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関西の「モータープール」は駐車場のこと。公の場で堂々と使うから、方言だと気づかれにくい

関西の「モータープール」は駐車場のこと。公の場で堂々と使うから、方言だと気づかれにくい

読む前に予想してみよう!

「モータープール」は、車を洗うためのプールのことだ

研究カード(どんな研究?)
対象
関西の地域共通語
規模
百科事典・国語辞典の記述と文献の用例
研究の種類
方言学・辞書の記述
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

関西では駐車場を「モータープール」と呼ぶことがあり、百科事典は「関西の共通語」(関西なら改まった場でも使う言葉)と書く。公の場で使う言葉なので、関西だけの言い方だと気づかれにくい。

ひとことで言うと関西の「モータープール」は、泳ぐプールじゃなくて駐車場のこと!

もくじ
  1. モータープールの意味は「駐車場」
  2. 百科事典が「関西の共通語」と書くわけ
  3. 英語の motor pool は「駐車場」ではない?
  4. どんでん返し:名古屋港にも「モータープール」はあった
  5. まとめ
  6. よくある質問

「車は、そこのモータープールに止めといて」

大阪でこう言われたら、「え、プール? 泳ぐの?」と戸惑うかもしれません。関西では、駐車場のことを「モータープール」と呼ぶことがあるのです。

しかも百科事典は、これを「関西の共通語」と書いています。関西の中ならどこでも、改まった場でも使う言葉、ということです。関西の人にとっては方言どころか、ちゃんとした「よそゆきの言葉」。だからこそ、ほかの地域では通じないかもしれないことに気づきにくいのです。

01モータープールの意味は「駐車場」

まず国語辞典で確かめましょう。小学館の『デジタル大辞泉』は、モータープールを一言で「駐車場」としています。

『日本国語大辞典』はもう少しくわしく、「駐車場。自動車置場」。語源はアメリカ英語の motor pool だと示しています。最初の例として挙がっているのは、三島由紀夫の小説『愛の渇き』(1950年)の「モオタア・プールの半周をめぐって」という一節です。

どちらの辞書にも、「関西で使う」といった地域の断り書きはありません。

02百科事典が「関西の共通語」と書くわけ

では、なぜ関西なのか。

平凡社の『世界大百科事典』で、方言学者の井上史雄さんが書いた「共通語」の項目は、共通語と方言の間に中間の段階があるという考え方を紹介しています。その例が二つ挙がっています。

ふつう、方言は家族や友だちとのくだけた会話で使い、改まった場では共通語に切りかえます。ところがモータープールは、改まった場でも堂々と使われる言葉です。だから「これは関西だけの言い方かも」と疑うきっかけがないのです。

「校区」や「校時」も同じです。学校という公の場で使われる言葉なので、かえって地域差に気づかれにくいのです。

関西では駐車場を「モータープール」と呼ぶことがある。百科事典は「関西の共通語」の例に挙げる(イメージ)
関西では駐車場を「モータープール」と呼ぶことがある。百科事典は「関西の共通語」の例に挙げる(イメージ)

03英語の motor pool は「駐車場」ではない?

もとのアメリカ英語の motor pool は、どんな意味なのでしょう。英語の辞書を引くと、少しずれが見えてきます。

  • オックスフォードの学習辞典:(アメリカ英語)会社や組織が持っていて、職員が使える車の一団。イギリス英語では car pool
  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典:政府機関や軍の施設などで、職員が使うために一か所で管理されている自動車の一団

英語の辞書が説明しているのは、まず「みんなで使う車の集まり」のほうです。pool には「グループで共有し、必要なときに使える物やお金のたくわえ」という意味があり、オックスフォードの学習辞典には a pool of cars(会社の営業担当が使う共用の車)という例も載っています。日本語の「駐車場」の意味とは、中心がずれています。

ただし、場所の意味がまったくないわけではありません。アメリカ陸軍の記事(2018年)には、韓国の基地キャンプ・ケーシーで兵士がトラックにトレーラーをつなぐ写真があり、その場所が in the HHB motorpool(部隊のモータープールで)と説明されています。軍では、車両を置いておく区域もこう呼ぶのです。

