日本語の「手」は肩から指先まで。「手」と「腕」を1語で言う言語は617言語中228

読む前に予想してみよう!
日本語の「手」は、手首から先の部分しか指さない
デジタル大辞泉は「手」の最初の意味を「肩から指先までをいう」としている。言語の特徴を集めた地図(WALS)でも、日本語は「手と腕を1語で言う言語」に分類されている。
- 対象
- 世界の言語
- 規模
- 617言語
- 研究の種類
- 辞書・文法書にもとづく言語の比較調査
- 確かさ
- ★★★☆☆
617言語を調べると、228言語が「手」と「腕」を同じ1語で言う。赤道に近いほど多く、袖のある服が関係するという説も。日本語の「手」もこの仲間だ。
ひとことで言うと「手を挙げて」で腕ごと上げるよね。日本語の「手」は、肩から指先まで指せるんだ!
もくじ
「答えが分かった人、手を挙げて!」
こう言われたら、たいていの人は肩から腕ごと、まっすぐ上げますよね。
じつは日本語の「手」は、肩から指先までをまるごと指せる言葉です。手首から先だけを指す英語の hand、肩から手首までの arm とは、範囲の決め方が違います。そして世界には、日本語と同じように「手」と「腕」を同じ1語で言う言語が、たくさんあります。617の言語を調べた言語地図では、その数は228。およそ3つに1つでした。
01辞書で「手」を引くと、最初の意味は「肩から指先まで」
小学館の『デジタル大辞泉』で「手」を引いてみましょう。最初の意味は、人体の左右の肩から出ている長い部分で、「肩から指先までをいう」と書かれています。用例は「手を高く上げる」「袖に手を通す」。
手首から先の部分を指す意味は、最初の意味の中の、すぐ後に続く小さな項目(㋑)に書かれています。「手に時計をはめる」「手でつまむ」の「手」です。
『日本国語大辞典』も同じ順番です。①は「肩の関節部分から指先までの部分」で、720年の『日本書紀』の歌謡に用例があります。②は、「かいな、うでと区別して」手首から先を指す使い方です(「かいな」は腕の古い言い方)。
一方、英語の hand は違います。オックスフォードの学習辞典では「腕の先にある、指と親指を含む部分」。肩から手首までは arm です。英語では、hand はあくまで「腕の先っぽ」なのです。
02世界617言語の「手」と「腕」を調べたら
この違いを世界規模で調べたのが、研究者のセシル・ブラウンです。言語の特徴を地図にまとめた『言語構造の世界地図(WALS)』の第129章で、617の言語を2つに分けました。
日本語には「腕」という言葉もあるのに、なぜ「1語型」なのでしょうか。ブラウンの分類では、同じ語が「手」と「腕」の両方を指すなら、ほかに「腕」だけを指す語があっても1語型と数えます。日本語の「手」は腕全体も指せるので、こちらに入るわけです。
隣の韓国語や中国語が「別々型」なのに、日本語は「1語型」。身近な言語どうしでも、分け方はこれだけ違います。
03赤道に近いほど「1語型」が多い
ブラウンは、この2つの型が地図の上でかたよっていることに気づきました。
では、なぜ赤道からの距離が関係するのでしょうか。
04「袖のある服」を着ると、腕と手を分けたくなる?
