「喉まで出かかる」は英語では“舌の先”。51言語を比べたら多数派は「舌」、日本語は「喉」だった

読む前に予想してみよう!
「名前が出てこないのに、知っている感じがする」状態を、英語では「喉まで出かかっている」と言う
英語では It's on the tip of my tongue.(舌の先にある)と言う。51言語を調べた1999年の論文では、「喉」を使う言い方として紹介されたのは日本語だけだった。
- 対象
- 英語以外の言語を話す人への聞き取り
- 規模
- 51言語
- 研究の種類
- レビュー論文の中の小さな言語調査
- 確かさ
- ★★☆☆☆
名前が出てこないあの感じ、英語は on the tip of my tongue(舌の先)。51言語の調査では「舌」型が多数派で、「喉」を使うのは日本語だけだった。
ひとことで言うと英語は「舌の先」、日本語は「喉」。世界では「舌」を使う言語が多いんだって!
もくじ
「ほら、あの映画に出てた俳優……名前がここまで出かかってるのに!」
そう言いながら、つい喉のあたりを指さしたことはありませんか。ところが英語では、同じ場面でこう言います。
It's on the tip of my tongue!(それ、舌の先まで来てるんだ!)
日本語は「喉」、英語は「舌」。では、世界の言語ではどちらが多いのでしょう。1999年、アメリカの大学の心理学者が51の言語について調べたところ、多数派は英語と同じ「舌」。「喉」を使う言い方として紹介されたのは、日本語だけでした。
01「喉まで出かかる」の英語は on the tip of my tongue
まず、辞書で意味を確かめておきましょう。
オックスフォードの学習辞典では、on the tip of your tongue は「ある言葉や名前を知っているのは確かなのに、思い出せない」ときに使う、と説明しています。ケンブリッジ英語辞典の例文はこうです。
- Her name is on the tip of my tongue.(彼女の名前、舌の先まで出かかってるんだけど)
- Oh, what was that movie called? It's on the tip of my tongue.(ええと、あの映画、何ていう題だっけ? ここまで出かかってるのに)
日本語の「喉」はどうでしょう。小学館の『デジタル大辞泉』の「喉」の項目には、「―まで出かかった言葉をのみこむ」という用例があります。こちらは「言いかけたけれど、言わずにがまんした」場面です。日本語の「喉まで出かかる」は、思い出せないときだけでなく、言いたいことをこらえるときにも使えます。
心理学では、思い出せないもどかしい状態を、英語の言い方そのままに tip-of-the-tongue(略して TOT) と呼びます。
0251言語を調べたら「舌」が多数派だった
この呼び名に疑問を持ったのが、アメリカ・フロリダ国際大学の心理学者ベネット・シュワルツさんです。「舌の先」は英語だけのクセなのか、それとも多くの言語に共通する感覚なのか。1999年に学術誌『Psychonomic Bulletin & Review』に発表したレビュー論文(研究をまとめて論じる論文)の中で、小さな調査をしました。
いちばん多かったのは、英語とほぼ同じ「舌の先」型です。論文とケンブリッジ英語辞典の訳語から、いくつか並べてみます。
- イタリア語:sulla punta della lingua(舌の先に)
- スペイン語:en la punta de la lengua(舌の先に)
- ポルトガル語:na ponta da língua(舌の先に)
- トルコ語:dilinin ucunda(舌の先に)
スペイン語やイタリア語は英語と親せきの言語ですが、トルコ語は系統のちがう言語です。それでも、同じ「舌の先」という言い方をしています。
「舌」型の中にも、少しずつちがいがあります。論文の英訳によると、エストニア語は「舌の頭に」、インドのマラーティー語はシンプルに「舌の上に」。北米の先住民の言語シャイアン語は "I have lost it on my tongue."(舌の上でなくしちゃった)です。
03「口」を使う言語、「喉」を使う言語、そして手話
少数派の言い方も見てみましょう。
- 中国語:論文では広東語も北京語も「口」型。ケンブリッジ英語辞典の中国語訳も「就在嘴边」(すぐ口もとにある)
- 韓国語:「舌」と「口」の両方の言い方がある
- フランス語:「舌」の言い方のほかに、「頭に穴があいた」という意味の言い方も使う
- アメリカ手話:協力者によると、「指の先まで出かかっている」のような言い方は無い
そして日本語の「喉」。論文の本文で「喉」の言い方として紹介されたのは、日本語だけでした。

04日本の研究者は「のどまで出かかる現象」と呼んだ
日本の心理学の論文にも、「のど」を使った呼び名があります。1980年、富山大学の村上宣寛さんが学術誌『心理学研究』に出した論文の題名は、「のどまで出かかる現象におけるカナと漢字単語の記憶単位について」。英語の tip of the tongue を、日本語らしく「のど」で言いかえたわけです。
この論文は、日本語ならではの問題も調べています。英語はアルファベットで書きますが、日本語はカナと漢字を使い分けます。村上さんは、カナや漢字で書く20語の定義を学生300人に読み上げ、答えが出ないまま思い出せた「かけら」222件を分析しました。かけらの多くはカナ1〜3文字か、漢字1文字のまとまりでした。日本語の単語は、意味の単位よりも文字に近いまとまりで記憶されているのかもしれない、と村上さんは提案しています。
05どんでん返し:「45言語」を数え直すと……
ここで、論文の最後についている表を見てみましょう。本文の「45言語が舌の言い方を使う」は、そのままには受け取れません。
「舌の比喩を使う」側の表に並んだ45言語には、日本語と、「口」型の5言語(広東語・北京語・ヒンディー語・ハウサ語・イボ語)も入っています。いっぽう、それぞれの言い方の訳を分類した別の表で「舌」の言い方として挙がっているのは、韓国語を含めて39言語です。はっきり「舌」と言っているのは、51言語中39言語と読むほうが正確そうです。
