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「赤ちゃんへの話し方」は世界でよく似ていた。187か国の5万人が、知らない言葉でもある程度聞き分けた

「赤ちゃんへの話し方」は世界でよく似ていた。187か国の5万人が、知らない言葉でもある程度聞き分けた

読む前に予想してみよう!

赤ちゃんに話しかけるとき声を高くするのは、どの文化でも必ず見られる

研究カード(どんな研究?)
対象
21の社会の大人/世界の聞き手
規模
録音1,615件(410人)・聞き手51,065人(187か国)
研究の種類
録音の音響分析+オンラインの聞き取り実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

赤ちゃんへの話し声は21の社会でよく似た特徴を持っていた。録音を聞いた187か国の5万人も、知らない言葉の録音で「赤ちゃん向けかどうか」を、当てずっぽうより高い確率で当てた。

ひとことで言うと赤ちゃんに話しかける声は、どこの国でもちょっと似ているんだって!

もくじ
  1. マザリーズは英語で何という?
  2. 21の社会、410人の声を録音した
  3. 187か国の5万人が「赤ちゃん向け」を当てた
  4. もっと前から分かっていた「メロディーが意味を運ぶ」
  5. どんでん返し:声を高くしない社会もあった
  6. まとめ

「はーい、どうしたのー? おなかすいたのかなー?」

赤ちゃんを前にすると、ふだんより声が高くなり、抑揚が大きくなる。そんな大人の話し方を、耳にしたことがあるはずです。

「マザリーズ」とも呼ばれるこの話し方は、日本だけのものではありませんでした。2022年、ハーバード大学などの国際チームが、アフリカの狩猟採集民の小さな集団から北京やトロントのような大都市まで、21の社会で録音した声を分析すると、赤ちゃん向けの話し方にはよく似た特徴があったと報告しました。しかも、録音を聞いた187か国の5万人以上が、知らない言葉でも「これは赤ちゃん向け」をある程度見分けられたのです。

01マザリーズは英語で何という?

赤ちゃんに向けた大人の話し方は、研究の世界では infant-directed speech(乳児に向けた話し方)と呼ばれます。くだけた言い方では baby talk、よく知られた呼び名では motherese(マザリーズ)。2022年の論文では、parentese(parent=親)という呼び名も紹介されています。

なお、この記事で扱うのは「ワンワン」のような赤ちゃん向けの単語ではなく、声の高さや抑揚といった「話し方」のほうです。

0221の社会、410人の声を録音した

また、話し声と歌では、変え方が逆向きでした。赤ちゃん向けの話し声は「にぎやかで、メリハリが強い」。赤ちゃん向けの歌は「おだやかで、落ち着かせる」方向でした。研究チームは、話し声はぐずる赤ちゃんの注意を引き、歌は気持ちをしずめるのに向いているのでは、と考えています。

21の社会で、赤ちゃん向けの話し声は大人向けより高く、抑揚が大きかった(Hilton ら 2022)
21の社会で、赤ちゃん向けの話し声は大人向けより高く、抑揚が大きかった(Hilton ら 2022)

03187か国の5万人が「赤ちゃん向け」を当てた

次にチームは、この録音をインターネットで公開し、聞き当てクイズにしました。参加したのは187か国の51,065人。話せる言語は合わせて199にのぼりました。

1つの録音を聞いて、「赤ちゃんに向けた声か、大人に向けた声か」を答えます。すると全体として、話し声でも歌でも、当てずっぽうで答えるより高い確率で正しく当てられました。聞き手の言葉と録音の言葉が、同じ語族ですらない、まったく関係のない組み合わせでも、偶然より上でした。英語の録音を除いて分析し直しても、結果は同じでした。

ただし、話し声のほうが歌より当てやすく、聞き手の言葉と録音の言葉が同じだったり近かったりするほど、正解しやすくなりました。

04もっと前から分かっていた「メロディーが意味を運ぶ」

じつは、赤ちゃん向けの話し方が「意味を運ぶ」ことは、以前から研究されていました。

1989年、アメリカ・スタンフォード大学のファーナルドさんは、1歳の赤ちゃんを持つ母親5人の声を録音しました。場面は「注意を引く」「ほめる」「だめと言う」「なぐさめる」「遊び(大人相手では電話のおしゃべり)」の5つ。言葉の中身が聞き取れないよう電子的に加工してから、大人80人(子育て経験のある親40人と、赤ちゃんに慣れていない学生40人)に聞かせ、どの場面かを5択で答えてもらいました。

すると、大人に向けた話し方より、赤ちゃん向けの話し方のほうが、声の調子だけで場面を正しく当てやすかったのです。論文の題は、まさに「メロディーがメッセージなのか?(Is the melody the message?)」でした。

2007年には、さらに遠い場所でも確かめられました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブライアントさんとバレットさんは、英語を話す母親が「だめ」「いいね」「よしよし」「こっち見て」の4種類の言い方をした録音を、エクアドルの先住民シュアールの人たちに聞かせました。英語を話さない人たちです。それでも彼らは、赤ちゃん向けか大人向けかを見分け、4種類の意図も聞き分けました。4種類の意図は、大人向けより赤ちゃん向けの話し方のほうが当てやすかったのです。論文を載せた学会(APS)の紹介記事によると、赤ちゃん向けか大人向けかの正解率は73%でした。

