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日本語・韓国語・トルコ語のルーツは9000年前の雑穀農民の言葉? Nature論文と、続く反論

日本語・韓国語・トルコ語のルーツは9000年前の雑穀農民の言葉? Nature論文と、続く反論

読む前に予想してみよう!

日本語・韓国語・トルコ語などが1つの語族だということは、今では言語学者の定説になっている

研究カード(どんな研究?)
対象
東北アジアの言語・遺跡・古人骨
規模
98言語の基礎語彙、遺跡255か所、新たな古代ゲノム19人分
研究の種類
言語・考古学・遺伝学のデータを組み合わせた分析
確かさ
★☆☆☆☆
3秒でわかる

日本語・韓国語・トルコ語などは約9000年前、中国東北部でキビを育てた農民の言葉から広がった、とNature論文。ただし反論が多く、結論は出ていない。

ひとことで言うと日本語とトルコ語は遠い親戚かも、という研究。でも反対する研究者もいるよ!

もくじ
  1. 日本語のルーツは? 「トランスユーラシア語族」という説
  2. 言葉・遺跡・遺伝子の「三角測量」
  3. 祖先の言葉に「コメ」はなかった?
  4. どんでん返し:「そもそも語族なのか」がまだ決着していない
  5. まとめ

日本語とトルコ語は、じつは遠い親戚なのかもしれない。

2021年、科学誌『ネイチャー』にこんな論文が載りました。日本語・韓国語・トルコ語・モンゴル語などは、約9000年前に中国の東北部でキビを育てていた農民の言葉の子孫だ――というのです。

ただ、この話は「ついに決着!」ではありません。論文自身が「最も議論の多い問題の一つ」と書いているテーマで、発表後も反論が続いています。日本語の起源(ルーツ)をめぐる、いまの議論を整理してみましょう。

01日本語のルーツは? 「トランスユーラシア語族」という説

同じ祖先の言葉から分かれた言語のグループを語族(language family)と呼びます。たとえば英語とドイツ語は、同じ語族に入ります。英語の father とドイツ語の Vater は、同じ祖先の語から来ています。

論文が扱ったのは、次の5つのグループです。

  • 日本語と琉球の言葉(日琉語族)
  • 韓国・朝鮮語
  • ツングース諸語(満洲語やエヴェンキ語など)
  • モンゴル諸語
  • テュルク諸語(トルコ語やウイグル語など)

この5つをまとめて1つの語族とみなす考え方が「トランスユーラシア語族」です。論文によると「アルタイ語族」とも呼ばれます(ただし「アルタイ」は、テュルク・モンゴル・ツングースの3つだけを指して使われることもあります)。似ている点があるのは確かでも、それが同じ祖先から受け継いだものなのか、となり同士で言葉を借りあった結果なのかで、長く論争が続いてきました。論文の側は、似ている点の多くが借用だとしても、同じ祖先から受け継いだと言える「確かな核」は残る、という立場です。

02言葉・遺跡・遺伝子の「三角測量」

ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所(当時)のマルティーヌ・ロベーツら41人のチームは、3つの分野のデータを組み合わせました。これを「三角測量(triangulation)」と呼んでいます。

03祖先の言葉に「コメ」はなかった?

祖先の言葉にさかのぼると考えられた単語には、どんなものがあったのでしょう。

論文によると、新石器時代の共通の祖先の言葉にあったのは、「畑」「種をまく」「育てる」といった農作業の語や、キビなどの雑穀、「発酵させる」「織る」などの語でした。家畜はブタとイヌだけ。ところが、コメ・小麦・ウシ・ウマなどの語は、青銅器時代になって、それぞれのグループが別々に取り入れた借用語だと分析されています。

日本語については、こう描かれています。約3300年前に遼東半島や山東半島のあたりの農民が朝鮮半島に移り、稲作を加えた農業を広めた。それが約3000年前以降に九州へ伝わり、弥生時代の稲作とともに日本語の祖先が日本列島に入った。古人骨のゲノムでも、弥生時代の農民は、縄文の人々の祖先と、大陸(西遼河流域の青銅器時代の人々)に近い祖先が混ざり合ったものとして説明できる、という結果でした。

論文は、共通の祖先の言葉にはキビなどの雑穀、ブタとイヌを表す語があり、コメやウマの語は後から借りたものだとした
論文は、共通の祖先の言葉にはキビなどの雑穀、ブタとイヌを表す語があり、コメやウマの語は後から借りたものだとした

04どんでん返し:「そもそも語族なのか」がまだ決着していない

この論文は大きな話題になりましたが、反論も出ています。

1.同じデータを調べ直した反論(2022年)言語学者や遺伝学者など22人が、論文が公開したデータを調べ直しました。そして、言葉の分析は歴史言語学の最低限の基準を満たしていない、遺伝子データはテュルク・モンゴル・ツングースが農民とともに広がったことをはっきりとは支持しない、遺跡データからは移住の結果を再現できなかった、と主張しています。結論は「語族の存在にも、西遼河の農民と結びつけることにも、決定的な証拠はない」。ただし、これは査読前の論文(プレプリント)です。ロベーツらも同じ2022年に、「批判には誤解や食いちがいが多い」とする再反論をプレプリントで出しています。

2.考古学からの反論(2024年)ロシア科学アカデミーの博物館(クンストカーメラ)のヤンシナは、考古学の面から検証しました。ツングース諸語の広がりを、特定の遺跡の文化や農業と結びつける部分はうまくいっていない、と学術誌で論じています。

