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「中国語を話す人は時間を“縦”に考える」有名実験、別チームが10回やり直しても再現できず。でも話には続きがあった

「中国語を話す人は時間を“縦”に考える」有名実験、別チームが10回やり直しても再現できず。でも話には続きがあった

読む前に予想してみよう!

「中国語話者は時間を縦に考える」という2001年の実験は、その後、別の研究者がやり直した実験(追試)でも同じ結果がくり返し出た

研究カード(どんな研究?)
対象
中国語・英語の話し手(米国の大学など)
規模
2001年の原論文3実験で計141人、2011年の再検証181人
研究の種類
実験(反応時間)+追試
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

「中国語話者は時間を縦に考える」という2001年の有名実験は、2007年、別の2チームが合わせて10回やり直したが、同じ結果は出なかった。ただ、別の方法の実験では“縦”の傾向が出ている。

ひとことで言うと中国語では「先月」を「上の月」と言う。だから時間も縦に考える…はホント?

もくじ
  1. 中国語では「先月」が「上の月」
  2. 2001年の実験:「3月は4月より早い?」に答える速さ
  3. 2007年、10回やり直しても同じ結果が出ず
  4. ボロディツキーさんの反論:「やり直し実験のやり方に問題があった」
  5. 新しい方法では「縦」が出た
  6. 英語で時間を言うなら「前後」
  7. どんでん返し:「縦」は言葉だけのせい?
  8. まとめ

中国語(普通話)では、「先月」を上个月(shàng ge yuè)、「来月」を下个月(xià ge yuè)と言います。そのまま訳すと「上の月」「下の月」です。

では、中国語を話す人は、頭の中でも時間を「上から下へ」流れるものとして考えているのでしょうか。

2001年、アメリカのスタンフォード大学の心理学者レラ・ボロディツキーさんが、「そうらしい」という実験結果を発表しました。言葉が考え方に影響する例として、とても有名になった研究です。ところが2007年、2つの研究チームが合わせて10回この実験をやり直したところ、同じ結果は出ませんでした。

01中国語では「先月」が「上の月」

ボロディツキーさんの論文によると、中国語では「上(shàng)」と「下(xià)」を、できごとの順番を言うのによく使います。週、月、学期などにも使い、先のことが「上」、後のことが「下」です。

もちろん中国語にも、英語と同じように「前(qián)」「後(hòu)」で時間を言う表現があります。中国語は「前後」と「上下」の両方を使う言語なのです。

いっぽう英語は、ほとんど「前後」で時間を言います。

  • I'm looking forward to the trip.(旅行を楽しみにしている)
  • We're behind schedule.(予定より遅れている)

英語にも hand down(次の世代へ伝える)や coming up(もうすぐやってくる)のような「上下」の言い方はあります。ただし論文は、中国語の「上・下」ほど多くも、決まった使い方でもないと説明しています。

じつは日本語にも、少し似た言い方があります。『日本国語大辞典』には、月の最初の10日間を「上旬」と呼ぶ例が奈良時代(758年)の文書から載っています。また「時代が下る」の「下る」には、「時が移る。時がたって後の世・時代になる」という意味があります。時刻が過ぎるという意味の「下る」は、『源氏物語』にも出てきます。

022001年の実験:「3月は4月より早い?」に答える速さ

論文は、中国語を話す人は英語で考えているときでさえ、時間を縦に思い描くくせがある、と結論しました。

さらに2つの実験がありました。英語を習い始めた年齢が遅い人ほど「縦」のくせが強かったこと(中国語が母語の25人)。そして、英語が母語の人70人に Monday is above Tuesday.(月曜日は火曜日の上)のような「縦の言い方」を少し練習させると、中国語話者に似た結果になったことです。

ただし、ボロディツキーさん自身も、母語が考え方を「完全に決める」わけではない、と書いています。

032007年、10回やり直しても同じ結果が出ず

2007年、学術誌 Cognition の同じ号に、この研究への反論が2本載りました。

Chen は、上下の言い方が「ある」だけでは、中国語話者が時間を英語話者と違うふうに考える理由にはならない、と結論しています。

2001年の実験は、上下か左右に並んだ物の絵を見たあと、「3月は4月より早い」のような文に答える速さを比べた(Boroditsky, 2001)
2001年の実験は、上下か左右に並んだ物の絵を見たあと、「3月は4月より早い」のような文に答える速さを比べた(Boroditsky, 2001)

