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「バ」の声に「ガ」の口の映像で「ダ」と聞こえる錯覚。「日本人は効きにくい」説が揺らぐ

「バ」の声に「ガ」の口の映像で「ダ」と聞こえる錯覚。「日本人は効きにくい」説が揺らぐ

読む前に予想してみよう!

マガーク効果は、同じ国の人なら、だいたい同じくらいの強さで起きる

研究カード(どんな研究?)
対象
英語・中国語・日本語・フィンランド語の話者
規模
日本語話者80人(2024年)、米中307人(2015年発表・2025年再掲載)、米国165人(2015年)など
研究の種類
声と口の映像を食い違わせた知覚実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「バ」の声に「ガ」と言う口の映像を重ねると「ダ」と聞こえる。マガーク効果と呼ばれるこの錯覚は、日本語話者には起きにくいと言われてきた。ところが最近の大人数の実験では、同じ言語の話者どうしでも効き方が0%から9割以上まで分かれ、言語による差より人による差のほうがずっと大きかった。

ひとことで言うと目で見た口の動きで、聞こえる音が変わる。効き方は国より「人」で大きく違うらしい!

もくじ
  1. 「録画の失敗だ」と思った1970年代の発見
  2. なぜ「ダ」になるのか
  3. 「日本語話者には効きにくい」説
  4. どんでん返し:大人数で調べると、言語の差より「人による差」
  5. マガーク効果で「目で聞く力」は測れるのか
  6. もっと知りたい人へ
  7. まとめ
  8. よくある質問

「バ、バ、バ」という声に、「ガ、ガ、ガ」と言っている口の映像を重ねます。すると多くの人には、「ダ、ダ、ダ」と聞こえます。

目を閉じると「バ」に戻ります。目を開けると、また「ダ」。音は1つも変わっていません。変わったのは、目に入った口の動きだけです。

この錯覚はマガーク効果と呼ばれます。そして長いあいだ、「日本語を話す人には起きにくい」と言われてきました。ところが最近、大人数を調べた研究が次々に出て、話が変わってきています。

01「録画の失敗だ」と思った1970年代の発見

発見したのは、イギリスのサリー大学の心理学者ハリー・マガークと、共同研究者のジョン・マクドナルドです。マクドナルドは2018年、発見のいきさつを論文にまとめています。

この発見には、のちに大げさな話もついて回りました。「誰かがクビにされかけた」と語られることがありますが、マクドナルドによると、誰もクビだと脅されてはいないそうです。

マクドナルドは2018年の回想で、1976年の最初の論文では、錯覚が起きた割合は大人の98%から子どもの50%ほどまで幅があり、声と口の組み合わせによっても違った、と振り返っています。錯覚だと教えられたあとも、起きる人には起き続けました。ただ、このときのテープは、その後の2人の職場の移動や映像方式の変化の中でなくなってしまったらしいといいます。

目を閉じると「バ」、目を開けると「ダ」。音ではなく、見え方が変わっていた
目を閉じると「バ」、目を開けると「ダ」。音ではなく、見え方が変わっていた

02なぜ「ダ」になるのか

「バ」を言うときは、上下のくちびるがいったん閉じます。ところが映像の「ガ」の口は、くちびるが閉じません。そして口の動きだけを見ると、「ガ」と「ダ」はとても見分けにくい音です。

2023年のフィンランドと日本の共同研究は、「パ」の声に「カ」の口を重ねる、同じしくみの錯覚を調べました。「カ」の口の映像だけを見せると、まちがった答えでいちばん多いのは、どの話し手の映像でも「タ」でした。そして「カ」の口が「タ」と読みとられることが多いほど、錯覚で「タ」と聞こえることも多かったのです。目で「タ」に見えやすい口ほど、「タ」が聞こえやすい。目で読みとった音が、聞こえ方そのものに混ざっていると考えられます。

