「赤ちゃんへの話し方」は世界でよく似ていた。187か国の5万人が、知らない言葉でもある程度聞き分けた

読む前に予想してみよう!
赤ちゃんに話しかけるとき声を高くするのは、どの文化でも必ず見られる
21の社会では高い声が共通の特徴だったが、1984年の研究では、マヤ系のキチェ語を話す母親3人は赤ちゃん向けに声を高くせず、少し低くすることさえあった。
- 対象
- 21の社会の大人/世界の聞き手
- 規模
- 録音1,615件(410人)・聞き手51,065人(187か国)
- 研究の種類
- 録音の音響分析+オンラインの聞き取り実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
赤ちゃんへの話し声は21の社会でよく似た特徴を持っていた。録音を聞いた187か国の5万人も、知らない言葉の録音で「赤ちゃん向けかどうか」を、当てずっぽうより高い確率で当てた。
ひとことで言うと赤ちゃんに話しかける声は、どこの国でもちょっと似ているんだって!
もくじ
「はーい、どうしたのー? おなかすいたのかなー?」
赤ちゃんを前にすると、ふだんより声が高くなり、抑揚が大きくなる。そんな大人の話し方を、耳にしたことがあるはずです。
「マザリーズ」とも呼ばれるこの話し方は、日本だけのものではありませんでした。2022年、ハーバード大学などの国際チームが、アフリカの狩猟採集民の小さな集団から北京やトロントのような大都市まで、21の社会で録音した声を分析すると、赤ちゃん向けの話し方にはよく似た特徴があったと報告しました。しかも、録音を聞いた187か国の5万人以上が、知らない言葉でも「これは赤ちゃん向け」をある程度見分けられたのです。
01マザリーズは英語で何という?
赤ちゃんに向けた大人の話し方は、研究の世界では infant-directed speech(乳児に向けた話し方)と呼ばれます。くだけた言い方では baby talk、よく知られた呼び名では motherese(マザリーズ)。2022年の論文では、parentese(parent=親)という呼び名も紹介されています。
なお、この記事で扱うのは「ワンワン」のような赤ちゃん向けの単語ではなく、声の高さや抑揚といった「話し方」のほうです。
0221の社会、410人の声を録音した
また、話し声と歌では、変え方が逆向きでした。赤ちゃん向けの話し声は「にぎやかで、メリハリが強い」。赤ちゃん向けの歌は「おだやかで、落ち着かせる」方向でした。研究チームは、話し声はぐずる赤ちゃんの注意を引き、歌は気持ちをしずめるのに向いているのでは、と考えています。

03187か国の5万人が「赤ちゃん向け」を当てた
次にチームは、この録音をインターネットで公開し、聞き当てクイズにしました。参加したのは187か国の51,065人。話せる言語は合わせて199にのぼりました。
1つの録音を聞いて、「赤ちゃんに向けた声か、大人に向けた声か」を答えます。すると全体として、話し声でも歌でも、当てずっぽうで答えるより高い確率で正しく当てられました。聞き手の言葉と録音の言葉が、同じ語族ですらない、まったく関係のない組み合わせでも、偶然より上でした。英語の録音を除いて分析し直しても、結果は同じでした。
ただし、話し声のほうが歌より当てやすく、聞き手の言葉と録音の言葉が同じだったり近かったりするほど、正解しやすくなりました。
04もっと前から分かっていた「メロディーが意味を運ぶ」
じつは、赤ちゃん向けの話し方が「意味を運ぶ」ことは、以前から研究されていました。
1989年、アメリカ・スタンフォード大学のファーナルドさんは、1歳の赤ちゃんを持つ母親5人の声を録音しました。場面は「注意を引く」「ほめる」「だめと言う」「なぐさめる」「遊び(大人相手では電話のおしゃべり)」の5つ。言葉の中身が聞き取れないよう電子的に加工してから、大人80人(子育て経験のある親40人と、赤ちゃんに慣れていない学生40人)に聞かせ、どの場面かを5択で答えてもらいました。
すると、大人に向けた話し方より、赤ちゃん向けの話し方のほうが、声の調子だけで場面を正しく当てやすかったのです。論文の題は、まさに「メロディーがメッセージなのか?(Is the melody the message?)」でした。
2007年には、さらに遠い場所でも確かめられました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブライアントさんとバレットさんは、英語を話す母親が「だめ」「いいね」「よしよし」「こっち見て」の4種類の言い方をした録音を、エクアドルの先住民シュアールの人たちに聞かせました。英語を話さない人たちです。それでも彼らは、赤ちゃん向けか大人向けかを見分け、4種類の意図も聞き分けました。4種類の意図は、大人向けより赤ちゃん向けの話し方のほうが当てやすかったのです。論文を載せた学会(APS)の紹介記事によると、赤ちゃん向けか大人向けかの正解率は73%でした。
05どんでん返し:声を高くしない社会もあった
では、「赤ちゃんには高い声で話す」は人類共通のルールなのでしょうか。そう言い切ることはできません。
1984年、研究者のラトナーさんとパイさんは、マヤ系の言語のひとつ、キチェ語を話す母親3人が赤ちゃんに話しかける声を調べました。すると、赤ちゃん向けでも声を高くしない、あるいは大人と話すときより少し低くすることさえありました。比べたアメリカの母親たちは、同じくらいの年の赤ちゃんに向けて声を35〜70ヘルツ高くしていました。研究者たちは、声を高くするかどうかは社会や言葉の習慣で決まる部分があり、その役割も言語によってちがうのかもしれない、と考えています。
2022年の研究自身も、限界をはっきり書いています。
- 21の社会は、人類全体を代表するように選んだものではない
- 聞き当てクイズは英語のウェブサイトで行われ、説明も英語だった
- 録音は「ぐずる赤ちゃんに向けて」とお願いして出してもらった声で、ふだんの自然な声とは違うかもしれない
- 当てやすさは、どの社会の録音かによって大きく違った。ニュージーランドのウェリントンの録音はとても当てやすかった一方、バヌアツのタンナ島の人たちの録音は、当てずっぽうをわずかに上回る程度だった
「どこでも同じ」ではなく、「共通の型があり、その上に文化ごとのちがいが乗っている」というのが、研究チームのまとめです。
06まとめ
赤ちゃんに話しかけるとき、大人は世界のあちこちで、よく似た方向に声を変えていました。声を高くし、抑揚を大きくし、母音をはっきりさせる。歌うときは、静かにやわらかく。そして、その変化は言葉の意味が分からない人にも、ある程度伝わるものでした。