3.文法の似かたは「親戚の証拠」にならない?(2026年)語順などの文法の特徴29個で系統樹を作ろうとした研究では、5つのグループの関係は再現できませんでした。さらに、比べるために入れたインドのヒンディー語が、日本語やトルコ語などのグループと一緒にまとまってしまいました。ヒンディー語も動詞が文の最後に来る言語です。研究チームは、この深さでは文法の似かたは親戚関係ではなく、言語のタイプが似ていることを反映している、と結論しています。ただし同じ方法は、語族として確立しているインド・ヨーロッパ語族でも、安定した系統樹を描けませんでした。つまりこれは「語族ではない」という証拠ではなく、「文法の似かただけでは親戚かどうか判定できない」という結果です。

実は論文自身も、地理的な広がりを計算する方法だけでは、ふるさとの候補地を見分けられなかったと書いています。そのため、ほかの方法と組み合わせて西遼河を導いています。

マックス・プランク進化人類学研究所の言語分類データベース「Glottolog」でも、日琉語族・韓国語・ツングース・モンゴル・テュルクは、今もそれぞれ別の語族として扱われています。

05まとめ

「日本語はどこから来たのか」は、昔から人をひきつける問いです。2021年のNature論文は、言葉・遺跡・遺伝子を一度に使うという新しいやり方で、「9000年前の雑穀農民」という大胆な答えを出しました。

ただ、5つのグループが本当に1つの語族なのかという土台の部分で、言語学者の意見はまだ割れています。「日本語とトルコ語は親戚!」と言い切るのは、まだ早い。いまは「そういう説があり、強い反論もある」と覚えておくのが正確です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerLinguists have argued for a long time about whether Japanese, Korean, Turkic, Mongolic and Tungusic… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Linguists have argued for a long time about whether Japanese, Korean, Turkic, Mongolic and Tungusic languages form one family. They share some features, but some of them may come from borrowing words from neighbors, not from a common ancestor. In 2021, a team of 41 researchers published a study in Nature that tried to settle the question. They combined basic words from 98 languages with data from 255 archaeological sites and ancient DNA.

Their answer was that all five groups came from the language of millet farmers in the West Liao River area of northeast China about 9,000 years ago. Words for rice and horses, they said, were borrowed much later. Other scholars have since challenged each part of this evidence.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

言語学者たちは、日本語、韓国語、テュルク諸語、モンゴル諸語、ツングース諸語が1つの語族をなすかどうかを、長いあいだ議論してきた。これらにはいくつか共通の特徴があるが、その一部は共通の祖先からではなく、となりの言語から単語を借りたことから来ているのかもしれない。2021年、41人の研究者のチームが、この問題に決着をつけようとする研究を『ネイチャー』に発表した。彼らは、98の言語の基本的な単語に、255か所の遺跡のデータと古代のDNAを組み合わせた。

彼らの答えは、5つのグループはすべて、約9000年前に中国東北部の西遼河流域にいた雑穀農民の言葉から来た、というものだった。コメやウマを表す語は、ずっと後に借りたものだという。その後、ほかの研究者たちは、この証拠のそれぞれの部分に異議を唱えている。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 2021 study try to do?

Q2. Which kind of data did the team NOT use?

Q3. Why might the five language groups share some features without being one family?

重要単語

  • language familyB2
    名詞語族(共通の祖先を持つ言語のグループ)English and German belong to the same language family. family(家族)のたとえ。sister languages(姉妹語)、parent language(祖語)などの言い方もある。
  • ancestorB2
    名詞祖先Latin is the ancestor of Spanish and Italian. 反対は descendant(子孫)。形容詞は ancestral(祖先の)。
  • cognateC1
    名詞・形容詞同じ語源の語;同じ起源のEnglish "father" and German "Vater" are cognates. co-(共に)+natus(生まれた)というラテン語から。「同じ生まれ」の語。
  • borrowA2
    動詞借りる;(言葉を)借用するEnglish borrowed the word "tsunami" from Japanese. borrow A from B「BからAを借りる」。借用語は loanword。
  • milletC1
    名詞キビ・アワなどの雑穀Millet grows well in dry places. 発音は「ミレット」。broomcorn millet はキビ、foxtail millet はアワ。
  • evidenceB1
    名詞証拠、根拠Some scientists say there is not enough evidence. 数えられない名詞なので an evidence や evidences とは言わない。a piece of evidence で「1つの証拠」。
  • controversialB2
    形容詞議論を呼ぶ、賛否が分かれるThe idea is still controversial. 名詞は controversy(論争)。アクセントは controVERsial。

動画でもっと知る

日本語・韓国語・トルコ語・モンゴル語などは、約9000年前に中国東北部の西遼河でキビを育てた農民の言葉の子孫――2021年のNature論文の説。ただ「言葉・遺伝子・遺跡のどれもこの説を支持しない」との反論(査読前論文)も出て、結論は出ていない。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Robbeets, M., Bouckaert, R., Conte, M., Savelyev, A., Li, T., et al. (2021) Triangulation supports agricultural spread of the Transeurasian languages, Nature 599(7886)doi.org
  2. Tian, Z., Tao, Y., Zhu, K., Jacques, G., Ryder, R. J., et al. (2022) Triangulation fails when neither linguistic, genetic, nor archaeological data support the Transeurasian narrative, bioRxiv(査読前のプレプリント)doi.org
  3. Robbeets, M., Hudson, M., Ning, C., Bouckaert, R., Savelyev, A., et al. (2022) Triangulation reduces the polygon of error for the history of Transeurasian, bioRxiv(査読前のプレプリント)doi.org
  4. Yanshina, O. V. (2024) On the New Concept of the Origin of the Transeurasian or Altaic Languages, Vestnik of Saint Petersburg University. History 69(2)doi.org
  5. Li, W., & Liu, H. (2026) Structural Phylogenetic Signal Fails at Deep Time: A Bayesian Treebank Analysis of the Transeurasian Languages, Entropy 28(7)doi.org

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