手話を見て育つ赤ちゃんは、手で「ばぶばぶ」していた。声を使わない“喃語”の発見

読む前に予想してみよう!
喃語(ばぶばぶ)は口とあごが育てば自然に出るもので、まわりのことばとは関係ない
手話にふれて育つ赤ちゃんは、声ではなく手で喃語をした。耳が聞こえる赤ちゃんでも、手話だけで育つと、手に喃語らしい独特のリズムが現れた。
- 対象
- 手話または音声にふれて育つ乳児
- 規模
- 耳の聞こえる乳児6人(手話のみ3人・音声3人)を生後6・10・12か月で観察(2004年)
- 研究の種類
- 観察研究(動作の3次元計測+ビデオ分析)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
手話にふれて育つ赤ちゃんは、手で喃語(意味のないくり返し)をしていた。耳が聞こえる赤ちゃんでも、手話だけで育つと、1秒に約1回のゆっくりしたリズムで手の喃語をした。
ひとことで言うと手話の家で育つ赤ちゃんは、声のかわりに「手」でばぶばぶするんだって!
赤ちゃんが「ばぶばぶ」「ばばば」と言い始めるのは、生後7か月ごろ。この意味のないくり返しを喃語(なんご)、英語では babbling と言います。
ところが、手話を見て育つ赤ちゃんは、声ではなく「手」で喃語をしていたのです。
しかも、耳がちゃんと聞こえる赤ちゃんでも、手話だけの家で育つと、手で“ばぶばぶ”をしていました。そのリズムは1秒に約1回。どの赤ちゃんにもある手のバタバタ(1秒に約3回)より、ずっとゆっくりでした。喃語は口の運動なのか、それとも「ことば」なのか。手話の赤ちゃんが、その答えのヒントをくれました。
01喃語は「口の準備運動」? それとも「ことば」?
喃語は、ただの声とはちがいます。研究者が「喃語」と呼ぶのは、次のような声です。
- ことばに使われる音の一部だけを使う
- 「ば」「ま」のような、子音+母音の音節になっている
- 意味はない。でも「ばばば」のようにくり返す
この喃語がなぜ出るのかについては、大きく2つの考え方がありました。
1つは「口の運動説」。このころの赤ちゃんは、おすわりをしたり立ったりできるようになっていきます。同じように口やあごも上手に動かせるようになり、開けたり閉じたりをくり返す。その結果が「ばばば」だ、という考え方です。
もう1つは「ことば説」。赤ちゃんはまわりのことばのパターンに気づいていて、それをまねして出しているのが喃語だ、という考え方です。
耳の聞こえる赤ちゃんを見ているだけでは、どちらが正しいかを見分けにくい。そこで注目されたのが、手話で育つ赤ちゃんでした。
021991年、耳の聞こえない赤ちゃんの「手の喃語」
1991年、カナダのマギル大学のローラ=アン・ペティートと、共同研究者のポーラ・マレンテットは、科学誌『サイエンス』に「Babbling in the manual mode(手でする喃語)」という論文を発表しました。
調べたのは、生まれたときから手話にふれて育つ、耳の聞こえない赤ちゃんです。この赤ちゃんたちは、手で独特の動きをしていました。のちの論文(2004年)の説明によると、その動きには声の喃語と同じ特徴がありました。
- 手話に使われる手の形の、ごく一部だけを使う
- 手話の「音節」にあたるまとまりになっている
- 意味はなく、同じ動きをくり返す
- 声の喃語と同じ段階をたどって育つ
手話にも、声のことばの「子音」や「母音」にあたる、意味をもたない小さな単位があります。手を開く・閉じるといったリズムのある動きが、手話の音節の芯になります。
しかも、赤ちゃん一人ひとりのお気に入りの「手の喃語」は、その子が最初に覚えた手話の単語の形とつながっていました。英語を聞いて育つ赤ちゃんの「ばばば」が、baby のような最初の単語につながることがあるのと同じです。
ペティートらは、喃語は口だけのものではなく、声でも手でも使える「ことばの力」から出てくるものだと考えました。

03耳が聞こえるのに、声ではなく手で喃語
でも、こう反論することもできます。「耳の聞こえない赤ちゃんと聞こえる赤ちゃんでは、育つ条件がちがいすぎる」と。
そこでペティートらは、とても珍しい赤ちゃんたちを調べました。耳は聞こえるけれど、耳の聞こえない両親のもとで、手話だけにふれて育った赤ちゃんです。研究は2001年に『ネイチャー』で短く報告され、2004年に学術誌『コグニション』で詳しく発表されました。
速いリズムの手の動きは、どの赤ちゃんにもある「興奮して手をバタバタさせる」ような、ことばとは関係のない動きでした。一方、1秒に約1回のゆっくりした動きは、手話を見て育った赤ちゃんにしか出てこなかったのです。
