「ハングルの日」の日付は、1940年に見つかった1冊の本で決まった。文字の形は“口と舌の形”

読む前に予想してみよう!
ハングルの子音の基本の形は、発音するときの口や舌、のどの形をもとにしている
1446年の解説書『訓民正音』(解例本)によると、ㄱ・ㄴ・ㅁ・ㅅ・ㅇの5字は、発音するときの口や舌、歯、のどの形をかたどり、強い音はそこに線を足して作った。
- 対象
- 15世紀の文献『訓民正音』(解例本)と朝鮮王朝の記録
- 規模
- 1443年の創製・1446年の頒布
- 研究の種類
- 文献研究(国語学・文字史)
- 確かさ
- ★★★★☆
ハングルは1443年に世宗が作った文字。基本の子音の形は、発音するときの口や舌の形。10月9日の「ハングルの日」は、1940年に見つかった解説書の日付から決まった。
ひとことで言うとハングルの「ㄱ」は、舌のつけ根がのどをふさぐ形なんだって!
もくじ
10月9日は、韓国の「ハングルの日」です。
ところがこの日付、1940年ごろに古い家から見つかった1冊の本がなければ、決まっていませんでした。それまでの記念日は、10月28日だったのです。
しかもその本には、ハングルの成り立ちを説明する「設計図」が書かれていました。たとえば「ㄱ」は、舌のつけ根がのどをふさぐ形。ハングルの基本の子音は、発音するときの口や舌の形をかたどった文字だったのです。
01ハングルは「作った人と年」が分かる文字
ハングルは、作った人も、作られた年も、記録に残っている文字です。韓国民族文化大百科事典は、ハングルを「世界の歴史でも例を見つけにくい、独創的な文字」と紹介しています。
韓国の国家遺産庁の説明によると、朝鮮王朝の公式記録『世宗実録』には、1443年に世宗(セジョン)王が自ら新しい文字を作り、1446年に広く知らせたとあります。当時の名前は「訓民正音(くんみんせいおん)」。「民に教える正しい音」という意味です。
1446年には、王の命令で学者たちがこの文字の解説書も作りました。書名も同じ『訓民正音』。解説(解例)がついているので、『訓民正音 解例本』と呼ばれます。韓国民族文化大百科事典によると、書いたのは鄭麟趾(チョン・インジ)ら8人の学者です。
同じ事典は、新しい文字を作った国はほかにもあるが、このような解説書まで出した例はないと書いています。
英語では、ハングルは Hangul と書きます。アメリカの辞書『アメリカン・ヘリテージ』(AHD)には「朝鮮で使われる、音を表す文字の体系。1400年代に作られた」とあります。
02子音は「口と舌の形」、強い音は「線を足す」
では、解説書にはどんな設計図が書かれていたのでしょう。韓国民族文化大百科事典が紹介する「制字解(せいじかい)」の内容をまとめると、こうなります。
まず、基本になる子音5つを、発音するときの口や舌、のどの形から作りました。
- ㄱ(k の音):舌のつけ根が、のどをふさぐ形
- ㄴ(n の音):舌先が、上の歯ぐきにつく形
- ㅁ(m の音):口(唇)の形
- ㅅ(s の音):歯の形
- ㅇ:のどの形
次に、より強い音には線を1本ずつ足しました。たとえば ㄴ(n)→ ㄷ(t)→ ㅌ(強く息を出す t)。ㅁ(m)→ ㅂ(p)→ ㅍ(強く息を出す p)。音が強くなるほど、線が増えていくのです。
母音は、天・地・人の3つが元です。丸い点「・」が天、横線「ㅡ」が地、縦線「ㅣ」が人。これを組み合わせて ㅏ・ㅓ・ㅗ・ㅜ などを作りました。
できた文字は全部で28字(子音17字・母音11字)。今の韓国では、子音14字と母音10字の24字が基本になっています。
031940年、古い家から“設計図”が見つかった
この解説書、じつは長いあいだ行方が分かりませんでした。
韓国の国立国語院のサイトに載った解説で、忠北大学の姜昌錫(カン・チャンソク)教授は、ハングルの作り方どころか、世宗がハングルを作ったという事実さえ、長くほとんど忘れられていたと書いています。20世紀の初めまで、「ハングルもほかの文字から生まれたのだろう」と考える人が多かったそうです。
実際、ハングルの起源をめぐっては、十数種類もの説が出されていました。韓国民族文化大百科事典によると、
- インドの梵字(ぼんじ)をまねたという説
- モンゴルの文字から来たという説
- 古代の文字があったという説
- 朝鮮の家の窓の形をかたどったという説(西洋の学者エッカルト)
などです。
そこへ現れたのが、1940年ごろ、慶尚北道・安東(アンドン)の古い家で見つかった『訓民正音』解例本でした。この本は全鎣弼(チョン・ヒョンピル)の所蔵となり、今はソウルの澗松(カンソン)美術館が管理しています。