もう1つ。論文のタイトル「Sparkling at the end of the tongue(舌の先できらめく)」は、論文が紹介した韓国語の言い方の英訳そのままです。ところが、論文に書かれたつづり Hyeu kkedu-te mam-dol-da は、韓国語の「혀끝에 맴돌다」と読めます。韓国の国立国語院の『韓国語基礎辞典』では、혀끝は「舌の先」、맴돌다は「ぐるぐる回る」「(同じ考えや感じが)くり返し浮かぶ」という意味です。「きらめく」ではなく、「舌の先でぐるぐる回る」に近い言い方だった可能性があります。
そもそもこの調査は、協力者に聞き取っただけの小さなもので、何人に聞いたかも論文には書かれていません。同じ言語でも、人や地域によって答えは変わるかもしれません。「舌を使う言語が多い」という大きな傾向は言えても、細かい数字まで決まったわけではないのです。
06まとめ
名前が出てこないあの感じを、英語は「舌の先」、中国語は「口もと」、日本語は「喉」で表します。51言語を比べると「舌」が多数派で、「喉」は日本語だけでした。ただ、場所はちがっても、51言語のうち45言語が舌・口・喉のどれかで表していました。
次に名前が出てこなかったら、喉を指さしつつ It's on the tip of my tongue! と言ってみてください。日本語と英語の感覚のちがいを、体で味わえます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEveryone has had this experience.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
What do you say when you know a name but can't remember it? In English, people say, "It's on the tip of my tongue." In Japanese, people say the word has come up to their throat.
A psychologist asked people who speak 51 languages about this feeling. Most of them use the tongue, just like English. Chinese uses the mouth. On his list, only Japanese used the throat.
68 words ・ CEFR A2
和訳を見る
名前を知っているのに思い出せないとき、何と言いますか。英語では「It's on the tip of my tongue.(舌の先にある)」と言います。日本語では、その言葉が喉まで出かかっていると言います。
ある心理学者が、51の言語を話す人たちに、この感じについてたずねました。ほとんどの言語は、英語と同じように舌を使います。中国語は口を使います。彼のリストでは、喉を使っていたのは日本語だけでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
知っている名前が思い出せない感じを、各言語がどう言うかの話なので A。
Q2. Which body part does Chinese use for this feeling?
Chinese uses the mouth. とあるので C。
Q3. In the passage, what does "remember" mean?
remember は「思い出す、覚えている」。記憶を頭に呼び戻すことなので B。
Everyone has had this experience. You know a word, but you just can't say it. English speakers say the word is "on the tip of my tongue." Japanese speakers say it has come up as far as the throat.
In 1999, an American psychologist named Bennett Schwartz wanted to know if the tongue image was only an English habit. He asked speakers of 51 languages how they describe the feeling. Most of their answers used the tongue.
Spanish and Italian say "on the tip of the tongue," and so does Turkish, which is not related to English. Five languages, including Mandarin, Cantonese and Hindi, used the mouth. Japanese was the only language on his list that used the throat.
119 words ・ CEFR B1
和訳を見る
誰にでもこの経験がある。言葉を知っているのに、どうしても言えないのだ。英語の話し手は、その言葉が「舌の先に」あると言う。日本語の話し手は、喉まで出かかっていると言う。
1999年、ベネット・シュワルツというアメリカの心理学者が、「舌」のイメージは英語だけのクセなのかを知りたいと考えた。彼は51の言語の話し手に、この感じをどう言い表すかをたずねた。答えのほとんどは「舌」を使っていた。
スペイン語とイタリア語は「舌の先に」と言い、英語と親せき関係にないトルコ語も同じように言う。北京語、広東語、ヒンディー語など5つの言語は「口」を使っていた。彼のリストで「喉」を使っていたのは日本語だけだった。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did Bennett Schwartz ask speakers of other languages?
wanted to know if the tongue image was only an English habit とあるので B。
Q2. How many languages used the mouth?
Five languages, including Mandarin, Cantonese and Hindi, used the mouth. とあるので B。
Q3. Why does the writer mention Turkish?