論文には、もう1つ見逃せない記述があります。手話だけで育った3人は、耳が聞こえるのに、声の喃語がふつうの赤ちゃんのようには出てこなかったのです。著者たちの注記によると、ほかの声とくらべた喃語の割合は、研究者オラーが示した「20%」という喃語の割合に一度も届かず、1%前後だったといいます。
これは、1988年のアメリカの研究ともつながります。耳の聞こえる赤ちゃんは生後10か月までに整った音節の喃語を出すようになりましたが、耳の聞こえない赤ちゃんではそうなりませんでした。声の喃語には、音のことばを聞くことが欠かせないようです。一方、手話にふれて育つ赤ちゃんでは、手が喃語の役目をになっているように見えます。
04どんでん返し:「ただの手の運動では?」という反論
この発見には、反論もあります。
言語学者のマイヤーらは、声で育つ耳の聞こえる赤ちゃんも、手で似たようなリズムのある動きをすると報告しました。もしそうなら、手の喃語も「ことば」ではなく、どの赤ちゃんにもある手の運動にすぎないのかもしれません。
2004年の論文は、この反論をふまえたうえで書かれています。ペティートらは、マイヤーらの研究では「喃語」と判定する基準がはっきりしていなかったと指摘しました。そのうえで、ビデオを見て人が判断するだけでなく、手が1秒に何回動くか(リズム)を機械で測りました。その結果、手話で育った赤ちゃんにだけ別のリズムがある、と結論づけています。
ただし、2004年の研究で調べた赤ちゃんは各グループ3人だけです。また、声で育った赤ちゃんにも、ゆっくりめの手の動きが少しはありました。ペティートら自身も、喃語に運動の発達がある程度関わることは認めています。そのうえで「口の運動だけでは説明できない」と主張しているのです。
05まとめ
赤ちゃんの「ばぶばぶ」は、口とあごの準備運動だけではないのかもしれません。手話を見て育つ赤ちゃんは、手で同じことをしていました。
ことばは声だけのものではない。赤ちゃんは、まわりのことばが声で来れば口で、手で来れば手で、最初の一歩を踏み出すようです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMost babies begin babbling at around seven months, repeating sounds such as "ba-ba-ba." Scientists long…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Babies start to babble at around seven months. They say things like "ba-ba-ba," but the sounds have no meaning yet. Some babies grow up with deaf parents who talk in sign language. These babies babble too, but with their hands.
They make the same small hand shapes again and again in front of their chest. This hand babbling has a slow beat, about once every second. In one study, babies who heard only speech did not babble with their hands.
80 words ・ CEFR A2
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赤ちゃんは生後7か月ごろに喃語を言い始めます。「バ・バ・バ」のようなことを言いますが、その音にはまだ意味がありません。耳の聞こえない両親のもとで、手話で話しかけられて育つ赤ちゃんもいます。この赤ちゃんたちも喃語を言いますが、手で言うのです。
胸の前で、同じ小さな手の形を何度もくり返します。この手の喃語には、1秒に約1回というゆっくりしたリズムがあります。ある研究では、音声だけを聞いて育った赤ちゃんは、手で喃語をしませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
These babies babble too, but with their hands. が中心なので B。
Q2. How fast is the beat of hand babbling?