それでも、ふつうの駐車場は、アメリカ英語なら parking lot、イギリス英語なら car park です。関西の感覚で Where is the motor pool? と聞いても、街の駐車場の場所を聞いていると分かってもらえるとは限りません。

04どんでん返し:名古屋港にも「モータープール」はあった

「モータープール=関西だけ」と言い切れるかというと、そうでもありません。

1983年に学術誌『人文地理』に載った安積紀雄さんの論文は、題名が「名古屋港における新車モータープールの集積と配送」です。ここでのモータープールは、港で新車を集めて置き、輸出や国内への配送の拠点にする場所のことです。英文の要旨では、トヨタ自動車が持つ Meiko Center を、名古屋港でいちばん古いモータープールで、輸出の中心地点だと紹介しています。

つまり自動車を運ぶ業界では、関西以外でも「モータープール」が専門用語として使われていたのです。百科事典が「関西の」と言っているのは、ふつうの人が街の駐車場を呼ぶ言葉として、という意味だと考えられます。

もう一つ、方言だと気づいたあとの行方にも地域差があるようです。日本語教育の学会誌に載った竹田晃子さんの論文(2019年)は、西日本の人は方言独自の使い方だと気づいても使い続け、東北の人は気づくと使わなくなる、という、それまでの研究の指摘を紹介しています(ナオス・ナゲルなどの例について)。モータープールが今どのくらい使われているかを示す調査は、今回確かめた資料にはありませんでした。

05まとめ

関西の「モータープール」は、駐車場のこと。百科事典は「関西の共通語」と呼び、公の場で堂々と使う言葉だからこそ、地域の言葉だと気づかれにくいと説明しています。

一方、もとの英語の motor pool は、辞書ではまず「共用の車の集まり」。カタカナ語なのに使う地域にかたよりがあり、しかも英語の辞書の意味ともずれている。旅先で駐車場を探すときは、その土地の呼び方にも耳をすませてみてください。

よくある質問

モータープールとはどういう意味ですか?

駐車場のことです。『デジタル大辞泉』は一言で「駐車場」、『日本国語大辞典』は「駐車場。自動車置場」と説明し、語源はアメリカ英語の motor pool だとしています。泳ぐプールではありません。

モータープールは関西の方言ですか?

百科事典は「関西の共通語」と書いています。方言学者の井上史雄さんは『世界大百科事典』の「共通語」の項で、地方色を帯びた共通語(地方共通語)の例に、関西のモータープールを挙げています。関西なら改まった場でも使う言葉、という位置づけです。

なぜ関西の人はモータープールが方言だと気づきにくいのですか?

公の場で堂々と使う言葉だからです。『日本大百科全書』の「方言」の項は、公的な場で使われるために、かえって地域差に気づかない例として関西の「モータープール」を挙げています。改まった場でも使うので、「関西だけの言い方かも」と疑うきっかけがないのです。

モータープールは関西以外では使われないのですか?

そうとは言い切れません。1983年の安積紀雄さんの論文の題は「名古屋港における新車モータープールの集積と配送」で、港で新車を集めて置く場所をモータープールと呼んでいます。自動車を運ぶ業界では、関西以外でも専門用語として使われていました。

「モータープール」はいつごろから使われている言葉ですか?

『日本国語大辞典』が挙げる最初の例は、三島由紀夫の小説『愛の渇き』(1950年)の「モオタア・プールの半周をめぐって」という一節です。辞書が挙げる例の中では、これがいちばん古いものです。

英語の motor pool も駐車場の意味ですか?

英語の辞書では、まず「共用の車の一団」です。オックスフォードの学習辞典は「会社や組織が持っていて、職員が使える車の一団」と説明しています。ただしアメリカ陸軍の記事(2018年)には、車両を置いておく区域を motorpool と呼ぶ例があります。

駐車場は英語で何と言いますか?

アメリカ英語では parking lot、イギリス英語では car park です。関西の感覚で Where is the motor pool? と聞いても、街の駐車場の場所を聞いていると分かってもらえるとは限りません。

モータープールのほかにも気づかれにくい方言はありますか?

