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「喉まで出かかる」は英語では“舌の先”。51言語を比べたら多数派は「舌」、日本語は「喉」だった

「喉まで出かかる」は英語では“舌の先”。51言語を比べたら多数派は「舌」、日本語は「喉」だった

読む前に予想してみよう!

「名前が出てこないのに、知っている感じがする」状態を、英語では「喉まで出かかっている」と言う

研究カード(どんな研究?)
対象
英語以外の言語を話す人への聞き取り
規模
51言語
研究の種類
レビュー論文の中の小さな言語調査
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

名前が出てこないあの感じ、英語は on the tip of my tongue(舌の先)。51言語の調査では「舌」型が多数派で、「喉」を使うのは日本語だけだった。

ひとことで言うと英語は「舌の先」、日本語は「喉」。世界では「舌」を使う言語が多いんだって!

もくじ
  1. 「喉まで出かかる」の英語は on the tip of my tongue
  2. 51言語を調べたら「舌」が多数派だった
  3. 「口」を使う言語、「喉」を使う言語、そして手話
  4. 日本の研究者は「のどまで出かかる現象」と呼んだ
  5. どんでん返し:「45言語」を数え直すと……
  6. まとめ

「ほら、あの映画に出てた俳優……名前がここまで出かかってるのに!」

そう言いながら、つい喉のあたりを指さしたことはありませんか。ところが英語では、同じ場面でこう言います。

It's on the tip of my tongue!(それ、舌の先まで来てるんだ!)

日本語は「喉」、英語は「舌」。では、世界の言語ではどちらが多いのでしょう。1999年、アメリカの大学の心理学者が51の言語について調べたところ、多数派は英語と同じ「舌」。「喉」を使う言い方として紹介されたのは、日本語だけでした。

01「喉まで出かかる」の英語は on the tip of my tongue

まず、辞書で意味を確かめておきましょう。

オックスフォードの学習辞典では、on the tip of your tongue は「ある言葉や名前を知っているのは確かなのに、思い出せない」ときに使う、と説明しています。ケンブリッジ英語辞典の例文はこうです。

  • Her name is on the tip of my tongue.(彼女の名前、舌の先まで出かかってるんだけど)
  • Oh, what was that movie called? It's on the tip of my tongue.(ええと、あの映画、何ていう題だっけ? ここまで出かかってるのに)

日本語の「喉」はどうでしょう。小学館の『デジタル大辞泉』の「喉」の項目には、「―まで出かかった言葉をのみこむ」という用例があります。こちらは「言いかけたけれど、言わずにがまんした」場面です。日本語の「喉まで出かかる」は、思い出せないときだけでなく、言いたいことをこらえるときにも使えます。

心理学では、思い出せないもどかしい状態を、英語の言い方そのままに tip-of-the-tongue(略して TOT) と呼びます。

0251言語を調べたら「舌」が多数派だった

この呼び名に疑問を持ったのが、アメリカ・フロリダ国際大学の心理学者ベネット・シュワルツさんです。「舌の先」は英語だけのクセなのか、それとも多くの言語に共通する感覚なのか。1999年に学術誌『Psychonomic Bulletin & Review』に発表したレビュー論文(研究をまとめて論じる論文)の中で、小さな調査をしました。

いちばん多かったのは、英語とほぼ同じ「舌の先」型です。論文とケンブリッジ英語辞典の訳語から、いくつか並べてみます。

  • イタリア語:sulla punta della lingua(舌の先に)
  • スペイン語:en la punta de la lengua(舌の先に)
  • ポルトガル語:na ponta da língua(舌の先に)
  • トルコ語:dilinin ucunda(舌の先に)

スペイン語やイタリア語は英語と親せきの言語ですが、トルコ語は系統のちがう言語です。それでも、同じ「舌の先」という言い方をしています。

「舌」型の中にも、少しずつちがいがあります。論文の英訳によると、エストニア語は「舌の頭に」、インドのマラーティー語はシンプルに「舌の上に」。北米の先住民の言語シャイアン語は "I have lost it on my tongue."(舌の上でなくしちゃった)です。

03「口」を使う言語、「喉」を使う言語、そして手話

少数派の言い方も見てみましょう。

  • 中国語:論文では広東語も北京語も「口」型。ケンブリッジ英語辞典の中国語訳も「就在嘴边」(すぐ口もとにある)
  • 韓国語:「舌」と「口」の両方の言い方がある
  • フランス語:「舌」の言い方のほかに、「頭に穴があいた」という意味の言い方も使う
  • アメリカ手話:協力者によると、「指の先まで出かかっている」のような言い方は無い

そして日本語の「喉」。論文の本文で「喉」の言い方として紹介されたのは、日本語だけでした。

51言語の調査では「舌」型が多数派。「口」型は中国語など5言語、「喉」は日本語だけだった(Schwartz 1999 をもとにしたイメージ)
51言語の調査では「舌」型が多数派。「口」型は中国語など5言語、「喉」は日本語だけだった(Schwartz 1999 をもとにしたイメージ)

04日本の研究者は「のどまで出かかる現象」と呼んだ

日本の心理学の論文にも、「のど」を使った呼び名があります。1980年、富山大学の村上宣寛さんが学術誌『心理学研究』に出した論文の題名は、「のどまで出かかる現象におけるカナと漢字単語の記憶単位について」。英語の tip of the tongue を、日本語らしく「のど」で言いかえたわけです。

この論文は、日本語ならではの問題も調べています。英語はアルファベットで書きますが、日本語はカナと漢字を使い分けます。村上さんは、カナや漢字で書く20語の定義を学生300人に読み上げ、答えが出ないまま思い出せた「かけら」222件を分析しました。かけらの多くはカナ1〜3文字か、漢字1文字のまとまりでした。日本語の単語は、意味の単位よりも文字に近いまとまりで記憶されているのかもしれない、と村上さんは提案しています。