ただし、声を高くしない社会の報告もあり、「どの文化でも必ず」とまでは言えません。英語の parentese も日本語の「はーい、どうしたのー?」も、人類に共通する型と、それぞれの文化の味つけが合わさってできているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1989, the psychologist Anne Fernald recorded five mothers talking to their one-year-old babies and to…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When people talk to a baby, their voices often change. They speak higher, and their voices go up and down more. Scientists recorded 410 people in 21 places around the world. Some lived in big cities, and some lived in small villages.
In most places, people talked to babies in a similar way. Then more than 51,000 people listened to the recordings online. As a group, they could often tell which voices were for babies.
75 words ・ CEFR A2
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人は赤ちゃんに話しかけるとき、声が変わることがよくあります。声が高くなり、上がり下がりが大きくなります。科学者たちは、世界の21の場所で410人の声を録音しました。大都市に住む人もいれば、小さな村に住む人もいました。
ほとんどの場所で、人々は赤ちゃんに似たような話し方をしていました。その後、5万1000人以上がインターネットで録音を聞きました。全体として、彼らはどの声が赤ちゃん向けかを見分けられることが多かったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
世界のいろいろな場所で、赤ちゃんへの話し方が似ていたという話なので B。
Q2. How many people were recorded?
Scientists recorded 410 people in 21 places とあるので B。51,000 人以上は録音を聞いた人の数。
Q3. In the passage, "tell" in "tell which voices were for babies" means ...
tell which ~ は「どれが~か見分ける」という意味なので B。
In 1989, the psychologist Anne Fernald recorded five mothers talking to their one-year-old babies and to adults. She used an electronic filter to remove the words, so only the melody of each voice was left. When 80 adults listened, they could guess the purpose of the speech, such as praising or saying "no," more easily when it was meant for a baby. In 2007, two researchers in California played recordings of English-speaking mothers to Shuar people in Ecuador, who do not speak English.
Even so, the Shuar listeners could usually tell whether a mother was talking to a baby or to an adult. They could also hear whether a mother was saying "no," praising, comforting, or trying to get attention, and baby talk made this easier.
126 words ・ CEFR B1
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1989年、心理学者のアン・ファーナルドは、5人の母親が1歳の赤ちゃんと大人に話しかける声を録音した。彼女は電子フィルターで言葉を取り除き、それぞれの声のメロディーだけが残るようにした。大人80人が聞くと、ほめているのか「だめ」と言っているのかといった話の目的を、赤ちゃん向けの声のほうがより簡単に当てられた。2007年、カリフォルニアの研究者2人が、英語を話す母親たちの録音を、英語を話さないエクアドルのシュアールの人たちに聞かせた。
それでもシュアールの聞き手は、母親が赤ちゃんに話しているのか大人に話しているのかを、たいてい見分けることができた。母親が「だめ」と言っているのか、ほめているのか、なぐさめているのか、注意を引こうとしているのかも聞き分けることができ、赤ちゃん向けの話し方のほうがそれが簡単だった。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did Fernald remove the words from the recordings?
so only the melody of each voice was left とあるので B。
Q2. What could the Shuar listeners do?
the Shuar listeners could usually tell whether a mother was talking to a baby or to an adult とあるので B。A は who do not speak English と合わない。
Q3. What does the 2007 study suggest?