あります。百科事典は同じような例として、西日本の「校区・校下」(学区)、東日本各地の「校時」(〜時間目)、鹿児島の「ラーフル」(黒板ふき)を挙げています。「校区」や「校時」も、学校という公の場で使われるので地域差に気づかれにくい言葉です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk for directions to a parking lot in Osaka, and you might be told to use the "motor pool." Japanese… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Ask for directions to a parking lot in Osaka, and you might be told to use the "motor pool." Japanese dictionaries define the word simply as a parking lot and trace it to American English. The first example in a major dictionary comes from a 1950 novel by Yukio Mishima. A Japanese encyclopedia calls "motor pool" part of the standard language of Kansai.

Another one explains why people there rarely notice it is local. The word is used openly in formal settings, not just in casual talk. In English dictionaries, though, a motor pool is mainly a group of vehicles shared by the staff of an organization. Americans park in a "parking lot," and British drivers use a "car park."

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

大阪で駐車場への道をたずねると、「モータープール」を使うように言われるかもしれない。日本の辞書はこの語を単に駐車場と定義し、アメリカ英語から来たとしている。大きな辞書の最初の例は、三島由紀夫の1950年の小説から取られている。ある日本の百科事典は「モータープール」を関西の共通語の一部と呼んでいる。

別の百科事典は、そこに住む人がなぜそれを地域の言葉だとめったに気づかないのかを説明している。この語はくだけた会話だけでなく、改まった場でも堂々と使われるのだ。しかし英語の辞書では、motor pool は主に、組織の職員が共同で使う車両の一団のことである。アメリカ人は「parking lot」に、イギリスのドライバーは「car park」に車を止める。

4択リーディングクイズ

Q1. Where does the first example of the word in a major dictionary come from?

Q2. Why do people in Kansai rarely notice the word is local?

Q3. What would probably happen if you asked an American, "Where is the motor pool?"

重要単語

  • parking lotA2
    名詞(アメリカ英語で)駐車場The parking lot behind the station was full. lot は「区画された土地」。イギリス英語では car park。
  • car parkA2
    名詞(イギリス英語で)駐車場We left the car in a car park near the castle. 立体駐車場は a multi-storey car park(英)、a parking garage(米)。
  • motor poolC1
    名詞(アメリカ英語で)共用の車両の一団The office has a small motor pool for business trips. pool は「共有のたくわえ」。イギリス英語では car pool。日本語の「駐車場」とは意味がずれる。
  • fleetB2
    名詞(会社などが持つ)車両の一団、船団The company has a fleet of 20 delivery vans. a fleet of taxis「タクシーの一団」。もとは「船団、艦隊」。
  • regionalB1
    形容詞地方の、地域の"Motor pool" is a regional word for a parking lot in Japan. region(地域)の形容詞。regional accent「地方なまり」。
  • jargonC1
    名詞専門用語、業界用語"Motor pool" was also part of the jargon of car shipping. 外の人には分かりにくい仲間うちの言葉、という含みがある。
関西では駐車場を「モータープール」と呼ぶことがある。百科事典は「関西の共通語」と書き、公の場で堂々と使う言葉だからこそ、関西だけの言い方だと気づかれにくい例に挙げている。もとはアメリカ英語の motor pool。

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出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「モータープール」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
  2. 井上史雄「共通語」『改訂新版 世界大百科事典』平凡社(コトバンク掲載)kotobank.jp
  3. 井上史雄「方言」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館(コトバンク掲載)kotobank.jp
  4. 安積紀雄(Azumi) (1983) Accumulation and Distribution of Brand-new Cars at Nagoya Port, 人文地理 35(6)(邦題「名古屋港における新車モータープールの集積と配送」)doi.org
  5. 竹田晃子 (2019) 災害時の方言とコミュニケーション, 日本語教育 173doi.org
  6. motor pool(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
  7. U.S. Army (2018) Monday Motorpool Motivation(写真説明に in the HHB motorpool at Camp Casey)army.mil

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