This hand babbling has a slow beat, about once every second. とあるので C。
Q3. In the passage, what does "babble" mean?
"ba-ba-ba" のような、まだ意味のない音(手話なら手の形)をくり返すことなので A。
Most babies begin babbling at around seven months, repeating sounds such as "ba-ba-ba." Scientists long assumed that babbling was mostly practice for the mouth and jaw. In 1991, researchers at McGill University in Canada reported something unexpected. Deaf babies who saw sign language from birth were babbling with their hands. They repeated a small set of hand shapes that had no meaning, much as hearing babies repeat sounds.
Later, the same team studied hearing babies whose deaf parents used only sign language. With sensors on the babies' hands, they found a slow rhythm of about one movement per second when these babies babbled. Babies raised with speech moved their hands faster, about three times per second.
116 words ・ CEFR B1
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ほとんどの赤ちゃんは生後7か月ごろに喃語を始め、「バ・バ・バ」のような音をくり返す。科学者たちは長いあいだ、喃語はおもに口とあごの練習だと考えてきた。1991年、カナダのマギル大学の研究者たちが、思いがけないことを報告した。生まれたときから手話を見て育った耳の聞こえない赤ちゃんが、手で喃語をしていたのだ。耳の聞こえる赤ちゃんが音をくり返すのと同じように、意味をもたない少数の手の形をくり返していた。
その後、同じチームは、耳の聞こえない両親が手話だけを使う家庭で育つ、耳の聞こえる赤ちゃんを調べた。赤ちゃんの手にセンサーをつけたところ、この赤ちゃんたちが喃語をするときには、1秒に約1回というゆっくりしたリズムが見つかった。音声で育った赤ちゃんは、もっと速く、1秒に約3回のペースで手を動かしていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
Deaf babies who saw sign language from birth were babbling with their hands. と、その後の研究が中心なので A。
Q2. Who did the team study after 1991?
the same team studied hearing babies whose deaf parents used only sign language とあるので B。
Q3. What does the passage suggest about babbling?
手話を見て育つ赤ちゃんは手で喃語をしたので、まわりのことばが手話なら手で喃語が起こる、と読み取れる。C。
Babbling has long been treated as a sign that a baby is gaining control of the mouth and jaw. Work led by Laura-Ann Petitto at McGill University questioned that view. In 1991, her team described deaf infants, exposed to sign language from birth, who produced "manual babbling": a limited set of hand shapes, organized into syllable-like units and repeated without meaning.
A 2004 study went further. It followed six hearing infants at about 6, 10, and 12 months of age. Three heard speech at home, and three had deaf parents and saw only sign language.
Small infrared markers on their hands let a motion tracker record each movement. Both groups made fast, excited hand movements at around two and a half to three cycles per second. Only the sign-exposed babies added a slower rhythm near one cycle per second, and about 80 percent of those slow movements were judged to be babbling.
The study has critics. Other researchers have reported rhythmic hand activity in babies who never see signing, and three infants per group is a small sample. The authors also noted something about the babies' voices. Although their hearing was normal, the sign-exposed babies rarely babbled out loud.