耳からの情報があやふやになるほど、目の情報が強く効くことも分かっています。雑音を混ぜると錯覚は強くなります。人工内耳(耳の奥に入れて、音を電気の信号にして聞こえの神経に伝える装置)を使っている人では錯覚が強めに出ることや、18〜75歳を調べると年齢が上がるほど錯覚が強くなることも報告されています(2025年の論文は、年をとると聞こえが落ちることと結びつけて説明しています)。

03「日本語話者には効きにくい」説

1991年、積山薫さんと東倉洋一さんは、日本語話者10人に日本語の音節で実験しました。雑音のない条件では、錯覚は小さく、もともと聞き取りにくい音にほぼ限られていました。雑音を加えると強く出ました(くわしくは本館の記事英語は「口元を見る」と聞き取れる?へ)。

その後、積山さんは子どもでも調べています。

つまり、違いは生まれつきではなく、ことばの経験の中で、6歳から8歳ごろにかけて開いていくのではないか、という見方です。

04どんでん返し:大人数で調べると、言語の差より「人による差」

ところが、マガーク効果を大人数で調べる研究が増えると、別の姿が見えてきました。

まず、米国のバス・マリックらは2015年、英語を話す大人165人に12種類の動画を見せました。錯覚が起きた割合は、人によって0%から100%まで。動画1本ごとに見ると、77%の人が「ほとんど起きない(1割以下)」か「ほとんど毎回起きる(9割以上)」のどちらかでした。40人を1年後に調べ直すと、一人ひとりの起きやすさはほぼ同じでした。起きやすさは、その人の安定した性質だったのです。動画によっても、17%しか起きないものから58%起きるものまでありました。

同じグループは日本語話者も調べています。

マグノッティらのグループは、中国と米国の307人を同じ9種類の動画で比べた結果も出しています。錯覚が起きた割合は、中国語話者48%、英語話者44%。ほぼ同じです。起きやすさのばらつきのうち、国や言語の違いで説明できたのはわずか0.2%でした。この研究は2015年に別の雑誌で発表されましたが、動画の静止画を載せていたため、写っている人のプライバシーを守る目的で2024年に取り下げられました。データとは関係のない理由だったため、2025年に画像を除いて、新しい題名で出し直されています。

この2025年の論文は、こう書いています。日本語話者で「ほとんど起きない」と報告した研究は人数が少なく、より大きな2つの研究(2023年のフィンランドと日本の共同研究、2024年の上の研究)がこの主張を否定した、と。ただし、2024年の研究は同じグループ自身のものです。論文は、1グループ15人ほどの実験では、10%ほどの差を見つけられる見込みは18%しかない、という計算も紹介しています。少ない人数で「差が出た」研究は、差を大きく見積もりがちなのです。

それでも、話はこれで終わりではありません。2024年の研究は、日本語話者と英語話者を同じ条件で並べて比べたものではありません。しかもこの研究でも、元祖の「バ+ガ」の動画に限ると、錯覚が起きた割合は平均12%でした。これが日本語話者の特徴なのか、動画の違いによるものなのかは、この研究だけでは決められません。積山さんたちが見つけた、反応の速さや年齢による伸び方の違いが、すべて否定されたわけでもありません。はっきり言えるのは、「日本人だから効かない」とはとても言えない、ということです。

05マガーク効果で「目で聞く力」は測れるのか

もう1つ、根本的な疑問も出ています。

米国のヴァン・エンゲンらは2022年の論文で、マガーク効果はふだんの会話で目をどれだけ使っているかを測るのに向いていないと主張しました。理由は3つです。

  • 実験で使うのは「バ」「ガ」のような1音節だけ。会話ではまず出てこない
  • 声と口が食い違うことは、ふつうの会話では起きない
  • 最近のデータでは、マガーク効果の起きやすさと、ふつうの映像つきの話をどれだけ聞き取れるかとのあいだに、関係が見られない

つまり、マガーク効果が起きにくい人でも、会話では口元をちゃんと役立てているかもしれません。マガーク効果は、とても面白い錯覚です。でも、それだけで「目で聞く力」のすべては分からないのです。