05どんでん返し:声を高くしない社会もあった

では、「赤ちゃんには高い声で話す」は人類共通のルールなのでしょうか。そう言い切ることはできません。

1984年、研究者のラトナーさんとパイさんは、マヤ系の言語のひとつ、キチェ語を話す母親3人が赤ちゃんに話しかける声を調べました。すると、赤ちゃん向けでも声を高くしない、あるいは大人と話すときより少し低くすることさえありました。比べたアメリカの母親たちは、同じくらいの年の赤ちゃんに向けて声を35〜70ヘルツ高くしていました。研究者たちは、声を高くするかどうかは社会や言葉の習慣で決まる部分があり、その役割も言語によってちがうのかもしれない、と考えています。

2022年の研究自身も、限界をはっきり書いています。

  • 21の社会は、人類全体を代表するように選んだものではない
  • 聞き当てクイズは英語のウェブサイトで行われ、説明も英語だった
  • 録音は「ぐずる赤ちゃんに向けて」とお願いして出してもらった声で、ふだんの自然な声とは違うかもしれない
  • 当てやすさは、どの社会の録音かによって大きく違った。ニュージーランドのウェリントンの録音はとても当てやすかった一方、バヌアツのタンナ島の人たちの録音は、当てずっぽうをわずかに上回る程度だった

「どこでも同じ」ではなく、「共通の型があり、その上に文化ごとのちがいが乗っている」というのが、研究チームのまとめです。

06まとめ

赤ちゃんに話しかけるとき、大人は世界のあちこちで、よく似た方向に声を変えていました。声を高くし、抑揚を大きくし、母音をはっきりさせる。歌うときは、静かにやわらかく。そして、その変化は言葉の意味が分からない人にも、ある程度伝わるものでした。

ただし、声を高くしない社会の報告もあり、「どの文化でも必ず」とまでは言えません。英語の parentese も日本語の「はーい、どうしたのー?」も、人類に共通する型と、それぞれの文化の味つけが合わさってできているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1989, the psychologist Anne Fernald recorded five mothers talking to their one-year-old babies and to… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1989, the psychologist Anne Fernald recorded five mothers talking to their one-year-old babies and to adults. She used an electronic filter to remove the words, so only the melody of each voice was left. When 80 adults listened, they could guess the purpose of the speech, such as praising or saying "no," more easily when it was meant for a baby. In 2007, two researchers in California played recordings of English-speaking mothers to Shuar people in Ecuador, who do not speak English.

Even so, the Shuar listeners could usually tell whether a mother was talking to a baby or to an adult. They could also hear whether a mother was saying "no," praising, comforting, or trying to get attention, and baby talk made this easier.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1989年、心理学者のアン・ファーナルドは、5人の母親が1歳の赤ちゃんと大人に話しかける声を録音した。彼女は電子フィルターで言葉を取り除き、それぞれの声のメロディーだけが残るようにした。大人80人が聞くと、ほめているのか「だめ」と言っているのかといった話の目的を、赤ちゃん向けの声のほうがより簡単に当てられた。2007年、カリフォルニアの研究者2人が、英語を話す母親たちの録音を、英語を話さないエクアドルのシュアールの人たちに聞かせた。

それでもシュアールの聞き手は、母親が赤ちゃんに話しているのか大人に話しているのかを、たいてい見分けることができた。母親が「だめ」と言っているのか、ほめているのか、なぐさめているのか、注意を引こうとしているのかも聞き分けることができ、赤ちゃん向けの話し方のほうがそれが簡単だった。

4択リーディングクイズ

Q1. Why did Fernald remove the words from the recordings?

Q2. What could the Shuar listeners do?

Q3. What does the 2007 study suggest?

重要単語

  • infantB2
    名詞乳児、赤ちゃんThe infant smiled at her mother. 論文では baby より infant が多い。infant-directed speech「乳児に向けた話し方」。
  • pitchB1
    名詞(声や音の)高さHer voice went up in pitch when she saw the baby. high-pitched「かん高い」。野球の「投球」も同じつづり。
  • lullabyB2
    名詞子守歌My grandmother sang a lullaby to help me sleep. lull(なだめる、寝かしつける)から。赤ちゃん向けの歌の代表。
  • intentionB1
    名詞意図、つもりI had no intention of hurting you. 動詞 intend。have no intention of ~ing「~するつもりはまったくない」。
  • recognizeB1
    動詞それと分かる、見分けるI didn't recognize his voice on the phone. 名詞は recognition。イギリス式つづりは recognise。
  • universalB2
    形容詞世界共通の、普遍的なIs this rule universal, or does it only work in Japan? universe(宇宙、全体)の形容詞形。universal claim は「どこでも当てはまるという主張」。
  • by chanceB1
    熟語偶然にIf you guess, you will be right about half the time by chance. better than chance は「偶然(あてずっぽう)より高い成績で」。研究の英文でよく出る。

動画でもっと知る

赤ちゃんに話しかける声は、世界の21の社会でよく似ていた。ハーバード大などの研究で187か国の5万人が録音を聞くと、知らない言葉でも「赤ちゃん向けかどうか」を当てずっぽうより高い確率で当てた。ただ、声を高くしない社会の報告もある。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Hilton, C. B., Moser, C. J., Bertolo, M., ... Mehr, S. A. (2022) Acoustic regularities in infant-directed speech and song across cultures, Nature Human Behaviour 6(11)doi.org
  2. Bryant, G. A., & Barrett, H. C. (2007) Recognizing Intentions in Infant-Directed Speech, Psychological Science 18(8)doi.org
  3. Fernald, A. (1989) Intonation and Communicative Intent in Mothers' Speech to Infants: Is the Melody the Message?, Child Development 60(6)doi.org
  4. Ratner, N. B., & Pye, C. (1984) Higher pitch in BT is not universal: acoustic evidence from Quiche Mayan, Journal of Child Language 11(3)doi.org

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