199 words ・ CEFR B2
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喃語は長いあいだ、赤ちゃんが口とあごを思いどおりに動かせるようになってきた証拠として扱われてきた。マギル大学のローラ=アン・ペティートが率いた研究は、その見方に疑問を投げかけた。1991年、彼女のチームは、生まれたときから手話にふれて育った耳の聞こえない乳児が「手の喃語」をすることを報告した。
限られた種類の手の形を、音節のようなまとまりにして、意味をもたせずにくり返すのである。2004年の研究はさらに踏み込んだ。耳の聞こえる乳児6人を、生後約6・10・12か月で追跡したのだ。
3人は家庭で音声を聞いて育ち、3人は耳の聞こえない両親のもとで手話だけを見て育った。手につけた小さな赤外線マーカーによって、動作計測装置が一つひとつの動きを記録した。どちらのグループも、1秒に2.5〜3回ほどの、興奮したような速い手の動きをした。手話にふれた赤ちゃんだけが、それに加えて1秒に約1回のゆっくりしたリズムを見せ、そのゆっくりした動きの約80%が喃語と判定された。
この研究には批判もある。手話を見ることのない赤ちゃんにもリズムのある手の動きがあると報告した研究者もいるし、各グループ3人というのは少ない。著者たちは、赤ちゃんの声についても書きとめている。手話にふれた赤ちゃんは、耳はふつうに聞こえていたのに、声に出す喃語はめったになかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What view does the passage say Petitto's work questioned?
Babbling has long been treated as a sign that a baby is gaining control of the mouth and jaw. の見方に疑問を投げかけた、とあるので B。
Q2. What did only the sign-exposed babies show in the 2004 study?
Only the sign-exposed babies added a slower rhythm near one cycle per second とあるので C。速い動きは両方のグループに見られた。
Q3. Which point could weaken the 2004 conclusion, according to the passage?
Other researchers have reported rhythmic hand activity in babies who never see signing, and three infants per group is a small sample. とあるので D。
重要単語
- babbleB2動詞・名詞(赤ちゃんが)喃語を言う;喃語、意味のないおしゃべりMy baby sister babbles all morning.
名詞形 babbling は「喃語(の時期)」。大人に使うと「ぺちゃくちゃしゃべる」。Oxford Learner's によると、語源は中低地ドイツ語 babbelen、または赤ちゃんの「バ」のくり返しから英語で生まれた語。 - deafB1形容詞耳が聞こえないMany deaf children grow up using sign language.
発音は「デフ」。the deaf で「耳の聞こえない人たち」。hearing(耳が聞こえる)と対で使われることが多い。 - sign languageB1名詞手話She learned sign language from her deaf parents.
手話は国ごとにちがう。American Sign Language(アメリカ手話、ASL)は独自の文法をもつ言語。 - rhythmB1名詞リズム、規則的なくり返しThe baby moved her hands to a slow rhythm.
つづりに注意(rh- で始まり、y が母音の役)。形容詞は rhythmic。 - syllableB2名詞音節"Banana" has three syllables.
ba-na-na のような発音のひとまとまり。アクセント問題で「第何音節」とよく出る。 - milestoneB2名詞(発達・歴史などの)節目、重要な段階Walking is a big milestone for a baby.
もとは道に置かれた「1マイルごとの石」。developmental milestone で「発達の節目」。 - be exposed toB2熟語~にふれる、~にさらされるChildren who are exposed to two languages often learn both.
exposure(ふれること)は名詞形。language exposure は言語習得の論文によく出る。
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公式・一次情報をチェック
- Babbling in the manual mode(PubMed)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Baby hands that move to the rhythm of language(PubMed)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- babble(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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赤ちゃんの「ばぶばぶ」(喃語)は、口とあごの運動だと考えられてきた。ところが手話を見て育つ赤ちゃんは、手で同じことをしていた。耳が聞こえる赤ちゃんでも、手話だけの家で育つと、1秒に約1回のゆっくりしたリズムで手の“喃語”をくり返した。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Petitto & Marentette (1991) Babbling in the manual mode: Evidence for the ontogeny of language, Science 251(5000)doi.org
- Petitto, Holowka, Sergio & Ostry (2001) Language rhythms in baby hand movements, Nature 413doi.org
- Petitto, Holowka, Sergio, Levy & Ostry (2004) Baby hands that move to the rhythm of language: hearing babies acquiring sign languages babble silently on the hands, Cognition 93(1)doi.org
- Oller & Eilers (1988) The role of audition in infant babbling, Child Development 59(2)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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