06もっと知りたい人へ

  • マガーク効果(McGurk effect)、視聴覚音声知覚(audiovisual speech perception)、多感覚統合(multisensory integration)、融合反応(fusion response)、個人差(individual differences)
  • Harry McGurk & John MacDonald (1976) "Hearing lips and seeing voices." Nature 264: 746–748.
  • Kaoru Sekiyama & Yoh'ichi Tohkura (1991) "McGurk effect in non-English listeners: Few visual effects for Japanese subjects hearing Japanese syllables of high auditory intelligibility." Journal of the Acoustical Society of America 90(4): 1797–1805.
  • Agnès Alsius, Martin Paré & Kevin G. Munhall (2018) "Forty Years After Hearing Lips and Seeing Voices: the McGurk Effect Revisited." Multisensory Research 31(1-2): 111–144.
  • Satoko Hisanaga, Kaoru Sekiyama, Tomohiko Igasaki & Nobuki Murayama (2016) "Language/Culture Modulates Brain and Gaze Processes in Audiovisual Speech Perception." Scientific Reports 6: 35265.

07まとめ

マガーク効果は、人が耳だけでなく目でも音を聞いていることを、1本の動画で見せてくれる錯覚です。始まりは、録画の失敗を疑った2人の研究者でした。

「日本人には効きにくい」という説の出発点は、10人を調べた実験でした。大人数で調べ直すと、国や言語の差より、一人ひとりの差のほうがずっと大きかったのです。動画を見て「ダ」に聞こえなくても、おかしなことではありません。

よくある質問

マガーク効果とは何ですか?

口の動きを見ることで、聞こえる音が変わる錯覚です。「バ」の声に「ガ」と言う口の映像を重ねると、多くの人には「ダ」と聞こえます。目を閉じると「バ」に戻ります。音は変わらず、変わったのは目に入った口の動きだけです。

なぜ「バ」と「ガ」で「ダ」に聞こえるのですか?

「バ」はくちびるが閉じるのに、映像の「ガ」の口は閉じないからです。口の動きだけだと「ガ」と「ダ」はとても見分けにくい音です。目で読みとった音が、聞こえ方に混ざっていると考えられています。

日本人はマガーク効果が起きにくいのですか?

「日本人だから効かない」とは言えません。日本語話者80人の2024年の実験では、錯覚が起きた割合は人によって0%から91%まで分かれました。ただし元祖の「バ+ガ」の動画では平均12%と低く、言語の特徴か動画の違いかはまだ決められません。

マガーク効果は誰が発見しましたか?

イギリスのサリー大学の心理学者ハリー・マガークと、共同研究者のジョン・マクドナルドです。赤ちゃんの研究用に作ったテープの音がちがって聞こえ、マクドナルドが録音か編集の失敗だと思ってあわてたのがきっかけでした。論文は1976年に『ネイチャー』に載りました。

動画を見ても「ダ」に聞こえないのはおかしいですか?

いいえ、おかしくありません。英語を話す大人165人の実験でも、錯覚が起きた割合は人によって0%から100%まででした。40人を1年後に調べ直しても一人ひとりの起きやすさはほぼ同じで、その人の安定した性質だと分かっています。

マガーク効果が強く出るのはどんなときですか?

耳からの情報があやふやなときです。雑音を混ぜると錯覚は強くなります。人工内耳を使っている人で強めに出ることや、18〜75歳を調べると年齢が上がるほど強くなることも報告されています。

マガーク効果は英語で何と言いますか?

the McGurk effect です。声と口の映像が混ざって、どちらでもない第3の音(「ダ」など)が聞こえることを fusion(融合)と呼びます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the mid-1970s, two psychologists in England, Harry McGurk and John MacDonald, were planning a study with… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the mid-1970s, two psychologists in England, Harry McGurk and John MacDonald, were planning a study with babies. They asked a woman to say syllables like "ba" and "ga" on video and had the sound swapped onto the wrong mouth movements. When MacDonald watched the finished tapes, some of the sounds seemed wrong, and he thought the recording had been ruined.