見つかったとき、本の最初の2枚は失われていました。そこはあとから筆で書き足されたもので、写すときの書き間違いまで残っているといいます。それでも残りの部分には、「正音二十八字は、それぞれその形をかたどって作った」という説明がはっきり書かれていました。
この発見で、ほかの文字から来たという説を唱える人は、ほとんどいなくなったと、事典は書いています。国家遺産庁はこの本を「国内に唯一残っている本」と説明しています。

0410月9日は、こうして決まった
発見は、記念日の日付も変えました。
国立国語院(当時は国立国語研究院)の解説と韓国民族文化大百科事典によると、最初の記念式は1926年。訓民正音を広く知らせた(頒布した)年から480年にあたる年でした。朝鮮語研究会などが開いたこの式で、記念日の名前は「カギャの日(가갸날)」に決まります。当時は「가갸거겨(カ・キャ・コ・キョ)」と唱えて文字を覚えていたからです。
そのとき手がかりにできたのは『世宗実録』の記録だけでした。そこで旧暦9月の終わりの日(29日)を頒布の日とみなし、1926年は11月4日に式を開きました。その後、旧暦を新暦に直す計算のしかたが議論され、1934年からは10月28日に式を開くようになります。
ところが、1940年7月に見つかった解説書の最後には、鄭麟趾の文の日付として「1446年9月上旬」と書かれていました。そこで朝鮮語学会は、上旬の最後の日である旧暦9月10日を頒布の日とみなし、新暦に直した10月9日を「ハングルの日」にしました。この日に記念式が開かれるようになったのは、1945年からです。
今の「ハングルの日」の日付は、1冊の古い本の最後の1行から決まったのです。
05「ハングル」という名前は20世紀から
「ハングル」という呼び名は、文字が生まれたときからあったわけではありません。
事典によると、この文字は長いあいだ「諺文(オンムン)」と呼ばれていました。「ハングル(한글)」という名前が使われ始めたのは、1913年ごろ。周時経(チュ・シギョン)を中心とする会が「ハングルモ」と名乗ったころからで、広まったのは1927年の雑誌『ハングル』からだといいます。
「ハン」は「1つの」または「大きな」という意味。AHD も、Hangul を「great(大きな)+ writing(文字)」と説明しています。
06どんでん返し:本当に「口の形だけ」で作られた?
ここまで読むと、「ハングルはゼロから、口の形だけで設計された」と思えます。でも、話はそう単純ではありません。
まず、『世宗実録』の1443年の記事には、「その字は古篆(こてん)をまねた」、つまり古い漢字の書体に似せた、という一文があります。新しい文字に反対した学者・崔萬理(チェ・マンリ)たちの文書にも、「字の形は古い篆書をまねている」とあります。韓国民族文化大百科事典によると、この言葉をどう読むかで、今も意見が分かれています。中には、モンゴル帝国(元)で作られたパスパ文字を参考にした、と結びつける見方もあります。
さらに、国立国語院の解説で姜昌錫教授は、「形をかたどる」と「線を足す」だけではすべてを説明できないと指摘しています。たとえば ㅁ・ㅂ・ㅍ の関係は、線を足すだけでは分かりにくい。ㆁ(今は使わない文字)は、本来なら別の形になるはずなのに、のどの音の ㅇ に線を足した形になっている。解説書自身も、ㄹ などについて「線は足したが、音が強くなる意味はない」と書いています。
ハングルの設計が、とてもよく考えられたものなのはまちがいありません。ただ、15世紀の学者たちがほかの文字をまったく見なかったかどうかまでは、分かっていないのです。
07まとめ
ハングルは、1443年に世宗が作り、1446年に解説書とともに世に出た文字です。子音は口や舌の形、強い音は線を足し、母音は天・地・人。その設計図が書かれた本は、1940年ごろ古い家から見つかり、ハングルの日を10月9日に決めるきっかけにもなりました。
次にハングルを見かけたら、「ㄱ」の角に、舌のつけ根を思い浮かべてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerUnlike many writing systems, Hangul has a known inventor and a clear birthday.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Hangul is the Korean alphabet. King Sejong made it in 1443. Some of its letters are pictures of the mouth and tongue. The letter ㄱ shows the back of the tongue closing the throat.