04ボロディツキーさんの反論:「やり直し実験のやり方に問題があった」

2011年、ボロディツキーさんたちは反論の論文を出しました。中身はかなり具体的です。

  • January & Kako の実験用プログラムには、論文が受理されたあと(出版の前)に2つのバグが見つかった。たとえば、上下の絵のあとと左右の絵のあとで、別々の時間の問題が出ていた。しかも January & Kako は、ほぼ英語話者だけを調べていた
  • Chen の研究では、中国語話者は73人いたが、英語話者は4つの実験のうち1つにしかおらず、14人だけ。しかも全員が台湾に住んでいた

いっぽうで、ボロディツキーさんたちは自分たちの研究室で試したときも、結果はそろわなかったと認めています。原因として、最初の実験の絵の問題に混乱のもとがあったと説明しました。たとえば横の絵は、虫が画面の左右に並んでいるのに、文は「青い虫は白い虫の前にいる」という前後の言い方でした。左右と前後という2種類の「横」が、ごちゃまぜになっていたのです。

05新しい方法では「縦」が出た

そこで同じ2011年の論文で、やり方を変えた実験が報告されました。

参加したのは181人です(英語が母語の118人と、中国語が母語の63人)。中国語の人は、文字を横書きで左から右へだけ読む人にしぼりました。読み書きの向きの違いが結果にまじらないようにするためです。

課題は、言葉を使いません。同じ人や物の写真を2枚続けて見せ、2枚目が1枚目より前の場面か、後の場面かをボタンで答えます。たとえば、年齢のちがうウディ・アレンの写真や、カップにコーヒーを注いでいる途中の写真です。ボタンは上下か左右に並べました。

この論文はボロディツキーさんたち自身の研究です。ただ、イギリスのアバディーン大学などの別のチームも、同じ2011年に似た結果を報告しました。昔の建物か未来の建物かの写真を分ける課題で、シンガポールの中国語・英語のバイリンガル25人は、ボタンを上下に並べても左右に並べても、時間の流れと向きのそろったボタンのほうが速く押せました。英語だけを話すスコットランドの19人で速くなったのは、左右に並べたときだけでした。

06英語で時間を言うなら「前後」

英語の学習で大事なのは、英語では時間をほぼ「前後」で言うことです。中国語の「上の月」をそのまま the up month と言う言い方は、英語にはありません。

07どんでん返し:「縦」は言葉だけのせい?

ここまで読むと「やっぱり言葉が考え方を変えるんだ」と思いたくなります。でも、話はそう単純ではありません。

1つめ。2001年の実験のやり方では、結果が出たり出なかったりで、安定して再現できたとは言えません。これは2011年の論文も認めています。新しく出た結果は、別の課題を使ったものです。

2つめ。言葉以外の理由もありえます。中国語は、伝統的には縦書きで書かれてきました。2001年の論文もこの点にふれていて、2011年の実験では、横書きだけを読む人に参加者をしぼっていました。

3つめ。アバディーン大学などのチームは、シンガポールのバイリンガル32人に、俳優の若いころから年を取るまでの写真3枚を、時間の順に板の上へ並べてもらいました。すると、中国の俳優ジェット・リーの写真のほうが、アメリカの俳優ブラッド・ピットの写真よりも、縦に並べられやすかったのです。どちらも英語で頼んだのに、です。時間の「向き」は、言葉だけでなく、その場で思い浮かぶ文化によっても切りかわるのかもしれません。

08まとめ

中国語では、先月を「上の月」、来月を「下の月」と言います。2001年の有名な実験は、このせいで中国語を話す人は時間を縦に考える、と報告しました。でも、その実験は2007年に2つのチームが計10回やり直しても、再現できませんでした(そのやり直し方には、ボロディツキーさんたちから反論も出ています)。

いっぽう、やり方を変えた実験では、中国語を話す人に「上が前、下が後」のくせが見つかっています。「縦に考える傾向はあるかもしれない。でも、有名になった2001年の実験そのものは、再現できるかどうかがあやしい」。これが今のところの答えです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMandarin speakers often use the words for "up" and "down" to talk about time. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Mandarin speakers often use the words for "up" and "down" to talk about time. Last month is literally the "up month," and next month is the "down month." In 2001, the psychologist Lera Boroditsky reported that this habit affects how people think. In her study at Stanford, Mandarin speakers judged sentences like "March comes earlier than April" more quickly after looking at pictures of objects placed one above the other. English speakers were faster after pictures of objects side by side. The study became famous.