スタンレー・ウィトコウスキーとブラウンは、1985年の論文で一つの説を出しました。カギは服です。
寒い地域では、腕をおおう袖のある、体に合わせて仕立てた服を着ます。手袋やミトンも使います。すると、服におおわれた「腕」と、外に出ている「手」の境目がはっきりします。だから、手と腕に別々の名前をつけやすくなる――という考えです。

ただし、ブラウン自身も認めているとおり、緯度は気温を「間接的に」示すものにすぎません。620の言語(集計表での数)の話し手がどんな服を仕立ててきたかを1つずつ調べるのはとても大きな仕事で、今後の研究者にゆだねる、と2013年の時点で書いています。
05どんでん返し:寒いロシアも、日本も「1語型」
この「服の説」には、目立つ例外があります。
地図に載っているスラブ語派・バルト語派の8言語(ロシア語、ウクライナ語、チェコ語、リトアニア語など)は、すべて北緯43度より北の寒い地域で話されています。それなのに、ポーランド語を除く7言語が1語型でした。ブラウンも、これらを「例外的」と書いています。
日本語も、地図のデータでは北緯37度の位置にあり、赤道から遠い地域に入ります。それでも1語型です。すぐ隣の韓国語は別々型でした。
つまり「赤道に近いほど1語型が多い」は統計としてははっきりした傾向ですが、一つひとつの言語を服だけで説明することはできません。
もう一つ、1語型でも話し手が困っているわけではありません。日本語でも「腕を組む」「手首」「二の腕」のように、細かく言い分けたいときの言葉はちゃんとあります。
06まとめ
日本語の「手」は、辞書の最初の意味で「肩から指先まで」。世界には、同じように「手」と「腕」を1語で言う言語が617言語中228もありました。赤道に近い地域ほど多く、袖のある服が関係するという説もあります。
英語を話すときは、肩から手首までは arm、その先は hand。「手を骨折した」と言いたいときは、どこを折ったのかを思い浮かべてから単語を選びましょう。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerLook up "te" in a Japanese dictionary, and the first meaning is the whole limb, from the shoulder to the…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When a teacher says "Raise your hand," you lift your whole arm. In Japanese, the word "te" can mean the whole arm, from the shoulder to the fingers. English is different.
A "hand" ends at the wrist, and the "arm" goes from the wrist up to the shoulder. A researcher looked at 617 languages. In 228 of them, one word means both "hand" and "arm." Russian and Swahili are two examples.
71 words ・ CEFR A2
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先生が「手を挙げて」と言うと、みなさんは腕全体を上げます。日本語の「手」という言葉は、肩から指までの腕全体を指すことができます。英語はちがいます。
hand は手首で終わり、arm は手首から肩までです。ある研究者が617の言語を調べました。そのうち228の言語では、1つの語が「手」と「腕」の両方を意味します。ロシア語とスワヒリ語がその例です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「手」と「腕」を1語で言う言語の話なので B。
Q2. In how many of the 617 languages does one word mean both "hand" and "arm"?
In 228 of them, one word means both "hand" and "arm." とあるので C。
Q3. In the passage, what is the "wrist"?
A "hand" ends at the wrist, and the "arm" goes from the wrist とあるので、手と腕の境目。A。
Look up "te" in a Japanese dictionary, and the first meaning is the whole limb, from the shoulder to the fingertips. The English word "hand" covers much less. It stops at the wrist. The researcher Cecil Brown compared 617 languages for a world atlas of language features. He found that 228 of them use one word for both hand and arm, including Russian, Swahili and Japanese.
The other 389, such as English and Korean, use two different words. The one-word languages are much more common near the equator. In regions far from the equator, only 60 languages use one word, while 232 use two.
104 words ・ CEFR B1
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日本語の辞書で「手」を引くと、最初の意味は肩から指先までの腕全体だ。英語の hand が指す範囲はずっと狭い。手首で終わる。研究者のセシル・ブラウンは、言語の特徴をまとめた世界地図のために617の言語を比べた。その結果、228の言語が手と腕に1つの語を使っていた。ロシア語、スワヒリ語、日本語もその中に入る。
英語や韓国語など残りの389言語は、2つの別の語を使う。1語の言語は、赤道の近くにずっと多い。赤道から遠い地域では、1語を使う言語は60だけで、2語を使う言語は232だった。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, where does the English "hand" stop?
It stops at the wrist とあるので C。
Q2. Which language uses two different words for hand and arm?
The other 389, such as English and Korean, use two different words とあるので B。
Q3. What can we infer from the last two sentences?
赤道の近くでは1語型が多く、遠い地域では少ないので、話される場所と腕の呼び方に関係がありそうだと分かる。A。
English speakers draw a clear line at the wrist. Everything beyond it is the "hand," and the part from there to the shoulder is the "arm." Many languages do not draw that line. In a survey of 617 languages for the World Atlas of Language Structures, Cecil Brown found 228 that use one word for both.
Japanese is on the list because "te" can refer to the whole limb, even though Japanese also has "ude" for the arm. The pattern is tied to geography. Near the equator, one-word languages slightly outnumber two-word ones, 170 to 158, while in regions farther away the count is 60 to 232.
