることが多くなります。すると、大人になってから学ぶ人が増えます。大人にとって、複雑な語尾の変化を覚えるのは大変です。覚えにくいしくみは、長い年月のうちに次の世代へ受け継がれにくくなり、だんだん単純になっていく、という考え方です。
逆に、小さな村のことばは、ほぼ子どもが母語として身につけます。くり返しの多い複雑な語尾は、子どもにとってはむしろ手がかりになるのかもしれない、と2人は推測しています。
論文の補足資料には、母語話者と第二言語話者(あとから学んだ人)の当時の推計も載っています。
- 英語:母語3億3,000万人に対し、第二言語として話す人は8億1,200万人
- マレー語:母語3,000万人に対し、第二言語1億7,000万人
この考えを名詞の格で調べたのが、2013年のベンツとウィンターの研究です。66言語について、第二言語話者の割合と名詞の格をくらべました。すると、第二言語話者が5割を超える言語は、どれも名詞の格をもっていなかったのです。
04どんでん返し:「学習者の割合は関係ない」という反論
ところが、この「大人の学習者」説には、強い反論が出ています。
2019年、ドイツのマンハイムにあるドイツ語研究所(IDS)のアレクサンダー・コプレニヒは、2,000を超える言語のデータで、「第二言語話者の割合」と語形変化の関係を調べ直しました。話す人の数そのものは、言語の複雑さと関係していました。ところが第二言語話者の割合は、話す人の数の影響をのぞくと、語形変化の複雑さとの関係が見られなかったのです(偶然では説明できないほどの、はっきりした関係は出なかったということ)。
コプレニヒは、2013年の研究についても注意をうながしています。調べた66言語は、話者数の中央値が1,420万人。世界の言語の中央値(約7,000人)よりずっと大きく、どの言語にも第二言語話者がいる、かたよった集まりだったというのです。
話はここで終わりません。2023年には、別の研究チームが同じデータを別の方法で分析し直し、「第二言語話者の割合が高いほど、語形変化は単純になる」という結果を報告しました。これに対してコプレニヒは2024年、新しいデータも加えて再び分析し、「やはり関係は見つからない」と反論しています。
日本語は、2010年の論文の補足資料に、ある“例外”として登場します。日本語の母語話者は約1億2,200万人と多いのに、第二言語として話す人は100万〜200万人ほどしかいません(補足資料の推計)。話す人が多い=学習者が多い、とは限らないのです。
05まとめ
話す人が多い言語ほど、語尾で細かく表すしくみが少ない。これは2,236言語のデータから見えてきた傾向で、反論したコプレニヒの分析でも、話す人の数との関係そのものは残りました。
ただ、その理由が「大人の学習者が多いから」なのかは、いまも研究者どうしで議論が続いています。英語の文法が語順と単語の足し算でできているのは、たくさんの人に使われてきた言語の“歴史の跡”なのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe number of people who speak a language may affect its grammar.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some languages change the endings of words to show grammar. Other languages use extra words or word order. In 2010, two scientists studied 2,236 languages and found a pattern. Languages with many speakers often have fewer word endings.
English is like this. "The dog bit the man" and "The man bit the dog" use the same words, but the order changes the meaning. Some scientists think adult learners make big languages simpler.
72 words ・ CEFR A2
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語の終わりを変えて文法を表す言語があります。ほかの言語は、単語を足したり語順を使ったりします。2010年、2人の科学者が2,236の言語を調べて、ある傾向を見つけました。話す人が多い言語は、語尾の変化が少ないことが多いのです。
英語もそうです。「The dog bit the man(犬が男をかんだ)」と「The man bit the dog(男が犬をかんだ)」は同じ単語を使っていますが、順番で意味が変わります。大人の学習者が大きな言語をシンプルにしている、と考える科学者もいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Languages with many speakers often have fewer word endings. が中心なので C。
Q2. How many languages did the two scientists study?
two scientists studied 2,236 languages とあるので B。2010は研究の年。
Q3. In the passage, what does "pattern" mean?
pattern は「くり返し見られる決まった傾向」。found a pattern で「傾向を見つけた」。A。
The number of people who speak a language may affect its grammar. In 2010, Gary Lupyan and Rick Dale compared 2,236 languages using a large database of grammar features.
Languages spoken by more people tended to have fewer noun cases and fewer verb endings. They often used separate words for ideas like the future or "maybe." The researchers suggested a reason. Big languages are learned by many adults, and adults find complex endings hard.
Over many generations, such endings may slowly disappear. In 2013, a study of 66 languages found that in every language where more than half of the speakers had learned it as a second language, nouns had no case endings. Since then, researchers have argued about whether adult learners are really the cause.
126 words ・ CEFR B1
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ある言語を話す人の数が、その文法に影響しているのかもしれない。2010年、ゲーリー・ルピアンとリック・デールは、文法の特徴を集めた大きなデータベースを使って2,236の言語をくらべた。
話す人が多い言語ほど、名詞の格が少なく、動詞の語尾も少ない傾向があった。そうした言語では、未来や「たぶん」のような考えを、別の単語で表すことが多かった。研究者たちは、ひとつの理由を示した。大きな言語は多くの大人に学ばれ、大人には複雑な語尾が難しい。
何世代もたつうちに、そうした語尾はゆっくり消えていくのかもしれない。2013年には、66言語を調べた研究で、話す人の半分以上が第二言語として学んだ言語では、どれも名詞に格の語尾がなかったことが分かった。その後、大人の学習者が本当の原因なのかをめぐって、研究者たちの議論が続いている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
Languages spoken by more people tended to have fewer noun cases and fewer verb endings. が中心なので B。
Q2. What did the 2013 study of 66 languages find?
in every language where more than half of the speakers had learned it as a second language, nouns had no case endings とあるので D。
Q3. Why might adult learners make a language simpler, according to the researchers?