英語を話さないシュアールの人たちが、声の調子から意図を聞き分けたので B。D は最後の baby talk made this easier と逆。
A 2022 study by a large team based at Harvard asked whether baby talk sounds alike across cultures. The team recorded 410 people in 21 societies, from hunter-gatherer groups in Africa to cities such as Beijing and Toronto. Each person was asked to speak and sing both to a baby and to an adult.
A computer that looked only at acoustic features could tell baby-directed speech from adult-directed speech better than chance in every society. In most societies, speech for babies was higher, swung more widely in pitch, and had clearer vowels. Songs for babies went the other way and became quieter and smoother.
Next, more than 51,000 people in 187 countries played an online game, guessing whether each clip was meant for a baby. They did better than chance, even when the language had no relation to their own. The game was run on an English-language website, though, and the voices were recorded on request. There are also exceptions. In a 1984 study, three mothers who spoke Quiche, a Mayan language, did not raise their pitch for babies and sometimes lowered it. The American mothers in that study raised theirs by 35 to 70 hertz.
196 words ・ CEFR B2
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ハーバード大学を中心とする大きなチームによる2022年の研究は、赤ちゃんへの話し方が文化を越えて似ているかを調べた。チームは、アフリカの狩猟採集民の集団から北京やトロントのような都市まで、21の社会で410人の声を録音した。それぞれの人は、赤ちゃんと大人の両方に向けて話し、歌うよう頼まれた。
音の特徴だけを見るコンピューターは、どの社会でも、赤ちゃん向けの話し声と大人向けの話し声を偶然より高い精度で見分けることができた。ほとんどの社会で、赤ちゃん向けの話し声は、より高く、高さの上がり下がりが大きく、母音がはっきりしていた。赤ちゃん向けの歌は逆の方向で、より静かで、なめらかになった。
次に、187か国の5万1000人以上が、それぞれの録音が赤ちゃん向けかどうかを当てるオンラインのゲームをした。彼らは、その言語が自分の言語とまったく関係がなくても、偶然より高い成績を出した。ただし、ゲームは英語のウェブサイトで行われ、声は頼まれて出したものだった。例外もある。1984年の研究では、マヤ系の言語であるキチェ語を話す母親3人は、赤ちゃんに向けて声を高くせず、低くすることさえあった。同じ研究のアメリカの母親たちは、声を35〜70ヘルツ高くしていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
21の社会で共通の特徴があったが、キチェ語の母親のような例外もある、という内容なので B。A は exceptions と合わない。
Q2. How were songs for babies different from songs for adults?
Songs for babies went the other way and became quieter and smoother. とあるので C。
Q3. Why does the writer mention the English-language website?
though を使い、ゲームが英語のサイトで行われた点を、結果をそのまま一般化できない理由として挙げているので B。
重要単語
- infantB2名詞乳児、赤ちゃんThe infant smiled at her mother.
論文では baby より infant が多い。infant-directed speech「乳児に向けた話し方」。 - pitchB1名詞(声や音の)高さHer voice went up in pitch when she saw the baby.
high-pitched「かん高い」。野球の「投球」も同じつづり。 - lullabyB2名詞子守歌My grandmother sang a lullaby to help me sleep.
lull(なだめる、寝かしつける)から。赤ちゃん向けの歌の代表。 - intentionB1名詞意図、つもりI had no intention of hurting you.
動詞 intend。have no intention of ~ing「~するつもりはまったくない」。 - recognizeB1動詞それと分かる、見分けるI didn't recognize his voice on the phone.
名詞は recognition。イギリス式つづりは recognise。 - universalB2形容詞世界共通の、普遍的なIs this rule universal, or does it only work in Japan?
universe(宇宙、全体)の形容詞形。universal claim は「どこでも当てはまるという主張」。 - by chanceB1熟語偶然にIf you guess, you will be right about half the time by chance.
better than chance は「偶然(あてずっぽう)より高い成績で」。研究の英文でよく出る。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
公式・一次情報をチェック
- Baby Talk Is Universal(Association for Psychological Science、Bryant & Barrett 2007 の紹介)psychologicalscience.org
- 論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
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赤ちゃんに話しかける声は、世界の21の社会でよく似ていた。ハーバード大などの研究で187か国の5万人が録音を聞くと、知らない言葉でも「赤ちゃん向けかどうか」を当てずっぽうより高い確率で当てた。ただ、声を高くしない社会の報告もある。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Hilton, C. B., Moser, C. J., Bertolo, M., ... Mehr, S. A. (2022) Acoustic regularities in infant-directed speech and song across cultures, Nature Human Behaviour 6(11)doi.org
- Bryant, G. A., & Barrett, H. C. (2007) Recognizing Intentions in Infant-Directed Speech, Psychological Science 18(8)doi.org
- Fernald, A. (1989) Intonation and Communicative Intent in Mothers' Speech to Infants: Is the Melody the Message?, Child Development 60(6)doi.org
- Ratner, N. B., & Pye, C. (1984) Higher pitch in BT is not universal: acoustic evidence from Quiche Mayan, Journal of Child Language 11(3)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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