05どんでん返し:「45言語」を数え直すと……

ここで、論文の最後についている表を見てみましょう。本文の「45言語が舌の言い方を使う」は、そのままには受け取れません。

「舌の比喩を使う」側の表に並んだ45言語には、日本語と、「口」型の5言語(広東語・北京語・ヒンディー語・ハウサ語・イボ語)も入っています。いっぽう、それぞれの言い方の訳を分類した別の表で「舌」の言い方として挙がっているのは、韓国語を含めて39言語です。はっきり「舌」と言っているのは、51言語中39言語と読むほうが正確そうです。

もう1つ。論文のタイトル「Sparkling at the end of the tongue(舌の先できらめく)」は、論文が紹介した韓国語の言い方の英訳そのままです。ところが、論文に書かれたつづり Hyeu kkedu-te mam-dol-da は、韓国語の「혀끝에 맴돌다」と読めます。韓国の国立国語院の『韓国語基礎辞典』では、혀끝は「舌の先」、맴돌다は「ぐるぐる回る」「(同じ考えや感じが)くり返し浮かぶ」という意味です。「きらめく」ではなく、「舌の先でぐるぐる回る」に近い言い方だった可能性があります。

そもそもこの調査は、協力者に聞き取っただけの小さなもので、何人に聞いたかも論文には書かれていません。同じ言語でも、人や地域によって答えは変わるかもしれません。「舌を使う言語が多い」という大きな傾向は言えても、細かい数字まで決まったわけではないのです。

06まとめ

名前が出てこないあの感じを、英語は「舌の先」、中国語は「口もと」、日本語は「喉」で表します。51言語を比べると「舌」が多数派で、「喉」は日本語だけでした。ただ、場所はちがっても、51言語のうち45言語が舌・口・喉のどれかで表していました。

次に名前が出てこなかったら、喉を指さしつつ It's on the tip of my tongue! と言ってみてください。日本語と英語の感覚のちがいを、体で味わえます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEveryone has had this experience. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Everyone has had this experience. You know a word, but you just can't say it. English speakers say the word is "on the tip of my tongue." Japanese speakers say it has come up as far as the throat.

In 1999, an American psychologist named Bennett Schwartz wanted to know if the tongue image was only an English habit. He asked speakers of 51 languages how they describe the feeling. Most of their answers used the tongue.

Spanish and Italian say "on the tip of the tongue," and so does Turkish, which is not related to English. Five languages, including Mandarin, Cantonese and Hindi, used the mouth. Japanese was the only language on his list that used the throat.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

誰にでもこの経験がある。言葉を知っているのに、どうしても言えないのだ。英語の話し手は、その言葉が「舌の先に」あると言う。日本語の話し手は、喉まで出かかっていると言う。

1999年、ベネット・シュワルツというアメリカの心理学者が、「舌」のイメージは英語だけのクセなのかを知りたいと考えた。彼は51の言語の話し手に、この感じをどう言い表すかをたずねた。答えのほとんどは「舌」を使っていた。

スペイン語とイタリア語は「舌の先に」と言い、英語と親せき関係にないトルコ語も同じように言う。北京語、広東語、ヒンディー語など5つの言語は「口」を使っていた。彼のリストで「喉」を使っていたのは日本語だけだった。

4択リーディングクイズ

Q1. Why did Bennett Schwartz ask speakers of other languages?

Q2. How many languages used the mouth?

Q3. Why does the writer mention Turkish?

重要単語

  • tongueA2
    名詞舌The doctor asked me to stick out my tongue. 発音は「タング」で、最後の -ue は読まない。mother tongue は「母語」。
  • tipB1
    名詞先、先端I burned the tip of my tongue on the hot soup. on the tip of my tongue「舌の先まで出かかって」。the tip of the iceberg は「氷山の一角」。
  • recallB2
    動詞思い出すI can't recall his name right now. remember よりやや改まった語。心理学では「(手がかりなしに)思い出すこと」の意味でもよく使う。
  • idiomB2
    名詞慣用句、決まった言い回し"On the tip of my tongue" is a common English idiom. 単語の意味を足しても全体の意味にならない言い回し。形容詞は idiomatic(言い回しが自然な)。
  • metaphorC1
    名詞比喩、たとえMany languages use the same metaphor for this feeling. like や as を使わずに「〜は…だ」とたとえる表現。like を使う直喩は simile。
  • throatB1
    名詞喉I have a sore throat, so I can't sing today. have a sore throat「喉が痛い」。th の発音に注意(スロウト)。
  • lingerC1
    動詞なかなか消えない、とどまるThe smell of coffee lingered in the room. においや気持ち、記憶などが「なかなか去らない」ときによく使う。
名前が出てこないあの感じ、日本語は「喉まで出かかる」なのに英語は on the tip of my tongue(舌の先)。51言語を調べた心理学者の調査では「舌」型が多数派で、中国語などは「口」、日本語は「喉」だった。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Schwartz, B. L. (1999) Sparkling at the end of the tongue: The etiology of tip-of-the-tongue phenomenology, Psychonomic Bulletin & Review 6(3)doi.org
  2. Murakami, Y.〔村上宣寛〕 (1980) On the memory unit within kana-letter and kanji-letter words in the tip of the tongue phenomena, 心理学研究 51(1)(和題「のどまで出かかる現象におけるカナと漢字単語の記憶単位について」)doi.org
  3. tip(Oxford Learner's Dictionaries・idiom: on the tip of your tongue)oxfordlearnersdictionaries.com
  4. デジタル大辞泉「喉」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp

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