Big languages are learned by many adults, and adults find complex endings hard. とあるので A。
Gary Lupyan and Rick Dale compared grammar data for 2,236 languages with figures on speakers, land area, and neighboring languages. Their 2010 study found that these measures, above all the number of speakers, were linked to 26 of 28 features related to word endings. In 23 cases the link held even after controlling for language family. Larger languages tended to have fewer noun cases, simpler verbs, and more stand-alone words for ideas such as the future.
The authors argued that big languages are often learned by adults, who struggle with complex endings. A 2013 paper on 66 languages found that every language spoken mostly by second-language learners had no noun cases. But in 2019, Alexander Koplenig examined more than 2,000 languages. Once he controlled for speaker numbers, the share of second-language speakers made no significant difference.
Another team reanalyzed his data in 2023 and found a link with simpler word forms, but Koplenig answered in 2024 with a new analysis that again found none. Japanese shows that a big language does not always have many learners. Estimates published with the 2010 study give it about 122 million native speakers but only one or two million second-language speakers.
197 words ・ CEFR B2
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ゲーリー・ルピアンとリック・デールは、2,236言語の文法データを、話者数、話されている土地の広さ、まわりの言語の数と照らし合わせた。2010年のこの研究では、これらの指標、とくに話者数が、語尾に関わる28項目のうち26項目と結びついていた。そのうち23項目では、語族の影響を考慮しても関係が残った。大きな言語ほど、名詞の格が少なく、動詞が単純で、未来などの考えを独立した単語で表す傾向があった。
著者たちは、大きな言語は大人に学ばれることが多く、大人は複雑な語尾に苦労するのだと主張した。66言語を調べた2013年の論文は、おもに第二言語の学習者が話す言語には、どれも名詞の格がないことを見いだした。しかし2019年、アレクサンダー・コプレニヒは2,000を超える言語を調べた。話者の総数の影響をのぞくと、第二言語話者の割合は有意な差を生まなかった。
2023年には別のチームが彼のデータを分析し直して第二言語話者の割合が高いほど語の形が単純になるという関係を見つけたが、コプレニヒは2024年に新しい分析で応じ、やはり効果は見つからなかった。日本語を見ると、大きな言語に学習者が多いとは限らないことが分かる。2010年の研究とともに公表された推計では、日本語の母語話者は約1億2,200万人だが、第二言語として話す人は100万〜200万人ほどしかいない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
話者数と語尾の単純さの傾向、そして大人の学習者が原因かをめぐる2019〜2024年の論争が中心なので B。
Q2. How many of the 28 features were linked to the speaker measures?
were linked to 26 of 28 features とあるので C。23は語族を考慮しても関係が残った数。
Q3. What does the passage say about Japanese?
母語話者は約1億2,200万人と多いのに、第二言語話者は100万〜200万人ほど。大きな言語なのに学習者が少ないので A。
重要単語
- grammarA2名詞文法English grammar depends a lot on word order.
つづりは -ar で終わる(grammer は誤り)。形容詞は grammatical(文法的に正しい)。 - native speakerB1名詞母語話者She is a native speaker of Japanese.
native language(母語)とセット。研究では L1 speaker とも言う。 - second languageB1名詞第二言語(あとから学んだ言語)English is a second language for millions of people.
研究では L2 と略す。second language acquisition(第二言語習得)は入試の長文でもよく出る。 - populationB1名詞人口、(ある集団の)総数The town has a population of about 5,000.
「人口が多い」は a large population(many ではなく large)。 - caseC1名詞(文法の)格In German, the word for "the" changes with case: der, den, dem, des.
ふだんの「場合・事件」と同じつづり。英語では he / him / his の使い分けに残る。 - simplifyB2動詞単純にするSome languages simplify their grammar over time.
simple+-ify(~にする)。名詞は simplification。 - exceptionB1名詞例外Japanese is an exception to the pattern.
except(~を除いて)の名詞形。with the exception of ~「~を除いて」。
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話す人が多い言語ほど、語尾の変化(名詞の「格」や動詞の活用)が少ない傾向があった。2,236言語を調べた研究の結果。理由は「大人になってから学ぶ人が多いから」という説があるが、「学習者の割合は関係ない」という反論もあり論争中。
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- Lupyan & Dale (2010) Language Structure Is Partly Determined by Social Structure, PLoS ONE 5(1) e8559doi.org
- Bentz & Winter (2013) Languages with More Second Language Learners Tend to Lose Nominal Case, Language Dynamics and Change 3(1)doi.org
- Koplenig (2019) Language structure is influenced by the number of speakers but seemingly not by the proportion of non-native speakers, Royal Society Open Science 6(2)doi.org
- Kauhanen, Einhaus & Walkden (2023) Language structure is influenced by the proportion of non-native speakers: A reply to Koplenig (2019), Journal of Language Evolution 8(1)doi.org
- Koplenig (2024) Still No Evidence for an Effect of the Proportion of Non-Native Speakers on Natural Language Complexity, Entropy 26(11)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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