Turkish, which is not related to English も「舌の先に」と言う、とあるので、親せきでない言語でも「舌」を使うことを示している。C。
Psychologists call it a tip-of-the-tongue state: you are sure you know a word, but it will not come out. The name comes straight from English, so in 1999 Bennett Schwartz, a psychologist in Florida, checked whether other languages see it the same way. He asked people who spoke 51 languages for the everyday phrase they use for this feeling, not a word-for-word translation of the English.
In the main text of his paper, 45 languages are said to use the tongue. The tables at the end of his paper show something slightly different. The group of 45 includes Japanese, which says the word has come up to the throat, and five languages, among them Mandarin and Hindi, that point to the mouth. If you count only the phrases that actually mention the tongue, you get 39.
The title of the paper, "Sparkling at the end of the tongue," comes from a Korean phrase, but a dictionary from Korea's national language institute defines the verb in it as "to spin around" or "to linger." The survey was small, and the paper does not say how many people answered. Even so, the tongue was the clear favorite in his survey.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
心理学者はそれを「舌先状態(tip-of-the-tongue state)」と呼ぶ。言葉を知っているのは確かなのに、出てこない状態だ。この名前は英語からそのまま来ているので、1999年、フロリダの心理学者ベネット・シュワルツは、ほかの言語も同じようにとらえているのかを確かめた。
彼は51の言語を話す人たちに、英語を直訳するのではなく、この感じを表すのにふだん使う言い方を挙げてもらった。論文の本文では、45の言語が「舌」を使うと書かれている。だが、論文の最後にある表を見ると、少し違うことが分かる。45の言語のグループには、言葉が喉まで出かかっていると言う日本語と、北京語やヒンディー語など「口」を指す5つの言語が含まれているのだ。実際に「舌」に触れている言い方だけを数えると39になる。
論文のタイトル「舌の先できらめく」は韓国語の言い方から取られているが、韓国の国立の言語研究機関の辞書では、その中の動詞は「ぐるぐる回る」や「とどまる」と定義されている。調査は小規模で、何人が答えたのかも論文には書かれていない。それでも、彼の調査では「舌」がはっきりした多数派だった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
「舌」が多数派だが、本文の45という数は表を見ると39になる、という内容なので A。
Q2. Why does the count drop from 45 to 39?
The group of 45 includes Japanese ... and five languages ... that point to the mouth. とあり、45−6=39 になるので B。
Q3. What does the writer suggest about the word "sparkling" in the title?
韓国の辞書ではその動詞は "to spin around" や "to linger" と定義されているとあり、「きらめく」とは意味がずれている可能性を示している。C。
重要単語
- tongueA2名詞舌The doctor asked me to stick out my tongue.
発音は「タング」で、最後の -ue は読まない。mother tongue は「母語」。 - tipB1名詞先、先端I burned the tip of my tongue on the hot soup.
on the tip of my tongue「舌の先まで出かかって」。the tip of the iceberg は「氷山の一角」。 - recallB2動詞思い出すI can't recall his name right now.
remember よりやや改まった語。心理学では「(手がかりなしに)思い出すこと」の意味でもよく使う。 - idiomB2名詞慣用句、決まった言い回し"On the tip of my tongue" is a common English idiom.
単語の意味を足しても全体の意味にならない言い回し。形容詞は idiomatic(言い回しが自然な)。 - metaphorC1名詞比喩、たとえMany languages use the same metaphor for this feeling.
like や as を使わずに「〜は…だ」とたとえる表現。like を使う直喩は simile。 - throatB1名詞喉I have a sore throat, so I can't sing today.
have a sore throat「喉が痛い」。th の発音に注意(スロウト)。 - lingerC1動詞なかなか消えない、とどまるThe smell of coffee lingered in the room.
においや気持ち、記憶などが「なかなか去らない」ときによく使う。
公式・一次情報をチェック
- be on the tip of your tongue(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
- 맴돌다(韓国語基礎辞典・国立国語院)krdict.korean.go.kr
- 혀끝(韓国語基礎辞典・国立国語院)krdict.korean.go.kr
このネタ、誰かに教えたくなった?
名前が出てこないあの感じ、日本語は「喉まで出かかる」なのに英語は on the tip of my tongue(舌の先)。51言語を調べた心理学者の調査では「舌」型が多数派で、中国語などは「口」、日本語は「喉」だった。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Schwartz, B. L. (1999) Sparkling at the end of the tongue: The etiology of tip-of-the-tongue phenomenology, Psychonomic Bulletin & Review 6(3)doi.org
- Murakami, Y.〔村上宣寛〕 (1980) On the memory unit within kana-letter and kanji-letter words in the tip of the tongue phenomena, 心理学研究 51(1)(和題「のどまで出かかる現象におけるカナと漢字単語の記憶単位について」)doi.org
- tip(Oxford Learner's Dictionaries・idiom: on the tip of your tongue)oxfordlearnersdictionaries.com
- デジタル大辞泉「喉」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