The letter ㄴ shows the tongue touching the gums behind the upper teeth. In 1446, scholars wrote a book about the new letters. That book was lost for a long time. People found it in an old house around 1940.
74 words ・ CEFR A2
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ハングルは朝鮮語の文字です。世宗王が1443年に作りました。その文字のいくつかは、口や舌の絵です。ㄱの字は、舌の奥がのどをふさいでいるところを表しています。
ㄴの字は、舌が上の歯の後ろの歯ぐきにふれているところを表しています。1446年、学者たちが新しい文字についての本を書きました。その本は長いあいだ行方が分からなくなっていました。1940年ごろ、人々は古い家でそれを見つけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ハングルをだれがいつ作り、文字の形が何を表すかを説明しているので B。
Q2. When did people find the old book?
People found it in an old house around 1940. とあるので C。1443年は文字が作られた年、1446年は本が書かれた年。
Q3. In the passage, "lost" means ...
lost は「なくなった、行方不明の」。どこにあるかだれも知らなかった、という意味なので A。
Unlike many writing systems, Hangul has a known inventor and a clear birthday. According to Korea's royal records, King Sejong created it in 1443, and it was announced in 1446. That year, eight scholars wrote a guidebook that explained how the letters were designed.
The five basic consonants were based on the shapes of the mouth, tongue, teeth and throat. Stronger sounds got an extra stroke, so ㄴ (n) became ㄷ (t). For a long time, the guidebook was missing, and many people guessed that Hangul came from other scripts.
Then a copy turned up in an old house around 1940. Its last page was dated early in the ninth month of 1446 on the old lunar calendar. In the modern calendar, that became October 9, now Hangul Day.
129 words ・ CEFR B1
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多くの文字の体系とちがって、ハングルには作った人が分かっていて、はっきりした誕生日もある。朝鮮王朝の記録によると、世宗王が1443年にハングルを作り、1446年に発表された。その年、8人の学者が、文字がどのように設計されたかを説明する解説書を書いた。
基本の5つの子音は、口・舌・歯・のどの形をもとにしている。より強い音には線が1本足され、ㄴ(n)が ㄷ(t)になった。長いあいだ、この解説書は行方が分からず、多くの人がハングルはほかの文字から生まれたのだろうと推測していた。
そして1940年ごろ、古い家で1冊が見つかった。その最後のページの日付は、昔の暦(旧暦)で1446年9月上旬だった。これを今の暦に直したのが10月9日で、今のハングルの日だ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ハングルの設計の仕組みと、失われていた解説書が見つかった話なので A。
Q2. How were stronger sounds shown in Hangul?
Stronger sounds got an extra stroke とあるので B。
Q3. What can we infer about the date of Hangul Day?
Its last page was dated ... In the modern calendar, that became October 9, now Hangul Day. から、見つかった解説書の日付がもとになったと分かるので C。
October 9 is Hangul Day in South Korea, but the date was fixed only after a lucky discovery. King Sejong created the alphabet in 1443, according to the royal annals, and in 1446 eight scholars published a guidebook that explained its design. The basic consonants were modeled on the organs of speech. ㄱ shows the back of the tongue blocking the throat, ㄴ shows the tongue touching the ridge behind the upper teeth, and stronger sounds were marked by adding strokes.
The guidebook then vanished, and by the early 1900s there were more than ten theories about where Hangul came from, many pointing to other scripts. Around 1940, a copy surfaced in an old house in Andong. It confirmed the design principles and was dated early in the ninth lunar month of 1446, so scholars moved the celebration from October 28 to October 9.
But the same royal records also say the letters imitated an old style of Chinese script, and historians continue to debate how much the inventors borrowed. A few letters, such as ㅁ, ㅂ and ㅍ, do not fit the stroke-adding rule neatly either. Hangul began with 28 letters; today the basic set has 24.