In 1985, Stanley Witkowski and Brown suggested a reason. Tailored clothing with sleeves, plus gloves and mittens, makes the border between arm and hand easy to see, so people give the two parts separate names.
Brown later wrote that checking the clothing of every group in his sample would be a huge job for future researchers. The idea has clear exceptions. Russian, Czech and most of their Slavic and Baltic neighbors are spoken in cold places but use one word. Japanese is another case, while Korean, right next door, uses two.
198 words ・ CEFR B2
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英語を話す人は、手首のところにはっきりと線を引く。その先はすべて hand で、そこから肩までが arm だ。多くの言語はその線を引かない。セシル・ブラウンは『言語構造の世界地図』のために617の言語を調べ、両方に1つの語を使う言語を228見つけた。
日本語もその中に入っている。日本語には腕を表す「ude」もあるが、「te」が腕全体を指せるからだ。このパターンは地理と結びついている。赤道の近くでは1語型が2語型をわずかに上回り170対158だが、赤道から遠い地域では60対232になる。
1985年、スタンレー・ウィトコウスキーとブラウンは理由を一つ示した。袖のある仕立てた服や手袋・ミトンがあると、腕と手の境目が見えやすくなり、人々はこの2つの部分に別々の名前をつける、というものだ。
ブラウンは後に、サンプルのすべての集団の服を調べるのは、今後の研究者にとって大仕事になると書いている。この考えには、はっきりした例外もある。ロシア語、チェコ語、そして近くのスラブ語派・バルト語派の言語の多くは寒い土地で話されているのに、1つの語を使う。日本語もその1つで、すぐ隣の韓国語は2つの語を使っている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
手と腕の名前の分け方のパターン、その理由の説、例外が中心なので B。
Q2. According to Witkowski and Brown, what makes people give the arm and hand separate names?
Tailored clothing with sleeves, plus gloves and mittens, makes the border between arm and hand easy to see とあるので C。
Q3. Why does the writer mention Russian and Japanese at the end?
寒い土地なのに1語型の言語を「はっきりした例外」として挙げているので、服の説ですべては説明できないことを示している。A。
重要単語
- armA1名詞腕She folded her arms and waited.
fold your arms「腕を組む」、arm in arm「腕を組んで」。複数形 arms には「武器」の意味もある。 - handA1名詞手(手首から先)Put your hand up if you know the answer.
Oxford Learner's の定義は「腕の先にある、指と親指を含む部分」。hold hands「手をつなぐ」。 - wristB1名詞手首He wears a watch on his left wrist.
w は発音しない(リスト)。wristwatch「腕時計」は、英語では「手首の時計」。 - limbB2名詞(人の)手足、四肢After the long hike, my limbs felt heavy.
b は発音しない(リム)。腕や脚をまとめて言う語。木の「大枝」の意味もある。 - sleeveB1名詞袖Roll up your sleeves before you wash the dishes.
roll up your sleeves は「腕まくりして本気で取りかかる」という比喩でもよく使う。 - equatorB2名詞赤道Singapore is very close to the equator.
中世ラテン語の「(昼と夜の長さを)等しくするもの」から来た語で、equal(等しい)の仲間(American Heritage Dictionary)。ふつう the をつける。 - tailoredC1形容詞(体に合わせて)仕立てた;目的に合わせたHe wore a tailored suit to the wedding.
tailor(仕立て屋)から。a tailored plan「その人向けに作った計画」のようにも使う。
公式・一次情報をチェック
- Map 129A: Hand and Arm(WALS Online)wals.info
- Datapoint Japanese / Hand and Arm(WALS Online)wals.info
- hand(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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世界617言語のうち228言語は「手」と「腕」を同じ1語で言う。ロシア語の ruka もそう。じつは日本語もこの分類。辞書で「手」を引くと、最初の意味は「肩から指先まで」。英語の hand は手首から先だけ。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Brown, C. H. (2013) Hand and Arm, The World Atlas of Language Structures Online, Chapter 129wals.info
- Witkowski, S. R. & Brown, C. H. (1985) Climate, Clothing, and Body-Part Nomenclature, Ethnology 24(3)doi.org
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「手」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- Barlow, R. (2025) Loss of Colexification of 'hand' and 'five' in Austronesian Languages, Oceanic Linguistics 64(1)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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