Then in 2007, two other research teams tried to repeat it ten times in total, and none of their attempts worked. One of them also counted real examples and found that Mandarin uses "front" and "back" for time more often than "up" and "down."

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

中国語を話す人は、時間について話すとき、よく「上」と「下」を表す言葉を使う。先月は文字どおり「上の月」、来月は「下の月」だ。2001年、心理学者のレラ・ボロディツキーは、この習慣が人の考え方に影響すると報告した。スタンフォード大学での彼女の研究では、中国語を話す人は、物が上下に並んだ絵を見たあとのほうが、「3月は4月より早い」のような文をすばやく判断した。英語を話す人は、物が横に並んだ絵のあとのほうが速かった。この研究は有名になった。

ところが2007年、別の2つの研究チームが合わせて10回やり直そうとして、どれもうまくいかなかった。そのうちの1つは実際の用例も数え、中国語でも時間には「上」「下」より「前」「後」のほうがよく使われることを見つけた。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened when other teams tried to repeat the 2001 study?

Q2. In the 2001 study, when were Mandarin speakers faster?

Q3. What does the counting of real examples suggest?

重要単語

  • replicateC1
    動詞(実験を)くり返して同じ結果を出すOther scientists could not replicate the result. 名詞は replication(追試、再現)。科学の英文で「再現できない」は fail to replicate とよく言う。
  • earlier thanA2
    熟語〜より早く、〜より前にMarch comes earlier than April. 2001年の実験で使われた文の形。反対は later than。時間の順番を前後・上下を使わずに言える。
  • look forward toB1
    熟語〜を楽しみに待つI'm looking forward to the summer break. 未来が「前」にある英語らしい言い方。to のあとは名詞か -ing 形(look forward to seeing you)。
  • behind scheduleB1
    熟語予定より遅れてThe train is ten minutes behind schedule. 反対は ahead of schedule(予定より早く)。英語では時間の遅れも「後ろ」で表す。
  • verticalB2
    形容詞縦の、垂直のWrite the words in a vertical line. 反対は horizontal(横の、水平の)。この研究の「縦の時間」は vertical time と言う。
  • timelineB2
    名詞年表、時間の流れを表す線We drew a timeline of the war on the board. 心理学では、頭の中で時間を並べる線を mental timeline と呼ぶ。
中国語では先月を「上个月(上の月)」、来月を「下个月(下の月)」と言う。だから中国語話者は時間を縦に考える――2001年の有名実験は、2007年に別の2チームが計10回やり直しても、同じ結果が出なかった。ところが話はそこで終わらない。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. Boroditsky, L. (2001) Does language shape thought?: Mandarin and English speakers' conceptions of time, Cognitive Psychology 43(1):1-22doi.org
  2. January, D., & Kako, E. (2007) Re-evaluating evidence for linguistic relativity: Reply to Boroditsky (2001), Cognition 104(2):417-426doi.org
  3. Chen, J.-Y. (2007) Do Chinese and English speakers think about time differently? Failure of replicating Boroditsky (2001), Cognition 104(2):427-436doi.org
  4. Boroditsky, L., Fuhrman, O., & McCormick, K. (2011) Do English and Mandarin speakers think about time differently?, Cognition 118(1):123-129doi.org
  5. Miles, L. K., Tan, L., Noble, G. D., Lumsden, J., & Macrae, C. N. (2011) Can a mind have two time lines? Exploring space–time mapping in Mandarin and English speakers, Psychonomic Bulletin & Review 18(3):598-604doi.org
  6. 精選版 日本国語大辞典「下る」・「上旬」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp

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