McGurk listened with his eyes closed, then open. Nothing was wrong with the sound. They were simply hearing something different whenever they watched the face. Their short paper came out in the journal Nature in December 1976. MacDonald later recalled that in that first study, about 98 percent of the adults' answers showed the illusion, compared with about half of the children's.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1970年代半ば、イギリスの2人の心理学者ハリー・マガークとジョン・マクドナルドは、赤ちゃんを対象にした研究を計画していた。彼らは女性に「バ」や「ガ」のような音節を言ってもらって録画し、その音を食い違った口の動きに入れ替えてもらった。完成したテープを見たマクドナルドは、いくつかの音がおかしく聞こえたので、録画が台なしになったと思った。

マガークは目を閉じて聞き、それから目を開けて聞いた。音には何の問題もなかった。顔を見ているときにだけ、ちがう音が聞こえていたのだ。彼らの短い論文は1976年12月に科学誌『ネイチャー』に載った。マクドナルドの後の回想によると、その最初の研究では、大人の答えの約98%に錯覚が現れたのに対し、子どもの答えでは約半分だった。

4択リーディングクイズ

Q1. What were McGurk and MacDonald originally planning to study?

Q2. Why did MacDonald first think there was a problem?

Q3. Why did McGurk listen with his eyes closed and then open?

重要単語

  • illusionB2
    名詞錯覚The two lines look different, but it's just an illusion. optical illusion は「目の錯覚」。have no illusions about ~ で「~について幻想を持たない」。
  • lipA2
    名詞くちびるWatch my lips when I say "b." 上下2つあるので lips と複数形でよく使う。lip-read は「読唇する」。
  • perceiveC1
    動詞知覚する、(~だと)感じ取るSome people perceive the sound differently. 名詞は perception(知覚)。perceive A as B で「A を B だと受けとる」。
  • mismatchB2
    名詞食い違い、不一致There was a mismatch between the voice and the video. mis-(まちがった)+ match(組み合わせ)。動詞としても使う。
  • individualB1
    形容詞個人の、一人ひとりのIndividual students learn at different speeds. 名詞で「個人」。individual differences は「個人差」。
  • by accidentA2
    句偶然にThey found the cave by accident. 反対は on purpose(わざと)。accidentally も同じ意味。

動画でもっと知る

「バ」の声に「ガ」の口を重ねると「ダ」と聞こえる“マガーク効果”。日本人には効きにくいと言われてきたが、日本語話者80人の実験では、まったく起きない人から9割起きる人までいた。

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出典・参考文献(8件)タップで表示
  1. McGurk H., MacDonald J. (1976) Hearing lips and seeing voices, Nature 264(5588)doi.org
  2. MacDonald J. (2018) Hearing Lips and Seeing Voices: the Origins and Development of the 'McGurk Effect' and Reflections on Audio-Visual Speech Perception Over the Last 40 Years, Multisensory Research 31(1-2)doi.org
  3. Sekiyama K., Burnham D. (2008) Impact of language on development of auditory-visual speech perception, Developmental Science 11(2)doi.org
  4. Basu Mallick D., Magnotti J.F., Beauchamp M.S. (2015) Variability and stability in the McGurk effect: contributions of participants, stimuli, time, and response type, Psychonomic Bulletin & Review 22(5)doi.org
  5. Magnotti J.F., Lado A., Beauchamp M.S. (2024) The noisy encoding of disparity model predicts perception of the McGurk effect in native Japanese speakers, Frontiers in Neuroscience 18doi.org
  6. Magnotti J.F., Basu Mallick D., Feng G., Zhou B., Zhou W., Beauchamp M.S. (2025) The McGurk effect is similar in native Mandarin Chinese and American English speakers, Frontiers in Psychology 16doi.org
  7. Tiippana K., Ujiie Y., Peromaa T., Takahashi K. (2023) Investigation of Cross-Language and Stimulus-Dependent Effects on the McGurk Effect with Finnish and Japanese Speakers and Listeners, Brain Sciences 13(8)doi.org
  8. Van Engen K.J., Dey A., Sommers M.S., Peelle J.E. (2022) Audiovisual speech perception: Moving beyond McGurk, The Journal of the Acoustical Society of America 152(6)doi.org
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