198 words ・ CEFR B2
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10月9日は韓国のハングルの日だが、この日付は幸運な発見のあとでようやく決まった。王朝の年代記によれば、世宗王は1443年にこの文字を作り、1446年には8人の学者がその設計を説明する解説書を出した。基本の子音は発音器官の形をもとに作られた。ㄱは舌の奥がのどをふさぐ形、ㄴは舌が上の歯の後ろの歯ぐきにふれる形を表し、より強い音は線を足して示された。
その後、解説書は姿を消し、1900年代の初めには、ハングルの起源について10以上の説があり、その多くはほかの文字から来たと考えていた。1940年ごろ、安東の古い家で1冊が見つかった。それは設計の原理を裏づけ、日付は旧暦で1446年9月上旬だったため、学者たちは記念日を10月28日から10月9日に移した。
とはいえ、同じ王朝の記録は、文字が古い漢字の書体をまねたとも書いており、作った人たちがほかの文字からどれだけ取り入れたのかについて、歴史家は今も議論している。ㅁ・ㅂ・ㅍのように、線を足す規則にすっきり当てはまらない文字もいくつかある。ハングルは28字から始まり、今の基本の文字は24字だ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
再発見された解説書が設計を裏づけ、ハングルの日の日付を決めたこと、ただし未解決の点もあることを述べているので B。
Q2. What did people believe about Hangul before the guidebook was found?
by the early 1900s there were more than ten theories about where Hangul came from, many pointing to other scripts とあるので C。
Q3. Why does the writer mention ㅁ, ㅂ and ㅍ?
do not fit the stroke-adding rule neatly とあるように、線を足す規則で説明しきれない例として挙げているので A。
重要単語
- alphabetA2名詞(音を表す)文字の体系、字母Hangul is the Korean alphabet.
ギリシャ文字の alpha+beta から。the English alphabet は26文字。 - consonantB1名詞子音Each basic Hangul consonant shows the shape of the mouth or tongue.
con-(ともに)+sonant(鳴る)。母音と「いっしょに鳴る」音。反対は vowel。 - vowelB1名詞母音Korean vowels are made from dots and lines.
英語の母音字は a, e, i, o, u。発音は「ヴァウエル」で、v と w の音に注意。 - inventB1動詞発明する、作り出すKing Sejong invented a new writing system.
名詞は invention、人は inventor。discover(すでにあるものを見つける)との違いに注意。 - scholarC1名詞学者Eight scholars wrote a guidebook about the new letters.
school と同じ語源。a Korean scholar「朝鮮語・韓国語の研究者」。解説書『訓民正音』を書いたのは8人の学者。 - strokeB2名詞(文字の)画、線You add a stroke to show a stronger sound.
漢字の「画数」は the number of strokes。ほかに「脳卒中」「(水泳の)泳ぎ方」の意味もある多義語。 - rediscoverC1動詞再発見するThe guidebook was rediscovered around 1940.
re-(再び)+discover。いったん忘れられたものを見つけ直すこと。
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公式・一次情報をチェック
- Hangul(The American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- 알고 싶은 한글:제자 원리와 글자꼴 ⑦(강창석、国立国語院)korean.go.kr
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ハングルの「ㄱ」は舌のつけ根がのどをふさぐ形、「ㄴ」は舌先が上の歯ぐきにつく形。1443年に世宗が作った文字だ。10月9日の「ハングルの日」は、1940年に古い家で見つかった解説書の日付から決まった。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- 国家遺産庁(韓国)国宝「訓民正音(訓民正音)」国家遺産ポータルheritage.go.kr
- 강신항「한글」韓国民族文化大百科事典(韓国学中央研究院)encykorea.aks.ac.kr
- 강신항「훈민정음」韓国民族文化大百科事典(韓国学中央研究院)encykorea.aks.ac.kr
- 김주필「이체자」(「제자해」の解説を含む)韓国民族文化大百科事典(韓国学中央研究院)encykorea.aks.ac.kr
- 강창석「알고 싶은 한글:제자 원리와 글자꼴」国立国語院korean.go.kr
- 조남호「한글날의 유래와 변천」国立国語院(旧 国立国語研究院)『새국어소식』한글날 특집korean.go.kr
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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